寂しがり少女
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それから、しばらくイタリアエリアを歩くも影山についての情報は得られない。
「……イタリア代表の人達だ」
「ん?あ、フィディオ!」
その中で見覚えのあるユニフォームを来た人達を見つければ、円堂さんはイタリア代表のキャプテンであるフィディオ・アルデナの名を上げた。……いつの間にか顔見知りになったらしい。
「フィディオなら何か知ってるかな……オレ、ちょっと聞いてくる!」
「ああ……ッ!待て、円堂!!」
イタリアエリアについて詳しいだろうと駆けだそうする円堂さんに兄ちゃんは頷いたが、すぐに円堂さんを引き留めた。
そんな兄を見て私もすぐにイタリア代表がいる場所の異変に気づいた。
建物にもたれるように置いてあった木材のロープが突然切れ、その一つが傍にいたアルデナさんに向けて倒れようとしていた。
けれど真っ先に動いた兄ちゃんがイタリア代表の選手の持っていたボールを奪い、木材へと蹴り込んだことでアルデナさんは怪我一つなくその場で立ち尽くしていた。
アルデナさんは兄に対して、自分を助けてくれた事へと感謝と技術に対する賞賛の言葉を送るが兄ちゃんの表情は険しいままだ。
それはアルデナさんに対してではない。この一連の事件に対するものだ。
その一件を見過ごせずに私達はとある橋の上へと移動して、改めてアルデナさんからの話を聞くことなった。
彼の話では突然監督が辞めて、ミスターKという男が就任したらしい。また、彼はそれに伴い選手も一新するといった。そのチームの名前は『チームK』
当然反対したオルフェウスの選手達にミスターKは明日、代表決定戦をすると告げたらしい。
宿舎のグラウンドは彼らのチームが使用するらしく、オルフェウスは代わりの練習場を探していた所8人の負傷者が出たとのことだ。
「同じチームのメンバーが続けて事故で怪我……偶然にしてはできすぎている。もし誰かが意図的に仕組んでいるとしたら……」
「どういうことだ!?」
「チームKを代表にするため」
「まさか、ミスターKが!?代表の監督がそんなことするわけない!」
「オレはそういう男を知っている」
「えっ?」
「影山零治――昔、俺たちの監督だった男さ」
その状況に兄ちゃんは顎の下に手を置きながら考えを伝えれば、アルデナさんは大きく動揺をする。監督が選手に被害を与えるなんて……普通じゃ考えつかないだろう。
だけど、兄ちゃんから影山の悪行を聞けば、アルデナさんは顔を俯かせながら深刻な表情を浮かべた。
ミスターKと影山。
戦わずにして勝利を掴もうとする卑怯な戦い方があまりに酷似していて。
「まさかッ……!そんなバカな……!」
同一人物ではないか、という疑念を抱くには充分だろう。
……兄がイタリアエリアにいく事を決断していた辺り、そもそも影山と接触していたのかもしれない。
「鬼道?」
「考えすぎだ、鬼道。ミスターKが影山なんてことあるはずがない」
「……そうだな。すまない、忘れてくれ」
息を詰まらせる兄に円堂さんが声を掛け、佐久間さんは兄を落ち着かせるために肩に手を置けば、兄ちゃんは軽く首を横に振って冷静さを取り戻した。
その後、話はイタリア代表決定戦へと変わった。控えどころかスタメンすらも足りない状態のオルフェウス。
そんな話を聞いた円堂さんは考え込んだかと思えば……
「そうだ!オレたちがフィディオのチームに入ればいいんだ!」
「えっ?」
オルフェウスのメンバーの代わりを自分達が務めようという提案をしてきた。
確かにオルフェウスが試合に挑めるメンバーはたったの7人。私達4人が入ればその穴も埋まるだろう。公式戦でもないから日本代表が入ってもルール違反ではない。
だけど……。
「申し訳ございませんが、私は無理です」
最初に私は頭を下げながら断った。
確かにミスターKの事は気になるし、オルフェウスも災難だなとは思うけれど、やはり優先順位というものがある。
それは兄や佐久間さんも同じで、影山の事で手一杯だと断っていた。
円堂さんは納得してなさそうだったけど、アルデナさんも自分達の力でどうにかすると告げられたので大人しく別れることになった。
+++
「ここからは手分けして探そう。オレはこっちを探す」
昼過ぎぐらいには分かれて探索をすることになった。大通りの十字通りで円堂さんは一方向を指差しそのまま歩いて行けばそれぞれも道を分けて歩くことになった。
兄も個人行動するらしく、気を付けろよと言われた後に別れてから、数十分。
人が多い街の中だったり、逆に人が少ない殺風景な裏路地など。とにかくイタリアエリアを歩き回ったものの手掛かりらしい手掛かりは何一つ得られずに時間ばかりが過ぎていく。
「お父さーん!」
「こらこら、走ったら危ないよ」
ふと、大通りにある噴水近くでは一組の親子の姿が見えた。父親に飛びつくために手を大きく広げて駆け出す娘と、注意をしながらも応えるように手を広げておおらかな笑みを浮かべている父親。
程なくして女の子は目的通り、胸へと飛び込めば父親はひょいっと簡単に抱き上げて笑顔で何か話していた。
「…………」
そんな仲睦まじい親子の姿を見て、私は咄嗟に帽子を深く被ってその場から背を向けた。
父親、という存在に私が思い浮かべるのは不動家の親だ。
だけどそれと一緒に頭に浮かんだあの人の姿が信じられなくて、一秒でも早く忘れたくて自然と足取りが早くなってしまっていた。
そんな風に俯きながら歩いていたせいで、ドンッとすれ違い様に通行人と肩をぶつけてしまった。強い力にバランスが崩れるが何とか転ばずに慌てて顔を上げる。
そして今更ながらに自分がずいぶんと人気がない通りに来てしまっていた事を知った。
「っ……すみません」
「…………」
肩を触りつつぶつかった人へと軽く謝罪をするが、その相手は何も言わずにさっさと歩いて行く。それだけなら自分の前後不覚による事故だと終わらせられた(相手の態度は良くはないけれど、変に絡まれるよりはずっとマシだ)
だけど、その人の姿を見て私は違和感を抱いた。
ぶつかったのは男だった。そしてその人は水色髪の頭に臙脂 色のターバンを巻いていて、首から下は真っ黒なローブを羽織るという不思議な格好をしていた。とてもじゃないがただの観光客とは思えない。
だけど、その違和感の正体を掴む前にいつの間にか視界が広くなっている事に気づいた。
ぶつかった際に、帽子を落としてしまったんだと遅れて気づいて、探そうと目線を落とそうとした時だった。
「帽子を落としましたよ」
いつの間にか正面に影が差し、別の声が聞こえた。
顔を上げれば銀髪の片目を髪で隠した男子が私の帽子を拾い上げている所だった。
「どうぞ」
「…………」
銀髪の男子は目を閉じているものの浮かべている笑みは柔らかく、帽子を差し出す姿なんて傍から見れば親切な好青年そのものだろう。私は帽子を手放したくない思いで、受け取ろうと手を伸ばした。
その人も首にさっきぶつかった人と “同じ色” のスカーフを首に巻いている事を分かりながら。
それが駄目だった。
「はじめまして、フドウアキナさん」
目の前の銀髪の人は私が帽子を受け取るのを待たずに帽子を手放したかと思えば、私の手首を掴んだ。
ばさりと、帽子が再び床へと落ちる。
「……チッ!」
「おっと」
だけどそれを気にする余裕はなかった。
私は咄嗟に足を振り上げれば手は離れたものの肝心の蹴りは簡単に避けられ、余裕の笑みを浮かべている。
「動くな」
それでも距離は離せたのだから逃げるべきだ、と直感任せに走りだそうとした矢先に背後から両腕を掴まれ、後ろ手に回された。
「っ……離せッ!」
振り返ればそこにはさっき私とぶつかった人が見下ろしていた。腕を振り払おうとすればするほど力を込められる。
腕を折るのも厭わない。そんな力の入れ方に私は歯を食いしばりながらも何とか抵抗をやめた。
「……誰だよ、テメェら」
「ふふっ、お転婆なお嬢さんだ」
できることといえば、目の前にいる銀髪の男を睨みつけるぐらいで、彼は何が楽しいのか静かに笑みを浮かべる。
帽子を差し出した時と全く同じ笑みで、気味が悪い。
「この様子を見るに、連絡手段は持っていないようですね」
「なんて無防備な……それでもあの男の娘か?」
「そうですね……あの方に伏せるほどです。…………きっと箱の中で大事に大事に育てられたのでしょう」
背後の奴と銀髪の奴が話しているのは自分の事だと察したが、その内容が分からない。それにこれ以上彼らとコミュニケーションを取っている暇もない。
……アジア予選の時にも私の態度も相まって日本代表を夢見てた選手や、単純に女子選手を疎ましく思う野次馬に絡まれる場面はあった。
悪意に関して察しは良かったから警戒もしてきたし、大事にならないように手を回していた。
だけど、目の前の彼らから悪意を感じ取れなかった。…………隠すのが得意なのか、この行動を悪だと思っていないのか。今のところ図りかねない。
そもそも彼らは“何”だ?
私を捕まえる理由は何だ?
私を、どうするつもりだ?
……いずれにせよ、帽子に思い出があることから優先させてしまった自分のミスだ。どうにか自分自身で解決しないと。
「では行きましょうか。アキナさん」
私が打開策を考え込むのを割り込むように、銀髪の男が近づいてきたので頭突きを喰らわそうとしたものの、その前にそいつの手が私の頬を撫でる。
「ッ……!」
知らない怪しげな人間に触られ、ぞわぞわと駆け巡る不快感は言葉に言い表せなくて。
けれど、こんなやつらの前で弱みを出したらいけないという意地だけで、前が駄目なら、と私を引きずろうとする背後の男を横目で見つつ短く息を吸った。
「触んなっつってんだろうがッ!!」
「ガッ……!」
前の奴には当たらなかった頭突きを背後の男に思いっきりぶつければ、腕の拘束がようやく解かれる。
「こいつ……!」
だけど、相手の立ち直りも早い。
すぐにこちらに手を伸ばしてくる姿が見え、私は抵抗しようと構える。
その時だった。
シュウウウ……!!!
風の切る音が聞こえたと同時に全く別の方向から鋭いシュートが飛んできたのは。
「っなんだ!?」
そのサッカーボールは私と対峙していた男に当たりそうになったものの、寸での所で避ける。
私が見たのはここまでだった。
いきなり目の前が真っ暗になったから。
「っえ!?」
何を被らされた?目隠し?もう一人の銀髪の男の仕業か?
慌てて外そうと手を動かしたものの、すかさずその手を掴まれた感覚がしたかと思えば、思いっきり引っ張られた。
「…………」
「っ!?……わっ!?ちょっと……!!」
私が前を見えてないのにお構いなく進み続けられ、足が縺 れそうになりながらも転ばずに進めば突然手が離され、その場でたたらを踏んだ。
「!……ととっ」
その時に、頭上から落ちてきた帽子を慌ててキャッチした所で自分の視界が晴れていることに気づいた。暗くなったのは、帽子を深く被らされていたからか。
「っ……!」
ハッと改めて周りを見回す。
スカーフを巻いた男連中はもちろん、私の腕を引っ張ったであろう人物の姿も見当たらない。
ただイタリアエリアの住人が歩いている大通りに私は呆然と立ち尽くししていた。
「いまの……」
それから繋がれた右手を、ぼんやりと見ていると。
「……う!不動っ!!」
視界の端にちらりと銀髪が映った。
「!」
一瞬さっきの奴らが来たのかと慌てて顔を仰け反らすも拳を握るも、その銀髪は見知った顔のものだと分かり、手の力が抜ける。
「そんなところに立ち尽くしてどうした……?」
「……さくま、さん…………」
その人はついさっき別れたばかりのイナズマジャパンの一人である佐久間さんで。驚いたように目を丸くしながらこっちを見ていた。
「……イタリア代表の人達だ」
「ん?あ、フィディオ!」
その中で見覚えのあるユニフォームを来た人達を見つければ、円堂さんはイタリア代表のキャプテンであるフィディオ・アルデナの名を上げた。……いつの間にか顔見知りになったらしい。
「フィディオなら何か知ってるかな……オレ、ちょっと聞いてくる!」
「ああ……ッ!待て、円堂!!」
イタリアエリアについて詳しいだろうと駆けだそうする円堂さんに兄ちゃんは頷いたが、すぐに円堂さんを引き留めた。
そんな兄を見て私もすぐにイタリア代表がいる場所の異変に気づいた。
建物にもたれるように置いてあった木材のロープが突然切れ、その一つが傍にいたアルデナさんに向けて倒れようとしていた。
けれど真っ先に動いた兄ちゃんがイタリア代表の選手の持っていたボールを奪い、木材へと蹴り込んだことでアルデナさんは怪我一つなくその場で立ち尽くしていた。
アルデナさんは兄に対して、自分を助けてくれた事へと感謝と技術に対する賞賛の言葉を送るが兄ちゃんの表情は険しいままだ。
それはアルデナさんに対してではない。この一連の事件に対するものだ。
その一件を見過ごせずに私達はとある橋の上へと移動して、改めてアルデナさんからの話を聞くことなった。
彼の話では突然監督が辞めて、ミスターKという男が就任したらしい。また、彼はそれに伴い選手も一新するといった。そのチームの名前は『チームK』
当然反対したオルフェウスの選手達にミスターKは明日、代表決定戦をすると告げたらしい。
宿舎のグラウンドは彼らのチームが使用するらしく、オルフェウスは代わりの練習場を探していた所8人の負傷者が出たとのことだ。
「同じチームのメンバーが続けて事故で怪我……偶然にしてはできすぎている。もし誰かが意図的に仕組んでいるとしたら……」
「どういうことだ!?」
「チームKを代表にするため」
「まさか、ミスターKが!?代表の監督がそんなことするわけない!」
「オレはそういう男を知っている」
「えっ?」
「影山零治――昔、俺たちの監督だった男さ」
その状況に兄ちゃんは顎の下に手を置きながら考えを伝えれば、アルデナさんは大きく動揺をする。監督が選手に被害を与えるなんて……普通じゃ考えつかないだろう。
だけど、兄ちゃんから影山の悪行を聞けば、アルデナさんは顔を俯かせながら深刻な表情を浮かべた。
ミスターKと影山。
戦わずにして勝利を掴もうとする卑怯な戦い方があまりに酷似していて。
「まさかッ……!そんなバカな……!」
同一人物ではないか、という疑念を抱くには充分だろう。
……兄がイタリアエリアにいく事を決断していた辺り、そもそも影山と接触していたのかもしれない。
「鬼道?」
「考えすぎだ、鬼道。ミスターKが影山なんてことあるはずがない」
「……そうだな。すまない、忘れてくれ」
息を詰まらせる兄に円堂さんが声を掛け、佐久間さんは兄を落ち着かせるために肩に手を置けば、兄ちゃんは軽く首を横に振って冷静さを取り戻した。
その後、話はイタリア代表決定戦へと変わった。控えどころかスタメンすらも足りない状態のオルフェウス。
そんな話を聞いた円堂さんは考え込んだかと思えば……
「そうだ!オレたちがフィディオのチームに入ればいいんだ!」
「えっ?」
オルフェウスのメンバーの代わりを自分達が務めようという提案をしてきた。
確かにオルフェウスが試合に挑めるメンバーはたったの7人。私達4人が入ればその穴も埋まるだろう。公式戦でもないから日本代表が入ってもルール違反ではない。
だけど……。
「申し訳ございませんが、私は無理です」
最初に私は頭を下げながら断った。
確かにミスターKの事は気になるし、オルフェウスも災難だなとは思うけれど、やはり優先順位というものがある。
それは兄や佐久間さんも同じで、影山の事で手一杯だと断っていた。
円堂さんは納得してなさそうだったけど、アルデナさんも自分達の力でどうにかすると告げられたので大人しく別れることになった。
+++
「ここからは手分けして探そう。オレはこっちを探す」
昼過ぎぐらいには分かれて探索をすることになった。大通りの十字通りで円堂さんは一方向を指差しそのまま歩いて行けばそれぞれも道を分けて歩くことになった。
兄も個人行動するらしく、気を付けろよと言われた後に別れてから、数十分。
人が多い街の中だったり、逆に人が少ない殺風景な裏路地など。とにかくイタリアエリアを歩き回ったものの手掛かりらしい手掛かりは何一つ得られずに時間ばかりが過ぎていく。
「お父さーん!」
「こらこら、走ったら危ないよ」
ふと、大通りにある噴水近くでは一組の親子の姿が見えた。父親に飛びつくために手を大きく広げて駆け出す娘と、注意をしながらも応えるように手を広げておおらかな笑みを浮かべている父親。
程なくして女の子は目的通り、胸へと飛び込めば父親はひょいっと簡単に抱き上げて笑顔で何か話していた。
「…………」
そんな仲睦まじい親子の姿を見て、私は咄嗟に帽子を深く被ってその場から背を向けた。
父親、という存在に私が思い浮かべるのは不動家の親だ。
だけどそれと一緒に頭に浮かんだあの人の姿が信じられなくて、一秒でも早く忘れたくて自然と足取りが早くなってしまっていた。
そんな風に俯きながら歩いていたせいで、ドンッとすれ違い様に通行人と肩をぶつけてしまった。強い力にバランスが崩れるが何とか転ばずに慌てて顔を上げる。
そして今更ながらに自分がずいぶんと人気がない通りに来てしまっていた事を知った。
「っ……すみません」
「…………」
肩を触りつつぶつかった人へと軽く謝罪をするが、その相手は何も言わずにさっさと歩いて行く。それだけなら自分の前後不覚による事故だと終わらせられた(相手の態度は良くはないけれど、変に絡まれるよりはずっとマシだ)
だけど、その人の姿を見て私は違和感を抱いた。
ぶつかったのは男だった。そしてその人は水色髪の頭に
だけど、その違和感の正体を掴む前にいつの間にか視界が広くなっている事に気づいた。
ぶつかった際に、帽子を落としてしまったんだと遅れて気づいて、探そうと目線を落とそうとした時だった。
「帽子を落としましたよ」
いつの間にか正面に影が差し、別の声が聞こえた。
顔を上げれば銀髪の片目を髪で隠した男子が私の帽子を拾い上げている所だった。
「どうぞ」
「…………」
銀髪の男子は目を閉じているものの浮かべている笑みは柔らかく、帽子を差し出す姿なんて傍から見れば親切な好青年そのものだろう。私は帽子を手放したくない思いで、受け取ろうと手を伸ばした。
その人も首にさっきぶつかった人と “同じ色” のスカーフを首に巻いている事を分かりながら。
それが駄目だった。
「はじめまして、フドウアキナさん」
目の前の銀髪の人は私が帽子を受け取るのを待たずに帽子を手放したかと思えば、私の手首を掴んだ。
ばさりと、帽子が再び床へと落ちる。
「……チッ!」
「おっと」
だけどそれを気にする余裕はなかった。
私は咄嗟に足を振り上げれば手は離れたものの肝心の蹴りは簡単に避けられ、余裕の笑みを浮かべている。
「動くな」
それでも距離は離せたのだから逃げるべきだ、と直感任せに走りだそうとした矢先に背後から両腕を掴まれ、後ろ手に回された。
「っ……離せッ!」
振り返ればそこにはさっき私とぶつかった人が見下ろしていた。腕を振り払おうとすればするほど力を込められる。
腕を折るのも厭わない。そんな力の入れ方に私は歯を食いしばりながらも何とか抵抗をやめた。
「……誰だよ、テメェら」
「ふふっ、お転婆なお嬢さんだ」
できることといえば、目の前にいる銀髪の男を睨みつけるぐらいで、彼は何が楽しいのか静かに笑みを浮かべる。
帽子を差し出した時と全く同じ笑みで、気味が悪い。
「この様子を見るに、連絡手段は持っていないようですね」
「なんて無防備な……それでもあの男の娘か?」
「そうですね……あの方に伏せるほどです。…………きっと箱の中で大事に大事に育てられたのでしょう」
背後の奴と銀髪の奴が話しているのは自分の事だと察したが、その内容が分からない。それにこれ以上彼らとコミュニケーションを取っている暇もない。
……アジア予選の時にも私の態度も相まって日本代表を夢見てた選手や、単純に女子選手を疎ましく思う野次馬に絡まれる場面はあった。
悪意に関して察しは良かったから警戒もしてきたし、大事にならないように手を回していた。
だけど、目の前の彼らから悪意を感じ取れなかった。…………隠すのが得意なのか、この行動を悪だと思っていないのか。今のところ図りかねない。
そもそも彼らは“何”だ?
私を捕まえる理由は何だ?
私を、どうするつもりだ?
……いずれにせよ、帽子に思い出があることから優先させてしまった自分のミスだ。どうにか自分自身で解決しないと。
「では行きましょうか。アキナさん」
私が打開策を考え込むのを割り込むように、銀髪の男が近づいてきたので頭突きを喰らわそうとしたものの、その前にそいつの手が私の頬を撫でる。
「ッ……!」
知らない怪しげな人間に触られ、ぞわぞわと駆け巡る不快感は言葉に言い表せなくて。
けれど、こんなやつらの前で弱みを出したらいけないという意地だけで、前が駄目なら、と私を引きずろうとする背後の男を横目で見つつ短く息を吸った。
「触んなっつってんだろうがッ!!」
「ガッ……!」
前の奴には当たらなかった頭突きを背後の男に思いっきりぶつければ、腕の拘束がようやく解かれる。
「こいつ……!」
だけど、相手の立ち直りも早い。
すぐにこちらに手を伸ばしてくる姿が見え、私は抵抗しようと構える。
その時だった。
シュウウウ……!!!
風の切る音が聞こえたと同時に全く別の方向から鋭いシュートが飛んできたのは。
「っなんだ!?」
そのサッカーボールは私と対峙していた男に当たりそうになったものの、寸での所で避ける。
私が見たのはここまでだった。
いきなり目の前が真っ暗になったから。
「っえ!?」
何を被らされた?目隠し?もう一人の銀髪の男の仕業か?
慌てて外そうと手を動かしたものの、すかさずその手を掴まれた感覚がしたかと思えば、思いっきり引っ張られた。
「…………」
「っ!?……わっ!?ちょっと……!!」
私が前を見えてないのにお構いなく進み続けられ、足が
「!……ととっ」
その時に、頭上から落ちてきた帽子を慌ててキャッチした所で自分の視界が晴れていることに気づいた。暗くなったのは、帽子を深く被らされていたからか。
「っ……!」
ハッと改めて周りを見回す。
スカーフを巻いた男連中はもちろん、私の腕を引っ張ったであろう人物の姿も見当たらない。
ただイタリアエリアの住人が歩いている大通りに私は呆然と立ち尽くししていた。
「いまの……」
それから繋がれた右手を、ぼんやりと見ていると。
「……う!不動っ!!」
視界の端にちらりと銀髪が映った。
「!」
一瞬さっきの奴らが来たのかと慌てて顔を仰け反らすも拳を握るも、その銀髪は見知った顔のものだと分かり、手の力が抜ける。
「そんなところに立ち尽くしてどうした……?」
「……さくま、さん…………」
その人はついさっき別れたばかりのイナズマジャパンの一人である佐久間さんで。驚いたように目を丸くしながらこっちを見ていた。