短編
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「今日もナツキさんの暴挙は本当にひどかったんですよ」
いつの間にかアーラム村に留まることになった彼は時節、彼女の店に立ち寄って話をすることが多かった。
彼の話は不思議と飽きないことが多くて、愚痴ばかりではあるのにやけに楽しいのが印象的だ。
「暴挙というほどでもないでしょうに。」
名前は面白く思いながらそう諫めると、いやいやとんでもありません!とオットーは強く首を振った。
「名前さんはナツキさんに会ってないからそんなことが言えるんですよ。」
彼は呆れたとでもいうように肩をすくめる。
「あの人はそうですねぇ、トラブルメーカーというべきか、台風の目というべきか、突拍子もないことを考えついて突っ走る、みたいな。」
仕方ないというような顔をしながらも、彼は楽しそうに続けた。
「周りの関わる生き物全て巻き込んで、ですよ、まあ、一人で突っ走しられたそれはそれでかなり危ういので必死で僕が止めるんですがね、いやでもそれはつまり僕が自ら台風に突っ込んでるとも言うべきか、でもそうだとしても悪い気はしないというか…」
そうなる時点でもう手遅れ?などと、自問自答し始める彼に、名前は苦笑する。
「オットーくんはナツキさんのこと大好きなんだね。」
なんだか微笑ましくてそう呟くと、彼は虚を突かれたような顔をした。
それから、え?と、とても不服そうに眉を寄せてから、
「大好きって、名前さん、その言葉のチョイスはかなりおかしいと思いますよ!」
と威勢の良い声で反駁した。
「いいですか、確かにナツキさんのことは嫌いじゃあありません。かといって大好きではないですよ残念ながら!放って置けないというのは間違いじゃありませんがね。」
どうして、名前さんにそんなこと言われるのか不本意です、と尚も嫌そうな顔をする彼に、名前はますます悪戯心が揺さぶられる。
「でも、それほど話題性に富む出会いなんて、なかなかあることじゃないのでは?」
つまり、そういうこと?、とそれでも煽るように続けると、彼はますます眉間の皺を濃くした。
「あのですねぇ、確かにナツキさんからの影響はありますよ、ええ、致し方なく。でも、だからといってそれが好意の有無に繋がる訳じゃないんですよ。確かに僕は恋愛対象を固定化してないのかもしれませんが、無作為に相手を選んでいるわけじゃありませんよ!」
それから、少し落ち込んだように、ため息をついて目の前のグラスを呷った。
名前は笑ってから、そりゃあ、申し訳なかったねとすかさず彼の盃を満たす。
するとその盃を手に取って眺めながら、彼はボソリと、大好きの相手は別にいるんですがね、と呟いた。
「ちなみに、もう新しい場所には慣れた?」
ふと気になってそう尋ねると、僕の呟きにはスルーなんですねチクショウ、と彼は小さな声で呟く。
聞こえてるよ、わざとだよ、と返すと、逆にちょっと傷つきますよ?と彼は威勢よく返答した。
「時々、自分の目的と違うことしてるんじゃないかと思う時はありますけどね、まあ、慣れたことには慣れました。
忙殺される毎日なのは前からですが、仲間がいるのがこんなに賑やかなんて、って感じです。」
そう言うと彼は、はにかんだように笑う。
その笑顔が、思いの外眩しくて、名前は目を細めて微笑んだ。
長いこと二人(一人と一頭)で必死にやってきた彼にもやっと、信頼できる仲間ができたということなのだろう。
それが他人事ではないように嬉しくて、心がほのかに温かくなる。
「それは、よかったね、」
嬉しさが滲み出てしまったのだろうか、名前が笑ってそう返すと、オットーは一瞬瞠目した。
それから焦ったように、目を逸らす。
「っ、名前さんは、」
照れたように頬をかきながら、慌てて話を繋げるかのようにくぐもった声を出す。
「名前さんは、慣れましたか、?」
彼の突然の慌てように、名前は少し不思議に思いながらも、うん、と答えた。
「うん、慣れたというか、色んな人が店に寄ってくれるようになって。最近やっと、わかってきたところかな。」
まだまだ至らない部分は多いけれど、と笑うと、彼は前のめりに、そんなことないですよ、と意外にも大きな声で言う。
「名前さんのお料理、とてもおいしいです。」
だから謙遜なさらないでください、と彼は強く断言した。
その瞳が澄んだ藍色をしていて、名前は珍しく狼狽する。
どうして、そんな真剣な瞳をするのだろう。
「ええと、ありがとう。」
オットー君にそう言ってもらえるのは嬉しいよ、と内心の動揺を隠すようにそう言うと彼は何がそんなに嬉しいのか、はい。と弾んだ声でそう答えた。