寂しがり少女

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明奈
アキナ

時間が経つのはあっという間で。

本戦の舞台が整い、イナズマジャパンは日本を発つため空港に集まっていた。
空港には午前中空いていた明王さんと一緒に行って、イナズマジャパンと合流する前、明王さんが荷物を預けてくれるとのことで、じゃあもう先に集合場所に向かおうかなと歩いたが何故か辿り着かず。

「君日本代表の不動明奈ちゃんだよねー。こんな所で一人でどうしたの?」

「迷子?オレ達が選手達の所まで案内してあげよっか?」

「えっと…………」

何処にいるんだと首を傾げていると、見知らぬ男子達に話しかけられた。
思い出すのは雷雷軒に行こうとした時に話しかけられた事で……これはナンパ、なのか?いやでもあの人達よりは普通な対応だし、本当に案内してくれるだけなのでは?

「じゃあ……」

このままじゃ集合時間に間に合わないし、と素直に案内をお願いしようと顔を上げた瞬間、

視界を大きな背中が遮った。

「テメェら、うちの選手に何してんだ……?」

「ひっ、ひぃぃ……!」

「す、すみませんでしたぁ……!!」

その人の背中によって全く見えなかったけれど、威圧感たっぷりの声が聞こえたと思ったらバタバタと走り去っていく音が聞こえた。
体を横にずらして確認すれば、先程まで私に道案内しようとしてくれていた男子達はいなくなっていて、首を傾げながらも私は顔を上げ、自分を見つけてくれた人の名前を呼ぶ。

「染岡さん、案内しようとしてくれた人達は……?」

「は?……お前なぁぁ…………」

「え?」

その人、とは本戦に行く際に新しくイナズマジャパンに加入することが先日に決まった染岡さんだった。私の質問に彼は目を丸くして、それから何故か深いため息をついてしまう。

「………全然逃げきれてなかったけど、本当に大丈夫だったのかよ」

「逃げる……?」

「前に言ってただろ、お前を僻んで絡んでくる奴らから逃げてるって……」

「ああ……いや、さっきの人らは道案内をしてくれようとしただけで悪意は感じなかったので」

それは染岡さんには成り行きで話していた事についてで、彼はその心配から少し強引に止めてくれたんだろうと納得した。
そういった連中のやり方はもっと強引だし粗暴だ。……まぁ、最近はそういう絡まれ方はめっきり減ったけれど。韓国戦でチームの勝利に貢献できたからかな、と自惚れてみたり。

「悪意……確かに、そういうのはねぇよな…………」

「?」

私の言葉に何故か染岡さんは遠い目をしていた。まだ本戦会場にすら行ってないのに疲れてるように見えるな……。

「……じゃあお前、音無がああいった男達に話しかけられても平気なのかよ」

「は?んなのジャッジスルーするに決まってるでしょう……あいたっ!?」

合流先に連れていってくれる際に染岡さんにそう聞かれたので、私はともかく春奈に話しかけるとか下心しかないはずだと、速攻で否定をすれば何故か呆れ顔で頭を小突かれた。なんで?


「不動さん。新しい場所に来た時には明奈から目を離すなと伝えていたでしょう」

「アイツがふらふらどっか行くのが悪いんだろーが。首輪付けた方がいいんじゃねぇの?」

空港の少し広めの場所に見知った顔が見えて、私はほっと息をついた。何故か明王さんの方が先について、兄ちゃんと何か話していたけれど。……兄ちゃん何か怒ってる?

「鬼道。不動いたぞー」

明奈!」

染岡さんがそんな兄ちゃんに声を掛ければ、兄はハッとこっちを向いて早足で目の前まで来た。

「大丈夫か?何もなかったか?」

「うん、大丈夫だよ」

「嘘つけ、思いっきり絡まれてただろ」

「は?」

「だからあれは違いますって!」

何かと心配性な兄を安心させようと頷いたものの、隣の染岡さんに誤解を招くような事を言われて慌てて否定しようとするが、それより先にドンッと私の背中を押された。

「ま、これからは兄貴がいるから大丈夫だと思うけどよ」

「ああ……そうだな」

押された勢いで数歩先を歩けば兄にすんなりと受け止められた。顔を上げれば染岡さんの言葉に応えるように笑みを浮かべる兄がいて。

「……ありがとう、ございます」

「おう!」

……染岡さんにも心配かけてたんだなと思いながら軽く頭を下げて礼を言えば、親指を立てて笑ってくれた。


「……明王さんより先に向かったのに、明王さんのほうが先に辿り着いてるの何で?」

「お前が馬鹿だから」

「…………」

「ってぇな!無言で脛蹴んな!!」

それからもう一人の兄と合流するも、全然優しくなくて思わず蹴ってしまったのは不可抗力だと思う。

「たくっ、せっかく荷物運んでやったっつーのに……じゃあ、俺はそろそろ行くからな」

はぁと小さくため息をついてから明王さんは、携帯で時刻を確認しながらそう言った。

「え?見送ってくれないの?」

「午後から仕事なんだよ。テメェのために時間ずらして出勤してやったんだから感謝しろよな」

「うん、ありがとう」

「…………ッとに……テメェはよぉ……」

確かにいつもなら仕事中の時間帯だなと思い出して、素直に礼を言えば明王さんは僅かにたじろいだ様子で顔に手を当てていた。

……これは忍ちゃんから聞いた話なんだけど、明王さんはつんでれ、という人間らしい。
口や態度は悪いけれど、たまに優しくなったりするという明王さんにピッタリな言葉だなと納得した記憶がある。本人に言ったら怒られそうだから言わないけれど。

そして、本人からすれば意地悪な態度を取ったのに素直な反応されるとビックリするのが定石らしく……今の明王さんが正しくそれだ。

「明王さん照れてる?」

「あーうるせぇうるせぇ」

「うわわっ」

照れてる明王さんなんてなかなか見れるものじゃないなと顔を覗き込んでみようとするが、片手で顔を覆われて強制的に視界を遮られた。どんだけ見せたくないんだ……!

「やるなら勝てよ、明奈

ぱっと手を離された時には明王さんはいつもの表情に戻っていて、少し悔しい気持ちになりながらも、そう応援してくれる彼の言葉に応えるために私は頷いた。

「うん。優勝を手土産に帰ってくるよ。……明王兄さん」

明王さんって呼び方は、兄に対して少しだけ距離が遠いように感じて、新しい呼び方を初めて口にしてみた。
色々悩んだけれど、一番言いやすいと思ったから。

「……………ハッ」

恐る恐ると反応を見ていたけれど、明王さんは小さく笑ってそれから少し乱暴に私の髪を撫でて、そのまま出口の方に歩いて行った。

……笑みも私の髪を撫でる手も変わらなくて……何も言われなかったってことは、そう呼んでもいいのかな。

「相変わらず、素直じゃないなぁ」

なんて、呟いた声は我ながら嬉しさを隠しきれてなくて、思わず笑ってしまった。


+++

明王さんと別れてから春奈達マネージャーと合流して話している間、選手意外にも周りはいつぞやの祝勝会みたいに雷門サッカー部の人や選手の家族での見送りで賑わっていた。

その中で乃々美さんから弁当の差し入れをもらったり、虎丸くんのお母さんだったり夕香ちゃんが家政婦さんと一緒に来ていたので軽く挨拶をしたり、雷門サッカー部の二年であろう人達が風丸さんに一年の面倒を頼むなんて話している姿も見えた。

それから、その隣でキャプテンや兄ちゃんを中心として、イナズマジャパンの代表を降りる人、そして新しく加入している人達が話していた。

日本に残るのは負傷した吹雪さんと、緑川さん。
そして新たに加入するのは先ほど話した染岡さん。それと、佐久間さんだった。

残る人も、加入する人も全く知らない相手ではない。……けれど、別に私にとっては気軽に話すような間柄でもないしな……と遠目で彼らのやり取りを眺めていると、

「不動さん」

「えっ」

こっちこっちと柔らかい笑顔で手招きをするのは片腕で松葉杖をついて足を支えている吹雪さんだった。
思わず背後を見るけれど人は誰もいなくて……そもそも私の名前を呼んでるし自分を呼んでいることは間違いないだろう。

なんだろう、吹雪さんと言えば真・帝国の件で染岡さんを怪我させた時に挑発をしたことぐらいしか記憶にない。
……選手を怪我させるなとかの釘を刺されるのかと考えながら吹雪さんの近くまで歩く。未知数でちょっとだけ怖かったから結局兄ちゃんの隣に落ち着いたけれど。

「ナンパされてたらしいけれど大丈夫?」

「へ……?」

吹雪さんは開口一番小首を傾げながらそんな事を聞いてきた。想像していなかった質問にポカンとしてしまったけれど、慌ててこくこくと頷いた。

「だ、大丈夫です!別にあれもナンパとかじゃなくて道案内だったので……」

なんでそれぞれ別れを惜しむ話から私のナンパ(仮)話になったんだという気持ちはあれど、吹雪さんの表情は本当に自分を心配している顔だったので私は正直に答えた。
すぐに兄ちゃんの隣にいた染岡さんに違うだろ、とか言われているけれど聞き流しておいた。

「…………僕、不動さんとはあまり話をしていなかったから知らなかったけれど……うーん…………」

「な……何ですか?」

その言葉を聞いた吹雪さんは、ふと顎に指を置いてじっとこちらを見て何かを考え込んでいて、何を言われるんだと内心身構えていると。

「あんまり無防備だと、食べられちゃうから気を付けようね」

「ぶっ……!」

笑顔で告げる吹雪さんに兄ちゃんを含む大半の男子が吹き出した。
その中でキャプテンは「?どうしたみんな?」と不思議そうに周りを見回していて、基山さんもきょとんとしていた。

「?食べられる……?え、野生動物に襲われたりとか……?」

私も言葉の意味がいまいちよく分からない。
そこで本戦の場所が元々無人島だという噂を思い出してそんな可能性を指摘してみれば、吹雪さんは穏やかな笑みを浮かべて空いている手をこちらに向けた。

「まぁそうだね。狼がいるよ」

その手でがおー、とそんなジェスチャーをしたかとかと思えば、ぱくりと私の手を捕食……もとい握ってきた。

「なんてね」

「??………はぁ……?」

狼が出現するという話からなんで私は吹雪さんと手を繋いでいるんだ?と首を傾げていると。

「……そろそろやめとけ」

「あはは、ごめんごめん」

こつん、と染岡さんが吹雪さんの頭を軽く叩いた所で手が離された。

明奈。こっちだ」

そして兄に名前を呼ばれて腕を引っ張られて何故か背中で隠された。……なんで??

「うん、これには鬼道くんも過保護になっちゃうね」

「……分かっているならやめろ」

何とか見えた吹雪さんは楽しそうに笑いながら兄に話しかけていて、反対に兄ちゃんはどこか固い表情で疲れたようにため息をついていた。

「やっぱりうさぎの天敵は狼なのか………」

「頼むヒロト!今は黙っててくれ!これ以上話をややこしくするな!!」

その隣でポツリと納得したように呟く基山さんの肩を掴んで切実に訴える緑川さんもいた。……相変わらずうさぎが大好きなんだな基山さん。

「……狼もいるし、うさぎもいる島か…………」

吹雪さんと基山さんの話からそう結論付けて、随分うさぎは大変な場所で暮らしているなと同情していると、

「……お前…………」

「えっ……な、なんですかその顔は…………」

久々に会うことになった佐久間さんに何とも言えない微妙な顔で見られた。……あの時みたいに喧嘩にならないだけマシ、なのか??
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