寂しがり少女
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影山さんに引き取られてから私の生活は一変した。
まず住む場所が変わった。案内された建物は室内グラウンドやトレーニングルームが併設された施設で私が住む個室もその建物の一部だった。
勉学は小学校を通ってするものではなく専属の家庭教師を招いてするものになり、食事もバランスが考えられた決められたメニューが専属のコックから提供された。結べるぐらいになっていた長さの髪も肩がつくぐらい短くなった。……これに関しては結んでくれたあの人はもういないからちょうどよかった。
そしてそれ以外の時間はほぼほぼサッカーのための時間となった。
様々な試合を見て技術、戦術を知れば知るほど、私が今までしていたサッカーはただの真似事だったんだと思い知る。
そしてそれを自分の力として取り入れていけば、確実に強くなったと胸を張って言えるようになった。
そんな強くなっていく過程を影山さん……いや、お父さんに評価してもらえる時間が好きだった。……お父さん呼びに関しては、引き取られたものの苗字は不動のままではあるけれど、彼に育ててもらっているのでそう呼んでいる。お父さんも何も言わないから大丈夫だろう。たぶん。
今までの家族との団らんを思い返せばあまりに無機質だと嘆く人もいるかもしれない。
だけどこの施設にいる限り、強くある限り、一人にはならないという安心感が私にはあった。
それに外に行けないわけではない。お父さんの用事でイタリアに行き、サッカーを学んだ。その中で数少ない出会いもあったり。
昔のように施設や公園でやる自由気ままなサッカーではなかったけれど、素直に楽しいとは言えないかもしれないけれど、それでもよかった。
「中学から帝国学園に通うように準備をしておけ」
12歳になった年、小学校六年生に該当する勉強カリキュラムを終えた際に父に呼び出されてそう告げられた。
「分かりました」
中学生になっても同じような勉強法だと思っていたから驚いたけれど、理由を尋ねてお父さんの手を患わせたくない私は頷いて部屋を後にした。
自室に戻れば私の机の上には帝国学園のパンフレットが置かれていて、本当にあの帝国学園への入学するんだと思わず頬が緩んでそのパンフレットを手に取ってベットへと腰掛ける。
パンフレットを開いてみれば、帝国学園の歴史と伝統、学ぶ授業内容などが書かれていて数ページパラパラめくっていくと部活紹介のページに移った。そして一番メインに紹介されているのは40年間無敗を謳うサッカー部で、
「兄ちゃん……」
私の兄でがチームの先頭に立っていた。
そう、帝国学園は兄―鬼道有人が通っている学校だった。
キャプテンとして、司令塔として帝国学園でフットボールフロンティアー通称FFで優勝を納める兄を映像越しに見たことを思い出す。
ゴーグルを付けたり、マントを付けたりとよく分からない中学生デビューで分かりにくいけど確かに彼は鬼道有人だった。
私は兄が載っているページを開いたままパンフレットを抱きしめてころんとベットへ寝転ぶ。
お父さんは鬼道家に度々行ってるらしいけれど、私は結局兄と会えたことはなかった。鬼道家の人間に会うには身分が違いすぎる、と鬼道有人との接触は禁止されていた。
やっぱり名家の息子になるのは大変なんだ、と思う一方で寂しく思うのも事実で。
けれど文句は言っていられない。兄と同じ学校で勉強ができるのだってお父さんが学費を出してくれるからなんだ。
だけど…………
同じ学校なんだから偶々、鉢合わせることをどうしても期待してしまいにやけてしまう自分がいた。
そんな偶然の日は入学初日に訪れた。
入学式が終えて新入生はすぐに下校になった。だけどこの要塞みたいな学校は方向音痴な私には難易度が高く、無事に迷った通路の曲がり角を曲がった先、その人はいた。
「あっ……!」
「……っ」
赤色のマントを身につけ、帝国学園サッカー部のユニフォームに身を包んだ彼がいた(おそらく部活に行く途中だったんだろう)
「兄ちゃん……!」
八年ぶりに直接出会えた兄は映像で見るより大きく見えて、少し見上げなくては目線が合わないし、その目だってゴーグルのせいで見えにくい。
それでも嬉しかった。ずっと、ずっと会いたかったから。
「あのっ、私……」
学園生活で姿を見れたらラッキーだなとは思っていたけれど、こんな早く会えると思っていなかったから何を言うか、何から言うか迷っていると、
「人違いだ」
「え…………」
記憶よりも低い声。だけど、それよりも体温を持たない冷たい声に私の思考は固まった。
そんな私を置いて彼は歩いていく。その後ろに続いて横切っていくのは同じユニフォームを着たサッカー部の人達で、
「鬼道、知り合いか?」
その中の一人がそう尋ねた言葉と、
「……知らないな」
ハッキリと否定する声だけが私の耳へ届いた。
「あー……えっと、大丈夫か?」
どれだけの時間固まっていたか分からない。掛けられた声にハッと意識を戻して見上げれば青みがかった髪の長身細身の部員が私の肩を叩きながらこちらを見ていた。
そんな目線に、言葉に、慰められていると漠然と理解する。
そんなものは弱者がされることだ。
「ッ……!!」
「あ、おいっ……」
私はその人の手を振り払って駆けだした。
闇雲に走って、走ってたどり着いたのは総帥の部屋の前で堪らず私は入ってしまった。
走りたい気持ちを押さえつけて早足で歩いて行くと、お父さんは椅子に座っていて私の登場に片方の眉を上げる。
「……入学式はとうに終わったはずだが」
「あの、私、迷っちゃって……その……サッカー部の人に……それで…………ご、ごめんなさい、約束破って…………ごめんなさい」
混乱していた私は状況を説明しようとするけれど、どうしても兄の言葉を思い出してしまうと視界が潤んで、上手く喋れず謝って俯くことしかできなかった。
「……だから言っただろう」
はぁとため息が聞こえたと同時に、ギシッとお父さんが椅子から下りる音とコツコツと足音がこちらに近づいてくるのが分かって私は段々と自分の体温が下がっていくのが分かった。
常に冷静であれとお父さんは言っていた。なのに私はお父さんの命令に背いて兄に会い、精神的に取り乱してしまってこの様だ…………呆れられた、失望されてしまった。
お父さんの顔を見るのがとても怖くて顔が上げられない私の頭に大きな手が乗った。
「鬼道家は勝者であり続けることが宿命。弱みとなる部分は切り捨てる。そういう方針なのだ」
お父さんの声は相変わらず淡々としているけれど、私の頭に置かれた手に怒りは感じない。むしろ、私の動揺を落ち着かせるための行動に思えた。
そのことに安心して私は大きく息を吐きながらお父さんの説明の内容を何度も頭の中で繰り返す。
そして私が……私と春奈の存在が彼が鬼道家でいるための“弱み”だと、切り捨てる対象だったと思い知った。
鬼道家の息子である兄ちゃんに関われば彼に迷惑がかかり、私自身も傷つく。
お父さんはそれを分かっていたからこそ、接触禁止と言ったんだ。……最初からお父さんの言葉を素直に聞いておくべきだったんだ。
「そこまで考えが至りませんでした……ごめんなさい。もう、兄……いや……鬼道さんには近づきません」
頭に置かれた手が離れたタイミングで私は深々と頭を下げて反省の意を告げれば「それでいい」と短く返されて彼はまた自分の椅子へと戻っていく。
「学園の外へ案内する者を手配する。総帥室の前で待機していろ」
「はい!」
歩きながら出された指令に頷いて私はこの部屋を後にした。
お父さんが不敵な笑みを浮かべていることも知らないまま。
まず住む場所が変わった。案内された建物は室内グラウンドやトレーニングルームが併設された施設で私が住む個室もその建物の一部だった。
勉学は小学校を通ってするものではなく専属の家庭教師を招いてするものになり、食事もバランスが考えられた決められたメニューが専属のコックから提供された。結べるぐらいになっていた長さの髪も肩がつくぐらい短くなった。……これに関しては結んでくれたあの人はもういないからちょうどよかった。
そしてそれ以外の時間はほぼほぼサッカーのための時間となった。
様々な試合を見て技術、戦術を知れば知るほど、私が今までしていたサッカーはただの真似事だったんだと思い知る。
そしてそれを自分の力として取り入れていけば、確実に強くなったと胸を張って言えるようになった。
そんな強くなっていく過程を影山さん……いや、お父さんに評価してもらえる時間が好きだった。……お父さん呼びに関しては、引き取られたものの苗字は不動のままではあるけれど、彼に育ててもらっているのでそう呼んでいる。お父さんも何も言わないから大丈夫だろう。たぶん。
今までの家族との団らんを思い返せばあまりに無機質だと嘆く人もいるかもしれない。
だけどこの施設にいる限り、強くある限り、一人にはならないという安心感が私にはあった。
それに外に行けないわけではない。お父さんの用事でイタリアに行き、サッカーを学んだ。その中で数少ない出会いもあったり。
昔のように施設や公園でやる自由気ままなサッカーではなかったけれど、素直に楽しいとは言えないかもしれないけれど、それでもよかった。
「中学から帝国学園に通うように準備をしておけ」
12歳になった年、小学校六年生に該当する勉強カリキュラムを終えた際に父に呼び出されてそう告げられた。
「分かりました」
中学生になっても同じような勉強法だと思っていたから驚いたけれど、理由を尋ねてお父さんの手を患わせたくない私は頷いて部屋を後にした。
自室に戻れば私の机の上には帝国学園のパンフレットが置かれていて、本当にあの帝国学園への入学するんだと思わず頬が緩んでそのパンフレットを手に取ってベットへと腰掛ける。
パンフレットを開いてみれば、帝国学園の歴史と伝統、学ぶ授業内容などが書かれていて数ページパラパラめくっていくと部活紹介のページに移った。そして一番メインに紹介されているのは40年間無敗を謳うサッカー部で、
「兄ちゃん……」
私の兄でがチームの先頭に立っていた。
そう、帝国学園は兄―鬼道有人が通っている学校だった。
キャプテンとして、司令塔として帝国学園でフットボールフロンティアー通称FFで優勝を納める兄を映像越しに見たことを思い出す。
ゴーグルを付けたり、マントを付けたりとよく分からない中学生デビューで分かりにくいけど確かに彼は鬼道有人だった。
私は兄が載っているページを開いたままパンフレットを抱きしめてころんとベットへ寝転ぶ。
お父さんは鬼道家に度々行ってるらしいけれど、私は結局兄と会えたことはなかった。鬼道家の人間に会うには身分が違いすぎる、と鬼道有人との接触は禁止されていた。
やっぱり名家の息子になるのは大変なんだ、と思う一方で寂しく思うのも事実で。
けれど文句は言っていられない。兄と同じ学校で勉強ができるのだってお父さんが学費を出してくれるからなんだ。
だけど…………
同じ学校なんだから偶々、鉢合わせることをどうしても期待してしまいにやけてしまう自分がいた。
そんな偶然の日は入学初日に訪れた。
入学式が終えて新入生はすぐに下校になった。だけどこの要塞みたいな学校は方向音痴な私には難易度が高く、無事に迷った通路の曲がり角を曲がった先、その人はいた。
「あっ……!」
「……っ」
赤色のマントを身につけ、帝国学園サッカー部のユニフォームに身を包んだ彼がいた(おそらく部活に行く途中だったんだろう)
「兄ちゃん……!」
八年ぶりに直接出会えた兄は映像で見るより大きく見えて、少し見上げなくては目線が合わないし、その目だってゴーグルのせいで見えにくい。
それでも嬉しかった。ずっと、ずっと会いたかったから。
「あのっ、私……」
学園生活で姿を見れたらラッキーだなとは思っていたけれど、こんな早く会えると思っていなかったから何を言うか、何から言うか迷っていると、
「人違いだ」
「え…………」
記憶よりも低い声。だけど、それよりも体温を持たない冷たい声に私の思考は固まった。
そんな私を置いて彼は歩いていく。その後ろに続いて横切っていくのは同じユニフォームを着たサッカー部の人達で、
「鬼道、知り合いか?」
その中の一人がそう尋ねた言葉と、
「……知らないな」
ハッキリと否定する声だけが私の耳へ届いた。
「あー……えっと、大丈夫か?」
どれだけの時間固まっていたか分からない。掛けられた声にハッと意識を戻して見上げれば青みがかった髪の長身細身の部員が私の肩を叩きながらこちらを見ていた。
そんな目線に、言葉に、慰められていると漠然と理解する。
そんなものは弱者がされることだ。
「ッ……!!」
「あ、おいっ……」
私はその人の手を振り払って駆けだした。
闇雲に走って、走ってたどり着いたのは総帥の部屋の前で堪らず私は入ってしまった。
走りたい気持ちを押さえつけて早足で歩いて行くと、お父さんは椅子に座っていて私の登場に片方の眉を上げる。
「……入学式はとうに終わったはずだが」
「あの、私、迷っちゃって……その……サッカー部の人に……それで…………ご、ごめんなさい、約束破って…………ごめんなさい」
混乱していた私は状況を説明しようとするけれど、どうしても兄の言葉を思い出してしまうと視界が潤んで、上手く喋れず謝って俯くことしかできなかった。
「……だから言っただろう」
はぁとため息が聞こえたと同時に、ギシッとお父さんが椅子から下りる音とコツコツと足音がこちらに近づいてくるのが分かって私は段々と自分の体温が下がっていくのが分かった。
常に冷静であれとお父さんは言っていた。なのに私はお父さんの命令に背いて兄に会い、精神的に取り乱してしまってこの様だ…………呆れられた、失望されてしまった。
お父さんの顔を見るのがとても怖くて顔が上げられない私の頭に大きな手が乗った。
「鬼道家は勝者であり続けることが宿命。弱みとなる部分は切り捨てる。そういう方針なのだ」
お父さんの声は相変わらず淡々としているけれど、私の頭に置かれた手に怒りは感じない。むしろ、私の動揺を落ち着かせるための行動に思えた。
そのことに安心して私は大きく息を吐きながらお父さんの説明の内容を何度も頭の中で繰り返す。
そして私が……私と春奈の存在が彼が鬼道家でいるための“弱み”だと、切り捨てる対象だったと思い知った。
鬼道家の息子である兄ちゃんに関われば彼に迷惑がかかり、私自身も傷つく。
お父さんはそれを分かっていたからこそ、接触禁止と言ったんだ。……最初からお父さんの言葉を素直に聞いておくべきだったんだ。
「そこまで考えが至りませんでした……ごめんなさい。もう、兄……いや……鬼道さんには近づきません」
頭に置かれた手が離れたタイミングで私は深々と頭を下げて反省の意を告げれば「それでいい」と短く返されて彼はまた自分の椅子へと戻っていく。
「学園の外へ案内する者を手配する。総帥室の前で待機していろ」
「はい!」
歩きながら出された指令に頷いて私はこの部屋を後にした。
お父さんが不敵な笑みを浮かべていることも知らないまま。