寂しがり少女
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後半、オルフェウスのキックオフ。
だけど兄はデモーニオのあのシュートのせいか、再び影山のことで心乱され、それがプレーにも表れた。
間一髪でかわすスライディング、アルデナさんに通らないパス……見ていられなかった。
「チッ……」
こぼれたボールをビオレテに取られる前に取って、そのまま突破する。それから急いで周りを見て声を上げた。
「中盤は私が指示を出す!」
「「えっ!?」」
「いいからっ、私の指示通り動いて!!」
戸惑った声も聞こえたけれど、今は攻めなきゃいけない場面だ。そう強く言い捨て、ドリブルで攻め込んだ。
「今だっ!FW、左右に散って下さい!」
「えっ」
「不動!落ち着けっ!」
「いいから動けよっ!」
FW陣にも指示を出したのに、佐久間さんもフィディオさんも動けていなかった。
その結果、私だけが飛び出す形になってしまった。
「ちゃんと指示通り、動いて下さいよッ……!!」
何で動いてくれないんだ、と苛つきながら背後へと声を上げる。
ダメだ、私だけが焦っても連携が機能しないと意味がない……!
そう頭で分かっていても、後半戦で得点を入れないといけないというプレッシャーが私へとのしかかり思わず舌打ちを打つ。
「いきなり司令塔が変わっても、プレイヤーは混乱するだけだ」
「ッ!」
「ゲームメイクも二流品だな」
前から声がして、慌てて振り返ればデモーニオはすれ違い様にそう吐き捨て、私からボールを奪った。
「……なんで、そんな事言うの」
「…………何?」
動かずに呟いた私の言葉に、背後のデモーニオが足を止めて不審そうな声を上げる。私は振り返ってデモーニオと向き合いながら、右手を握った。
「私がサッカーを続けてこれたのは、デモーニオが私のサッカーを受け入れてくれたからなのに……!!」
アルデナさんに少しだけ話した内容のことだ。
デモーニオと友達になって、彼はサッカークラブの男子にバカにされて落ち込んでいる私に手を伸ばしてくれた。
―『男も女も関係ない、アキナはアキナだ。お前のサッカーはすごいんだから頑張れ!』
「…………」
私の言葉を聞いたデモーニオの肩が僅かに揺れるもすぐに平然を装って唇を一文字に結んだ。それでも私は一歩、デモーニオへと近づいて右手を握り込む。
「……そうやって笑いかけてくれた君が、こんなサッカーをするなんてやっぱりおかしい。影山に何をされたんだよ……!」
「……黙れ」
「デモーニオ!」
「………ッ、黙れッ!!」
私の声は、苛ただし気に怒号を上げるデモーニオに掻き消された。
「お前にッ、日本代表となったお前に俺の何が分かる!!?」
「ッ!?」
たまたま見えたゴーグル越しの瞳は私を強く睨んでいることだけが分かって、思わず呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
その間にもデモーニオは私から背を向けて走って行ってしまう。
デモーニオの目に宿っていたのは怒りだけじゃない。嫉妬とか、苦しさとか……負の感情を詰めたぐちゃぐちゃな色の瞳は、真帝国学園の時に鏡で見た自分の瞳とよく似ていた。
「これ以上は行かせない!」
デモーニオに立ち塞がったのはアルデナさんだった。
「君はフドウの友達じゃないのかい!?なのに、なんであんな酷い態度を……!」
「ハッ、他人の心配なんて余裕だな。イタリアの白い流星、フィディオ・アルデナ」
私を気に掛けてくれるアルデナさんだけど、デモーニオにはアルデナさんの通り名を出して鼻で笑うだけだ。
「俺はお前に憧れていたよ」
「何?」
「だが今は違う。俺達には力がある……世界と戦える力が!」
憧れ、なんて想像していなかった言葉なんだろう。
動揺をしたアルデナさんの隙を狙ってデモーニオは突破し、さらにオルフェウスのDF勢も抜き去った。
「お前を倒し、俺が世界を取る!」
そう高らかに宣言したデモーニオは再びキャプテンがいるゴール前へ。
「 “皇帝ペンギンX” !!」
そして再び、あの必殺技を放った。
「っ…………絶対……止めてみせる!」
“怒りの鉄槌” でボールを抑え込もうとするも、ボールは止められずキャプテンは体全体を使ってシュートを受け止めた。それでも勢いが止まらず、押し込まれそうになったキャプテンは地面に “真 熱血パンチ” を打ち込み、自身の体をゴールポストにぶつけることで、無理矢理シュートの軌道を逸らした。
“皇帝ペンギンX” を、必殺技を駆使することで止めることができていた。
「っ、ヘヘッ」
ほぼほぼ、力技といってもいい。そんな方法で止めた事で自チームの選手は安堵の表情を浮かべ、逆にチームKの面子は唖然としていた。
「みんな!ピンチは凌いだぞ!行こうぜ!!みんな反撃だ!」
さらに、キャプテンは誰かにボールを回さずに、ゴールキーパー自らがドリブルへ上がるという暴挙に出ていた。
GKでありながら、フィールドを走るキャプテンは過去の試合データを見ていた時に何度か見ていた。その時は呆れていたけれど、実際にフィールド上で見る彼の背中は……心強かった。
「佐久間!俺達も行くぞ!!」
「おう!」
キャプテンに感化されたのは兄ちゃんも同じだ。
それはプレーを見るだけでも明らかで。見慣れた笑みを浮かべた兄は完璧なゲームメイクでチームKの守備を突破した。
「兄ちゃん。よかった…………」
今の兄のサッカーはキャプテン達と作ってきたものだ。
精神的に揺さぶりをかけられ、影山に気を取られていたけれど、それを思い出した兄はもう、大丈夫だ。
だったらもう、やるべきことは一つ。
私はデモーニオを救いたい。そのためには、この試合を勝たなきゃいけない。
私一人じゃ、デモーニオに劣る。
だけど仲間と一緒なら……
「私にパスをください!」
「フドウ?……よし!」
ドリブルで上がるアルデナさんに迫る選手を見た私はそう声を上げれば、アルデナさんはパスをくれた。私はドリブルで立ち塞がるDFを抜いてフィディオさんにボールを回す。
「調子に乗るな!二流品共!!」
オルフェウスの噛み合う連携に、デモーニオは苛ただし気に声を上げ、ボールを持つアルデナさんへ激しいチャージを繰り返す。だけど……
「っ!?」
何故か途中、急にデモーニオの勢いがなくなった。その隙にアルデナさんは突破して、キャプテンにパスを出した。
「デモーニオ……?」
私は走りながら、振り返れば背後のデモーニオは呆然とした様子で芝生を見ていた。
「 “メガトンヘッド” !!」
そしてチームKのゴール前では、アルデナさんの中央からのヘディング。ゴールから外れたそれはシュートではない。サイドにいるキャプテンへのパスだった。
そして彼はリベロ時代に編み出したというヘディングシュート技でチームKから得点を奪った。
1-1の同点。反撃の兆しが見えたオルフェウスの選手達はベンチ外内問わず、喜びの声を上げていた。
それからチームKのキックオフで試合再開。
デモーニオに名を呼ばれたビオレテはすぐに彼へとボールを回した。だけど、ボールを取りに走る途中、デモーニオは先程のように足を止め、ボールはフィールドの外へと転がっていく。
そして、先程と同じように…………ゴーグルに手を当てていた。
「デモーニオ……?」
不審に思ったらしいチームKの選手が彼へと駆け寄った。
「ボール……ボールはどこだ!?」
「デモーニオ?」
「まさか、お前目が……!?」
ボールとは見当違いな方向を見て、ボールを探すデモーニオの姿に戸惑った様子のビオレテとビアンコ。
「目…………まさかッ!」
「拒絶反応が出たか」
視力が急激に悪くなる。そんな症状に対して、唯一の心当たりに私がチームK側のベンチを見るのと同時に影山が口を開いた。
「きょぜつ……はんのう…………」
デモーニオは声を震わせながら膝をついて崩れた。
影山はデモーニオに対し、鬼道有人を超える存在になれるような“強化プログラム”を与えたと告げた。
だけど彼の能力ではプログラムを開花させることはできず拒絶反応が出たとのことだ。
「……だから、まるで別人のようなサッカーを…………」
「影山……!!」
世宇子中の神のアクア、真帝国のエイリア石……それらのドーピングをしてきた影山は新しくプログラムまで生み出していたなんて思いもしなかった。…………私がいた時にはなかったはずだ。
チームK……いや、デモーニオのプレイスタイルの変化に何となく気づいていた。だけど、彼がそういうことに手を出すなんて信じられなくて、考えないようにしていた。
「大丈夫です……。まだ……やれます……」
「もうやめてよ、デモーニオ!あいつは、君を利用しているんだけなんだよ!?自分の野望のために!」
「構わないさ」
勝利のためなら選手が失明しようが関係ない。影山のそんな選択にさえも、デモーニオは尚も立ち上がって戦いを続けようとする。
なんとか止めようとするけれど、聞く耳を持ってくれないままデモーニオは口元は笑みを浮かべて私を見た。
「言ったはずだ。お前には分からないはずだ。俺達の思いなど……!」
「ッ……!」
ゴーグル越しの見えたデモーニオの瞳は先程よりもさらに強い意思が宿っていた。
そして、デモーニオが語るのは……彼らチームKの『夢』だった。
サッカーをする者として世界で戦い、世界一になることを夢見ていたデモーニオ達。だけど、世界に活躍できるのは代表として選ばれた選手だけ。
そう諦めていた彼らに力をくれたのは―他でもない影山だった。
「総帥は俺達に世界で戦える力をくれたんだ。その力の代償なら……フフッ……この程度の苦しみ耐えてみせる!」
その力が正しいものか正しくないものかなんて、今のデモーニオには関係ないのだろう。
彼はさらに口を大きく開けて笑った。
「俺は究極!俺こそ最強!誰も俺に勝つことなどできない!!」
どこか狂気じみた笑い声をあげるデモーニオ。その迫力に口を挟む人はいなかった。
「デモーニオ……」
代表に選ばれた自分が何を言っても聞こうとしない理由が分かった。
それに…………
「力、か……」
「似ている……。力を求めていた、あの頃の俺達に……」
あの姿には酷く見覚えがあって。真・帝国学園に入った佐久間さんだって同じ思いだったのだろう。
「それでも……私は…………」
私の言葉じゃ、何も響かない。
そう分かっても、視力を犠牲にしても、勝利を目指そうとするデモーニオの姿を見ていられなくて私は拳を握って歯を食いしばる。
デモーニオは、今のサッカー……楽しいのだろうか。
「……『アレ』をやるぞ。明奈」
「え?『アレ』を、ここで……?」
デモーニオを静かに見つめていた兄が口を開いた。
そして提案されたその案に思わず聞き返す。
「影山の野望を打ち砕くにはそれしかない」
「けどあの技はまだ未完成。上手くいく……?」
「できるさ」
久しぶりに聞いた自信に満ち溢れた声に私は驚いて兄を見る。
「オレ達が影山の作品でも人形でもなければな。それに……」
兄ちゃんはデモーニオを一瞥してから再び私の方を向いた。
「お前の友達の目も覚ますためにもな。オレ達らしい方法だろ?」
「!ふふっ、いいよ。見せつけてやろうじゃん」
そんな兄の顔を見て、単純だけどできるような気がして頷き合った。
―『言葉で伝わらないことも、ボールを通じて分かり合う。それがイナズマジャパンだろ?』
ああそうだ。キャプテンだってそう言ってたじゃないか。
兄ちゃんにだって、ボールを通じて本音を伝えられた。だったらデモーニオにも同じようにプレーで私の気持ちを伝えよう。
私は自分の右手を強く握って静かにそう意気込んだ。
だけど兄はデモーニオのあのシュートのせいか、再び影山のことで心乱され、それがプレーにも表れた。
間一髪でかわすスライディング、アルデナさんに通らないパス……見ていられなかった。
「チッ……」
こぼれたボールをビオレテに取られる前に取って、そのまま突破する。それから急いで周りを見て声を上げた。
「中盤は私が指示を出す!」
「「えっ!?」」
「いいからっ、私の指示通り動いて!!」
戸惑った声も聞こえたけれど、今は攻めなきゃいけない場面だ。そう強く言い捨て、ドリブルで攻め込んだ。
「今だっ!FW、左右に散って下さい!」
「えっ」
「不動!落ち着けっ!」
「いいから動けよっ!」
FW陣にも指示を出したのに、佐久間さんもフィディオさんも動けていなかった。
その結果、私だけが飛び出す形になってしまった。
「ちゃんと指示通り、動いて下さいよッ……!!」
何で動いてくれないんだ、と苛つきながら背後へと声を上げる。
ダメだ、私だけが焦っても連携が機能しないと意味がない……!
そう頭で分かっていても、後半戦で得点を入れないといけないというプレッシャーが私へとのしかかり思わず舌打ちを打つ。
「いきなり司令塔が変わっても、プレイヤーは混乱するだけだ」
「ッ!」
「ゲームメイクも二流品だな」
前から声がして、慌てて振り返ればデモーニオはすれ違い様にそう吐き捨て、私からボールを奪った。
「……なんで、そんな事言うの」
「…………何?」
動かずに呟いた私の言葉に、背後のデモーニオが足を止めて不審そうな声を上げる。私は振り返ってデモーニオと向き合いながら、右手を握った。
「私がサッカーを続けてこれたのは、デモーニオが私のサッカーを受け入れてくれたからなのに……!!」
アルデナさんに少しだけ話した内容のことだ。
デモーニオと友達になって、彼はサッカークラブの男子にバカにされて落ち込んでいる私に手を伸ばしてくれた。
―『男も女も関係ない、アキナはアキナだ。お前のサッカーはすごいんだから頑張れ!』
「…………」
私の言葉を聞いたデモーニオの肩が僅かに揺れるもすぐに平然を装って唇を一文字に結んだ。それでも私は一歩、デモーニオへと近づいて右手を握り込む。
「……そうやって笑いかけてくれた君が、こんなサッカーをするなんてやっぱりおかしい。影山に何をされたんだよ……!」
「……黙れ」
「デモーニオ!」
「………ッ、黙れッ!!」
私の声は、苛ただし気に怒号を上げるデモーニオに掻き消された。
「お前にッ、日本代表となったお前に俺の何が分かる!!?」
「ッ!?」
たまたま見えたゴーグル越しの瞳は私を強く睨んでいることだけが分かって、思わず呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
その間にもデモーニオは私から背を向けて走って行ってしまう。
デモーニオの目に宿っていたのは怒りだけじゃない。嫉妬とか、苦しさとか……負の感情を詰めたぐちゃぐちゃな色の瞳は、真帝国学園の時に鏡で見た自分の瞳とよく似ていた。
「これ以上は行かせない!」
デモーニオに立ち塞がったのはアルデナさんだった。
「君はフドウの友達じゃないのかい!?なのに、なんであんな酷い態度を……!」
「ハッ、他人の心配なんて余裕だな。イタリアの白い流星、フィディオ・アルデナ」
私を気に掛けてくれるアルデナさんだけど、デモーニオにはアルデナさんの通り名を出して鼻で笑うだけだ。
「俺はお前に憧れていたよ」
「何?」
「だが今は違う。俺達には力がある……世界と戦える力が!」
憧れ、なんて想像していなかった言葉なんだろう。
動揺をしたアルデナさんの隙を狙ってデモーニオは突破し、さらにオルフェウスのDF勢も抜き去った。
「お前を倒し、俺が世界を取る!」
そう高らかに宣言したデモーニオは再びキャプテンがいるゴール前へ。
「 “皇帝ペンギンX” !!」
そして再び、あの必殺技を放った。
「っ…………絶対……止めてみせる!」
“怒りの鉄槌” でボールを抑え込もうとするも、ボールは止められずキャプテンは体全体を使ってシュートを受け止めた。それでも勢いが止まらず、押し込まれそうになったキャプテンは地面に “真 熱血パンチ” を打ち込み、自身の体をゴールポストにぶつけることで、無理矢理シュートの軌道を逸らした。
“皇帝ペンギンX” を、必殺技を駆使することで止めることができていた。
「っ、ヘヘッ」
ほぼほぼ、力技といってもいい。そんな方法で止めた事で自チームの選手は安堵の表情を浮かべ、逆にチームKの面子は唖然としていた。
「みんな!ピンチは凌いだぞ!行こうぜ!!みんな反撃だ!」
さらに、キャプテンは誰かにボールを回さずに、ゴールキーパー自らがドリブルへ上がるという暴挙に出ていた。
GKでありながら、フィールドを走るキャプテンは過去の試合データを見ていた時に何度か見ていた。その時は呆れていたけれど、実際にフィールド上で見る彼の背中は……心強かった。
「佐久間!俺達も行くぞ!!」
「おう!」
キャプテンに感化されたのは兄ちゃんも同じだ。
それはプレーを見るだけでも明らかで。見慣れた笑みを浮かべた兄は完璧なゲームメイクでチームKの守備を突破した。
「兄ちゃん。よかった…………」
今の兄のサッカーはキャプテン達と作ってきたものだ。
精神的に揺さぶりをかけられ、影山に気を取られていたけれど、それを思い出した兄はもう、大丈夫だ。
だったらもう、やるべきことは一つ。
私はデモーニオを救いたい。そのためには、この試合を勝たなきゃいけない。
私一人じゃ、デモーニオに劣る。
だけど仲間と一緒なら……
「私にパスをください!」
「フドウ?……よし!」
ドリブルで上がるアルデナさんに迫る選手を見た私はそう声を上げれば、アルデナさんはパスをくれた。私はドリブルで立ち塞がるDFを抜いてフィディオさんにボールを回す。
「調子に乗るな!二流品共!!」
オルフェウスの噛み合う連携に、デモーニオは苛ただし気に声を上げ、ボールを持つアルデナさんへ激しいチャージを繰り返す。だけど……
「っ!?」
何故か途中、急にデモーニオの勢いがなくなった。その隙にアルデナさんは突破して、キャプテンにパスを出した。
「デモーニオ……?」
私は走りながら、振り返れば背後のデモーニオは呆然とした様子で芝生を見ていた。
「 “メガトンヘッド” !!」
そしてチームKのゴール前では、アルデナさんの中央からのヘディング。ゴールから外れたそれはシュートではない。サイドにいるキャプテンへのパスだった。
そして彼はリベロ時代に編み出したというヘディングシュート技でチームKから得点を奪った。
1-1の同点。反撃の兆しが見えたオルフェウスの選手達はベンチ外内問わず、喜びの声を上げていた。
それからチームKのキックオフで試合再開。
デモーニオに名を呼ばれたビオレテはすぐに彼へとボールを回した。だけど、ボールを取りに走る途中、デモーニオは先程のように足を止め、ボールはフィールドの外へと転がっていく。
そして、先程と同じように…………ゴーグルに手を当てていた。
「デモーニオ……?」
不審に思ったらしいチームKの選手が彼へと駆け寄った。
「ボール……ボールはどこだ!?」
「デモーニオ?」
「まさか、お前目が……!?」
ボールとは見当違いな方向を見て、ボールを探すデモーニオの姿に戸惑った様子のビオレテとビアンコ。
「目…………まさかッ!」
「拒絶反応が出たか」
視力が急激に悪くなる。そんな症状に対して、唯一の心当たりに私がチームK側のベンチを見るのと同時に影山が口を開いた。
「きょぜつ……はんのう…………」
デモーニオは声を震わせながら膝をついて崩れた。
影山はデモーニオに対し、鬼道有人を超える存在になれるような“強化プログラム”を与えたと告げた。
だけど彼の能力ではプログラムを開花させることはできず拒絶反応が出たとのことだ。
「……だから、まるで別人のようなサッカーを…………」
「影山……!!」
世宇子中の神のアクア、真帝国のエイリア石……それらのドーピングをしてきた影山は新しくプログラムまで生み出していたなんて思いもしなかった。…………私がいた時にはなかったはずだ。
チームK……いや、デモーニオのプレイスタイルの変化に何となく気づいていた。だけど、彼がそういうことに手を出すなんて信じられなくて、考えないようにしていた。
「大丈夫です……。まだ……やれます……」
「もうやめてよ、デモーニオ!あいつは、君を利用しているんだけなんだよ!?自分の野望のために!」
「構わないさ」
勝利のためなら選手が失明しようが関係ない。影山のそんな選択にさえも、デモーニオは尚も立ち上がって戦いを続けようとする。
なんとか止めようとするけれど、聞く耳を持ってくれないままデモーニオは口元は笑みを浮かべて私を見た。
「言ったはずだ。お前には分からないはずだ。俺達の思いなど……!」
「ッ……!」
ゴーグル越しの見えたデモーニオの瞳は先程よりもさらに強い意思が宿っていた。
そして、デモーニオが語るのは……彼らチームKの『夢』だった。
サッカーをする者として世界で戦い、世界一になることを夢見ていたデモーニオ達。だけど、世界に活躍できるのは代表として選ばれた選手だけ。
そう諦めていた彼らに力をくれたのは―他でもない影山だった。
「総帥は俺達に世界で戦える力をくれたんだ。その力の代償なら……フフッ……この程度の苦しみ耐えてみせる!」
その力が正しいものか正しくないものかなんて、今のデモーニオには関係ないのだろう。
彼はさらに口を大きく開けて笑った。
「俺は究極!俺こそ最強!誰も俺に勝つことなどできない!!」
どこか狂気じみた笑い声をあげるデモーニオ。その迫力に口を挟む人はいなかった。
「デモーニオ……」
代表に選ばれた自分が何を言っても聞こうとしない理由が分かった。
それに…………
「力、か……」
「似ている……。力を求めていた、あの頃の俺達に……」
あの姿には酷く見覚えがあって。真・帝国学園に入った佐久間さんだって同じ思いだったのだろう。
「それでも……私は…………」
私の言葉じゃ、何も響かない。
そう分かっても、視力を犠牲にしても、勝利を目指そうとするデモーニオの姿を見ていられなくて私は拳を握って歯を食いしばる。
デモーニオは、今のサッカー……楽しいのだろうか。
「……『アレ』をやるぞ。明奈」
「え?『アレ』を、ここで……?」
デモーニオを静かに見つめていた兄が口を開いた。
そして提案されたその案に思わず聞き返す。
「影山の野望を打ち砕くにはそれしかない」
「けどあの技はまだ未完成。上手くいく……?」
「できるさ」
久しぶりに聞いた自信に満ち溢れた声に私は驚いて兄を見る。
「オレ達が影山の作品でも人形でもなければな。それに……」
兄ちゃんはデモーニオを一瞥してから再び私の方を向いた。
「お前の友達の目も覚ますためにもな。オレ達らしい方法だろ?」
「!ふふっ、いいよ。見せつけてやろうじゃん」
そんな兄の顔を見て、単純だけどできるような気がして頷き合った。
―『言葉で伝わらないことも、ボールを通じて分かり合う。それがイナズマジャパンだろ?』
ああそうだ。キャプテンだってそう言ってたじゃないか。
兄ちゃんにだって、ボールを通じて本音を伝えられた。だったらデモーニオにも同じようにプレーで私の気持ちを伝えよう。
私は自分の右手を強く握って静かにそう意気込んだ。