寂しがり少女
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ライオコット島には各エリアを巡回しているバスがある。
一般の観光客は有料なんだけど、選手の場合は無料でエリアを回ってくれるものらしい。
私はバスに乗り込み、柱に凭れながら宿舎を出る際に被ることにした帽子を目深に被って一息ついた。
宿舎を抜け出した私は、エリアを歩く観光客にひたすら聞き込みをして影山が向かった場所を調べていた。人と話すのは不得意だけどそんなことを言っている場合じゃない。
高級車はそれなりに人の目をつくようで、その車が向かったおおよその場所が分かったので、その目的地に向かうためにバスに乗り込んだところだ。
影山のところに行くと行った時、響木さんは鬼瓦刑事にも連絡しておくと言っていた。……悪事の内容を知れたら私からも連絡しようと、ポケットに入れている携帯電話の存在を確認していると、バスに誰かが乗ってくる気配がした。
「ッ明奈!?」
「!……兄ちゃん、佐久間さんも」
バスに乗ってきたのは兄と佐久間さんだった。
ジャージを着ている自分と違い、彼らはユニフォーム姿のまま。……もしかして、練習を抜け出してきたのか?
「運営に呼び出されたんじゃなかったのか?」
驚いた表情を浮かべたのは一瞬で、兄は私の真正面へと立てば眉を寄せて低い声を出した。……噓だと見抜いた上で、詰めてきている。
兄ちゃんが怒っている、という事は一目で分かった。
「……やはり、影山の元へ行くつもりだったのか?」
「…………」
「明奈ッ!」
「……変な誤魔化しをしたことは謝る。……だけど、私が影山を探しに行くって正直に言ったところで、兄ちゃん絶対止めるでしょ」
強く名前を呼ばれ、私は帽子を少し上げて目を兄と合わせた。
「……当たり前だ」
兄はさらに眉間の皺を深くしながら私の腕を掴んだ。
「お前はグラウンドに戻れ。後の事はオレと佐久間で何とかする」
「……が、」
「?」
「なにがッ、当たり前だよ!」
なんて言いながらバスから降ろそうとしてくる兄の姿にふつふつと苛立ちの感情が沸き上がり、私は彼の腕をぶんっと振り払った。
だって、理解ができなかったから。
兄が頑なに一人で調べようとするのならまだ分かる。了承は絶対しないけれど責任感が強い兄の選択に納得はする。だけど……!
「なんで、佐久間さんは良くて私はダメなんだよ?!」
佐久間さんの協力は受け入れるくせに、私の同伴は拒むのか。そんな比較がとにかく嫌で感情のまま声を上げた。
視界の端で佐久間さんが驚いたように目を丸くしたのが見えたけれど、構わず私は兄を睨んだ。
「私が女だから?妹だから?……それとも」
―私がまた影山に取り入るかもと疑っているから?
「なッ……!?」
私の言葉に兄は口を開けながら言葉を失っていた。だけどすぐに慌てて私の両肩を強く掴んで声を上げる。
「ッそんな訳ないだろう!!影山は危険なんだ!!また……ッ、またお前にもしもの事があれば、オレは……!」
心配をしてくれている事は、肩に込められる力で痛いほど分かった。
潜水艦で兄を振り払って無理矢理別れたからか、私が離れる事を怖がっているように見える。だからこそ、危険から遠ざけようとしてくれるのだろう。
だけどそれは兄が今から危険な場所に向かうと言っているようなもので、それを知りながら一人で帰ることなんて、やっぱりできなかった。
私からすれば、今の兄ちゃんの方がずっと心配だ。
「兄ちゃん。私はッ…………」
その意思を伝えようとした所で、〈ドアが閉まります〉というアナウンスが入り、バスの出発を知らせた。
だけど、ドアが閉まる直前誰かが駆け込んできた。
「はぁっ……間に合った……」
「円堂?」
ギリギリでバスに乗ってきたのはキャプテンだった。兄ちゃんや佐久間さんの驚いた表情からして、予想外のことだったらしい。
「鬼道たちがバスに乗るところを見たから気になって……」
「キャプテン。練習は?」
「って、不動も?」
兄の手の力が緩んだ隙にそっと離れて声を掛ければ、キャプテンはポカンとした表情を浮かべていた。
……本当に何も知らないまま乗ってきたのか。
「なあ、何があったんだ?どこへ行くつもりなんだ?」
三人が同じ巡回バスにいる光景に円堂さんは不思議そうに顔を見回す。その間に佐久間さんが兄に頷いているのが見えた。話すことにしたんだろう。
兄ちゃんは固い表情のまま口を開いた。
「……この島に、影山がいる」
+++
「よし!みんなで影山の野望を止めるんだ!」
キャプテンに経緯を話せば、練習に集中できていなかったらしいことに納得したのちに、アルゼンチン戦前に心配事を片付けようと言う佐久間さんの言葉に頷いて拳を握った。
だけど、兄ちゃんと佐久間さんはその言葉に頷くことはなく、佐久間さんは兄を、そして兄は私をじっと見て首を横に振った。
「……悪いが、オレは明奈を連れていくつもりはない」
「~ッ!兄ちゃん!」
「お前はジャパンエリアに帰れ」
有無を言わせない口調だった。
ここまで頑ななのは、影山に対する警戒と、私に対する心配だ。
影山の狙いは私じゃない。兄ちゃんなのに……!
「連れていくつもりはないって……一緒にバスに乗ったんじゃなかったのか?」
「……こいつは練習を休んで先にバスに乗っていた。恐らく一人で影山の所に行くつもりだったんだろう」
その隣で私達のやり取りを不思議そうに見るキャプテンに佐久間さんはそっと経由を説明していた。
「…………鬼道の気も知らないで……」
ぼそりと吐き出された言葉は説明でもない。ただのぼやきだったけれど。
「そうなのか……」
最後の言葉はキャプテンには聞こえなかったようで、確かにグラウンドに不動はいなかったな……と思い出すよう呟いていた。
彼も兄のように心配して帰ることを促してくるのだろうか。だからといって絶対頷いてやらないけれど。
バスがトンネルに入り暗く重苦しい空気が流れる中、キャプテンは何かを思案するように顔を俯かせ、それから一歩、私へと近づいた。
「不動が鬼道に言わなかったのは、心配かけたくなかったからだよな?」
「えっ……は、はい」
キャプテンは私の顔を覗き込んできて、そう尋ねた。
いつもよりも穏やかな表情を見て、自分でもびっくりするぐらい素直にこくりと頷く。
「よしっ!じゃあ、大丈夫だ!!」
「!?」
その返答にキャプテンは満足気に頷いて、腰に手を置いてからニッと明るい笑みを浮かべた。その笑顔に私だけでなく兄や佐久間さんも目を見開く。
「不動だって目的は一緒なんだ。オレ達と戦おうぜ!」
「キャプテン……」
「円堂……!」
裏表のない真っ直ぐな言葉は私が抱えていた重たい気持ちを少しだけ軽くなるのを感じたけれど、兄ちゃんは反対に焦ったようにキャプテンを呼んだ。
「今の不動は一人じゃない。オレ達……仲間や家族がいるだろ?」
その中でキャプテンはどこまでも真っ直ぐな言葉と態度で私や兄ちゃん達に対する信頼を語った。
「……!」
「兄ちゃん」
キャプテンの言葉に兄ちゃんは動揺するもののまだ迷っている。だから私は自分の言葉で説得するために彼の握り拳に触れた。
「ッ……明奈」
ハッと小さく肩が揺れて、それから名前を呼ぶ兄ちゃん。
握り込んでいる拳は微かに震えていて、かなりの力が入っていることが分かった。
「兄ちゃんが私を想ってくれているのは分かってる。それに対して、嬉しい気持ちもある。……だけど私は、守られるだけじゃなくて、戦いたい」
―だから、お願い。
分かっていながら、その上で一緒に行きたいという事を懇願する。
グラウンド上で司令塔としてするやりとりに比べたら酷くたどたどしい自覚はあった。
……思い返せば春奈と違って兄ちゃんとはどうしてもサッカーを優先させてしまってそれ以外の話をあまりしていない。兄妹なのに、まだまだコミュニケーション不足だと痛感せざるを得ない。
それから、じっと兄の目を見ること数秒、兄ちゃんは拳の力を解いて静かに息を吐いた。
「……頼むから、無茶だけはしてくれるな」
「!うん……!」
兄の頼みに私は大きく頷いて。それから兄達と一緒に目的地である―イタリアエリアに向かうことになった。
+++
「そういえば皆さんユニフォーム姿ですが、練習を抜けるという事は監督にちゃんと伝えたのですか?」
「……あっ!忘れてた!!」
「……でしょうね」
イタリアエリアに辿り着き、バスを降りた私達は何があるか分からないため、全員一緒になってエリアを探索していた。
その際に私は彼らの服装に、ずっと気になったことを聞いてみれば円堂さんは今さら思い出したかのように声を上げていた。何でも兄や佐久間さんがグラウンドから出ていく姿が気になり、探していたらしく、バス停で見つけたその勢いでバスに乗り込んだとか。
やはり予想通り、抜け出して来たのかとつい二人に目をやれば佐久間さんはばつが悪そうな顔をして私から目を逸らした。そして兄ちゃんも、
「……グラウンドにお前の姿がなくて、気が動転していた。すまない」
「……あ……それは…………ごめん」
自分が原因だとは思わなくて、少しだけ気まずく思いながら私はぽそっと謝った。
もしかして、私がちゃんと練習に出てたら兄もここに来ることなかったのでは?
現に合流してしまった今、単独行動は悪手だったな。と後悔してももう遅い。私は軽く頭を振ってからキャプテンに声を掛けた。
「影山についての詳細は佐久間さんが言ってたように片付けてからでいいと思いますが、チームのキャプテンが練習を空けるという事は伝えた方がいいですよ」
それから私はジャージのポケットにいつも入れてあるものを取り出してキャプテンに差し出した。
「私の携帯電話、貸すのでまた連絡しといてください」
「え?いいのか?」
「公衆電話を探すのも手間でしょう」
「サンキュー不動!」
自分達が探してるのは影山なんだから、と携帯電話を手渡せばキャプテンは笑顔で礼を言って携帯を受け取った。
影山が相手だと言うのにいつも通りの明るい笑みを浮かべるキャプテンにはとことん、毒気を抜かれてしまうと思ったのはここだけの話だ。
一般の観光客は有料なんだけど、選手の場合は無料でエリアを回ってくれるものらしい。
私はバスに乗り込み、柱に凭れながら宿舎を出る際に被ることにした帽子を目深に被って一息ついた。
宿舎を抜け出した私は、エリアを歩く観光客にひたすら聞き込みをして影山が向かった場所を調べていた。人と話すのは不得意だけどそんなことを言っている場合じゃない。
高級車はそれなりに人の目をつくようで、その車が向かったおおよその場所が分かったので、その目的地に向かうためにバスに乗り込んだところだ。
影山のところに行くと行った時、響木さんは鬼瓦刑事にも連絡しておくと言っていた。……悪事の内容を知れたら私からも連絡しようと、ポケットに入れている携帯電話の存在を確認していると、バスに誰かが乗ってくる気配がした。
「ッ明奈!?」
「!……兄ちゃん、佐久間さんも」
バスに乗ってきたのは兄と佐久間さんだった。
ジャージを着ている自分と違い、彼らはユニフォーム姿のまま。……もしかして、練習を抜け出してきたのか?
「運営に呼び出されたんじゃなかったのか?」
驚いた表情を浮かべたのは一瞬で、兄は私の真正面へと立てば眉を寄せて低い声を出した。……噓だと見抜いた上で、詰めてきている。
兄ちゃんが怒っている、という事は一目で分かった。
「……やはり、影山の元へ行くつもりだったのか?」
「…………」
「明奈ッ!」
「……変な誤魔化しをしたことは謝る。……だけど、私が影山を探しに行くって正直に言ったところで、兄ちゃん絶対止めるでしょ」
強く名前を呼ばれ、私は帽子を少し上げて目を兄と合わせた。
「……当たり前だ」
兄はさらに眉間の皺を深くしながら私の腕を掴んだ。
「お前はグラウンドに戻れ。後の事はオレと佐久間で何とかする」
「……が、」
「?」
「なにがッ、当たり前だよ!」
なんて言いながらバスから降ろそうとしてくる兄の姿にふつふつと苛立ちの感情が沸き上がり、私は彼の腕をぶんっと振り払った。
だって、理解ができなかったから。
兄が頑なに一人で調べようとするのならまだ分かる。了承は絶対しないけれど責任感が強い兄の選択に納得はする。だけど……!
「なんで、佐久間さんは良くて私はダメなんだよ?!」
佐久間さんの協力は受け入れるくせに、私の同伴は拒むのか。そんな比較がとにかく嫌で感情のまま声を上げた。
視界の端で佐久間さんが驚いたように目を丸くしたのが見えたけれど、構わず私は兄を睨んだ。
「私が女だから?妹だから?……それとも」
―私がまた影山に取り入るかもと疑っているから?
「なッ……!?」
私の言葉に兄は口を開けながら言葉を失っていた。だけどすぐに慌てて私の両肩を強く掴んで声を上げる。
「ッそんな訳ないだろう!!影山は危険なんだ!!また……ッ、またお前にもしもの事があれば、オレは……!」
心配をしてくれている事は、肩に込められる力で痛いほど分かった。
潜水艦で兄を振り払って無理矢理別れたからか、私が離れる事を怖がっているように見える。だからこそ、危険から遠ざけようとしてくれるのだろう。
だけどそれは兄が今から危険な場所に向かうと言っているようなもので、それを知りながら一人で帰ることなんて、やっぱりできなかった。
私からすれば、今の兄ちゃんの方がずっと心配だ。
「兄ちゃん。私はッ…………」
その意思を伝えようとした所で、〈ドアが閉まります〉というアナウンスが入り、バスの出発を知らせた。
だけど、ドアが閉まる直前誰かが駆け込んできた。
「はぁっ……間に合った……」
「円堂?」
ギリギリでバスに乗ってきたのはキャプテンだった。兄ちゃんや佐久間さんの驚いた表情からして、予想外のことだったらしい。
「鬼道たちがバスに乗るところを見たから気になって……」
「キャプテン。練習は?」
「って、不動も?」
兄の手の力が緩んだ隙にそっと離れて声を掛ければ、キャプテンはポカンとした表情を浮かべていた。
……本当に何も知らないまま乗ってきたのか。
「なあ、何があったんだ?どこへ行くつもりなんだ?」
三人が同じ巡回バスにいる光景に円堂さんは不思議そうに顔を見回す。その間に佐久間さんが兄に頷いているのが見えた。話すことにしたんだろう。
兄ちゃんは固い表情のまま口を開いた。
「……この島に、影山がいる」
+++
「よし!みんなで影山の野望を止めるんだ!」
キャプテンに経緯を話せば、練習に集中できていなかったらしいことに納得したのちに、アルゼンチン戦前に心配事を片付けようと言う佐久間さんの言葉に頷いて拳を握った。
だけど、兄ちゃんと佐久間さんはその言葉に頷くことはなく、佐久間さんは兄を、そして兄は私をじっと見て首を横に振った。
「……悪いが、オレは明奈を連れていくつもりはない」
「~ッ!兄ちゃん!」
「お前はジャパンエリアに帰れ」
有無を言わせない口調だった。
ここまで頑ななのは、影山に対する警戒と、私に対する心配だ。
影山の狙いは私じゃない。兄ちゃんなのに……!
「連れていくつもりはないって……一緒にバスに乗ったんじゃなかったのか?」
「……こいつは練習を休んで先にバスに乗っていた。恐らく一人で影山の所に行くつもりだったんだろう」
その隣で私達のやり取りを不思議そうに見るキャプテンに佐久間さんはそっと経由を説明していた。
「…………鬼道の気も知らないで……」
ぼそりと吐き出された言葉は説明でもない。ただのぼやきだったけれど。
「そうなのか……」
最後の言葉はキャプテンには聞こえなかったようで、確かにグラウンドに不動はいなかったな……と思い出すよう呟いていた。
彼も兄のように心配して帰ることを促してくるのだろうか。だからといって絶対頷いてやらないけれど。
バスがトンネルに入り暗く重苦しい空気が流れる中、キャプテンは何かを思案するように顔を俯かせ、それから一歩、私へと近づいた。
「不動が鬼道に言わなかったのは、心配かけたくなかったからだよな?」
「えっ……は、はい」
キャプテンは私の顔を覗き込んできて、そう尋ねた。
いつもよりも穏やかな表情を見て、自分でもびっくりするぐらい素直にこくりと頷く。
「よしっ!じゃあ、大丈夫だ!!」
「!?」
その返答にキャプテンは満足気に頷いて、腰に手を置いてからニッと明るい笑みを浮かべた。その笑顔に私だけでなく兄や佐久間さんも目を見開く。
「不動だって目的は一緒なんだ。オレ達と戦おうぜ!」
「キャプテン……」
「円堂……!」
裏表のない真っ直ぐな言葉は私が抱えていた重たい気持ちを少しだけ軽くなるのを感じたけれど、兄ちゃんは反対に焦ったようにキャプテンを呼んだ。
「今の不動は一人じゃない。オレ達……仲間や家族がいるだろ?」
その中でキャプテンはどこまでも真っ直ぐな言葉と態度で私や兄ちゃん達に対する信頼を語った。
「……!」
「兄ちゃん」
キャプテンの言葉に兄ちゃんは動揺するもののまだ迷っている。だから私は自分の言葉で説得するために彼の握り拳に触れた。
「ッ……明奈」
ハッと小さく肩が揺れて、それから名前を呼ぶ兄ちゃん。
握り込んでいる拳は微かに震えていて、かなりの力が入っていることが分かった。
「兄ちゃんが私を想ってくれているのは分かってる。それに対して、嬉しい気持ちもある。……だけど私は、守られるだけじゃなくて、戦いたい」
―だから、お願い。
分かっていながら、その上で一緒に行きたいという事を懇願する。
グラウンド上で司令塔としてするやりとりに比べたら酷くたどたどしい自覚はあった。
……思い返せば春奈と違って兄ちゃんとはどうしてもサッカーを優先させてしまってそれ以外の話をあまりしていない。兄妹なのに、まだまだコミュニケーション不足だと痛感せざるを得ない。
それから、じっと兄の目を見ること数秒、兄ちゃんは拳の力を解いて静かに息を吐いた。
「……頼むから、無茶だけはしてくれるな」
「!うん……!」
兄の頼みに私は大きく頷いて。それから兄達と一緒に目的地である―イタリアエリアに向かうことになった。
+++
「そういえば皆さんユニフォーム姿ですが、練習を抜けるという事は監督にちゃんと伝えたのですか?」
「……あっ!忘れてた!!」
「……でしょうね」
イタリアエリアに辿り着き、バスを降りた私達は何があるか分からないため、全員一緒になってエリアを探索していた。
その際に私は彼らの服装に、ずっと気になったことを聞いてみれば円堂さんは今さら思い出したかのように声を上げていた。何でも兄や佐久間さんがグラウンドから出ていく姿が気になり、探していたらしく、バス停で見つけたその勢いでバスに乗り込んだとか。
やはり予想通り、抜け出して来たのかとつい二人に目をやれば佐久間さんはばつが悪そうな顔をして私から目を逸らした。そして兄ちゃんも、
「……グラウンドにお前の姿がなくて、気が動転していた。すまない」
「……あ……それは…………ごめん」
自分が原因だとは思わなくて、少しだけ気まずく思いながら私はぽそっと謝った。
もしかして、私がちゃんと練習に出てたら兄もここに来ることなかったのでは?
現に合流してしまった今、単独行動は悪手だったな。と後悔してももう遅い。私は軽く頭を振ってからキャプテンに声を掛けた。
「影山についての詳細は佐久間さんが言ってたように片付けてからでいいと思いますが、チームのキャプテンが練習を空けるという事は伝えた方がいいですよ」
それから私はジャージのポケットにいつも入れてあるものを取り出してキャプテンに差し出した。
「私の携帯電話、貸すのでまた連絡しといてください」
「え?いいのか?」
「公衆電話を探すのも手間でしょう」
「サンキュー不動!」
自分達が探してるのは影山なんだから、と携帯電話を手渡せばキャプテンは笑顔で礼を言って携帯を受け取った。
影山が相手だと言うのにいつも通りの明るい笑みを浮かべるキャプテンにはとことん、毒気を抜かれてしまうと思ったのはここだけの話だ。