寂しがり少女
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FFI本戦。イナズマジャパンが初戦を無事に突破できたその夜、宿福の食堂はいつも以上に賑やかだった。
食事前に響木監督の労いの言葉と、久遠監督から明日一日の休日が設けられたからだ。休日に関しては冬花さんの提案だった。
この島に来て初めてのしっかりした休息にみんな喜び、思い思いに話している夕食の時間。
「…………」
私は赤い球体と睨みつけていた。
今日の夕飯はトンカツで、プレートにはご飯とサラダがついていた。そのサラダの中に赤い球体、基ミニトマトがあった。
……初戦突破で浮かれていたのは自分も同じだ。席につく途中に置くのをうっかり忘れてしまった。
それならば飛鷹さんや虎丸くんに食べてもらおうと思ったけれど、生憎今日は二人共離れた席に座っている。万事休すとはこの事だ。
水を飲みながらプレートにポツンと残ったミニトマトを眺めて小さくため息をついた時だった。
「あの、不動さん」
「!?……な、なに?」
隣からおずおずとした様子で声をかけられた。声の主は隣で座って食事をとっていた立向居くんだ。
「個人の必殺技って必要、だよね」
「え?」
立向居くんは視線を下げたまま、私にそう聞いてきた。
「まぁ……あるに越したことはないと思うけど…………?」
「うん……答えてくれてありがとう」
私は思ったことをそのまま伝えれば、彼はお礼を告げたものの何か思案するように唇を結んで俯いた。
「とりあえず、夕食はしっかり食べたほうがいいと思うよ」
そんな立向居くんの目の前にあるプレートはあまり減っていなくて、私は一応そう声を掛けておく。
こっそりミニトマトを立向居くんの皿へと移しながら。
+++
そして迎えた休日。みんな思い思いの時間を過ごしていた。
虎丸くん達みたいに海に泳ぎに行く人もいれば、他の国のエリアへ観光に行く人もいるし、ライオコット島の中心にあるエントランスエリアで各々買い物を楽しむ人もいた。
私はというと、念願のマネージャー達と一緒にショッピングを楽しんでいた。
春奈がおすすめするスキンケア商品を買ったり、秋さんや冬花さん達とも色んな服を見てお気に入りの一着を選んだりと久々に女子らしい買い物をしたと思う(なんせ女友達なんて忍ちゃんぐらいしかいなかったので)
それから夜になって宿舎へ戻れば、話し合ったりお菓子を食べたりと各々自由な時間を過ごしていた。
「鉄壁の守りの対策は明日から、として…………」
夕食後、私はジャージで宿舎裏にある砂浜に足を運んでいた。
日中は真夏のような暑さを感じるライオコット島だけど、夜は太陽が隠れているおかげもあって気温もマシになっていた。たまに吹く冷たい風も心地よい。
私は暗くなった海を横目に、砂浜の踏み心地を確かめる。
……うん、普通の地面よりも足を取られて歩きにくい。この上を走れば、足腰の強化に繋がりそうだ。
軽くストレッチを終わらせた私は、早速砂浜の上を走り出した。
一定の距離を走ればすぐに方向転換して、再び走る。何度か砂に足を取られて転びそうになったものの何とかバランスを取って持ち直す。とはいえ、タイムロスではあるので結果に繋がっているとは思えない。
「あっつ……」
着ていたジャージの上着を脱ぎ捨て、ヤシの木に背を預けながら月明かりを頼りにノートへ書き出したタイムを見て小さくため息をつく。
しばらく夜は走り込みかな……と考えていると。
「不動?」
「わっ!?」
急に背後から名前を呼ばれたので、私は文字通り跳ね上がった。慌てて振り返れば……
「風丸さん?」
サッカーボール片手に目を丸くするジャージ姿の風丸さんがいた。
「こんな夜遅くに一人で自主練習か?」
「……風丸さんだって」
「それは、そうだけど……」
アジア予選の頃から私が夜遅くまで起きている事に否定的だった風丸さんにやっぱり眉をひそめられ、思わず呟けば彼はすぐにばつが悪そうな表情を浮かべた。
「ふふっ」
「……あのなぁ」
そんなあまりに素直な彼に思わず笑ってしまえば、風丸さんはしてやられたといった様子でため息をつくも苦笑を浮かべている。どうやら、怒られる事は阻止できたようだ。
「で、何をしてたんだ?」
「スピード上げられるように、砂浜で走ってました」
「スピード?」
改めて隣まで歩いて尋ねる彼に私は素直に答えることにした。
「……韓国戦の時、風丸さん言ってたじゃないですか」
「俺?」
そして自分が関わっていると思っていなかったのか目を丸くする風丸さんに私は彼自身が話したことを思い出しながら告げる。
「余計な力が入って、私のパスを追い越したって……けれど、そもそも私がそのスピードに合わせてパスを出すことが出来ていれば解決できた問題だったなと思って」
それは試合の映像を何度も見返しながら思っていた事だ。
あの時は計算したパスが通らなくて頭が真っ白になってそれどころではなかったし、仮に冷静だとしてもそんな早いボールは出せなかったと思う。
「私が風丸さんのトップスピードに合わせてパスを出せるようになれば、もっと戦術の幅が広まると思って」
そのためには私自身が速く走れるようにならないといけない。そう思って走っていた。
「そのための特訓か……そうか…………」
それを伝えれば、風丸さんは手で口を隠しながら何かを考え込んでいて、手を離した時に見えた口元は笑みを浮かべていた。
「だったら俺も手伝うよ」
「え?」
今度は私が目を丸くする番だった。
「俺のプレイに合わせようとしてくれるんだから、俺が手伝うのは当たり前だろ?」
「でも風丸さんも個人練習をしたいんじゃ…………」
「人に教えるのも立派な練習だ」
勝手に自分でやっている事をわざわざ当人に手伝ってもらうのは有難い半分申し訳なさもあるので断ろうとしたものの、風丸さんは腰に手を当てて明るく微笑んでいた。
「元陸上部として助言ぐらいなら出来ると思うんだ」
「え、陸上部だったんですか?……道理で、あのスピード…………」
初めて知った事実に驚きながらもスピードには納得できて頷いていると、風丸さんはああでも、と周りを見回しながら眉を下げた。
「走るなら朝方の方がいいな。やっぱり夜はいろいろ危ないし」
「砂浜なら宿舎も見えてるし迷いませんけど……?」
「そういう問題じゃない」
……逃れられなかったか。迷子の心配をされているのかと思えば違うらしい。
やっぱりこの島には狼とかの野生動物がいるのか?
「朝にジャパンエリア走るのもわりと楽しいぞ?」
「……確かに」
首を傾げている私を見て嫌がられていると思ったのか朝のランニングに対してそんなアピールをする風丸さん。
元より否定をするつもりはなかったけれど、楽しいという言葉に私は素直に納得した。
「一人で夜の砂浜走るより、風丸さんと一緒に朝に走る方が学ぶことが多そうですね」
「……っ」
誰かと一緒の方が楽しいと気づけたのは、間違いなくイナズマジャパンのおかげだ。
「じゃあ……風丸さん、改めてよろしくお願いします」
夜型な自分にとって朝の個人練習は中々新しい挑戦だと思うと、さらに気合が入る。私は改めて風丸さんに頭を下げて練習を一緒にする事を頼んだ。
「ああ!」
元気な声で頷いてくれた風丸さんを見れば頬を染めて嬉しそうにはにかんでくれていた。あまりにも眩しい表情に私は思わず頬を掻きながら首を傾げる。
「そんな喜ばれる事を言ってないような……」
「あ、え……い、いや……!」
無意識だったらしい。私が指摘すれば風丸さんは慌てたように片手でぶんぶんと手を振って、もう片方の手で自分の顔を隠した。
「ふ、不動に頼ってもらえて……嬉しかったから…………」
それからぽそぽそと絞り出すような声でそう言って貰えた。
頼ってもらえて嬉しいって……相変わらず仲間想いだな。
「じゃあこれからもいっぱい頼りますよ?」
「……ああ」
照れずにもっと堂々としたらいいのに、なんて思いながらも私には到底できない事だ。冗談めいた口調で調子に乗ってみれば、風丸さんは照れながらも真っ直ぐとこちらを向いて頷いてくれてなんだかそれがむずかゆく感じてしまった。
食事前に響木監督の労いの言葉と、久遠監督から明日一日の休日が設けられたからだ。休日に関しては冬花さんの提案だった。
この島に来て初めてのしっかりした休息にみんな喜び、思い思いに話している夕食の時間。
「…………」
私は赤い球体と睨みつけていた。
今日の夕飯はトンカツで、プレートにはご飯とサラダがついていた。そのサラダの中に赤い球体、基ミニトマトがあった。
……初戦突破で浮かれていたのは自分も同じだ。席につく途中に置くのをうっかり忘れてしまった。
それならば飛鷹さんや虎丸くんに食べてもらおうと思ったけれど、生憎今日は二人共離れた席に座っている。万事休すとはこの事だ。
水を飲みながらプレートにポツンと残ったミニトマトを眺めて小さくため息をついた時だった。
「あの、不動さん」
「!?……な、なに?」
隣からおずおずとした様子で声をかけられた。声の主は隣で座って食事をとっていた立向居くんだ。
「個人の必殺技って必要、だよね」
「え?」
立向居くんは視線を下げたまま、私にそう聞いてきた。
「まぁ……あるに越したことはないと思うけど…………?」
「うん……答えてくれてありがとう」
私は思ったことをそのまま伝えれば、彼はお礼を告げたものの何か思案するように唇を結んで俯いた。
「とりあえず、夕食はしっかり食べたほうがいいと思うよ」
そんな立向居くんの目の前にあるプレートはあまり減っていなくて、私は一応そう声を掛けておく。
こっそりミニトマトを立向居くんの皿へと移しながら。
+++
そして迎えた休日。みんな思い思いの時間を過ごしていた。
虎丸くん達みたいに海に泳ぎに行く人もいれば、他の国のエリアへ観光に行く人もいるし、ライオコット島の中心にあるエントランスエリアで各々買い物を楽しむ人もいた。
私はというと、念願のマネージャー達と一緒にショッピングを楽しんでいた。
春奈がおすすめするスキンケア商品を買ったり、秋さんや冬花さん達とも色んな服を見てお気に入りの一着を選んだりと久々に女子らしい買い物をしたと思う(なんせ女友達なんて忍ちゃんぐらいしかいなかったので)
それから夜になって宿舎へ戻れば、話し合ったりお菓子を食べたりと各々自由な時間を過ごしていた。
「鉄壁の守りの対策は明日から、として…………」
夕食後、私はジャージで宿舎裏にある砂浜に足を運んでいた。
日中は真夏のような暑さを感じるライオコット島だけど、夜は太陽が隠れているおかげもあって気温もマシになっていた。たまに吹く冷たい風も心地よい。
私は暗くなった海を横目に、砂浜の踏み心地を確かめる。
……うん、普通の地面よりも足を取られて歩きにくい。この上を走れば、足腰の強化に繋がりそうだ。
軽くストレッチを終わらせた私は、早速砂浜の上を走り出した。
一定の距離を走ればすぐに方向転換して、再び走る。何度か砂に足を取られて転びそうになったものの何とかバランスを取って持ち直す。とはいえ、タイムロスではあるので結果に繋がっているとは思えない。
「あっつ……」
着ていたジャージの上着を脱ぎ捨て、ヤシの木に背を預けながら月明かりを頼りにノートへ書き出したタイムを見て小さくため息をつく。
しばらく夜は走り込みかな……と考えていると。
「不動?」
「わっ!?」
急に背後から名前を呼ばれたので、私は文字通り跳ね上がった。慌てて振り返れば……
「風丸さん?」
サッカーボール片手に目を丸くするジャージ姿の風丸さんがいた。
「こんな夜遅くに一人で自主練習か?」
「……風丸さんだって」
「それは、そうだけど……」
アジア予選の頃から私が夜遅くまで起きている事に否定的だった風丸さんにやっぱり眉をひそめられ、思わず呟けば彼はすぐにばつが悪そうな表情を浮かべた。
「ふふっ」
「……あのなぁ」
そんなあまりに素直な彼に思わず笑ってしまえば、風丸さんはしてやられたといった様子でため息をつくも苦笑を浮かべている。どうやら、怒られる事は阻止できたようだ。
「で、何をしてたんだ?」
「スピード上げられるように、砂浜で走ってました」
「スピード?」
改めて隣まで歩いて尋ねる彼に私は素直に答えることにした。
「……韓国戦の時、風丸さん言ってたじゃないですか」
「俺?」
そして自分が関わっていると思っていなかったのか目を丸くする風丸さんに私は彼自身が話したことを思い出しながら告げる。
「余計な力が入って、私のパスを追い越したって……けれど、そもそも私がそのスピードに合わせてパスを出すことが出来ていれば解決できた問題だったなと思って」
それは試合の映像を何度も見返しながら思っていた事だ。
あの時は計算したパスが通らなくて頭が真っ白になってそれどころではなかったし、仮に冷静だとしてもそんな早いボールは出せなかったと思う。
「私が風丸さんのトップスピードに合わせてパスを出せるようになれば、もっと戦術の幅が広まると思って」
そのためには私自身が速く走れるようにならないといけない。そう思って走っていた。
「そのための特訓か……そうか…………」
それを伝えれば、風丸さんは手で口を隠しながら何かを考え込んでいて、手を離した時に見えた口元は笑みを浮かべていた。
「だったら俺も手伝うよ」
「え?」
今度は私が目を丸くする番だった。
「俺のプレイに合わせようとしてくれるんだから、俺が手伝うのは当たり前だろ?」
「でも風丸さんも個人練習をしたいんじゃ…………」
「人に教えるのも立派な練習だ」
勝手に自分でやっている事をわざわざ当人に手伝ってもらうのは有難い半分申し訳なさもあるので断ろうとしたものの、風丸さんは腰に手を当てて明るく微笑んでいた。
「元陸上部として助言ぐらいなら出来ると思うんだ」
「え、陸上部だったんですか?……道理で、あのスピード…………」
初めて知った事実に驚きながらもスピードには納得できて頷いていると、風丸さんはああでも、と周りを見回しながら眉を下げた。
「走るなら朝方の方がいいな。やっぱり夜はいろいろ危ないし」
「砂浜なら宿舎も見えてるし迷いませんけど……?」
「そういう問題じゃない」
……逃れられなかったか。迷子の心配をされているのかと思えば違うらしい。
やっぱりこの島には狼とかの野生動物がいるのか?
「朝にジャパンエリア走るのもわりと楽しいぞ?」
「……確かに」
首を傾げている私を見て嫌がられていると思ったのか朝のランニングに対してそんなアピールをする風丸さん。
元より否定をするつもりはなかったけれど、楽しいという言葉に私は素直に納得した。
「一人で夜の砂浜走るより、風丸さんと一緒に朝に走る方が学ぶことが多そうですね」
「……っ」
誰かと一緒の方が楽しいと気づけたのは、間違いなくイナズマジャパンのおかげだ。
「じゃあ……風丸さん、改めてよろしくお願いします」
夜型な自分にとって朝の個人練習は中々新しい挑戦だと思うと、さらに気合が入る。私は改めて風丸さんに頭を下げて練習を一緒にする事を頼んだ。
「ああ!」
元気な声で頷いてくれた風丸さんを見れば頬を染めて嬉しそうにはにかんでくれていた。あまりにも眩しい表情に私は思わず頬を掻きながら首を傾げる。
「そんな喜ばれる事を言ってないような……」
「あ、え……い、いや……!」
無意識だったらしい。私が指摘すれば風丸さんは慌てたように片手でぶんぶんと手を振って、もう片方の手で自分の顔を隠した。
「ふ、不動に頼ってもらえて……嬉しかったから…………」
それからぽそぽそと絞り出すような声でそう言って貰えた。
頼ってもらえて嬉しいって……相変わらず仲間想いだな。
「じゃあこれからもいっぱい頼りますよ?」
「……ああ」
照れずにもっと堂々としたらいいのに、なんて思いながらも私には到底できない事だ。冗談めいた口調で調子に乗ってみれば、風丸さんは照れながらも真っ直ぐとこちらを向いて頷いてくれてなんだかそれがむずかゆく感じてしまった。