寂しがり少女
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「明奈」
「うん」
MFとして中盤のポジションに着いた私は隣にいる兄と目を合わせて頷き合う。
私達の狙いはただ一つ。
エドガーさんにシュートを撃たせないようにする。
後半、ナイツオブクイーンのボールで試合が始まる。
フィリップからボールを受け取り、エドガーさんが上がっていくのを見て私は風丸さんと、兄ちゃんは佐久間さんとそれぞれアイコンタクトを取れば打ち合わせ通り二人は中央を開ける。
そうすれば攻めるために、エドガーさんは無敵の槍を発動させた。
「飛鷹さん!狙うのはシュートの瞬間ですよ!!」
「ああ!」
飛鷹さんにそう指示をだして私は風丸さんや虎丸くんと一緒にエドガーさんを守っている選手の気を引くため動く。反対サイドでは兄ちゃんと佐久間さん、ヒロトさんが動いているのが見えた。
無敵の槍を半ば無理矢理、解除されたエドガーさんがゴールへと突っ込んできたのを木暮くんがディフェンスに入る。かわされたものの、予想してなかったのか勢いは完全に崩れた。
「おりゃあああ!! “真空魔” !!」
その隙に予め控えさせていた飛鷹さんにボールを奪取させた。
「相手にボールを渡すな!」
飛鷹さんからボールを受け取った兄ちゃんは木暮くんへと回せば、ヒロトさんへとヘディングパスで繋ぐ。
「飛鷹くん!」
「右に流れます!」
「ッ……!」
私が指示を出せば、ヒロトさんのパスを飛鷹さんはそのまま風丸さんへと繋げる。
……よし、いける。
「ダイレクトパスで!」
「あと一歩下がれ!」
「中央へ寄せて!」
「2秒待って左だ!」
私と兄ちゃん、互いに指示を出して目まぐるしく移動するボールにナイツオブクイーンはついていけてない。
「染岡!豪炎寺!」
私が風丸さんからボールを受け取れば、攻め時を見極め兄がFW陣へと指示を出した。
「いつまでも好きにはさせない!」
ドリブルで上がる私を追いかけるエドガーさん。そんな中で私はパスを出した。
染岡さんにでも、豪炎寺さんにでもない。
「今だッ!ヒロトさんっ!!」
「1m右だ!」
「!……ッ “流星ブレードV2” !!」
不意を突いた私の行動を補う形で指示を出した兄ちゃんに従ったヒロトさんは一歩右へとズレて、必殺技を放つ。
「 “ガラティーン” !!」
惜しくもナイツオブクイーンのGK、フレディ・マックイーンの必殺技でそのシュートは止められる。
だけどタクティクスを破り、攻め込めたことで、私達は確かな手応えを感じていた。
「お兄ちゃんっ!お姉ちゃんっ!かっこいいー!!!」
ベンチでも攻め込めたことで盛り上がりを見せていて、嬉しそうな妹の声援が聞こえた。
「鬼道と不動。2人の天才司令塔がいるから可能な必殺タクティクスだ」
「言うなれば “デュアルタイフーン” !!」
解説する響木さんに、私達のタクティクスにそう命名をする目金さん。
「……2人の天才司令塔…………」
ポジションへと戻りながら耳にした響木さんの言葉を私はぼそりと繰り返した。
天才、なんて私には勿体ない言葉だ。
だけどそれは兄ちゃんと対等に並べている証拠だから。
「ははっ」
そう思うと嬉しくて、私は緩む口を誤魔化すように手で口元を隠しながら走った。
試合再開。イナズマジャパンは攻撃の手を緩めないため私はドリブルで上がっていけばニック・ウッドゲートが立ち塞がり、私は視界に入った選手へとパスを出した
「虎丸くん!!」
虎丸くんはボールを持つが、前半と同じようにランスが立ち塞がり、必殺技を放つ。
だが、その石柱の中に虎丸くんはもういない。
「何!?」
「これならどうだ!」
虎丸くんは豪炎寺さんのように石柱が建つ前に高く跳躍をして躱していたから。
完全にフリーになった虎丸くん。今なら……!
「練習の成果を見せろ!虎丸くん!」
「はい!」
私がそう声を上げればにっと笑みを浮かべた虎丸くんがいくぞ!と構えた。
「はっ!うおおおおっ……っでやッ!!」
彼の背後から7本の剣が現れ、剣先を向けたタイミングで虎丸くんがボールを蹴れば、その剣諸共ゴールへとは一直線へと進み、GKの必殺技をものともせずにゴールへと突き刺さった。
「いよぉーし!!」
イナズマジャパンは2点目を入れ、再び同点に追いついた。
嬉しそうにガッツポーズをする虎丸くんへ選手だけでなく観客席からの歓声も聞こえる。
虎丸くんの必殺技は目金さんの命名により “グラディウスアーチ” と名付けられた。
「明奈さん!」
「うんっ」
私の方に手を上げながらやってきた虎丸くんに私も手を上げてパチンッとハイタッチをした。
同点になったのをきっかけに、イナズマジャパンはさらに勢いに乗って、攻め上がる。
「轟け! “ドラゴンスレイヤー” !!」
染岡さんがシュートを撃ち、勝利の決め手となると思った時だった。
「負けるわけにはいかない!代表の誇りにかけて!!」
ナイツオブクイーンのゴール前へと走ってきたエドガーさんが、染岡さんのシュートに向かい、足を大きく振り上げ、そして……
「 “エクスカリバー” !!」
ドラゴンスレイヤーと真正面からぶつかり合い、蹴り返した。
二つの必殺技の合わせ技で威力が跳ね上がったシュートがディフェンスを吹き飛ばし、イナズマジャパンのゴールへと襲い掛かる。
頼みの綱はキャプテンしかいない。
彼を見れば険しい顔でシュートを見ていたが、何かを思い出すように笑顔を浮かべた。
「どんなシュートでも、ゴールに入らなければ得点にはならないんだぁーーッ!!」
そう叫びながら、キャプテンは右手にパワーを溜めてジャンプをして地面に拳を叩き付けた。するとその衝撃でゴール前に大きなドーム型のバリアが出来て、たちまちにボールの軌道を逸らした。
止める以外のボールをゴールに入れない必殺技。そんな新しい次元の必殺技を目金さんは“イジゲン・ザ・ハンド”と名付けた。
「鬼道ーー!!」
ボールに触れてないことからゴールキックから試合は再開され、キャプテンは兄ちゃんへとロングパスを出した。
「行くぞ明奈!」
「うん!」
リーグ戦には延長戦はない。時間的に考えればこれが勝つためのラストチャンスだ。逃すわけにはいかない。
「決めさせはしない!ナイトの誇りにかけて!」
必殺技を放ったままディフェンスに入り、そう告げるエドガーさんの表情に強い意志を感じるけれど、負けられないのはこちらも同じ。
「豪炎寺!虎丸!」
「おうッ!」
「はい!」
兄ちゃんは2人に指示を出している間に私は飛び込めば、兄もボールを浮かせて対峙するように飛び、ボールを同時に蹴った。
「「 “キラーフィールズ” !!」」
それは韓国戦で編み出した私達の必殺技。この必殺技の名前も目金さんが命名してくれた。
DF陣を一掃してボールは虎丸くんの方へ。
「 “タイガー…!」
「ストーム” !!」
それから2人の息のあった連携必殺技がゴールを貫き、掲示板には3-2と数字が表示されたところで、
試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。
《試合終了ーーっ!イナズマジャパンが強豪・ナイツオブクイーンを降しましたーーっ!!》
《これは驚きました。とんでもない番狂わせが起きましたね……!》
「よぉーーし!!やったぞ、みんなぁぁ!!」
周りの予想を覆した試合結果に周りが騒然としている中、キャプテンは嬉しそうに笑顔を浮かべ、ピッチへと駆け寄ればベンチにいる人達も集まり本戦大会、初戦の勝利を喜び合った。
「大会は始まったばかりだ……。今は君たちの勝利を称えよう」
ナイツオブクイーンの選手は試合に負けた事に落ち込んだように膝を折って座り込んでいる中、エドガーさんだけが立ち上がってイナズマジャパンを見ていることに気づく。
悔しさを滲ませながらも浮かべたその笑みは、イナズマジャパンを見下していたものじゃなく対等の相手だと認めているように感じた。
「明奈さん!」
「うわっ!?」
強豪のキャプテンにチームが認められたことにひっそり喜んでいると、隣から虎丸くんに元気よく呼ばれたと同時腕に抱きついてきた。
「必殺技の特訓、手伝ってくれてありがとうございます!明奈さんのヒントのおかげで、完成できました!」
ヒントとは剣云々の話の事だろう。
自分の提案をこう実行してくれて形にしてくれるのを見ると、特訓に付き合った甲斐があったなと思う。
「虎丸くんも……ナイス」
「!……へへっ!」
空いている方の手でぽんと虎丸くんの頭を撫でれば、彼は少しだけ照れたように頬を赤くしながらも嬉しそうに歯を見せて笑った。
…………弟がいたらこんな感じなのかな。
それから選手は互いに整列をして試合終了の挨拶を交わした。その際に円堂さんとエドガーさんが握手を交わしていた。最初の時とは違う、対等な握手だ。
その後一度MRに集合とのことでフィールドから通路へ歩きながら私はふと考える。
虎丸くん、あんな強力な必殺技を編み出すなんて凄いな。しかも予想よりもずっと早くに。
私には……一人で世界の壁を超えられるような必殺技は編み出せない。
だから、もし新必殺技を作るとしたら……。
「アキナさん」
「!」
名前を呼ばれたことに気づいて、振り返ればエドガーさんがいた。
「いい試合でした」
「あ……こ、こちらこそ!」
私は慌てて背筋を伸ばして頭を下げた。その様子に一瞬エドガーさんは目を丸くしてから手を口元に当ててくすりと笑った。
「あの……?」
「いえ……貴女は薔薇と百合の魅力を兼ね備えている。不思議な人だ」
「それって……」
薔薇の花も似合う、ということはサッカー選手としての自分を認めてくれたということで。期待はしてないつもりだったけれど、実際に認めてくれたと思うと嬉しく思ってしまう。
だけどその後でじわりじわりと襲ってきたのは羞恥心で、私は頬に手を当てて熱を何とか冷まそうとする。
「アキナさん?」
百面相をする私を不思議そうに見るエドガーさんに私は説明をしようと、何とか口を動かす。
「えと……自分で啖呵を切っておいて、あれなんですが……やっぱり私には勿体ない気が…………」
「勿体ない?」
「し、親善パーティーの時にも思ったんですが、薔薇とか百合とか……私には綺麗すぎる例えだなって……!」
冷静に考えれば薔薇も百合も似合うような人間ではないと思ってしまって、それでもそう言ってくれるエドガーさんに嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちが再発してしまった。
「アキナさん」
そんな感情で唸っていると、エドガーさんに名前を呼ばれた。見れば彼は少しだけ困ったように眉を下げて笑みを浮かべていた。
「日本のレディは謙虚だと有名ですが……自分を卑下する必要はありません。貴女は十分魅力的なレディです」
「そう、ですか?」
「ええ。……不安のようなら、試してみますか?」
「え?」
褒められている事は分かるけれど、やっぱり実感が湧かない言葉で首を傾げていると、不意にエドガーさんが目を細めて微笑んだ。
それから彼の右手がそっと私の頬へと添えられる。
「?エドガーさん?」
「…………」
名前を呼んでも彼は反応せずに、そのままゆっくりと顔が近づいて――
「不動!」
「えっ、わぷっ!?」
その様子を見ていると、横から凄い勢いで引っ張られそのまま何かに激突した。
「やぁ、来ると思ってたよ。確か――」
「風丸だッ!」
真上から聞こえる声に、風丸さんに引っ張られ胸板にぶつかった事を理解する。彼は普段話すよりも強い口調でエドガーさんに名前を名乗った。
「安心したまえ。レディに対し紳士としてあるまじき行為をする気はない」
「だったらさっきのは何だ……」
「アキナさんに自分の魅力を知ってもらおうとしただけですよ」
下手したら試合の時よりも敵意剥き出しの風丸さんにエドガーさんは笑みを浮かべて平然としてる。会話の内容がいまいち分からなくて風丸さんとエドガーさんの顔を交互に見る。
見比べるとやっぱり似てるなぁ。実は親戚とかか?
「まぁ騎士 と呼ぶには、まだまだ拙いけどね」
「ナイト……?」
「よ、余計なお世話だ!不動、行くぞ!」
エドガーさんの言葉に首を傾げていると、何故か頬がうっすら赤くなった風丸さんがエドガーさんを一睨みした後に私の手を握って、歩き出した。
「え、ちょっと……!?え、エドガーさん失礼します……!」
「はい。また会える日を楽しみにしています」
親善パーティーのデジャヴ?
慌ただしく別れの挨拶をする私達と違って、エドガーさんは相変わらず余裕のある立ち振る舞いでにこりと笑いかけてくれた。
「そういえばエドガーさんの試すって何のことだったんだ……」
「不動は……気にしないで大丈夫だ」
結局エドガーさんが何がしたかったのか分からなかったなとポツリと呟けば、どこか疲れた様子の風丸さんが苦笑を浮かべていた。
「うん」
MFとして中盤のポジションに着いた私は隣にいる兄と目を合わせて頷き合う。
私達の狙いはただ一つ。
エドガーさんにシュートを撃たせないようにする。
後半、ナイツオブクイーンのボールで試合が始まる。
フィリップからボールを受け取り、エドガーさんが上がっていくのを見て私は風丸さんと、兄ちゃんは佐久間さんとそれぞれアイコンタクトを取れば打ち合わせ通り二人は中央を開ける。
そうすれば攻めるために、エドガーさんは無敵の槍を発動させた。
「飛鷹さん!狙うのはシュートの瞬間ですよ!!」
「ああ!」
飛鷹さんにそう指示をだして私は風丸さんや虎丸くんと一緒にエドガーさんを守っている選手の気を引くため動く。反対サイドでは兄ちゃんと佐久間さん、ヒロトさんが動いているのが見えた。
無敵の槍を半ば無理矢理、解除されたエドガーさんがゴールへと突っ込んできたのを木暮くんがディフェンスに入る。かわされたものの、予想してなかったのか勢いは完全に崩れた。
「おりゃあああ!! “真空魔” !!」
その隙に予め控えさせていた飛鷹さんにボールを奪取させた。
「相手にボールを渡すな!」
飛鷹さんからボールを受け取った兄ちゃんは木暮くんへと回せば、ヒロトさんへとヘディングパスで繋ぐ。
「飛鷹くん!」
「右に流れます!」
「ッ……!」
私が指示を出せば、ヒロトさんのパスを飛鷹さんはそのまま風丸さんへと繋げる。
……よし、いける。
「ダイレクトパスで!」
「あと一歩下がれ!」
「中央へ寄せて!」
「2秒待って左だ!」
私と兄ちゃん、互いに指示を出して目まぐるしく移動するボールにナイツオブクイーンはついていけてない。
「染岡!豪炎寺!」
私が風丸さんからボールを受け取れば、攻め時を見極め兄がFW陣へと指示を出した。
「いつまでも好きにはさせない!」
ドリブルで上がる私を追いかけるエドガーさん。そんな中で私はパスを出した。
染岡さんにでも、豪炎寺さんにでもない。
「今だッ!ヒロトさんっ!!」
「1m右だ!」
「!……ッ “流星ブレードV2” !!」
不意を突いた私の行動を補う形で指示を出した兄ちゃんに従ったヒロトさんは一歩右へとズレて、必殺技を放つ。
「 “ガラティーン” !!」
惜しくもナイツオブクイーンのGK、フレディ・マックイーンの必殺技でそのシュートは止められる。
だけどタクティクスを破り、攻め込めたことで、私達は確かな手応えを感じていた。
「お兄ちゃんっ!お姉ちゃんっ!かっこいいー!!!」
ベンチでも攻め込めたことで盛り上がりを見せていて、嬉しそうな妹の声援が聞こえた。
「鬼道と不動。2人の天才司令塔がいるから可能な必殺タクティクスだ」
「言うなれば “デュアルタイフーン” !!」
解説する響木さんに、私達のタクティクスにそう命名をする目金さん。
「……2人の天才司令塔…………」
ポジションへと戻りながら耳にした響木さんの言葉を私はぼそりと繰り返した。
天才、なんて私には勿体ない言葉だ。
だけどそれは兄ちゃんと対等に並べている証拠だから。
「ははっ」
そう思うと嬉しくて、私は緩む口を誤魔化すように手で口元を隠しながら走った。
試合再開。イナズマジャパンは攻撃の手を緩めないため私はドリブルで上がっていけばニック・ウッドゲートが立ち塞がり、私は視界に入った選手へとパスを出した
「虎丸くん!!」
虎丸くんはボールを持つが、前半と同じようにランスが立ち塞がり、必殺技を放つ。
だが、その石柱の中に虎丸くんはもういない。
「何!?」
「これならどうだ!」
虎丸くんは豪炎寺さんのように石柱が建つ前に高く跳躍をして躱していたから。
完全にフリーになった虎丸くん。今なら……!
「練習の成果を見せろ!虎丸くん!」
「はい!」
私がそう声を上げればにっと笑みを浮かべた虎丸くんがいくぞ!と構えた。
「はっ!うおおおおっ……っでやッ!!」
彼の背後から7本の剣が現れ、剣先を向けたタイミングで虎丸くんがボールを蹴れば、その剣諸共ゴールへとは一直線へと進み、GKの必殺技をものともせずにゴールへと突き刺さった。
「いよぉーし!!」
イナズマジャパンは2点目を入れ、再び同点に追いついた。
嬉しそうにガッツポーズをする虎丸くんへ選手だけでなく観客席からの歓声も聞こえる。
虎丸くんの必殺技は目金さんの命名により “グラディウスアーチ” と名付けられた。
「明奈さん!」
「うんっ」
私の方に手を上げながらやってきた虎丸くんに私も手を上げてパチンッとハイタッチをした。
同点になったのをきっかけに、イナズマジャパンはさらに勢いに乗って、攻め上がる。
「轟け! “ドラゴンスレイヤー” !!」
染岡さんがシュートを撃ち、勝利の決め手となると思った時だった。
「負けるわけにはいかない!代表の誇りにかけて!!」
ナイツオブクイーンのゴール前へと走ってきたエドガーさんが、染岡さんのシュートに向かい、足を大きく振り上げ、そして……
「 “エクスカリバー” !!」
ドラゴンスレイヤーと真正面からぶつかり合い、蹴り返した。
二つの必殺技の合わせ技で威力が跳ね上がったシュートがディフェンスを吹き飛ばし、イナズマジャパンのゴールへと襲い掛かる。
頼みの綱はキャプテンしかいない。
彼を見れば険しい顔でシュートを見ていたが、何かを思い出すように笑顔を浮かべた。
「どんなシュートでも、ゴールに入らなければ得点にはならないんだぁーーッ!!」
そう叫びながら、キャプテンは右手にパワーを溜めてジャンプをして地面に拳を叩き付けた。するとその衝撃でゴール前に大きなドーム型のバリアが出来て、たちまちにボールの軌道を逸らした。
止める以外のボールをゴールに入れない必殺技。そんな新しい次元の必殺技を目金さんは“イジゲン・ザ・ハンド”と名付けた。
「鬼道ーー!!」
ボールに触れてないことからゴールキックから試合は再開され、キャプテンは兄ちゃんへとロングパスを出した。
「行くぞ明奈!」
「うん!」
リーグ戦には延長戦はない。時間的に考えればこれが勝つためのラストチャンスだ。逃すわけにはいかない。
「決めさせはしない!ナイトの誇りにかけて!」
必殺技を放ったままディフェンスに入り、そう告げるエドガーさんの表情に強い意志を感じるけれど、負けられないのはこちらも同じ。
「豪炎寺!虎丸!」
「おうッ!」
「はい!」
兄ちゃんは2人に指示を出している間に私は飛び込めば、兄もボールを浮かせて対峙するように飛び、ボールを同時に蹴った。
「「 “キラーフィールズ” !!」」
それは韓国戦で編み出した私達の必殺技。この必殺技の名前も目金さんが命名してくれた。
DF陣を一掃してボールは虎丸くんの方へ。
「 “タイガー…!」
「ストーム” !!」
それから2人の息のあった連携必殺技がゴールを貫き、掲示板には3-2と数字が表示されたところで、
試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。
《試合終了ーーっ!イナズマジャパンが強豪・ナイツオブクイーンを降しましたーーっ!!》
《これは驚きました。とんでもない番狂わせが起きましたね……!》
「よぉーーし!!やったぞ、みんなぁぁ!!」
周りの予想を覆した試合結果に周りが騒然としている中、キャプテンは嬉しそうに笑顔を浮かべ、ピッチへと駆け寄ればベンチにいる人達も集まり本戦大会、初戦の勝利を喜び合った。
「大会は始まったばかりだ……。今は君たちの勝利を称えよう」
ナイツオブクイーンの選手は試合に負けた事に落ち込んだように膝を折って座り込んでいる中、エドガーさんだけが立ち上がってイナズマジャパンを見ていることに気づく。
悔しさを滲ませながらも浮かべたその笑みは、イナズマジャパンを見下していたものじゃなく対等の相手だと認めているように感じた。
「明奈さん!」
「うわっ!?」
強豪のキャプテンにチームが認められたことにひっそり喜んでいると、隣から虎丸くんに元気よく呼ばれたと同時腕に抱きついてきた。
「必殺技の特訓、手伝ってくれてありがとうございます!明奈さんのヒントのおかげで、完成できました!」
ヒントとは剣云々の話の事だろう。
自分の提案をこう実行してくれて形にしてくれるのを見ると、特訓に付き合った甲斐があったなと思う。
「虎丸くんも……ナイス」
「!……へへっ!」
空いている方の手でぽんと虎丸くんの頭を撫でれば、彼は少しだけ照れたように頬を赤くしながらも嬉しそうに歯を見せて笑った。
…………弟がいたらこんな感じなのかな。
それから選手は互いに整列をして試合終了の挨拶を交わした。その際に円堂さんとエドガーさんが握手を交わしていた。最初の時とは違う、対等な握手だ。
その後一度MRに集合とのことでフィールドから通路へ歩きながら私はふと考える。
虎丸くん、あんな強力な必殺技を編み出すなんて凄いな。しかも予想よりもずっと早くに。
私には……一人で世界の壁を超えられるような必殺技は編み出せない。
だから、もし新必殺技を作るとしたら……。
「アキナさん」
「!」
名前を呼ばれたことに気づいて、振り返ればエドガーさんがいた。
「いい試合でした」
「あ……こ、こちらこそ!」
私は慌てて背筋を伸ばして頭を下げた。その様子に一瞬エドガーさんは目を丸くしてから手を口元に当ててくすりと笑った。
「あの……?」
「いえ……貴女は薔薇と百合の魅力を兼ね備えている。不思議な人だ」
「それって……」
薔薇の花も似合う、ということはサッカー選手としての自分を認めてくれたということで。期待はしてないつもりだったけれど、実際に認めてくれたと思うと嬉しく思ってしまう。
だけどその後でじわりじわりと襲ってきたのは羞恥心で、私は頬に手を当てて熱を何とか冷まそうとする。
「アキナさん?」
百面相をする私を不思議そうに見るエドガーさんに私は説明をしようと、何とか口を動かす。
「えと……自分で啖呵を切っておいて、あれなんですが……やっぱり私には勿体ない気が…………」
「勿体ない?」
「し、親善パーティーの時にも思ったんですが、薔薇とか百合とか……私には綺麗すぎる例えだなって……!」
冷静に考えれば薔薇も百合も似合うような人間ではないと思ってしまって、それでもそう言ってくれるエドガーさんに嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちが再発してしまった。
「アキナさん」
そんな感情で唸っていると、エドガーさんに名前を呼ばれた。見れば彼は少しだけ困ったように眉を下げて笑みを浮かべていた。
「日本のレディは謙虚だと有名ですが……自分を卑下する必要はありません。貴女は十分魅力的なレディです」
「そう、ですか?」
「ええ。……不安のようなら、試してみますか?」
「え?」
褒められている事は分かるけれど、やっぱり実感が湧かない言葉で首を傾げていると、不意にエドガーさんが目を細めて微笑んだ。
それから彼の右手がそっと私の頬へと添えられる。
「?エドガーさん?」
「…………」
名前を呼んでも彼は反応せずに、そのままゆっくりと顔が近づいて――
「不動!」
「えっ、わぷっ!?」
その様子を見ていると、横から凄い勢いで引っ張られそのまま何かに激突した。
「やぁ、来ると思ってたよ。確か――」
「風丸だッ!」
真上から聞こえる声に、風丸さんに引っ張られ胸板にぶつかった事を理解する。彼は普段話すよりも強い口調でエドガーさんに名前を名乗った。
「安心したまえ。レディに対し紳士としてあるまじき行為をする気はない」
「だったらさっきのは何だ……」
「アキナさんに自分の魅力を知ってもらおうとしただけですよ」
下手したら試合の時よりも敵意剥き出しの風丸さんにエドガーさんは笑みを浮かべて平然としてる。会話の内容がいまいち分からなくて風丸さんとエドガーさんの顔を交互に見る。
見比べるとやっぱり似てるなぁ。実は親戚とかか?
「まぁ
「ナイト……?」
「よ、余計なお世話だ!不動、行くぞ!」
エドガーさんの言葉に首を傾げていると、何故か頬がうっすら赤くなった風丸さんがエドガーさんを一睨みした後に私の手を握って、歩き出した。
「え、ちょっと……!?え、エドガーさん失礼します……!」
「はい。また会える日を楽しみにしています」
親善パーティーのデジャヴ?
慌ただしく別れの挨拶をする私達と違って、エドガーさんは相変わらず余裕のある立ち振る舞いでにこりと笑いかけてくれた。
「そういえばエドガーさんの試すって何のことだったんだ……」
「不動は……気にしないで大丈夫だ」
結局エドガーさんが何がしたかったのか分からなかったなとポツリと呟けば、どこか疲れた様子の風丸さんが苦笑を浮かべていた。