寂しがり少女
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私がまだ影山の事を“お父さん”と呼び慕っていたころ、彼の都合でしばらくイタリアに滞在する時があった。
その期間私は、小学生用のイタリアのサッカークラブへと入った。施設内でする一人とは違う、同世代の子達とのサッカーに胸を躍らせるも、その気持ちはすぐに萎んで消えてしまった。
ハードな練習に音を上げた訳じゃない。むしろ練習量は一人でこなすよりも少なかった。
ただ『女子だから』という性別のせいで、クラブの男子達と圧倒的な壁が出来ていた。
毎日のように「女なんか足手まとい」と言われ、逆に少しでも活躍すれば「女のくせに」と嫌味を言われたい放題。
それでも、どこか納得している自分がいて強くは言い返せなかった。それはいずれ決定的なものになる力の差……私の限界はどれぐらいなんだろうと怯える日も少なくなかった。
この時の私はお父さんに捨てられないため、強くならないといけないのにと思っていた時期だから尚更だ。
一人になんて、なりたくない。
そんな思いで、練習終了後にも私は一人で人気のない裏路地の空き地でボールを蹴ることが増えた。
そんな時、声をかけられた。
『お前もサッカーするの?』
相手は自分と同じぐらいの背丈の男子だった。だけど、サッカークラブにはいなかった子。
それが、デモーニオ・ストラーダとの出会いだった。
+++
ああでも、最初は知らない子に話しかけられて怖くなって、すぐに逃げてしまったっけ。
それでも、彼は私が空き地に行けば絶対いてくれて、諦めずに話しかけてきてくれて……いつの間にか友達になっていた。
兄以外に私に手を伸ばしてくれた私の初めての友達。
そんな彼が、好き好んであの男の元に行く訳がない……!!
「答えろっ!影山っ!!」
「ずいぶん、面白い勘違いをしているな」
私が声を上げるも、何も話そうしない影山に近づこうと足を踏み出すも、聞き出したかった彼自身に遮られた。
「っ、デモーニオ」
出会った時よりも背丈が高くなったデモーニオは、ニヤリと口角を上げ腕を組んでいた。
そんな自信に満ち溢れたような表情を浮かべる彼の腕にはキャプテンマークが付けられていて。そんな姿はまるで帝国学園の時の兄を想起させるもので、重なりそうな記憶を振り払うように首を振って私は拳を握る。
「馬鹿なお前に一つ教えてやるよ。俺がこのチームに入ったのは……俺自身が望んだことだ」
この距離じゃゴーグル越しの目は見えなかったけれど、ハッキリとした口調で告げられた言葉に嘘は含まれてない。本心なんだと分かってしまった。
「……うそだ」
分かっているくせに、私は諦めきれなくてふるふると首を横に振る。
「この試合で証明してやるよ」
そんな私を可笑しそうに笑った彼は、私から背中を向けながら言い放つ。
「ッ待って、デモーニオ!」
翻るマントを目で追って、慌てて彼を引き留めるために手を伸ばしたもののパシンッとすぐに叩き落された。
「俺に触るな」
耳に残ったのは聞いたことのない、冷たい声だった。
まるで、自分の知らない人だった。
そこで私が再会を夢見てイメージしていたのは変わらない笑顔を浮かべてくれる彼だと気づいてしまう。
……兄妹のように彼だって変わっていないはずだ、という都合のいい思い込みでしかなかったのか、なんて。
「不動……大丈夫か?」
はっと顔を上げれば、キャプテンが心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいた。整列を終わらせてストレッチをしながらも意識が逸れていた自分を心配したんだろう。……相手チームのキャプテンに詰め寄っている姿を見ていただろうし尚更だ。
「……はい。大丈夫です」
とにかく今は試合に集中しないと。
目的が増えただけで、やる事は変わらないはずだ。
私は一度深呼吸をして、それから大きく頷いた。
+++
キャプテン同士のコイントスの結果、チームKのボールから試合が始まることになった。
「明奈」
ポジションにつく最中、兄ちゃんに話しかけられた。その顔つきはどこか神妙で、影山に対する動揺を無理矢理抑え込んでいるように見えた。
「あの男とは、知り合いなのか」
「……前に少し話したイタリアの友達だよ。会わない間に少し変わっちゃったけど」
デモーニオのことだとすぐに分かった。
会話で顔見知りだと察してはいそうだけど、私が話した姿と今の彼の姿は一致しないことからそんな確認をされて、私は思わず目を伏せる。
「デモーニオ…………」
友達、なんて言いながら彼と関わったのはとても短い期間だけだ。
彼に影山が何時、どうやって接触したかどうかすら見当もつかない。私の時のように真・帝国学園を設立する傍らに裏でチームを作り上げている可能性だってある。
手紙や電話のやり取りなんて、影山によって規制されていた当時の自分には考えられなかった事で、それがひたすら恨めしい。
もっと話す手段があれば影山が接触した際に、危険性を伝えられたのに。
「……すまない」
「えっ?」
意識が相手チーム側に向いていたせいで、突然兄か告げられた謝罪に私は呆気にとられた。
聞き返そうとしたものの、兄は何も言わずに私に背中を向けてそのままポジションの方へと歩いて行ってしまって置いて行かれた。
……デモーニオの事も放っておけないけれど兄も心配だ。
自分一人じゃままならない数々の問題に私はくしゃくしゃと髪を掻き乱しながらチームK側のベンチにいる元凶を睨みつけた。
それから始まったオルフェウス対チームKのイタリア代表決定戦。
試合開始のホイッスルが鳴れば、チームKはすぐにボールをデモーニオへと回し、兄ちゃんと対峙をした。
それからデモーニオは “真 イリュージョンボール” という兄と同じような必殺技を使って抜き去る。それだけでも驚いたのに、デモーニオのプレーを見てさらに呆気にとられた。
デモーニオ、いやチームKのプレーやフォーメーションは、映像データで見た兄ちゃんがまだキャプテンの頃の帝国イレブンの動きにそっくりだった。
日本代表側は見覚えのあるプレイスタイルに驚き、オルフェウス側はそんな動きに翻弄され、DFラインが崩れている。やっぱり半日程度の練習じゃ連携が上手くいかない。
「鬼道は影山の戦術を知っている!中盤を鬼道に任せてくれ!」
「エンドウ……。そうか、わかった!頼む、キドウ!」
「ああ!」
けど兄なら影山の戦術を知っている。キャプテンもそう思ったのだろう、アルデナさんへそう指示をすれば、彼は兄へとボールを回した。
「ロッソ、逆サイドへ!ベルディオは右だ!」
「アンジェロ!左から来るぞっ!アントン!右サイドだ!!」
中盤の指示を兄ちゃんが出して、ようやくこちら側のDFが機能しはじめる。
「佐久間!ロッソに付け!!」
「分かった!」
佐久間さんにも指示を飛ばし、兄はデモーニオを追いかけていく。
帝国イレブンの一員である佐久間さんは兄の戦術も熟知しているのんだろう。
一人を囮にしてDFを引き付け、その空きスペースにパスを通す戦術だといち早く見抜き、本命だろう選手のマークへと付く。
「もらった!」
だけど、相手は兄ちゃんじゃない。デモーニオだ。
それだけで終わるとは限らない。
「何っ!?」
「っ!?」
私の予想通り、デモーニオくんが蹴ったボールは佐久間さんがマークをしていたベルディオさえも囮として通り過ぎた。
佐久間さんと兄の驚愕に満ちた声を聞きながら私は、
「うおおおっ!!!」
「っ!?」
「明奈!?」
本命であるロゼオにボールが渡りそうになる前に、辿り着きボールを奪い取った。
「させるかっ」
「ッ……!」
それから前衛へとパスを出そうとしたけれど、ここまで来ていたデモーニオに軽々と奪われてしまった。
「ハッ。所詮お前はこの程度ということだ」
デモーニオは私を鼻で笑って、それから攻めるために走り出した。
中盤から私が駆け出していたのを見えていたのだろう。……兄ちゃんと同じような視野の広さだ。司令塔と呼ばれるだけある。
「明奈、持ち場から離れるなっ」
「……は?」
彼の言葉に歯を食いしばっていると、焦ったような兄の言葉に私は呆然とした。
離れるなって、ボールを奪わないと攻められるのにそんな悠長な事を…………まさか……ッ!
「フッ。私の手を離れたお前たちは、やはりこの程度。見るがいい。お前たちが知らぬ間に私の作品はここまで進化した。
鬼道より鋭く、鬼道より速く、鬼道より強い!これがデモーニオ・ストラーダだ!」
その間にも影山の語りと共に、ボールを持ったデモーニオがオルフェウスのディフェンス達を軒並み抜いていき、キャプテンと一対一の対決になっていた。
デモーニオのノーマルシュートをキャプテンは何とか止めるも、私の心配はそんな彼のプレイを見せつけられた兄の方へと向いていた。
その後、キャプテンがロングパスを出し、ボールを受け取った佐久間さんは兄ちゃんと一緒に上がろうとするも、途中兄は不自然に足を止めた。
一度は佐久間さんの叱責に目を覚ましたように見えたけど、再び足を止め立ち尽くしてしまう。
「っ佐久間さん!私にパスを下さい!」
「不動……!」
影山の存在に葛藤しているんだろう兄にいつものプレーができるかどうか分からない。だから私は兄の代わって上がろうと佐久間さんへと声を掛ければ、
「ダメだッ!」
他でもない、兄に止められた。
だけど、兄ちゃんの視線は私を見ていない。
手で頭を抑えて、立ち尽くしたままぶつぶつと何かを呟いている。
「お前をっ、明奈をまた、傷つける訳には……!!」
「ッ……!!」
ああやっぱり。
―『……すまない』
あの謝罪の真意は、私にボールを回す気はないという意思表示だったのだろう。私が影山によって傷つけられないように、守るための手段。
だからこそ私がデモーニオの戦術を暴くため、ボールへ触れた事に動揺をしていた。
そんな彼は自身が影山によって囚われそうになる中で、まだ私を守ろうとしてくれている。
真帝国の時も、アジア予選の時も彼の心配に対して苦しかったけれど、嬉しさも同じぐらいあった。
だけど、今の自分にとってそんな優しさは……。
「……ごめん」
私は手で顔半分を覆いながら俯いて、ぽつりと兄に対する謝罪をこぼした。といっても、今の彼には聞こえていないだろうけれど。
それから顔を隠していた手を振り払い、茫然自失の兄を睨みつけ、そして――
「いつまでも昔の事を引き摺ってんじゃねぇっ!!」
その期間私は、小学生用のイタリアのサッカークラブへと入った。施設内でする一人とは違う、同世代の子達とのサッカーに胸を躍らせるも、その気持ちはすぐに萎んで消えてしまった。
ハードな練習に音を上げた訳じゃない。むしろ練習量は一人でこなすよりも少なかった。
ただ『女子だから』という性別のせいで、クラブの男子達と圧倒的な壁が出来ていた。
毎日のように「女なんか足手まとい」と言われ、逆に少しでも活躍すれば「女のくせに」と嫌味を言われたい放題。
それでも、どこか納得している自分がいて強くは言い返せなかった。それはいずれ決定的なものになる力の差……私の限界はどれぐらいなんだろうと怯える日も少なくなかった。
この時の私はお父さんに捨てられないため、強くならないといけないのにと思っていた時期だから尚更だ。
一人になんて、なりたくない。
そんな思いで、練習終了後にも私は一人で人気のない裏路地の空き地でボールを蹴ることが増えた。
そんな時、声をかけられた。
『お前もサッカーするの?』
相手は自分と同じぐらいの背丈の男子だった。だけど、サッカークラブにはいなかった子。
それが、デモーニオ・ストラーダとの出会いだった。
+++
ああでも、最初は知らない子に話しかけられて怖くなって、すぐに逃げてしまったっけ。
それでも、彼は私が空き地に行けば絶対いてくれて、諦めずに話しかけてきてくれて……いつの間にか友達になっていた。
兄以外に私に手を伸ばしてくれた私の初めての友達。
そんな彼が、好き好んであの男の元に行く訳がない……!!
「答えろっ!影山っ!!」
「ずいぶん、面白い勘違いをしているな」
私が声を上げるも、何も話そうしない影山に近づこうと足を踏み出すも、聞き出したかった彼自身に遮られた。
「っ、デモーニオ」
出会った時よりも背丈が高くなったデモーニオは、ニヤリと口角を上げ腕を組んでいた。
そんな自信に満ち溢れたような表情を浮かべる彼の腕にはキャプテンマークが付けられていて。そんな姿はまるで帝国学園の時の兄を想起させるもので、重なりそうな記憶を振り払うように首を振って私は拳を握る。
「馬鹿なお前に一つ教えてやるよ。俺がこのチームに入ったのは……俺自身が望んだことだ」
この距離じゃゴーグル越しの目は見えなかったけれど、ハッキリとした口調で告げられた言葉に嘘は含まれてない。本心なんだと分かってしまった。
「……うそだ」
分かっているくせに、私は諦めきれなくてふるふると首を横に振る。
「この試合で証明してやるよ」
そんな私を可笑しそうに笑った彼は、私から背中を向けながら言い放つ。
「ッ待って、デモーニオ!」
翻るマントを目で追って、慌てて彼を引き留めるために手を伸ばしたもののパシンッとすぐに叩き落された。
「俺に触るな」
耳に残ったのは聞いたことのない、冷たい声だった。
まるで、自分の知らない人だった。
そこで私が再会を夢見てイメージしていたのは変わらない笑顔を浮かべてくれる彼だと気づいてしまう。
……兄妹のように彼だって変わっていないはずだ、という都合のいい思い込みでしかなかったのか、なんて。
「不動……大丈夫か?」
はっと顔を上げれば、キャプテンが心配そうな表情で私の顔を覗き込んでいた。整列を終わらせてストレッチをしながらも意識が逸れていた自分を心配したんだろう。……相手チームのキャプテンに詰め寄っている姿を見ていただろうし尚更だ。
「……はい。大丈夫です」
とにかく今は試合に集中しないと。
目的が増えただけで、やる事は変わらないはずだ。
私は一度深呼吸をして、それから大きく頷いた。
+++
キャプテン同士のコイントスの結果、チームKのボールから試合が始まることになった。
「明奈」
ポジションにつく最中、兄ちゃんに話しかけられた。その顔つきはどこか神妙で、影山に対する動揺を無理矢理抑え込んでいるように見えた。
「あの男とは、知り合いなのか」
「……前に少し話したイタリアの友達だよ。会わない間に少し変わっちゃったけど」
デモーニオのことだとすぐに分かった。
会話で顔見知りだと察してはいそうだけど、私が話した姿と今の彼の姿は一致しないことからそんな確認をされて、私は思わず目を伏せる。
「デモーニオ…………」
友達、なんて言いながら彼と関わったのはとても短い期間だけだ。
彼に影山が何時、どうやって接触したかどうかすら見当もつかない。私の時のように真・帝国学園を設立する傍らに裏でチームを作り上げている可能性だってある。
手紙や電話のやり取りなんて、影山によって規制されていた当時の自分には考えられなかった事で、それがひたすら恨めしい。
もっと話す手段があれば影山が接触した際に、危険性を伝えられたのに。
「……すまない」
「えっ?」
意識が相手チーム側に向いていたせいで、突然兄か告げられた謝罪に私は呆気にとられた。
聞き返そうとしたものの、兄は何も言わずに私に背中を向けてそのままポジションの方へと歩いて行ってしまって置いて行かれた。
……デモーニオの事も放っておけないけれど兄も心配だ。
自分一人じゃままならない数々の問題に私はくしゃくしゃと髪を掻き乱しながらチームK側のベンチにいる元凶を睨みつけた。
それから始まったオルフェウス対チームKのイタリア代表決定戦。
試合開始のホイッスルが鳴れば、チームKはすぐにボールをデモーニオへと回し、兄ちゃんと対峙をした。
それからデモーニオは “真 イリュージョンボール” という兄と同じような必殺技を使って抜き去る。それだけでも驚いたのに、デモーニオのプレーを見てさらに呆気にとられた。
デモーニオ、いやチームKのプレーやフォーメーションは、映像データで見た兄ちゃんがまだキャプテンの頃の帝国イレブンの動きにそっくりだった。
日本代表側は見覚えのあるプレイスタイルに驚き、オルフェウス側はそんな動きに翻弄され、DFラインが崩れている。やっぱり半日程度の練習じゃ連携が上手くいかない。
「鬼道は影山の戦術を知っている!中盤を鬼道に任せてくれ!」
「エンドウ……。そうか、わかった!頼む、キドウ!」
「ああ!」
けど兄なら影山の戦術を知っている。キャプテンもそう思ったのだろう、アルデナさんへそう指示をすれば、彼は兄へとボールを回した。
「ロッソ、逆サイドへ!ベルディオは右だ!」
「アンジェロ!左から来るぞっ!アントン!右サイドだ!!」
中盤の指示を兄ちゃんが出して、ようやくこちら側のDFが機能しはじめる。
「佐久間!ロッソに付け!!」
「分かった!」
佐久間さんにも指示を飛ばし、兄はデモーニオを追いかけていく。
帝国イレブンの一員である佐久間さんは兄の戦術も熟知しているのんだろう。
一人を囮にしてDFを引き付け、その空きスペースにパスを通す戦術だといち早く見抜き、本命だろう選手のマークへと付く。
「もらった!」
だけど、相手は兄ちゃんじゃない。デモーニオだ。
それだけで終わるとは限らない。
「何っ!?」
「っ!?」
私の予想通り、デモーニオくんが蹴ったボールは佐久間さんがマークをしていたベルディオさえも囮として通り過ぎた。
佐久間さんと兄の驚愕に満ちた声を聞きながら私は、
「うおおおっ!!!」
「っ!?」
「明奈!?」
本命であるロゼオにボールが渡りそうになる前に、辿り着きボールを奪い取った。
「させるかっ」
「ッ……!」
それから前衛へとパスを出そうとしたけれど、ここまで来ていたデモーニオに軽々と奪われてしまった。
「ハッ。所詮お前はこの程度ということだ」
デモーニオは私を鼻で笑って、それから攻めるために走り出した。
中盤から私が駆け出していたのを見えていたのだろう。……兄ちゃんと同じような視野の広さだ。司令塔と呼ばれるだけある。
「明奈、持ち場から離れるなっ」
「……は?」
彼の言葉に歯を食いしばっていると、焦ったような兄の言葉に私は呆然とした。
離れるなって、ボールを奪わないと攻められるのにそんな悠長な事を…………まさか……ッ!
「フッ。私の手を離れたお前たちは、やはりこの程度。見るがいい。お前たちが知らぬ間に私の作品はここまで進化した。
鬼道より鋭く、鬼道より速く、鬼道より強い!これがデモーニオ・ストラーダだ!」
その間にも影山の語りと共に、ボールを持ったデモーニオがオルフェウスのディフェンス達を軒並み抜いていき、キャプテンと一対一の対決になっていた。
デモーニオのノーマルシュートをキャプテンは何とか止めるも、私の心配はそんな彼のプレイを見せつけられた兄の方へと向いていた。
その後、キャプテンがロングパスを出し、ボールを受け取った佐久間さんは兄ちゃんと一緒に上がろうとするも、途中兄は不自然に足を止めた。
一度は佐久間さんの叱責に目を覚ましたように見えたけど、再び足を止め立ち尽くしてしまう。
「っ佐久間さん!私にパスを下さい!」
「不動……!」
影山の存在に葛藤しているんだろう兄にいつものプレーができるかどうか分からない。だから私は兄の代わって上がろうと佐久間さんへと声を掛ければ、
「ダメだッ!」
他でもない、兄に止められた。
だけど、兄ちゃんの視線は私を見ていない。
手で頭を抑えて、立ち尽くしたままぶつぶつと何かを呟いている。
「お前をっ、明奈をまた、傷つける訳には……!!」
「ッ……!!」
ああやっぱり。
―『……すまない』
あの謝罪の真意は、私にボールを回す気はないという意思表示だったのだろう。私が影山によって傷つけられないように、守るための手段。
だからこそ私がデモーニオの戦術を暴くため、ボールへ触れた事に動揺をしていた。
そんな彼は自身が影山によって囚われそうになる中で、まだ私を守ろうとしてくれている。
真帝国の時も、アジア予選の時も彼の心配に対して苦しかったけれど、嬉しさも同じぐらいあった。
だけど、今の自分にとってそんな優しさは……。
「……ごめん」
私は手で顔半分を覆いながら俯いて、ぽつりと兄に対する謝罪をこぼした。といっても、今の彼には聞こえていないだろうけれど。
それから顔を隠していた手を振り払い、茫然自失の兄を睨みつけ、そして――
「いつまでも昔の事を引き摺ってんじゃねぇっ!!」