寂しがり少女
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あれから心当たりがあるらしい秋さんが円堂さんを呼びに行ったが、彼女も戻ってこないまま出発の時間になってしまった。
招待してくれた相手を待たせるのは相手に悪いという久遠監督の言い分で、一足先にパーティ会場に赴くことに。
そしてキャラバンに乗ってイギリスエリアにあるロンドンパレスに着くころには、夕日は沈み夜になっていた。
それから兄ちゃんがキャプテンの代わりに先頭に立ってナイツオブクイーンと挨拶をして、始まったイギリスと日本の親善パーティー。
……まぁ、予想通りというか。なんというか。
イナズマジャパンはあちら側が出した豪華な料理に舌鼓したり、チーム同士楽しそうにしているが、イギリス代表の一部は私達の様子を探っている感じがしてどうにも居心地が悪い。
…………本当なら私も“偵察”という名目で色々イギリス代表の選手を見たかった。だけど、
「しゅ、集中できない……!」
慣れないドレス姿の違和感や、それによって不自然になってないかという周りの視線をどうしても気にしてしまい、中々偵察の方に思考を持っていけなかった。
着ている物が変わっただけでこの体たらく……自分が情けないと小さくため息をつく。
「待ちなさい!木暮くん!」
「うししっ」
さっきまで隣にいた春奈も今や木暮くんを追いかけて行ってしまった。彼らの鬼ごっこは何度も目撃しているけれどその姿はまるで姉と弟みたいに仲良しで……いや、春奈は私の妹だけど!!
それにしてもヒールであんなに早く動けるなんてすごいな。
私も初めよりはだいぶ歩けるようになったけれど。
早足で木暮くんを追いかける春奈を見送っていると、その近くで一部始終を見ていたらしい帽子を深く被ったイギリス代表の人は、紅茶を飲みながら一言。
「はしたない」
「あ??」
幸いにも、声は小さかったので聞こえていなかったらしい。……別に聞こえてもよかったけれど。
春奈ははしたなくなんかないし。ほんの少しお転婆なだけだし。
心の中でそっと反論をしながら春奈もいないしどうしようかと考えていると、
「はじめまして。そのドレス、とてもお似合いですよ」
「……え?」
気づけば、目の前に誰かがが立っていた。
片目を隠していた青い髪に一瞬風丸さんかと思ったけれど、髪を下ろしていたことと、その人は白いタキシードを着ていたことでまったくの別人だと分かった。……いや、そもそも彼は。
「キャプテンのエドガー・バルチナスさん、ですか?」
確かナイツオブクイーンのキャプテンのバルチナスさんだ。選手の画像には一通り目を通していた私はそう尋ねるが、いやまず自分の自己紹介が先だなと思い至る。
「申し遅れました。バルチナスさん。私はイナズマジャパンの、」
「エドガー、で構いませんよ。フドウアキナさん」
「え?」
私の名を覚えて頂き光栄です。と、バルチナス……いや、エドガーさんは綺麗な所作で頭を下げ、青緑色の左目を優しく細めた。
私はと言えば、彼に名前を知られている事に素直に驚いていた。
彼の名を私が知っているのはキャプテンだからで、私なんてただの一選手でしかないのに……
「知っていますよ。何せ貴女はイナズマジャパンを世界へと導いたFFI唯一の女子選手なんですから」
「いや、私だけじゃなくみんな頑張ったからで…………」
顔に出ていたのかエドガーさんは微笑んでそう答える。彼の表情を見るに、私に対する侮蔑は感じない。……だけど、その評価は過大すぎると思わず口を挟んだ。
「ユニフォームに身を包んだ貴女は薔薇のような気高き美しさがありましたが、ドレス姿の貴女は初々しくて可愛らしい……まるで百合の花のようだ」
「…………」
「アキナさん?」
「……あ!いえッ!…………ありがとうございますっ……!」
私の言葉はスルーされたものの、エドガーさんの言葉遣いや表情から褒められているという事は分かって、ぽかんとしてしまえば訝しげに名前を呼ばれたのですぐに頭を下げた。
「す、すみません……あ、あまり褒められること、慣れてなくて…………」
「ふふっ、喜んでいただけたようでよかった」
対戦相手のキャプテンに褒められ、柄にもなく熱くなった頬の熱を何とか静めようと手で押さえていると、エドガーさんの穏やかな声が耳に届いた。
「お一人のようですし、こちらでもっと私とお話ししませんか?」
「え?……えっと」
頬の熱が引いて話せるようになったタイミングでエドガーさんにそう誘われて、私はどうしようかと考える。
イギリス代表のキャプテンを間近に見れるチャンスなのか?いやでも今の自分の状態で見抜ける自信がないし、向こうも試合のこと話さなそうだしな……さっきのように優しくしてもらっても、ちゃんとした対応できる自信もないし………でも断るのも失礼かな?
「不動っ」
頭を悩ませていれば、急に背後から腕を掴まれた。
「?風丸さん」
「き、鬼道が呼んでいたから、一緒に行こう!」
「えっ……でも」
振り返れば風丸さんがいて、突然そんな呼び出しを受ける。
正直助かったなと思ったけれど、エドガーさんに失礼なのではと咄嗟に彼を見れば、風丸さんを見てから私を見て笑みを浮かべる。
「アキナさん、私は大丈夫ですよ。引き続き今宵のパーティを楽しんで下さい」
「は、はい……!」
私に罪悪感を持たせないようにそう告げて、胸に手当てて頭を軽く下げるエドガーさん。
そんな優雅で鮮やかな立振る舞いはさっきの失礼な帽子の人の言動を忘れさせるには十分で。紳士だと言っていた目金さんの言葉にも素直に頷ける。
「それと……君」
ぺこりと頭を下げた私を見守っていたエドガーさんはふと、風丸さんへと視線を向けて声を掛ける。それは私と話していた時よりも、ワントーン低い声だった。
「な、なんだよ……」
「他の男の名前を使わなくてはレディ一人連れ出せないなんて、情けないな」
「なっ……!」
挑発的な視線を向けるエドガーさんに身構えていた風丸さんは、その言葉に声を上げて、硬直してしまった。
他の男……兄ちゃんのことかな?呼び出されたんだから名前を出すのは普通なのでは?
「それと……レディのエスコートする際に雑に腕を掴むのも考えものだ」
「あっ、ご、ごめん!」
「わっ」
そんなエドガーさんの指摘に、風丸さんははっとした顔で私の腕を掴んでいた手を慌てて手のひらの方へと繋ぎ直した。
そんな謝ることじゃ……と思いつつも何か言う前にぐいっと引っ張られてその場を去ることになった。
「し、失礼します!」
風丸さんに引っ張られながらも、私は何とかエドガーさんに挨拶をしてその場を後にした。
それから、人が集まっていた場所から少し外れたところで風丸さんは足を止めた。兄のところに連れてきてくれたのかと見回すものの、姿は無くて首を傾げる。
「……悪い」
「え?」
風丸さんを見れば、歯切れが悪い謝罪をされる。
「その、嘘なんだ。鬼道に呼ばれてるって話……困ってそうだったから咄嗟に連れ出しただけで…………」
エドガーにはバレてたけど……と嘘をついたという後ろめたさからか、段々と声が小さくなっていく風丸さん。
「ふふっ」
そんな姿を見て私はつい笑ってしまった。
「ふ、不動?」
「あっ、すみません……それと…………ありがとうございます」
彼が自分を助けてくれた事実は変わらないのでそれに関して礼を言えば、彼はいや、そんな礼を言われるようなことは……と首を振るけれど、
「助けてくれたんですから、もっと胸張ってくれていいんですよ?」
「そう、か?」
「そんなところまで気を遣うなんて、本当に優しいですね」
罪悪感を感じるところも含めて、相変わらずいい人だなと思って、そう伝えれば彼は一瞬だけ何か言いたげな顔をしてから、すぐにいつも通りの表情で安心したように息をついた。……気のせいかな?
「あっ、手……」
「え?」
それからふと、風丸さんは繋いでいた手を見てポツリと声を上げる。
風丸さんはきょとんとしたまま繋いでいる手を見てて……エドガーさんに言われて繋ぎ直したこと覚えていないのかな?
「その、手、痛くなかったか?わりと引っ張ったような気がしたから」
「え?ああ、大丈夫ですよ?」
それから恐る恐る顔を覗き込む風丸さんに私は素直に頷いて、それから繋がれた手を見る。
「風丸さんの手、大きいですね」
「そ、そうかな?……あまり言われたことないな」
ちょっと前までは手を繋がれるのは子供っぽいから苦手だったけれど、今ではすっかり安心してしまうあたり、思ったよりイナズマジャパンの暖かさに感化されているなと思った。
……周りに当然のように手を取ってくれる人が多いのも理由の一つだけど。
「女子の自分と比べると、やっぱり大きいですよ」
失礼します、と一言断ってから私は繋いでいた手を一度離して、彼の手のひらと自分の手のひらを重ね合わせて、目の前で掲げてみせた。
風丸さんの手は男子にしてはすらっとしているけれど、当たり前のように私の手の方が小さいし細い。風丸さんから見たら私の手見えてなさそうだな。
「ね?」
「あ、ああ……」
パッと手を離しておどけるように笑いかければ、風丸さんはこくこくと何度も頷きながら相槌を打つ。あんまり面白くなかったみたいだ。残念。
「……あっ、あの……不動!」
それから自分の手をじっと見ていたかと思えば風丸さんの頬はじわじわと赤くなっていき、緊張気味の声で名前を呼ばれる。
「はい」
返事をすれば風丸さんは真っ直ぐと私を見た。
「そ、その……ドレス姿…………に、似合ってる」
宿舎にいる時は言いそびれたから、と呟く風丸さんの顔はさっきよりもさらに真っ赤な顔で、そう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
そんな照れながらも褒めてくれた彼に対して、私もまた照れてしまった。
やっぱり褒められるの慣れないな、と再び熱くなった頬を誤魔化すために私は改めて風丸さんのタキシード姿を見て口を開く。
「風丸さんもタキシード、かっこいいですよ……!」
「……へ!?」
「女の子のファンが喜びそうですね!」
「あ、あぁ……そっちか……」
春奈に教えてもらったイナズマジャパンの女子人気を思い出しながらそう伝えればきっと喜んでくれると思ったのに、予想に反して風丸さんは微妙な顔をしていた。……モテるの嬉しくないのかな。
「ふ、不動は……その…………カッコいい人の方が……」
「すいませーん!遅れましたー!!」
聞き慣れたよく通る声が聞こえて、私はそちらを向く。
「あ、キャプテンと秋さんやっと来たみたいですね、行きましょう……風丸さん?」
「……いや……何でもない」
合流しようと提案したものの、隣には片手で顔半分を覆っていてひどく落ち込んでいる様子だった。私が目を離した数秒で何があったんだろう。
招待してくれた相手を待たせるのは相手に悪いという久遠監督の言い分で、一足先にパーティ会場に赴くことに。
そしてキャラバンに乗ってイギリスエリアにあるロンドンパレスに着くころには、夕日は沈み夜になっていた。
それから兄ちゃんがキャプテンの代わりに先頭に立ってナイツオブクイーンと挨拶をして、始まったイギリスと日本の親善パーティー。
……まぁ、予想通りというか。なんというか。
イナズマジャパンはあちら側が出した豪華な料理に舌鼓したり、チーム同士楽しそうにしているが、イギリス代表の一部は私達の様子を探っている感じがしてどうにも居心地が悪い。
…………本当なら私も“偵察”という名目で色々イギリス代表の選手を見たかった。だけど、
「しゅ、集中できない……!」
慣れないドレス姿の違和感や、それによって不自然になってないかという周りの視線をどうしても気にしてしまい、中々偵察の方に思考を持っていけなかった。
着ている物が変わっただけでこの体たらく……自分が情けないと小さくため息をつく。
「待ちなさい!木暮くん!」
「うししっ」
さっきまで隣にいた春奈も今や木暮くんを追いかけて行ってしまった。彼らの鬼ごっこは何度も目撃しているけれどその姿はまるで姉と弟みたいに仲良しで……いや、春奈は私の妹だけど!!
それにしてもヒールであんなに早く動けるなんてすごいな。
私も初めよりはだいぶ歩けるようになったけれど。
早足で木暮くんを追いかける春奈を見送っていると、その近くで一部始終を見ていたらしい帽子を深く被ったイギリス代表の人は、紅茶を飲みながら一言。
「はしたない」
「あ??」
幸いにも、声は小さかったので聞こえていなかったらしい。……別に聞こえてもよかったけれど。
春奈ははしたなくなんかないし。ほんの少しお転婆なだけだし。
心の中でそっと反論をしながら春奈もいないしどうしようかと考えていると、
「はじめまして。そのドレス、とてもお似合いですよ」
「……え?」
気づけば、目の前に誰かがが立っていた。
片目を隠していた青い髪に一瞬風丸さんかと思ったけれど、髪を下ろしていたことと、その人は白いタキシードを着ていたことでまったくの別人だと分かった。……いや、そもそも彼は。
「キャプテンのエドガー・バルチナスさん、ですか?」
確かナイツオブクイーンのキャプテンのバルチナスさんだ。選手の画像には一通り目を通していた私はそう尋ねるが、いやまず自分の自己紹介が先だなと思い至る。
「申し遅れました。バルチナスさん。私はイナズマジャパンの、」
「エドガー、で構いませんよ。フドウアキナさん」
「え?」
私の名を覚えて頂き光栄です。と、バルチナス……いや、エドガーさんは綺麗な所作で頭を下げ、青緑色の左目を優しく細めた。
私はと言えば、彼に名前を知られている事に素直に驚いていた。
彼の名を私が知っているのはキャプテンだからで、私なんてただの一選手でしかないのに……
「知っていますよ。何せ貴女はイナズマジャパンを世界へと導いたFFI唯一の女子選手なんですから」
「いや、私だけじゃなくみんな頑張ったからで…………」
顔に出ていたのかエドガーさんは微笑んでそう答える。彼の表情を見るに、私に対する侮蔑は感じない。……だけど、その評価は過大すぎると思わず口を挟んだ。
「ユニフォームに身を包んだ貴女は薔薇のような気高き美しさがありましたが、ドレス姿の貴女は初々しくて可愛らしい……まるで百合の花のようだ」
「…………」
「アキナさん?」
「……あ!いえッ!…………ありがとうございますっ……!」
私の言葉はスルーされたものの、エドガーさんの言葉遣いや表情から褒められているという事は分かって、ぽかんとしてしまえば訝しげに名前を呼ばれたのですぐに頭を下げた。
「す、すみません……あ、あまり褒められること、慣れてなくて…………」
「ふふっ、喜んでいただけたようでよかった」
対戦相手のキャプテンに褒められ、柄にもなく熱くなった頬の熱を何とか静めようと手で押さえていると、エドガーさんの穏やかな声が耳に届いた。
「お一人のようですし、こちらでもっと私とお話ししませんか?」
「え?……えっと」
頬の熱が引いて話せるようになったタイミングでエドガーさんにそう誘われて、私はどうしようかと考える。
イギリス代表のキャプテンを間近に見れるチャンスなのか?いやでも今の自分の状態で見抜ける自信がないし、向こうも試合のこと話さなそうだしな……さっきのように優しくしてもらっても、ちゃんとした対応できる自信もないし………でも断るのも失礼かな?
「不動っ」
頭を悩ませていれば、急に背後から腕を掴まれた。
「?風丸さん」
「き、鬼道が呼んでいたから、一緒に行こう!」
「えっ……でも」
振り返れば風丸さんがいて、突然そんな呼び出しを受ける。
正直助かったなと思ったけれど、エドガーさんに失礼なのではと咄嗟に彼を見れば、風丸さんを見てから私を見て笑みを浮かべる。
「アキナさん、私は大丈夫ですよ。引き続き今宵のパーティを楽しんで下さい」
「は、はい……!」
私に罪悪感を持たせないようにそう告げて、胸に手当てて頭を軽く下げるエドガーさん。
そんな優雅で鮮やかな立振る舞いはさっきの失礼な帽子の人の言動を忘れさせるには十分で。紳士だと言っていた目金さんの言葉にも素直に頷ける。
「それと……君」
ぺこりと頭を下げた私を見守っていたエドガーさんはふと、風丸さんへと視線を向けて声を掛ける。それは私と話していた時よりも、ワントーン低い声だった。
「な、なんだよ……」
「他の男の名前を使わなくてはレディ一人連れ出せないなんて、情けないな」
「なっ……!」
挑発的な視線を向けるエドガーさんに身構えていた風丸さんは、その言葉に声を上げて、硬直してしまった。
他の男……兄ちゃんのことかな?呼び出されたんだから名前を出すのは普通なのでは?
「それと……レディのエスコートする際に雑に腕を掴むのも考えものだ」
「あっ、ご、ごめん!」
「わっ」
そんなエドガーさんの指摘に、風丸さんははっとした顔で私の腕を掴んでいた手を慌てて手のひらの方へと繋ぎ直した。
そんな謝ることじゃ……と思いつつも何か言う前にぐいっと引っ張られてその場を去ることになった。
「し、失礼します!」
風丸さんに引っ張られながらも、私は何とかエドガーさんに挨拶をしてその場を後にした。
それから、人が集まっていた場所から少し外れたところで風丸さんは足を止めた。兄のところに連れてきてくれたのかと見回すものの、姿は無くて首を傾げる。
「……悪い」
「え?」
風丸さんを見れば、歯切れが悪い謝罪をされる。
「その、嘘なんだ。鬼道に呼ばれてるって話……困ってそうだったから咄嗟に連れ出しただけで…………」
エドガーにはバレてたけど……と嘘をついたという後ろめたさからか、段々と声が小さくなっていく風丸さん。
「ふふっ」
そんな姿を見て私はつい笑ってしまった。
「ふ、不動?」
「あっ、すみません……それと…………ありがとうございます」
彼が自分を助けてくれた事実は変わらないのでそれに関して礼を言えば、彼はいや、そんな礼を言われるようなことは……と首を振るけれど、
「助けてくれたんですから、もっと胸張ってくれていいんですよ?」
「そう、か?」
「そんなところまで気を遣うなんて、本当に優しいですね」
罪悪感を感じるところも含めて、相変わらずいい人だなと思って、そう伝えれば彼は一瞬だけ何か言いたげな顔をしてから、すぐにいつも通りの表情で安心したように息をついた。……気のせいかな?
「あっ、手……」
「え?」
それからふと、風丸さんは繋いでいた手を見てポツリと声を上げる。
風丸さんはきょとんとしたまま繋いでいる手を見てて……エドガーさんに言われて繋ぎ直したこと覚えていないのかな?
「その、手、痛くなかったか?わりと引っ張ったような気がしたから」
「え?ああ、大丈夫ですよ?」
それから恐る恐る顔を覗き込む風丸さんに私は素直に頷いて、それから繋がれた手を見る。
「風丸さんの手、大きいですね」
「そ、そうかな?……あまり言われたことないな」
ちょっと前までは手を繋がれるのは子供っぽいから苦手だったけれど、今ではすっかり安心してしまうあたり、思ったよりイナズマジャパンの暖かさに感化されているなと思った。
……周りに当然のように手を取ってくれる人が多いのも理由の一つだけど。
「女子の自分と比べると、やっぱり大きいですよ」
失礼します、と一言断ってから私は繋いでいた手を一度離して、彼の手のひらと自分の手のひらを重ね合わせて、目の前で掲げてみせた。
風丸さんの手は男子にしてはすらっとしているけれど、当たり前のように私の手の方が小さいし細い。風丸さんから見たら私の手見えてなさそうだな。
「ね?」
「あ、ああ……」
パッと手を離しておどけるように笑いかければ、風丸さんはこくこくと何度も頷きながら相槌を打つ。あんまり面白くなかったみたいだ。残念。
「……あっ、あの……不動!」
それから自分の手をじっと見ていたかと思えば風丸さんの頬はじわじわと赤くなっていき、緊張気味の声で名前を呼ばれる。
「はい」
返事をすれば風丸さんは真っ直ぐと私を見た。
「そ、その……ドレス姿…………に、似合ってる」
宿舎にいる時は言いそびれたから、と呟く風丸さんの顔はさっきよりもさらに真っ赤な顔で、そう言ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
そんな照れながらも褒めてくれた彼に対して、私もまた照れてしまった。
やっぱり褒められるの慣れないな、と再び熱くなった頬を誤魔化すために私は改めて風丸さんのタキシード姿を見て口を開く。
「風丸さんもタキシード、かっこいいですよ……!」
「……へ!?」
「女の子のファンが喜びそうですね!」
「あ、あぁ……そっちか……」
春奈に教えてもらったイナズマジャパンの女子人気を思い出しながらそう伝えればきっと喜んでくれると思ったのに、予想に反して風丸さんは微妙な顔をしていた。……モテるの嬉しくないのかな。
「ふ、不動は……その…………カッコいい人の方が……」
「すいませーん!遅れましたー!!」
聞き慣れたよく通る声が聞こえて、私はそちらを向く。
「あ、キャプテンと秋さんやっと来たみたいですね、行きましょう……風丸さん?」
「……いや……何でもない」
合流しようと提案したものの、隣には片手で顔半分を覆っていてひどく落ち込んでいる様子だった。私が目を離した数秒で何があったんだろう。