寂しがり少女
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「全員集合!これより出発する」
集合時間になれば久遠監督と響木さんが現れ、それから久遠監督の号令により、イナズマジャパンは本格的に出発の準備に取り掛かる。
私達は日本代表専用の飛行機である「イナズマジェット」に乗り、戦いの舞台であるライオコット島に行くとのことだ(ちなみに狼云々は吹雪さんの冗談だと出発前に兄ちゃんに教えてもらった。私の驚きを返して欲しい)
飛行機の中で目金さんによるライオコット島の説明があり、それによれば運営が今回のFFIのために島全体を会場にしたとか。中学生サッカーの大会とは思えないぐらいの大掛かりな出資だなと思いながら窓から見る空を眺めていた。
初めての飛行機にはしゃぐ声だったり、それぞれ雑談を楽しんだり、海に返してくれー!なんて声が聞こえたり……やっぱりイナズマジャパンの人達は元気だなと改めて思った。
しばらく空の旅を楽しんだ後にイナズマジェットはライオコット島へと着陸をする。
空港を出て目の前に広がる景色にイナズマジャパンは感嘆の声が上がった。
サッカーボールのような模様をした地球儀の上にFFIのシンボルが置かれた噴水。本戦出場をしたチームのエンブレムの旗が大々的に立てられていた。
そしてその周りを歩いているサポーターや観光客は日本人だけでなく、それぞれ母国のチームのユニフォームを着ているであろう外国人も多くいて賑わっていて、サッカーに特化した風景はFFIのために作られた会場だとすぐに感じ取れた。
「き…気持ち悪いぃぃ……」
「綱海さん!しっかりしてください!」
世界まで来たと実感したキャプテンをはじめとするみんなが意気揚々と歩いている中、少し遅れて真っ青な顔をした綱海さんが立向居くんに支えられながら歩いているのが見えた。……海に返してと叫んでたのは綱海さんか。
「……大丈夫?」
中学一年生である立向居くんが三年生である綱海さんを一人で運ぶのは大変そうだなと見かねて、私は声を掛けてみる。
「えっ、不動さん?」
瀕死状態の綱海さんは私のことに気づかず、立向居くんはきょとんと目を丸くして、こちらを見た。
「……手伝おうか?」
「え?」
「綱海さん、運ぶの」
くいと顎で綱海さんを指して言う。素っ気なくなってしまったのは緊張のせいだ。
「えっと……じゃあお願いします」
なぜに敬語。同級生なんだけど。
少し迷ってからぺこりと頭を下げた立向居くんにそう思いながらも、私は立向居くんとは逆位置の綱海さんの隣へと立って、腕を肩に回して支える。
「お、重たくないですか??」
「2人で運んでるし、大丈夫。綱海さんも大人しいし」
それから何かと気を遣ってくる立向居くんに返事をしながら、綱海さんを運んだ。
……とはいえ、そこまで会話は多くなかったから少しだけ気まずい空気が漂っていた。
「あ、もうキャラバンに着けたし大丈夫です!ありがとうございます!」
「あ、うん……どういたしまして?」
サッカーの練習時はまだ連携について話したりするけれど、こういう時に自分から話すのって難しいな。
そう思いながらやっぱり畏まっている立向居くんに私は首を傾げながら返事を返した。
+++
日本代表の宿泊施設までの移動はアジア予選と変わらずにイナズマキャラバンでするらしい。私が来るより前にイナズマジェットに納車されるキャラバンを見れたとか虎丸くんがはしゃいでいた。
「お姉ちゃんはこっち!」
いつもの端っこの席に座ろうとしたものの、春奈に引っ張られて彼女の隣の席につくことになった。周りの生暖かい笑みはくすぐったいものの、一緒に座ってくれること自体は嬉しかったり。
キャラバンが走っている間、春奈はいつの間にかパンフレットを広げてみんなに解説をしていて、私も横からパンフレットの内容を覗いてみた。
キャラバンが出発したのは島の中央であるセントラルストリート。そこはヤシの木だったり南国の色鮮やかな植物が並んでいたりと、いかにも南の島という感じの風景だったけど、しばらくして雰囲気がガラリと変わった。
「あれ?南の島じゃなくなったぜ?」
南の島の風景を見て立ち直ったらしい綱海さんはそんな景色の変化に不思議そうな声を上げた。
「よく気がつきましたねぇ。なんとこの島は、」
「出場チームが最大限に力を発揮できるように、そのチームが滞在するエリアには、母国と同じ街並みを再現しているそうですよ!」
そんな疑問に目金さんが解説をしようとした矢先、春奈が先にパンフレットを読みながら説明をしていた。
その際に、通路を挟んだ横の席で台詞を取られて涙ぐんでいる目金さんを見てしまい思わず苦笑してしまった。
さらにキャラバンが進み、イギリスエリアを通る。
本国から取り寄せたというレンガで作られた建物や、ティーパーティーを楽しむ紳士淑女の姿は、窓越しにでも優雅な雰囲気が伝わる。
「落ち着いた雰囲気が、歴史と伝統を感じさせるわね……」
「はい、素敵ですね」
そんな外の景色に、木野さんは両手を合わせて感動した様子で眺めていて、私もそれに同意するように頷いた。
「紅茶もいいっスけど……」
「なんだか腹減ってきたなぁ」
「はいっス……」
「ウッ、台無し……」
「……本当に」
……男子達には全然共感を得られなかったけれど。
次に通ったエリアはイタリアだった。
「ここはイタリアエリア。地中海の街並みが忠実に再現されています!」
「スゴいですね、この島!」
「ここにいるだけで世界旅行ができるじゃねぇか!」
春奈の解説が入り、様々と景色が変わる島に虎丸くんや染岡さんが楽しそうに声を上げていた。
……私が訪れた場所より治安良さそうだな。まぁ、サッカーの練習が目的なんだから当然か。
「古株さん!止めてください!」
小さい頃、影山の都合でほんの少しの間滞在した事があるイタリアの風景を思い出していると、キャプテンが運転手である古株さんに声をかけていた。
「見ろよ!」
「あれは……?」
「恐らく、イタリアの代表チームだな」
キャラバンが止まったのはイタリア代表の宿舎前。グラウンドでは実際にイタリア代表が練習を行っていた。キャプテンがキャラバンを止めたのはその姿を見つけたからだろう。
イタリア代表。たしかチーム名は「オルフェウス」だったかな。
窓から身を乗り出して見て見れば、確かに優勝候補と呼ばれるだけあるなと思うようなプレーをしている。
特にキャプテンマークを付けた選手の指示は的確で、前線へと上がりながらも後衛の指示も出すというフィールド全体を見ることができるプレーヤー。
世界レベルのプレーを目の当たりにしてみんな感心していて、キャプテンは試合が楽しみだと言うように目を輝かせていた。
「……イタリア代表、か」
キャプテンであろう人の動きに感心しながら、私はその選手達一人一人を見てみる。
もしかしたら、イタリアで唯一の顔見知りがいるかも、なんて思ったから。
結果。
「………………いない、か」
残念ながら、彼の姿はどこにもなくて私はひっそりとため息をついた。
「不動さん、さっききょろきょろしてたけど誰か探していたの?」
「え?ああ……」
それから再びキャラバンが発進した頃に久遠さんに尋ねられた。
「小さい頃に行ったイタリアで知り合った人がいて………その人もサッカー大好きだったから、もしかしたら代表になってないかなーって探してました」
「イタリアの知り合い!?お姉ちゃんイタリアに行ったことあるの!?」
「……あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳だよ!」
別に隠す事でもないしなと思って私は彼女に話せば、逆側にいる春奈が驚いた表情を浮かべていた。……てっきりもう教えた気になってたけれど言ってなかったらしい。
「影山に連れてかれただけだよ。結局、イタリアでもサッカーしかしなかったし……あ、でもサッカーしてたからあの人に出会えたって思えば悪いことばかりじゃなかったよ」
「不動さんはその人の事、大切なんだね」
出会いを思い出していると、久遠さんがふふっと小さく微笑んでいた。……顔に出ていたのかとちょっとした恥ずかしさを感じながら私は頷いた。
「そうですね。彼の事は好きなので」
ゴンッ
「うっ……」
「うわっ!?どうした風丸!?」
「大丈夫ですか!?」
「えっ、なに……」
頷いたと同時に聞こえた鈍い音と背面のシートに伝わる軽い衝撃に思わず振り返れば、後ろの席に座っていた風丸さんが額を押さえたまま蹲っていて、隣に座っていたキャプテンと立向居くんが驚いたように風丸さんを見ていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「…………ああ」
彼が前の座席へ頭をぶつけた音だと分かって声をかけるが俯いたまま小さな声が返ってきて……正直、全然大丈夫そうに見えない。
思わずキャプテン達を見るも彼らもよく分かってないのか不思議そうに首を傾げるだけだった。
キャラバンが急停車したとかでもないのに……うたた寝しててぶつけたとかかな?
「お姉ちゃん!!」
「うぇっ、今度は何……!?」
どうしたんだろうと思いながら体の向きを戻した矢先に、春奈に元気よく話しかけられる。
……なんでこんなに目をキラキラしているんだ?
「好きってことは……将来的に私にイタリア人のお
「…………まって、何の話??」
目を輝かせて、興奮気味に話す春奈だったけれど、話の要点が分からずに私は一瞬フリーズした。
そして座席の後ろの方で兄の「うっ……」という短い呻き声と「鬼道!」と慌てている佐久間さんの声が聞こえたような……聞こえなかったような…………。
「どこからイタリア人の義兄が現れたの……?」
「え?だってお姉ちゃん、その人の事好きって言ってたでしょ?付き合いたいってことじゃないの?」
私の質問にキョトンとした表情で答える春奈。私はたっぷり時間をかけてその言葉を飲み込んで。
「…………はぁ!?ちがっ、違うって!!」
そこで、私が何となく呟いた言葉の意味を勘違いされていたことに気づいて慌てて否定した。
「私が言った好き、は人間性の好みからの言葉で……友達としての好きであって!恋愛感情的な意味合いは一切ないの!!」
「えーそうなの?」
「そ う で す !!」
ハッキリと否定をすれば少し残念そうな春奈がいて、私は念を押すようにしっかり目を合わせて頷いた。
「なーんだ。お姉ちゃんと恋バナできると思ったのになぁ」
「……だいぶ話飛躍してたけどね」
春奈に義兄ができているってことはもう私結婚までしてるじゃん、と最初にかけられた言葉を思い出せばつい口元が引きつった。
「そうか……違うのか…………」
「……風丸、なんかさっきからなんか変だぞ?」
「い、いやっ、何でもないが!!?」