寂しがり少女
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「飛鷹さん、トマト食べてくれるんですね。ありがとうございます」
「俺は一言もそんな事言ってな……おい」
次の日の朝食の時間、私は隣に座る飛鷹さんへそっとミニトマトを置けば、思いっきり眉をひそめられたものの、私の皿に戻そうともしない辺り優しい人だと思う。
「明奈さん、ミニトマト嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないよ、飛鷹さんが食べたそうな顔してたから……あ、嘘です。戻そうとしないでください」
だけど誤魔化すことは許してくれなかった。
無言でトマトを戻されそうになって、慌ててサラダの皿を持って避ける。
そんなやり取りを見ている飛鷹さんと逆側に座る宇都宮くんの視線は呆れを隠そうとしないものだった。
「……けど、アジア予選の時はちゃんと食べてたんじゃないんですか?」
流石に全部飛鷹さんに食べさせていませんよね?と首を傾げる宇都宮くん。飛鷹さんもそれを肯定するかのように頷いた。
ここで誤魔化したりして騒がれたら厨房にいるマネージャーに勘付かれるかもしれないため、私は大人しく話すことにした。
「……その時は、席に着く道中でよく食べる人の皿にそっと置いてたから」
それができないときには飛鷹さんに食べてもらっていた。という訳で。
「えぇ……」
「……後ろの席に座ってる理由それなのか」
正直に話せば二人の表情は何とも言えないもので……これだから好き嫌いのない人は……!!
「ひ、引かないでくださいよ……!だって話に夢中な人とか去り際にそっと置きやすいんですよ……!!」
「なんかスリの手口を聞いている気分なんですが……」
「人聞きの悪い。むしろ与えてるだからねずみ小僧だよ」
「いいように言いすぎだろ」
「虎丸くんも嫌いなものがあって、食べてほしかったらいいなよ。穴場教えるからさ」
「もう言い方がスリの常習犯なんですよ!」
「あと虎丸は何でそんなスリについて詳しいんだ……」
「そういう系のテレビ番組を前に見たので!」
私と虎丸くんの会話に対して、飛鷹さんは律儀にツッコミを入れてくれていた。
「ちゃんと正直に話したんだから、マネージャーには言わないでね」
前ににんじんを残していた綱海さんが食べきるまで監視されたことを思い出し、自分もバレたらと思うとぶるりと震えてしまう。
「……明奈さんって変なところで子供っぽいですよね」
「サッカー以外はわりとこんなんだ」
「…………」
そんな私を見て虎丸くんは意外そうに呟いて、サッカー以外でも付き合いがあった飛鷹さんがため息をついていた。
す、好き嫌い一つで言いたい放題だな……!!
+++
その日、FFI本戦の開会式が執り行われるということで、イナズマジャパンはキャラバンで再びセントラルストリートへ向かい、会場となるタイタニックスタジアムへと訪れていた。
《さあ!全世界が注目するサッカーの祭典、フットボールフロンティアインターナショナル世界大会!!予選を勝ち抜いた強豪十チームが、サッカーのために作られたこの聖地、ライオコット島で激突します!!》
スタジアムは観客席は満席はもちろんのこと、ライトがイラストのように形作られ(ホログラム、というらしい)、スタジアムを囲んで盛大に打ちあがる花火だったりと、アジア予選開会式でさえも十分派手だと感じていたけれど、悠にそれを超える派手さだった。
実況と解説の紹介があった後に、早速各国の代表選手の入場が始まる。各国の代表チームの入場と共に、実況や解説が説明が入りより観客の熱気を上げていた。
そして、イギリス代表の後にアジア代表『イナズマジャパン』の順番が回ってきた。
「全員そろっているな」
「はい!」
整列をし終えて久遠監督が問えば、先頭に立つキャプテンが元気よく返事をする。
「よーし!行こうぜ!」
「「「「オウッ!!!」」」」
それからイナズマジャパンの旗を持ったキャプテンの号令で、入場行進を始めた。
《日本代表、イナズマジャパンの入場です!!
チームを率いるのはキャプテン、円堂守!!このチームは世界のレベルから見れば、まだ経験も浅く成長途上ですが、粘り強い試合運びで何度も逆転勝利を収め、世界への切符を手にしました!!》
《逆に、成長途上にあるが故、爆発的な進化の可能性を秘めているといいます。今大会のダークホースになるかもしれません》
そんな実況と解説の言葉と、先ほどの大国に比べたら少ない歓声はアジアの期待度を表していて……まぁ、妥当か。
《更にイナズマジャパンにはFFIで唯一の女子選手である不動明奈がいます!!》
《彼女は予選大会では長らく温存されていたものの、アジア予選決勝では見事な活躍をしてチームの勝利に貢献したと聞きます。男女の差をどう埋めるのか……本戦での活躍に期待ですね!》
……唯一の女子選手、か。
期待していたわけじゃないけれど、本戦でも女子選手はやっぱり私だけらしい。
しかも開会式でその情報を大々的に言われてしまえば、嫌でも注目が集まってしまう。
それは女子選手に対する興味だったり、本当に戦えるのかという疑念だったり……ファイアードラゴン戦の時もそんな視線あったかもしれないな。……余裕なさすぎて見れてなかったけれど。
「うしし、大人気じゃん不動」
歓声の中に混ざるそんな視線や声を感じていると、行進で後ろを歩く木暮くんがこっそりと皮肉を言ってきたけれど、まぁ、彼なりに茶化してくれようとしてるんだろう。
「そりゃあ、イナズマジャパンの紅一点ですし」
だから私もそれに合わせてにっこりと笑って、その笑みをしっかり観客にも見せながら足を進めた。木暮くんは若干顔を青くしていた気がするけれど、気のせいだろう。
その後も選手入場が進んで、フィールドに予選を勝ち抜いた十チームが揃い、
《フットボールフロンティアインターナショナル世界大会、ここに開幕致します!!》
世界の頂点を決める戦いの始まりを高らかに宣言した。
「き、緊張したぁ……!!」
「歓声すごかったスよ!」
「ああ、流石世界だな……!」
「けど俺らの時だけ歓声小さくなかったか?」
開会式が終わって、控室へと帰ればみんな緊張が解けたのか思い思いに話していた。
「不動すげー注目されてたな!」
「めんどくさい注目でしたけどね」
「まぁ……あれはな」
私は開会式でずっと浮かべていた愛想笑いを止めて、あの注目を好意的に捉えている綱海さんに小さくため息をつく。その隣にいた風丸も苦笑を浮かべていた。
「明奈……無理だけはするなよ」
私にそう声を掛ける兄の顔はどこか浮かなくて……解説のコメントにプレッシャーを感じているとでも思われているのだろうか。
「大丈夫。私、女だからって舐められるようなプレーをする気はない」
だから私はしっかり兄に目を合わせてハッキリと告げる。
世界から見たら私への評価なんて更に低いかもしれないけれど、こんな自分を日本代表として託してくれた人や、応援してくれる人もいるのだから。あれぐらいの言葉で傷ついたりなんかしない。
「……フッ、頼もしいな」
そんな私の言葉に兄は驚いたように眉を上げて、それから小さく笑った。
「それにね、兄ちゃん」
「ん?」
「女だと思って油断している男子を負かすのが、一番楽しいんだから……!!」
それから私は、拳を軽く握って告げた言葉に何故か一瞬だけ控室が沈黙に包まれた。
……まぁ仕方ない。この感情は男子には到底分からないだろうし。
「……めんどくさいって言ってた割にはノリノリじゃねーか」
「インタビューを受けたり、野次飛ばされるのが面倒って話ですよ。試合になると話は別です」
ポツリと染岡さんに指摘されたので私はそう答える。
あの解説を聞いた相手チームには、ぜひぜひ唯一の女子に油断して欲しいな、というのが本音だった。
「そのためにわざわざカメラもある前で、人畜無害な笑顔を浮かべて行進したんですから」
「あの満面の作り笑いの意味それかよ……」
「私、愛想よく振る舞うことは得意だから」
行進中の私の笑顔を思い出したらしい木暮くんはげんなりと呟いていて、私は腰に手を当ててもう一度同じ笑顔を見せて見れば壁山くんの方へ逃げてしまった。勝ったな。
「ははっ、気合十分だなっ不動!」
「はい、女だと馬鹿にする奴らをねじ伏せる気持ちで頑張ります……!」
「おうっ!その意気だ!!」
私の気合を入れる姿を見て、キャプテンは私の肩に手を置いて明るい笑顔を浮かべる。そんな彼に応えるようにグッと拳を握りながら宣言すれば、親指を立てて頷いてくれた。
円堂、勢いだけで流されるな。という風丸さんの言葉は……キャプテンも聞こえてないし、同じく聞かなかったことにしておこう。
とはいえ……性差による違いも確かにあるし、それは気合だけで解決するものではない。
男子と同じことをできるだけじゃ意味がないのも事実ではある。
……新しく、できることを考えなくちゃな。
「……やっぱりサッカーの話になると別人だな…………」
「朝、ミニトマトを皿に移していた人と同一人物には見えませんね……」
本戦での意気込みを話す私を見て飛鷹さんと虎丸くんがそう呟いていたことに気づくことはなく、私は本戦での戦い方を考えていた。
「俺は一言もそんな事言ってな……おい」
次の日の朝食の時間、私は隣に座る飛鷹さんへそっとミニトマトを置けば、思いっきり眉をひそめられたものの、私の皿に戻そうともしない辺り優しい人だと思う。
「明奈さん、ミニトマト嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないよ、飛鷹さんが食べたそうな顔してたから……あ、嘘です。戻そうとしないでください」
だけど誤魔化すことは許してくれなかった。
無言でトマトを戻されそうになって、慌ててサラダの皿を持って避ける。
そんなやり取りを見ている飛鷹さんと逆側に座る宇都宮くんの視線は呆れを隠そうとしないものだった。
「……けど、アジア予選の時はちゃんと食べてたんじゃないんですか?」
流石に全部飛鷹さんに食べさせていませんよね?と首を傾げる宇都宮くん。飛鷹さんもそれを肯定するかのように頷いた。
ここで誤魔化したりして騒がれたら厨房にいるマネージャーに勘付かれるかもしれないため、私は大人しく話すことにした。
「……その時は、席に着く道中でよく食べる人の皿にそっと置いてたから」
それができないときには飛鷹さんに食べてもらっていた。という訳で。
「えぇ……」
「……後ろの席に座ってる理由それなのか」
正直に話せば二人の表情は何とも言えないもので……これだから好き嫌いのない人は……!!
「ひ、引かないでくださいよ……!だって話に夢中な人とか去り際にそっと置きやすいんですよ……!!」
「なんかスリの手口を聞いている気分なんですが……」
「人聞きの悪い。むしろ与えてるだからねずみ小僧だよ」
「いいように言いすぎだろ」
「虎丸くんも嫌いなものがあって、食べてほしかったらいいなよ。穴場教えるからさ」
「もう言い方がスリの常習犯なんですよ!」
「あと虎丸は何でそんなスリについて詳しいんだ……」
「そういう系のテレビ番組を前に見たので!」
私と虎丸くんの会話に対して、飛鷹さんは律儀にツッコミを入れてくれていた。
「ちゃんと正直に話したんだから、マネージャーには言わないでね」
前ににんじんを残していた綱海さんが食べきるまで監視されたことを思い出し、自分もバレたらと思うとぶるりと震えてしまう。
「……明奈さんって変なところで子供っぽいですよね」
「サッカー以外はわりとこんなんだ」
「…………」
そんな私を見て虎丸くんは意外そうに呟いて、サッカー以外でも付き合いがあった飛鷹さんがため息をついていた。
す、好き嫌い一つで言いたい放題だな……!!
+++
その日、FFI本戦の開会式が執り行われるということで、イナズマジャパンはキャラバンで再びセントラルストリートへ向かい、会場となるタイタニックスタジアムへと訪れていた。
《さあ!全世界が注目するサッカーの祭典、フットボールフロンティアインターナショナル世界大会!!予選を勝ち抜いた強豪十チームが、サッカーのために作られたこの聖地、ライオコット島で激突します!!》
スタジアムは観客席は満席はもちろんのこと、ライトがイラストのように形作られ(ホログラム、というらしい)、スタジアムを囲んで盛大に打ちあがる花火だったりと、アジア予選開会式でさえも十分派手だと感じていたけれど、悠にそれを超える派手さだった。
実況と解説の紹介があった後に、早速各国の代表選手の入場が始まる。各国の代表チームの入場と共に、実況や解説が説明が入りより観客の熱気を上げていた。
そして、イギリス代表の後にアジア代表『イナズマジャパン』の順番が回ってきた。
「全員そろっているな」
「はい!」
整列をし終えて久遠監督が問えば、先頭に立つキャプテンが元気よく返事をする。
「よーし!行こうぜ!」
「「「「オウッ!!!」」」」
それからイナズマジャパンの旗を持ったキャプテンの号令で、入場行進を始めた。
《日本代表、イナズマジャパンの入場です!!
チームを率いるのはキャプテン、円堂守!!このチームは世界のレベルから見れば、まだ経験も浅く成長途上ですが、粘り強い試合運びで何度も逆転勝利を収め、世界への切符を手にしました!!》
《逆に、成長途上にあるが故、爆発的な進化の可能性を秘めているといいます。今大会のダークホースになるかもしれません》
そんな実況と解説の言葉と、先ほどの大国に比べたら少ない歓声はアジアの期待度を表していて……まぁ、妥当か。
《更にイナズマジャパンにはFFIで唯一の女子選手である不動明奈がいます!!》
《彼女は予選大会では長らく温存されていたものの、アジア予選決勝では見事な活躍をしてチームの勝利に貢献したと聞きます。男女の差をどう埋めるのか……本戦での活躍に期待ですね!》
……唯一の女子選手、か。
期待していたわけじゃないけれど、本戦でも女子選手はやっぱり私だけらしい。
しかも開会式でその情報を大々的に言われてしまえば、嫌でも注目が集まってしまう。
それは女子選手に対する興味だったり、本当に戦えるのかという疑念だったり……ファイアードラゴン戦の時もそんな視線あったかもしれないな。……余裕なさすぎて見れてなかったけれど。
「うしし、大人気じゃん不動」
歓声の中に混ざるそんな視線や声を感じていると、行進で後ろを歩く木暮くんがこっそりと皮肉を言ってきたけれど、まぁ、彼なりに茶化してくれようとしてるんだろう。
「そりゃあ、イナズマジャパンの紅一点ですし」
だから私もそれに合わせてにっこりと笑って、その笑みをしっかり観客にも見せながら足を進めた。木暮くんは若干顔を青くしていた気がするけれど、気のせいだろう。
その後も選手入場が進んで、フィールドに予選を勝ち抜いた十チームが揃い、
《フットボールフロンティアインターナショナル世界大会、ここに開幕致します!!》
世界の頂点を決める戦いの始まりを高らかに宣言した。
「き、緊張したぁ……!!」
「歓声すごかったスよ!」
「ああ、流石世界だな……!」
「けど俺らの時だけ歓声小さくなかったか?」
開会式が終わって、控室へと帰ればみんな緊張が解けたのか思い思いに話していた。
「不動すげー注目されてたな!」
「めんどくさい注目でしたけどね」
「まぁ……あれはな」
私は開会式でずっと浮かべていた愛想笑いを止めて、あの注目を好意的に捉えている綱海さんに小さくため息をつく。その隣にいた風丸も苦笑を浮かべていた。
「明奈……無理だけはするなよ」
私にそう声を掛ける兄の顔はどこか浮かなくて……解説のコメントにプレッシャーを感じているとでも思われているのだろうか。
「大丈夫。私、女だからって舐められるようなプレーをする気はない」
だから私はしっかり兄に目を合わせてハッキリと告げる。
世界から見たら私への評価なんて更に低いかもしれないけれど、こんな自分を日本代表として託してくれた人や、応援してくれる人もいるのだから。あれぐらいの言葉で傷ついたりなんかしない。
「……フッ、頼もしいな」
そんな私の言葉に兄は驚いたように眉を上げて、それから小さく笑った。
「それにね、兄ちゃん」
「ん?」
「女だと思って油断している男子を負かすのが、一番楽しいんだから……!!」
それから私は、拳を軽く握って告げた言葉に何故か一瞬だけ控室が沈黙に包まれた。
……まぁ仕方ない。この感情は男子には到底分からないだろうし。
「……めんどくさいって言ってた割にはノリノリじゃねーか」
「インタビューを受けたり、野次飛ばされるのが面倒って話ですよ。試合になると話は別です」
ポツリと染岡さんに指摘されたので私はそう答える。
あの解説を聞いた相手チームには、ぜひぜひ唯一の女子に油断して欲しいな、というのが本音だった。
「そのためにわざわざカメラもある前で、人畜無害な笑顔を浮かべて行進したんですから」
「あの満面の作り笑いの意味それかよ……」
「私、愛想よく振る舞うことは得意だから」
行進中の私の笑顔を思い出したらしい木暮くんはげんなりと呟いていて、私は腰に手を当ててもう一度同じ笑顔を見せて見れば壁山くんの方へ逃げてしまった。勝ったな。
「ははっ、気合十分だなっ不動!」
「はい、女だと馬鹿にする奴らをねじ伏せる気持ちで頑張ります……!」
「おうっ!その意気だ!!」
私の気合を入れる姿を見て、キャプテンは私の肩に手を置いて明るい笑顔を浮かべる。そんな彼に応えるようにグッと拳を握りながら宣言すれば、親指を立てて頷いてくれた。
円堂、勢いだけで流されるな。という風丸さんの言葉は……キャプテンも聞こえてないし、同じく聞かなかったことにしておこう。
とはいえ……性差による違いも確かにあるし、それは気合だけで解決するものではない。
男子と同じことをできるだけじゃ意味がないのも事実ではある。
……新しく、できることを考えなくちゃな。
「……やっぱりサッカーの話になると別人だな…………」
「朝、ミニトマトを皿に移していた人と同一人物には見えませんね……」
本戦での意気込みを話す私を見て飛鷹さんと虎丸くんがそう呟いていたことに気づくことはなく、私は本戦での戦い方を考えていた。