夜の帰り道1章
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「おい、小宮。家まで送ってくから少し待ってろ。」
そう叫んだのは私がマネージャーをしている誠陵高校バレー部のエース、前田慶彦だ。
いつもならどれだけ練習が長引いたって家まで送るなんて言ってこないのに今日に限ってそんなこと言うなんておかしいと思うけど、すでに時計は夜10時を回っていて、女子高生一人で家まで帰るのは不安なので、「わかった」と素直に答えた。
数分経って、練習着の上からジャージを羽織った前田が「悪い」と体育館の隅で座っている私のところにやって来た。髪はボサボサで胸元の色が変わってはりついているヨレヨレの練習着姿なのになんだか様になっていると思ってしまう。
「そんなに待ってないから大丈夫。早く帰りたいから行こう」頭に浮かんだ言葉を振り払うようにそう言って、立ち上がった。前田は「ああ」と返事をしながら、私が持ち忘れたカバンを肩にかけて「行こうぜ」と声をかけてきた。
私、想像以上に余裕無いんだななんてひと事みたいに考えながら頷いた。
バレーのこと、授業のこと、他愛の無いことばかり話していたら、もう家が見えてきた。
「ここでいいか」
「うん。ありがとう」
「じゃあ明日な」
「うん。また明日」
前田の後ろ姿を見送っていたら、こうして帰る前気になっていたことがまた気になりはじめた。
どうして前田は私のことを家まで送って行こうと思ったんだろう。
「は?」
前田が少し先の方でそう振り返ったのがまだらについた街頭に照らされて気付いた。どうやら口に出てしまっていたようだ。
前田は学校からここに来るまでよりも少し大股で戻って来た。そして、他のチームの人なんかに向けるものとは違うけれど、ニヤリと嫌な笑顔を私に向けて言った。
「下心だよ」
顔に一気に熱が集まってくるのと同時に妙な悪寒が体中を走った。隠すようにさっき、別れ際に渡されたカバンを胸元で抱き締める。
「下心ってどういうこと?」
おそるおそる聞いてみると、バレーをしている時の真剣な表情から想像もつかないような年相応な少年の、いや、くだらないイタズラが成功した小学生のガキがするようなしたり顔で「お前のことじゃねぇよ」と言ってきた。
カバンをいつもの持ち方に持ち直して、私は「どういうこと?」と聞き返した。
「お前ん家の近くに深夜でもやってるうまいラーメン屋があるってクラスのヤツから聞いたから、これから行くんだ。辰巳には内緒だぞ。じゃあな」
よほどラーメンが楽しみなのか、はたまた辰巳に不審に思われたくないから用事を早く済ませたいのか、前田は質問に答えるだけ答えて、さっさと行ってしまった。
「下心なんてこんな状況で言ったら、女の子は普通、勘違いするよ。前田のバカ」
こんな人気の無い静かな夜道なら、どうせ今度も聞こえてるだろうけど、ラーメンと怖い怖い辰巳のことしか考えてないあのバカは多分もう戻って来てくれない。もし戻って来ても、もう知らない。
私は、家の鍵をしっかりかけて、寝る支度に取り掛かった。
そう叫んだのは私がマネージャーをしている誠陵高校バレー部のエース、前田慶彦だ。
いつもならどれだけ練習が長引いたって家まで送るなんて言ってこないのに今日に限ってそんなこと言うなんておかしいと思うけど、すでに時計は夜10時を回っていて、女子高生一人で家まで帰るのは不安なので、「わかった」と素直に答えた。
数分経って、練習着の上からジャージを羽織った前田が「悪い」と体育館の隅で座っている私のところにやって来た。髪はボサボサで胸元の色が変わってはりついているヨレヨレの練習着姿なのになんだか様になっていると思ってしまう。
「そんなに待ってないから大丈夫。早く帰りたいから行こう」頭に浮かんだ言葉を振り払うようにそう言って、立ち上がった。前田は「ああ」と返事をしながら、私が持ち忘れたカバンを肩にかけて「行こうぜ」と声をかけてきた。
私、想像以上に余裕無いんだななんてひと事みたいに考えながら頷いた。
バレーのこと、授業のこと、他愛の無いことばかり話していたら、もう家が見えてきた。
「ここでいいか」
「うん。ありがとう」
「じゃあ明日な」
「うん。また明日」
前田の後ろ姿を見送っていたら、こうして帰る前気になっていたことがまた気になりはじめた。
どうして前田は私のことを家まで送って行こうと思ったんだろう。
「は?」
前田が少し先の方でそう振り返ったのがまだらについた街頭に照らされて気付いた。どうやら口に出てしまっていたようだ。
前田は学校からここに来るまでよりも少し大股で戻って来た。そして、他のチームの人なんかに向けるものとは違うけれど、ニヤリと嫌な笑顔を私に向けて言った。
「下心だよ」
顔に一気に熱が集まってくるのと同時に妙な悪寒が体中を走った。隠すようにさっき、別れ際に渡されたカバンを胸元で抱き締める。
「下心ってどういうこと?」
おそるおそる聞いてみると、バレーをしている時の真剣な表情から想像もつかないような年相応な少年の、いや、くだらないイタズラが成功した小学生のガキがするようなしたり顔で「お前のことじゃねぇよ」と言ってきた。
カバンをいつもの持ち方に持ち直して、私は「どういうこと?」と聞き返した。
「お前ん家の近くに深夜でもやってるうまいラーメン屋があるってクラスのヤツから聞いたから、これから行くんだ。辰巳には内緒だぞ。じゃあな」
よほどラーメンが楽しみなのか、はたまた辰巳に不審に思われたくないから用事を早く済ませたいのか、前田は質問に答えるだけ答えて、さっさと行ってしまった。
「下心なんてこんな状況で言ったら、女の子は普通、勘違いするよ。前田のバカ」
こんな人気の無い静かな夜道なら、どうせ今度も聞こえてるだろうけど、ラーメンと怖い怖い辰巳のことしか考えてないあのバカは多分もう戻って来てくれない。もし戻って来ても、もう知らない。
私は、家の鍵をしっかりかけて、寝る支度に取り掛かった。
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