寂しがり少女
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立向居くんの新必殺技完成に向けての一年生と綱海さんとの特訓は順調に進んでいると思う。
……円堂さんに憧れてMFからGKとなって日本代表選手になっているんだ。彼のポテンシャルは未知数だなとボールを蹴る以外に何度か観察をしていて驚かされた。
だけど、兄と作り出そうとしている、もう一つの必殺技完成に向けての特訓は中々に難航していた。何せ存在は明記されているものの、その情報が少なすぎる。今は“キラーフィールズ”をその技へ発展させれるかの試行錯誤を重ねている現状だ。
同じように全力で取り組んでいるはずなのに、こうも結果が対照的になるのかとぼやいたところ兄はそんなものだ、と励ますように肩を叩いた。
それから、できないなら出来るまでやるだけだなんてキャプテンの事を言う兄ちゃんに思わず笑ってしまったのは昨日の夜のことで。
今日の朝。風丸さんとのランニングを終えて一年生の特訓へと行こうとしていた時だった。
いつもは宿舎まで風丸さんも一緒だったけれど、今日の彼はまだ走るとのことでその場で別れた私は宿舎までの道のりを一人で走っていて、ある建物の角を曲がった。
最初に目に入ったのは建物の前に止まる高級そうな車。その車のドアが開いたかと思えば建物の中から一人の男性が下りてくる姿が見えた。
その男は白スーツを身につけた長身の男性だった。長い金髪を一つにまとめていて、サングラスをかけている男。
日本では目立つ風貌ではあるものの、このライオコット島では海外の観光客も多数いる。そんなおかしな身なりでも何でもない。
そのはずなのに。私はその男から目を離せなかった。
その横顔が、不適に浮かべた笑みが、ある人物と重なってしまったから。
「は…………?」
その人間の正体を予想してなかった私の口から零れたのは言葉にもならない声で。静まり返った周りとは相対的に、私の心臓はドクドクと五月蝿く鳴っている。
そこにいたのは――影山零治だった。
―『お前は孤独であるべきだった』
私を強くするため、孤独な環境を作った男。
その言葉が未だに耳にこびりついている辺り、我ながら重症だと思う。だけど……
プーーッ!!
「っ!」
けたたましく鳴る音にびくりと肩が跳ねた。
見れば道路でバスが急停車したらしく、それと同時に影山が乗った車が発進していくのを視界の端で捉える。
咄嗟に追うべきかと足が動いたが、それよりもするべき事を考え、私は車が進んだ先と反対側の宿舎へと足を進めた。
「明奈!」
だけど数分後に背後から、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それは今一番聞きたくない声だった。
そこにいたのは、兄ちゃんとサッカーボールを持っている佐久間さん。自主練習をしていて、姿が見えたから声をかけた……なんて、雰囲気じゃないことは兄の表情を見れば分かった。
「……誰と会った?」
ゴーグル越しでも強い視線を感じるのは、私の言葉や態度の違いを見逃さないように注視しているからだろう。
「え?なんのこと?」
どこか緊張感のある兄の様子を見るも、もしかしたら誤魔化せるかもしれないと私はきょとんと後ろ手で手を組んで不思議そうに首を傾げれば、たまらずといった様子で佐久間さんが声を上げた。
「俺たちは見た!お前があいつといたところを!!」
その言葉で、影山の姿を兄や佐久間さんも見てしまったことが証明された。
「あいつ?」
最悪のタイミングだな、と心の中で舌打ちをしながらも私は何も分かってないふりを貫き通して首を傾げる。
「明奈。頼むから正直に答えてくれ……。影山に何を言われたんだ……!」
ふり、だなんてとっくに分かっているんだろう兄ちゃんは私の肩を掴んで、そう懇願をする。
らしくない兄ちゃんの取り乱した姿に私はある決意を固めるのに時間はかからなかった。
「影山って……あははっ、何言ってんの。兄ちゃん、佐久間さん」
とりあえず、ここを切り抜けるためにそっと兄の手を外しながら声を上げて笑えば、2人共目を丸くしてこちらを見た。
「さっきの人は違うよ。道を聞かれたから答えただけだって!……あんまりちゃんと説明できなくて、気まずかったから誤魔化そうとしちゃったけど……でもまさか影山って疑ってるとは思わなかったなぁ。確かにサングラスはしてたけど、髪色とか全然違うし、あの人は別人だよ」
だからこの話はここで終わり!と手を叩いて私は強制的に会話を打ち切った。
「じゃあ私は一年達との特訓あるから行くね!」
「ッ!まて明奈、話はまだ……!」
それから軽く手を振って、私はくるりと背を向けてそのまま走り出す。背後から慌てたような兄の声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして足を動かした。
+++
「ライオコット島に影山零治がいます」
同級生達との朝練を何とか終わらせ(ボールを蹴る事は休ませてもらって、データまとめの方をさせてもらった)、立向居くんに直接今日一日練習の不参加に対する詫びを入れた後に私は、監督室へと赴いた。
そして久遠監督と響木さんに端的に報告をすれば、響木さんは眉を寄せて今度は何を企んでいるんだ……と呟く。
「久遠監督、今日の練習休ませてください。影山が何か……こちらに危害を加えようとしていた場合、止めたいんです」
私がわざわざ大人へ報告をしたのは、正式な許可をもらうためだった。
「お前一人か?……円堂達には言わないのか」
「…………それは」
質問をするのは主に影山との因縁が深い響木さんだった。
出てきた仲間の名前に一瞬だけ揺らぎそうになる自分自身を諌めるように拳を握る。
「キャプテンはともかく、影山が兄……鬼道有人に接触する事態は絶対に避けるべきです。なので、私一人で行きます」
影山の兄に対する執着心を間近で見ていた人間として、私はどうしても兄ちゃんと影山を会わせたくなかった。影山を一目見ただけで、あんなに動揺をしている兄を見れば尚更。
……それに兄だって、影山がこの島にいると分かった以上見つけてなんとかしようとするに決まっている。周りを危険に巻き込まないために、たった一人で。
だから彼が動く前に、私が先に動いておく。
単純だけど、確実な策だ。
「お前の安全の保障はされるのか」
腕を組む響木さんの隣で久遠監督に真っ直ぐと私を見て静かに問われる。
そんなの自衛できるから問題ない、と答えようとするけれど、
「影山の目的がお前だった場合、どうする」
「…………は」
その言葉に私は固まってしまった。だって、考えてもみなかったから。
影山が私を引き戻すためにライオコット島へ?また、私に手を伸ばしてくれるって?そんなの……そんなの…………!!
「ハッ、ねぇよ」
あまりにも不毛すぎて、浮かばなかった発想だ。
思わずこみ上げてくる笑みを誤魔化すように私は手で口を抑える。
「あの人は、自ら捨てたものをもう一度拾うなんてこと絶対しません」
逆に、自分の意思で離れてしまった鬼道有人を連れ戻したくて仕方ないはずだ。
ああやっぱり、兄ちゃんと影山を会わせる訳にはいかない。
「お願いします。行かせてください」
影山の私への感情の妄想話は笑えたけれど、兄の事を考えると段々と笑えなくなる。私は改めて監督と響木さんに頭を下げた。
「…………許可する」
少しの沈黙の後、久遠監督は小さなため息をついてそれから頷いてくれた。
「不動」
無事了承を得た私が部屋を出ようとドアノブを持った時、響木さんに呼び止められたので振り返った。
「お前は影山についてどう思っている」
「…………」
私は何も言わずにそのままドアノブを回して、扉を開けて一歩、二歩と足を踏み出し、廊下へと出た。
「……結局」
廊下側のドアノブを後ろ手で握り直し、監督達に背を向けたまま私は口を開く。
「ただの利害が一致していただけの関係だ。今さら、何にも思ってない」
バタン
ただ自分の意思だけを表明して、大人達の返答を待たずに扉を閉めた。
強い選手が欲しい影山は、優秀な鬼道有人の妹の存在に目を付けて育てた。
そして、ひとりぼっちになってしまったその鬼道有人の妹は、1人になりたくないから、彼に従った。
だけど結局、その妹は兄程優秀になれなかったからお役御免で捨てられた。
そこで私と影山の関係は終わりだ。
「……まずは、手掛かりを見つけないと」
+++
「鬼道!佐久間!お前たちは、練習に集中できていない。グラウンドから出ろ」
朝食前に目撃をした影山によく似た男を目撃して、しばらく周辺を探すも見つけられないまま迎えた練習時間。
影山のことが気がかりで練習に集中出来ていなかったオレは案の定、久遠監督に佐久間と揃って退場を言い渡された。
円堂に心配されるも、彼を巻き込む訳にはいかないという意思で彼を練習へと戻してオレは佐久間と並んでグラウンドの外へと立つ。
グラウンドに立たされてからも、影山のことばかりが頭の中を巡った。佐久間に人違いではと指摘されたものの、オレは幼少期からあの人を見ている。見間違いなんてする訳ない。
だからこそ、あの男の事を放っておけない。
中学サッカー界で様々な被害を出し続け、仲間を傷つけ、さらにオレの妹を孤立させ、追い詰めた。そんな男を許せる訳がない……!
自分が冷静になれていないことは理解していた。
目の前にいないにも関わらず、ここまで影響を及ぼす影山の存在に腕を掴んでる手に力が入る。
明奈は、大丈夫だろうか。
オレ達が影山を目撃した時に一番近くにいた彼女は、影山じゃないとだけ伝えて駆けて行った。
気づいてないのならそれでいい。だがあの明奈の態度は明らかに動揺を無理矢理押さえ込んでいるものだった。
だが、影山と知った上で練習に集中できているのなら、無理に聞き出す必要もないのかもしれない。と一年と綱海が特訓をしている場所に視線を向けるが――いない。
ボールを蹴る選手の中に、明奈の姿はなかった。
慌ててグラウンドを見回すも、やっぱり彼女はいなかった。
「……ッ!」
ひゅっと息を呑む。
「春奈。……明奈は一緒に特訓していないのか?」
「え?」
それからベンチでタオルを運ぼうとしていたもう一人の妹の姿が見えて、オレは何とか平然とした態度で話しかければ、春奈が目を丸くする。
「お姉ちゃんなら、今日の練習は不参加らしいよ。女子選手としての話があるって運営に呼び出されたんだって。朝食前に立向居くんの部屋に訪ねてそう言ったとか……」
「そう、か……」
嘘だ。
本当に呼び出されたのなら、久遠監督か響木監督も同伴しているだろうし、その伝言をマネージャーではなく、選手にしたりしない。
これは、明奈の個人的な判断の行動だ。
だったら明奈はどこに?練習を休んでまで行く場所とは?
「……ッまさか!」
……円堂さんに憧れてMFからGKとなって日本代表選手になっているんだ。彼のポテンシャルは未知数だなとボールを蹴る以外に何度か観察をしていて驚かされた。
だけど、兄と作り出そうとしている、もう一つの必殺技完成に向けての特訓は中々に難航していた。何せ存在は明記されているものの、その情報が少なすぎる。今は“キラーフィールズ”をその技へ発展させれるかの試行錯誤を重ねている現状だ。
同じように全力で取り組んでいるはずなのに、こうも結果が対照的になるのかとぼやいたところ兄はそんなものだ、と励ますように肩を叩いた。
それから、できないなら出来るまでやるだけだなんてキャプテンの事を言う兄ちゃんに思わず笑ってしまったのは昨日の夜のことで。
今日の朝。風丸さんとのランニングを終えて一年生の特訓へと行こうとしていた時だった。
いつもは宿舎まで風丸さんも一緒だったけれど、今日の彼はまだ走るとのことでその場で別れた私は宿舎までの道のりを一人で走っていて、ある建物の角を曲がった。
最初に目に入ったのは建物の前に止まる高級そうな車。その車のドアが開いたかと思えば建物の中から一人の男性が下りてくる姿が見えた。
その男は白スーツを身につけた長身の男性だった。長い金髪を一つにまとめていて、サングラスをかけている男。
日本では目立つ風貌ではあるものの、このライオコット島では海外の観光客も多数いる。そんなおかしな身なりでも何でもない。
そのはずなのに。私はその男から目を離せなかった。
その横顔が、不適に浮かべた笑みが、ある人物と重なってしまったから。
「は…………?」
その人間の正体を予想してなかった私の口から零れたのは言葉にもならない声で。静まり返った周りとは相対的に、私の心臓はドクドクと五月蝿く鳴っている。
そこにいたのは――影山零治だった。
―『お前は孤独であるべきだった』
私を強くするため、孤独な環境を作った男。
その言葉が未だに耳にこびりついている辺り、我ながら重症だと思う。だけど……
プーーッ!!
「っ!」
けたたましく鳴る音にびくりと肩が跳ねた。
見れば道路でバスが急停車したらしく、それと同時に影山が乗った車が発進していくのを視界の端で捉える。
咄嗟に追うべきかと足が動いたが、それよりもするべき事を考え、私は車が進んだ先と反対側の宿舎へと足を進めた。
「明奈!」
だけど数分後に背後から、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それは今一番聞きたくない声だった。
そこにいたのは、兄ちゃんとサッカーボールを持っている佐久間さん。自主練習をしていて、姿が見えたから声をかけた……なんて、雰囲気じゃないことは兄の表情を見れば分かった。
「……誰と会った?」
ゴーグル越しでも強い視線を感じるのは、私の言葉や態度の違いを見逃さないように注視しているからだろう。
「え?なんのこと?」
どこか緊張感のある兄の様子を見るも、もしかしたら誤魔化せるかもしれないと私はきょとんと後ろ手で手を組んで不思議そうに首を傾げれば、たまらずといった様子で佐久間さんが声を上げた。
「俺たちは見た!お前があいつといたところを!!」
その言葉で、影山の姿を兄や佐久間さんも見てしまったことが証明された。
「あいつ?」
最悪のタイミングだな、と心の中で舌打ちをしながらも私は何も分かってないふりを貫き通して首を傾げる。
「明奈。頼むから正直に答えてくれ……。影山に何を言われたんだ……!」
ふり、だなんてとっくに分かっているんだろう兄ちゃんは私の肩を掴んで、そう懇願をする。
らしくない兄ちゃんの取り乱した姿に私はある決意を固めるのに時間はかからなかった。
「影山って……あははっ、何言ってんの。兄ちゃん、佐久間さん」
とりあえず、ここを切り抜けるためにそっと兄の手を外しながら声を上げて笑えば、2人共目を丸くしてこちらを見た。
「さっきの人は違うよ。道を聞かれたから答えただけだって!……あんまりちゃんと説明できなくて、気まずかったから誤魔化そうとしちゃったけど……でもまさか影山って疑ってるとは思わなかったなぁ。確かにサングラスはしてたけど、髪色とか全然違うし、あの人は別人だよ」
だからこの話はここで終わり!と手を叩いて私は強制的に会話を打ち切った。
「じゃあ私は一年達との特訓あるから行くね!」
「ッ!まて明奈、話はまだ……!」
それから軽く手を振って、私はくるりと背を向けてそのまま走り出す。背後から慌てたような兄の声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして足を動かした。
+++
「ライオコット島に影山零治がいます」
同級生達との朝練を何とか終わらせ(ボールを蹴る事は休ませてもらって、データまとめの方をさせてもらった)、立向居くんに直接今日一日練習の不参加に対する詫びを入れた後に私は、監督室へと赴いた。
そして久遠監督と響木さんに端的に報告をすれば、響木さんは眉を寄せて今度は何を企んでいるんだ……と呟く。
「久遠監督、今日の練習休ませてください。影山が何か……こちらに危害を加えようとしていた場合、止めたいんです」
私がわざわざ大人へ報告をしたのは、正式な許可をもらうためだった。
「お前一人か?……円堂達には言わないのか」
「…………それは」
質問をするのは主に影山との因縁が深い響木さんだった。
出てきた仲間の名前に一瞬だけ揺らぎそうになる自分自身を諌めるように拳を握る。
「キャプテンはともかく、影山が兄……鬼道有人に接触する事態は絶対に避けるべきです。なので、私一人で行きます」
影山の兄に対する執着心を間近で見ていた人間として、私はどうしても兄ちゃんと影山を会わせたくなかった。影山を一目見ただけで、あんなに動揺をしている兄を見れば尚更。
……それに兄だって、影山がこの島にいると分かった以上見つけてなんとかしようとするに決まっている。周りを危険に巻き込まないために、たった一人で。
だから彼が動く前に、私が先に動いておく。
単純だけど、確実な策だ。
「お前の安全の保障はされるのか」
腕を組む響木さんの隣で久遠監督に真っ直ぐと私を見て静かに問われる。
そんなの自衛できるから問題ない、と答えようとするけれど、
「影山の目的がお前だった場合、どうする」
「…………は」
その言葉に私は固まってしまった。だって、考えてもみなかったから。
影山が私を引き戻すためにライオコット島へ?また、私に手を伸ばしてくれるって?そんなの……そんなの…………!!
「ハッ、ねぇよ」
あまりにも不毛すぎて、浮かばなかった発想だ。
思わずこみ上げてくる笑みを誤魔化すように私は手で口を抑える。
「あの人は、自ら捨てたものをもう一度拾うなんてこと絶対しません」
逆に、自分の意思で離れてしまった鬼道有人を連れ戻したくて仕方ないはずだ。
ああやっぱり、兄ちゃんと影山を会わせる訳にはいかない。
「お願いします。行かせてください」
影山の私への感情の妄想話は笑えたけれど、兄の事を考えると段々と笑えなくなる。私は改めて監督と響木さんに頭を下げた。
「…………許可する」
少しの沈黙の後、久遠監督は小さなため息をついてそれから頷いてくれた。
「不動」
無事了承を得た私が部屋を出ようとドアノブを持った時、響木さんに呼び止められたので振り返った。
「お前は影山についてどう思っている」
「…………」
私は何も言わずにそのままドアノブを回して、扉を開けて一歩、二歩と足を踏み出し、廊下へと出た。
「……結局」
廊下側のドアノブを後ろ手で握り直し、監督達に背を向けたまま私は口を開く。
「ただの利害が一致していただけの関係だ。今さら、何にも思ってない」
バタン
ただ自分の意思だけを表明して、大人達の返答を待たずに扉を閉めた。
強い選手が欲しい影山は、優秀な鬼道有人の妹の存在に目を付けて育てた。
そして、ひとりぼっちになってしまったその鬼道有人の妹は、1人になりたくないから、彼に従った。
だけど結局、その妹は兄程優秀になれなかったからお役御免で捨てられた。
そこで私と影山の関係は終わりだ。
「……まずは、手掛かりを見つけないと」
+++
「鬼道!佐久間!お前たちは、練習に集中できていない。グラウンドから出ろ」
朝食前に目撃をした影山によく似た男を目撃して、しばらく周辺を探すも見つけられないまま迎えた練習時間。
影山のことが気がかりで練習に集中出来ていなかったオレは案の定、久遠監督に佐久間と揃って退場を言い渡された。
円堂に心配されるも、彼を巻き込む訳にはいかないという意思で彼を練習へと戻してオレは佐久間と並んでグラウンドの外へと立つ。
グラウンドに立たされてからも、影山のことばかりが頭の中を巡った。佐久間に人違いではと指摘されたものの、オレは幼少期からあの人を見ている。見間違いなんてする訳ない。
だからこそ、あの男の事を放っておけない。
中学サッカー界で様々な被害を出し続け、仲間を傷つけ、さらにオレの妹を孤立させ、追い詰めた。そんな男を許せる訳がない……!
自分が冷静になれていないことは理解していた。
目の前にいないにも関わらず、ここまで影響を及ぼす影山の存在に腕を掴んでる手に力が入る。
明奈は、大丈夫だろうか。
オレ達が影山を目撃した時に一番近くにいた彼女は、影山じゃないとだけ伝えて駆けて行った。
気づいてないのならそれでいい。だがあの明奈の態度は明らかに動揺を無理矢理押さえ込んでいるものだった。
だが、影山と知った上で練習に集中できているのなら、無理に聞き出す必要もないのかもしれない。と一年と綱海が特訓をしている場所に視線を向けるが――いない。
ボールを蹴る選手の中に、明奈の姿はなかった。
慌ててグラウンドを見回すも、やっぱり彼女はいなかった。
「……ッ!」
ひゅっと息を呑む。
「春奈。……明奈は一緒に特訓していないのか?」
「え?」
それからベンチでタオルを運ぼうとしていたもう一人の妹の姿が見えて、オレは何とか平然とした態度で話しかければ、春奈が目を丸くする。
「お姉ちゃんなら、今日の練習は不参加らしいよ。女子選手としての話があるって運営に呼び出されたんだって。朝食前に立向居くんの部屋に訪ねてそう言ったとか……」
「そう、か……」
嘘だ。
本当に呼び出されたのなら、久遠監督か響木監督も同伴しているだろうし、その伝言をマネージャーではなく、選手にしたりしない。
これは、明奈の個人的な判断の行動だ。
だったら明奈はどこに?練習を休んでまで行く場所とは?
「……ッまさか!」