寂しがり少女
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イナズマキャラバンは夕方頃にジャパンエリアの宿泊施設「宿福」に辿り着いた。
雷門中での合宿所と同じくそれぞれ個室が与えられていて、部屋に入れば内装も日本らしい木造の暖かみのある部屋だった。
今日は慣れない空の旅を長時間したとのことで体を休めておくようにとキャラバンを降りる際に久遠監督に伝えられた。
とはいえ、夕食も控えているし眠る訳にはいかないし何をしようと悩んでいると、コンコンと扉をノックされた。
「お姉ちゃん、今大丈夫?」
「大丈夫だよ、どうした?」
声から妹だと分かったので私は扉を開ければ、申し訳なさそうな表情を浮かべていた春奈がいた。
+++
「すいません基山さん。付き合わせちゃって……」
「大丈夫だよ。休みとは言われたけれど、やっぱり体動かしたい気持ちはあったから。荷物持ちぐらいお安い御用だよ」
夕方のジャパンエリアを歩きながら、隣にいる基山さんへと頭を下げれば何でもないような笑顔を浮かべてくれた。……基山さんと並んで歩いていると思い出すのは、ネオジャパンとの試合の後の事で。別れたばかりだというのに緑川さんの事を懐かしく思ってしまう。
部屋まで来た春奈に私は買い出しを頼まれた。
何でも、イナズマジャパンが来る日に合わせて宿福に届く予定だったはずのドリンクが、手違いで数日遅れるらしい。それが届くまでの追加のドリンクを買ってきてほしいということだ。
夕飯の準備で手が離せない故に私を頼ってくれたなら、それを断る理由は無くて二つ返事で頷いた。
「私は一人で大丈夫って言ったんですけど……」
「まぁ、音無さんも空港のこともあったし、心配したんだろうね」
その後に春奈はちょうど、鉢合わせた基山さんに迷子防止のためと付き添いを頼んだ結果、一緒に買い出しに行ったという訳だ。
「それに俺、不動さんと話したいことあったから一緒に行けて嬉しいよ?」
丁度半分の量に分けた袋(全部持つと基山さんは言ってくれたけれど、同じ日本代表として任せきりなのも申し訳ないので断った)をがさりと揺らしながら基山さんはそんな事を言った。
表情から思い付きの言葉ではない事は分かって安心して、それから彼の話の内容を聞こうと口を開いた。
「話したいこと?」
「うん……あのね」
基山さんは小さく頷いて、それからどこか真剣な眼差しで私を見る。
「君は……まだ俺のこと、怖い?」
「え?」
私は目を丸くして、思わず足を止めれば基山さんも同じように足を止める。
「その……ファイアードラゴンの試合で改めて “グラン” として俺を見る不動さんの表情を見ていたら…………怖がらせていたんだなって…………ちゃんと謝りたいって思っていたんだ」
「……あっ」
それから申し訳なさそうに目を伏せて謝る彼の姿を見て、ようやく合点がついた。
彼からすれば、過去のやり取りはペットだったうさぎと重ねていたらしい(これはこれで分かる訳ないけども)。私はそれらを格下判定をされていると思ってだいぶ悪意的に捉えていた。
……その考えが根本にあったからこそ、ファイアードラゴン戦の時だって私は正常な判断ができずに彼を突っぱねたんだ。
そして、私の当時の意思を一切基山さんに話していない。話す必要なんてないと思っていたから。
その結果、基山さんを多少なりとも責任を感じさせていたようで。
「あっ、あの!」
彼に負い目を感じさせるのは申し訳なく、私は誤解を解こうと声を上げた。
「た、確かに私は……グランさんの言動を勘違いして、勝手に怖がってたと思います」
当時の私は認めないだろうけど、あの時、彼に感じた感情は確かに恐怖だった。
強い人間であるグランさんを見ると、自分の弱さが目立つから……弱いと捨てられると怯えていた私にとっては正しく恐怖だったと今なら認められる。
「やっぱり……」
「でもそれは過去の話で……!」
悲しそうな、だけど納得しているように目を伏せようとする基山さんに、慌てて言葉を続けた。
「韓国戦では引きずって……今の基山さんの事を見れてなくて迷惑をかけました……私の方こそごめんなさい!」
私は基山さんがグランさんだと知って、どこか同一視をしていたんだと思う。
だけどイナズマジャパンの一人としているのはグランさんじゃない、基山さんなんだ。
「基山ヒロトさんは怖くないので……!その、だから……気にしないでください!」
その証明方法なんて分からないから、私は咄嗟に袋を持っていない空いている方の手で彼の手を握った。怖かったらきっと触ることなんてできないだろうという安直な考えだ。
「…………そっか……」
目を丸くしながら私の手を見て、顔を見た基山さんはそれからほっと息をついた。
「よかった。……不動さんと仲良くできたらなって思っていたから嬉しいよ」
それから安心したような笑みを浮かべ、私が握った手を優しく握り返してくれた。
「私も、基山さんと仲良くサッカーできるの嬉しいです」
そんな彼の優しさも後押しして、そう本音を伝えれば基山さんが嬉しそうに笑ってくれて自分も嬉しくなり頬が緩む。
「ヒロト、でいいよ」
そんな私を見守るように見ていた基山さんは、ポツリとそんな提案をした。
「え?」
「というよりそう呼んで欲しい。……俺にとって、この名前は大切なものだから」
「そうなんですか……?」
穏やかに微笑む基山さんの表情は名付け親の事を思い出しているのか、大切なものを懐かしむ目をしていて。
そんな大切な名前をキャプテン達ならともかく自分も呼んでいいのかと一瞬思ったけれど、本人の頼みを断るのも悪いかと思い直す。
「……だったら私も、名前でいいですよ」
……それから何となく、自分は名前で呼ぶのに、相手には名字で呼ばれるのは寂しく思ってそう伝えれば、基山さんは驚いたように目を丸くしていいの?と首を傾げたのですぐに首を縦に振った。
「じゃあ……ヒロトさん。改めてよろしくお願いします」
「うん。よろしく、明奈ちゃん」
それから互い手を握り合って、そう挨拶を交わした。
ヒロトさんみたいに綺麗に微笑むことができたか分からないけれど、私も笑っていたと思う。
だけど少しずつだけど、自然にチームメイトと仲良くできた事に、内心はしゃいでいた自覚はあった。ヒロトさんもにこにこと微笑んでいたので、変な顔になっていないと信じるばかりだ。
「明奈ちゃんの笑顔。可愛いね」
「かわいいって……またうさぎ扱いですか?」
……と思ったらまた小動物に重ねられていた。
うさぎの笑顔なんて見たことなくて想像つかないなと少し可笑しく思いながらヒロトさんを見る。
「違うよ」
いつになくはっきりと否定するヒロトさんは変わらず笑顔を浮かべていたけれど、その笑みは先ほどの名前を呼び合った時に浮かべていたものとは違うように感じる。なんだろう……初めて感じる雰囲気だ。
「ちゃんと1人の女の子として見てるよ」
私が痛がらないように優しく握ってくれていた手は、いつの間にか指と指が交互に絡んでそのまま掌を握りしめるような握り方になっていて、ヒロトさんはその手を更に強く握りながら微笑んだ。
ふわり、という擬音がぴったりな優しい笑みだった。
「女の子、ですか…………?」
「うん。……嫌かな?」
「嫌、とかじゃないですが……」
言葉通りの意味として受け取って見たけれど、やっぱりよく分からずに首を傾げるけれど、ヒロトさんはにっこり微笑むだけだ。
「じゃあ宿舎に帰ろうか」
「あっ、そうですね。もうすぐ夕飯の時間ですし」
そして手を握ったままヒロトさんは歩き出すので、私もそれに倣って一緒に歩いた。
そして無事に宿舎に辿り着き、玄関の扉を開けるために繋いでいた手を離そうとするけれど、その前にヒロトさんに力を強められて止められる。
不思議に思い彼を見れば、わざわざ荷物を持っている方の手で器用に扉を開けていた。
「流石にもう迷子にはならないかと……」
「迷子防止じゃないから大丈夫だよ」
迷子対策なのかと呟くけれど、ヒロトさんはくすりと楽しそうに笑っていた。……手を繋ぐの好きなのかな。
「ただいま。あ、風丸くん」
「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。ヒロト、ふど、う……」
玄関にはたまたま通りかかっただろう風丸さんがいた。
ヒロトさんに続いて私も帰ってきた事を伝えれば、こちらに気づいた風丸さんの声が聞こえたが、その声は何故か段々と小さくなっていく。
顔を見れば、風丸さんは笑顔を浮かべていたままの表情で固まっていた。
「風丸さん?」
「……ッ!あ、いや…………な、仲いいんだな」
「え?」
思わず名前を呼べば、ハッと肩を揺らして風丸さんは動き出す。そして、ポツリと呟いた彼の視線の先は私とヒロトさんが繋いでいる手で。
「うん、仲良くなったんだ。ね、明奈ちゃん?」
「へ?ああ……そうですね」
風丸さんの言葉に応えるようにヒロトさんは握った手を少し掲げて、それから同意を求めるように首を傾げられたので私は素直にこくりと頷いた。
「…………不動」
そんな私達のやり取りを見ていた風丸さんに名前を呼ばれたと同時に手を差し伸ばされた。
「……買った物、運んでおいてやるから先に食堂に行ったらどうだ?」
「え……でも…………風丸さんなんだか不調そうですし自分でやれますよ?」
「……だ、大丈夫だから……!」
「わっ」
慣れない飛行機旅で疲れているのかシートに頭ぶつけたり、急に固まったりする今日の彼を見ると、申し訳ない気持ちの方が勝ち、思わずそう口を挟むものの、風丸さんはそう言って私の手から袋をひったくった。
「ほら、行くぞヒロト!」
「えぇ、俺の袋は持ってくれないの?」
「……持たない!」
それから何故か不機嫌になってしまった風丸さんに急かされたヒロトさんは、もうちょっと一緒にいたかったなぁと呟いたかと思えば手が離して風丸さんと並ぶように歩いて行く。
「ヒロトさんっ、風丸さんっ」
言われた通り食堂に行こうかなと思ったけれど、二人に肝心な言葉を伝え忘れていたことを思い出して、慌てて声を掛ければ振り返ってくれた。
「えと、付き添いだったり、荷物持ってくれたり、ありがとうございます……!」
感謝を正直に伝えることはまだ少し照れもあったから、私は言うだけ言って、失礼します……!と早足で食堂へと向かった。
+++
「ちょっ、春奈くすぐったい……!」
「お姉ちゃん、逃げちゃダメ!」
「うぐっ……!」
襲ってくるくすぐったさに身を引きそうになるけれど、春奈に強く言われて私は何とか動かないように動きを止めるけれど、正直腹筋が痛い。
「春奈ちゃんと不動さん?」
「何してるんですか?」
そこで私達がいる談話室へ声が聞こえたのか木野さんと久遠さんが顔を覗かせた。
「聞いてくださいよ秋さん、冬花さん。お姉ちゃん、お風呂上りにスキンケアしてないって言うんですよ!」
だから私が教えてるんです!と春奈の手に握られているのはボディクリームの容器だ。2人と話す前まで私の顔だったり腕だったにクリームを塗られている状態だった。
「……だって、そういうの種類ありすぎてよく分からないから」
「確かに。種類豊富だもんね」
ポツリと呟いた言葉に木野さんは苦笑しながらも同意をしてくれたので、やっぱり多いんだと安堵したものの、
「……でも、よく分からないから使わないじゃ本末転倒じゃ…………」
「うっ……」
久遠さんの容赦ない正論にしっかり沈んだ。
「とにかく!スキンケアは肌の保湿とか健康とか守る物なんだから!ちゃんとする!!分かった?」
「……はぁーい」
念を押すように強く言う春奈に私はこくこくと頷いた。……自分はよく分かってないけれど、春奈が言うんだったら大切なことなんだろう。多分。
「ふふっ」
笑い声が聞こえて顔を上げれば、そんなやり取りを見ていた木野さんと久遠さんが小さく笑っていて。思わず春奈と顔を見合わせる。
「春奈ちゃん楽しそうだなぁって」
「不動さんも表情がずっと柔らかくなってる」
「え!?」
「そ、そうですか?」
お互いに無自覚だったのだろう指摘に春奈を見れば、少しだけ恥ずかしそうに頬を染めていて……多分私も同じような顔をしているのだろう。
「だって、ずっとお姉ちゃんと女の子っぽい事したいなぁって思ってたから………」
春奈は赤い顔のまま少し俯いてぽつぽつと話す言葉を聞いていると、木野さんにそっと耳打ちをされた。
「春奈ちゃん、不動さんに会える事すっごく楽しみにしてたのよ?」
「春奈……」
感極まって、とはこういう事を言うんだろうな。
私はぎゅうと胸を締め付ける感覚に襲われながらも、春奈の頭に手を置いて優しく撫でた。それから頭の中で考えた言葉を口に出す。
「えっと……春奈の借りっぱなしなのも悪いしボディクリームとか、休みの日に買いに行こうと思うんだけど。
私、スキンケアの知識がないから、買いに行く時に一緒に言って貰ってもいいかな?」
「もちろん!!」
春奈ともっと一緒にいたいな、と思って口に出したお願いに彼女は満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。
それにほっとしてから、私は見守ってくれている先輩達の方を向いた。
「あの……木野さんや久遠さんとも行けたらなって……思うんですが…………」
段々と恥ずかしさが勝ってしまい、声が小さくなってしまうけれど耳に届いてたのか私達もいいの?と木野さんに聞かれた。
「えっと、お二人とも、な、仲良くできたらなって……!」
自分でも都合いいとは思う。
余裕がないからってアジア予選の時も優しくしたマネージャーにも素っ気ない態度を取り続けていて、今更仲良くなんて………
「本当?嬉しい!ね、冬花さん」
「はい!あ、呼び方とか変えてもいいかな?」
「え?……いいんですか?」
マイナス思考に陥りそうになった所で、嬉しそうに両手を合わせる木野さんと笑顔でそう聞いてくる冬花さんにポカンとしてしまう。
「私達も、不動さんと仲良くなりたいってずっと思ってたから」
なんて、久遠さんから優しい声で告げた。木野さんも笑顔で頷いてくれている。
……本当に、優しい人達だ。
「……明奈、で大丈夫ですよ。冬花さん。秋さん」
彼女達の優しさに少しでも応えたくて、しっかり顔を上げてそう答えたら、2人とも笑顔で頷いてくれた。
「よかったね、お姉ちゃん」
隣では春奈がにこにこと嬉しそうに笑っていた。私も恥ずかしさとか嬉しさでさっきより頬が熱くなる感覚を感じながらも笑い返した。
雷門中での合宿所と同じくそれぞれ個室が与えられていて、部屋に入れば内装も日本らしい木造の暖かみのある部屋だった。
今日は慣れない空の旅を長時間したとのことで体を休めておくようにとキャラバンを降りる際に久遠監督に伝えられた。
とはいえ、夕食も控えているし眠る訳にはいかないし何をしようと悩んでいると、コンコンと扉をノックされた。
「お姉ちゃん、今大丈夫?」
「大丈夫だよ、どうした?」
声から妹だと分かったので私は扉を開ければ、申し訳なさそうな表情を浮かべていた春奈がいた。
+++
「すいません基山さん。付き合わせちゃって……」
「大丈夫だよ。休みとは言われたけれど、やっぱり体動かしたい気持ちはあったから。荷物持ちぐらいお安い御用だよ」
夕方のジャパンエリアを歩きながら、隣にいる基山さんへと頭を下げれば何でもないような笑顔を浮かべてくれた。……基山さんと並んで歩いていると思い出すのは、ネオジャパンとの試合の後の事で。別れたばかりだというのに緑川さんの事を懐かしく思ってしまう。
部屋まで来た春奈に私は買い出しを頼まれた。
何でも、イナズマジャパンが来る日に合わせて宿福に届く予定だったはずのドリンクが、手違いで数日遅れるらしい。それが届くまでの追加のドリンクを買ってきてほしいということだ。
夕飯の準備で手が離せない故に私を頼ってくれたなら、それを断る理由は無くて二つ返事で頷いた。
「私は一人で大丈夫って言ったんですけど……」
「まぁ、音無さんも空港のこともあったし、心配したんだろうね」
その後に春奈はちょうど、鉢合わせた基山さんに迷子防止のためと付き添いを頼んだ結果、一緒に買い出しに行ったという訳だ。
「それに俺、不動さんと話したいことあったから一緒に行けて嬉しいよ?」
丁度半分の量に分けた袋(全部持つと基山さんは言ってくれたけれど、同じ日本代表として任せきりなのも申し訳ないので断った)をがさりと揺らしながら基山さんはそんな事を言った。
表情から思い付きの言葉ではない事は分かって安心して、それから彼の話の内容を聞こうと口を開いた。
「話したいこと?」
「うん……あのね」
基山さんは小さく頷いて、それからどこか真剣な眼差しで私を見る。
「君は……まだ俺のこと、怖い?」
「え?」
私は目を丸くして、思わず足を止めれば基山さんも同じように足を止める。
「その……ファイアードラゴンの試合で改めて “グラン” として俺を見る不動さんの表情を見ていたら…………怖がらせていたんだなって…………ちゃんと謝りたいって思っていたんだ」
「……あっ」
それから申し訳なさそうに目を伏せて謝る彼の姿を見て、ようやく合点がついた。
彼からすれば、過去のやり取りはペットだったうさぎと重ねていたらしい(これはこれで分かる訳ないけども)。私はそれらを格下判定をされていると思ってだいぶ悪意的に捉えていた。
……その考えが根本にあったからこそ、ファイアードラゴン戦の時だって私は正常な判断ができずに彼を突っぱねたんだ。
そして、私の当時の意思を一切基山さんに話していない。話す必要なんてないと思っていたから。
その結果、基山さんを多少なりとも責任を感じさせていたようで。
「あっ、あの!」
彼に負い目を感じさせるのは申し訳なく、私は誤解を解こうと声を上げた。
「た、確かに私は……グランさんの言動を勘違いして、勝手に怖がってたと思います」
当時の私は認めないだろうけど、あの時、彼に感じた感情は確かに恐怖だった。
強い人間であるグランさんを見ると、自分の弱さが目立つから……弱いと捨てられると怯えていた私にとっては正しく恐怖だったと今なら認められる。
「やっぱり……」
「でもそれは過去の話で……!」
悲しそうな、だけど納得しているように目を伏せようとする基山さんに、慌てて言葉を続けた。
「韓国戦では引きずって……今の基山さんの事を見れてなくて迷惑をかけました……私の方こそごめんなさい!」
私は基山さんがグランさんだと知って、どこか同一視をしていたんだと思う。
だけどイナズマジャパンの一人としているのはグランさんじゃない、基山さんなんだ。
「基山ヒロトさんは怖くないので……!その、だから……気にしないでください!」
その証明方法なんて分からないから、私は咄嗟に袋を持っていない空いている方の手で彼の手を握った。怖かったらきっと触ることなんてできないだろうという安直な考えだ。
「…………そっか……」
目を丸くしながら私の手を見て、顔を見た基山さんはそれからほっと息をついた。
「よかった。……不動さんと仲良くできたらなって思っていたから嬉しいよ」
それから安心したような笑みを浮かべ、私が握った手を優しく握り返してくれた。
「私も、基山さんと仲良くサッカーできるの嬉しいです」
そんな彼の優しさも後押しして、そう本音を伝えれば基山さんが嬉しそうに笑ってくれて自分も嬉しくなり頬が緩む。
「ヒロト、でいいよ」
そんな私を見守るように見ていた基山さんは、ポツリとそんな提案をした。
「え?」
「というよりそう呼んで欲しい。……俺にとって、この名前は大切なものだから」
「そうなんですか……?」
穏やかに微笑む基山さんの表情は名付け親の事を思い出しているのか、大切なものを懐かしむ目をしていて。
そんな大切な名前をキャプテン達ならともかく自分も呼んでいいのかと一瞬思ったけれど、本人の頼みを断るのも悪いかと思い直す。
「……だったら私も、名前でいいですよ」
……それから何となく、自分は名前で呼ぶのに、相手には名字で呼ばれるのは寂しく思ってそう伝えれば、基山さんは驚いたように目を丸くしていいの?と首を傾げたのですぐに首を縦に振った。
「じゃあ……ヒロトさん。改めてよろしくお願いします」
「うん。よろしく、明奈ちゃん」
それから互い手を握り合って、そう挨拶を交わした。
ヒロトさんみたいに綺麗に微笑むことができたか分からないけれど、私も笑っていたと思う。
だけど少しずつだけど、自然にチームメイトと仲良くできた事に、内心はしゃいでいた自覚はあった。ヒロトさんもにこにこと微笑んでいたので、変な顔になっていないと信じるばかりだ。
「明奈ちゃんの笑顔。可愛いね」
「かわいいって……またうさぎ扱いですか?」
……と思ったらまた小動物に重ねられていた。
うさぎの笑顔なんて見たことなくて想像つかないなと少し可笑しく思いながらヒロトさんを見る。
「違うよ」
いつになくはっきりと否定するヒロトさんは変わらず笑顔を浮かべていたけれど、その笑みは先ほどの名前を呼び合った時に浮かべていたものとは違うように感じる。なんだろう……初めて感じる雰囲気だ。
「ちゃんと1人の女の子として見てるよ」
私が痛がらないように優しく握ってくれていた手は、いつの間にか指と指が交互に絡んでそのまま掌を握りしめるような握り方になっていて、ヒロトさんはその手を更に強く握りながら微笑んだ。
ふわり、という擬音がぴったりな優しい笑みだった。
「女の子、ですか…………?」
「うん。……嫌かな?」
「嫌、とかじゃないですが……」
言葉通りの意味として受け取って見たけれど、やっぱりよく分からずに首を傾げるけれど、ヒロトさんはにっこり微笑むだけだ。
「じゃあ宿舎に帰ろうか」
「あっ、そうですね。もうすぐ夕飯の時間ですし」
そして手を握ったままヒロトさんは歩き出すので、私もそれに倣って一緒に歩いた。
そして無事に宿舎に辿り着き、玄関の扉を開けるために繋いでいた手を離そうとするけれど、その前にヒロトさんに力を強められて止められる。
不思議に思い彼を見れば、わざわざ荷物を持っている方の手で器用に扉を開けていた。
「流石にもう迷子にはならないかと……」
「迷子防止じゃないから大丈夫だよ」
迷子対策なのかと呟くけれど、ヒロトさんはくすりと楽しそうに笑っていた。……手を繋ぐの好きなのかな。
「ただいま。あ、風丸くん」
「ただいま戻りました」
「ああ、おかえり。ヒロト、ふど、う……」
玄関にはたまたま通りかかっただろう風丸さんがいた。
ヒロトさんに続いて私も帰ってきた事を伝えれば、こちらに気づいた風丸さんの声が聞こえたが、その声は何故か段々と小さくなっていく。
顔を見れば、風丸さんは笑顔を浮かべていたままの表情で固まっていた。
「風丸さん?」
「……ッ!あ、いや…………な、仲いいんだな」
「え?」
思わず名前を呼べば、ハッと肩を揺らして風丸さんは動き出す。そして、ポツリと呟いた彼の視線の先は私とヒロトさんが繋いでいる手で。
「うん、仲良くなったんだ。ね、明奈ちゃん?」
「へ?ああ……そうですね」
風丸さんの言葉に応えるようにヒロトさんは握った手を少し掲げて、それから同意を求めるように首を傾げられたので私は素直にこくりと頷いた。
「…………不動」
そんな私達のやり取りを見ていた風丸さんに名前を呼ばれたと同時に手を差し伸ばされた。
「……買った物、運んでおいてやるから先に食堂に行ったらどうだ?」
「え……でも…………風丸さんなんだか不調そうですし自分でやれますよ?」
「……だ、大丈夫だから……!」
「わっ」
慣れない飛行機旅で疲れているのかシートに頭ぶつけたり、急に固まったりする今日の彼を見ると、申し訳ない気持ちの方が勝ち、思わずそう口を挟むものの、風丸さんはそう言って私の手から袋をひったくった。
「ほら、行くぞヒロト!」
「えぇ、俺の袋は持ってくれないの?」
「……持たない!」
それから何故か不機嫌になってしまった風丸さんに急かされたヒロトさんは、もうちょっと一緒にいたかったなぁと呟いたかと思えば手が離して風丸さんと並ぶように歩いて行く。
「ヒロトさんっ、風丸さんっ」
言われた通り食堂に行こうかなと思ったけれど、二人に肝心な言葉を伝え忘れていたことを思い出して、慌てて声を掛ければ振り返ってくれた。
「えと、付き添いだったり、荷物持ってくれたり、ありがとうございます……!」
感謝を正直に伝えることはまだ少し照れもあったから、私は言うだけ言って、失礼します……!と早足で食堂へと向かった。
+++
「ちょっ、春奈くすぐったい……!」
「お姉ちゃん、逃げちゃダメ!」
「うぐっ……!」
襲ってくるくすぐったさに身を引きそうになるけれど、春奈に強く言われて私は何とか動かないように動きを止めるけれど、正直腹筋が痛い。
「春奈ちゃんと不動さん?」
「何してるんですか?」
そこで私達がいる談話室へ声が聞こえたのか木野さんと久遠さんが顔を覗かせた。
「聞いてくださいよ秋さん、冬花さん。お姉ちゃん、お風呂上りにスキンケアしてないって言うんですよ!」
だから私が教えてるんです!と春奈の手に握られているのはボディクリームの容器だ。2人と話す前まで私の顔だったり腕だったにクリームを塗られている状態だった。
「……だって、そういうの種類ありすぎてよく分からないから」
「確かに。種類豊富だもんね」
ポツリと呟いた言葉に木野さんは苦笑しながらも同意をしてくれたので、やっぱり多いんだと安堵したものの、
「……でも、よく分からないから使わないじゃ本末転倒じゃ…………」
「うっ……」
久遠さんの容赦ない正論にしっかり沈んだ。
「とにかく!スキンケアは肌の保湿とか健康とか守る物なんだから!ちゃんとする!!分かった?」
「……はぁーい」
念を押すように強く言う春奈に私はこくこくと頷いた。……自分はよく分かってないけれど、春奈が言うんだったら大切なことなんだろう。多分。
「ふふっ」
笑い声が聞こえて顔を上げれば、そんなやり取りを見ていた木野さんと久遠さんが小さく笑っていて。思わず春奈と顔を見合わせる。
「春奈ちゃん楽しそうだなぁって」
「不動さんも表情がずっと柔らかくなってる」
「え!?」
「そ、そうですか?」
お互いに無自覚だったのだろう指摘に春奈を見れば、少しだけ恥ずかしそうに頬を染めていて……多分私も同じような顔をしているのだろう。
「だって、ずっとお姉ちゃんと女の子っぽい事したいなぁって思ってたから………」
春奈は赤い顔のまま少し俯いてぽつぽつと話す言葉を聞いていると、木野さんにそっと耳打ちをされた。
「春奈ちゃん、不動さんに会える事すっごく楽しみにしてたのよ?」
「春奈……」
感極まって、とはこういう事を言うんだろうな。
私はぎゅうと胸を締め付ける感覚に襲われながらも、春奈の頭に手を置いて優しく撫でた。それから頭の中で考えた言葉を口に出す。
「えっと……春奈の借りっぱなしなのも悪いしボディクリームとか、休みの日に買いに行こうと思うんだけど。
私、スキンケアの知識がないから、買いに行く時に一緒に言って貰ってもいいかな?」
「もちろん!!」
春奈ともっと一緒にいたいな、と思って口に出したお願いに彼女は満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。
それにほっとしてから、私は見守ってくれている先輩達の方を向いた。
「あの……木野さんや久遠さんとも行けたらなって……思うんですが…………」
段々と恥ずかしさが勝ってしまい、声が小さくなってしまうけれど耳に届いてたのか私達もいいの?と木野さんに聞かれた。
「えっと、お二人とも、な、仲良くできたらなって……!」
自分でも都合いいとは思う。
余裕がないからってアジア予選の時も優しくしたマネージャーにも素っ気ない態度を取り続けていて、今更仲良くなんて………
「本当?嬉しい!ね、冬花さん」
「はい!あ、呼び方とか変えてもいいかな?」
「え?……いいんですか?」
マイナス思考に陥りそうになった所で、嬉しそうに両手を合わせる木野さんと笑顔でそう聞いてくる冬花さんにポカンとしてしまう。
「私達も、不動さんと仲良くなりたいってずっと思ってたから」
なんて、久遠さんから優しい声で告げた。木野さんも笑顔で頷いてくれている。
……本当に、優しい人達だ。
「……明奈、で大丈夫ですよ。冬花さん。秋さん」
彼女達の優しさに少しでも応えたくて、しっかり顔を上げてそう答えたら、2人とも笑顔で頷いてくれた。
「よかったね、お姉ちゃん」
隣では春奈がにこにこと嬉しそうに笑っていた。私も恥ずかしさとか嬉しさでさっきより頬が熱くなる感覚を感じながらも笑い返した。