寂しがり少女
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「今度会うときは、日本代表とイタリア代表としてだな」
「ああ!試合で会おう!」
キャプテンとアルデナさん。互いに試合を心待ちにするように爽やかに笑い合い握手をしていると、水を差すような拍手の音がその場に響いた。
「そう、イタリア代表は君たち。オルフェウスだ」
今までずっと静観していた影山が手を叩いていて、芝居かかった口調で私達に話しかけた。
「だが、イナズマジャパン。君達日本代表はこんな所にいていいのかね?」
「何っ!?」
私を含め全員が険しい顔つきで影山を睨むも、影山は平然とした様子でそんな問いを投げかけてきて、私が反応をしたのと彼の背後の電子掲示板のモニターの映像が変わった。
映像に映し出されたのはどこかのスタジアムだった。盛り上がる観客席。
……今日、どこか試合する予定ってあったか?
私の考えがまとまる前に映像が変わり、フィールドの様子が映された。そこで、目に入ったのは風丸さんや豪炎寺さん達の姿と、テレス・トルーエがいるアルゼンチン代表の選手の姿で……
≪さあ、大観衆が見守る中、日本代表イナズマジャパン対アルゼンチン代表ジ・エンパイアの一戦が、ここヤマネコスタジアムで行われようとしています!≫
映像の光景を裏付けるかのように実況は確かに言った。
日本代表対アルゼンチン代表の試合が今から行われる、と。
「えっ!?なんだって!?」
「バカな……アルゼンチン戦は明日のはずだぞ!?」
「どうなってるんだ……!?」
「まさか……!」
画面に映った光景を飲み込み切れずに愕然としたけれど、すぐに私達は影山を見やると、彼は不適な笑みを浮かべた。
「試合は3時から……お前たちなしでどこまで戦えるかな?」
「影山、お前が試合日程を……!」
「フッ。そこでイナズマジャパンが負ける姿をじっくり楽しむんだな」
わざわざ私達にモニターを見せたのも、見せつけるためなんだろう。
兄の指摘に影山は答えず、悪意に満ちた笑みを浮かべそのまま去っって行った。
「チッ。まんまとハメられたってわけか……」
影山にとっては勝っても負けても、どっちでもよかったという事か。
「まだ試合に間に合わないと決まったわけじゃない!」
思わず舌打ちしながら吐き捨てる私の隣で、キャプテンが声を上げた。キャプテンが視線を向けたのはモニターの右上に表示されている現在の時刻。
今は2時15分。試合開始とされている3時まで時間はある、とキャプテンは諦めていなかった。
それから私達はアルデナさんの案内の下でオルフェウスのキャラバンを貸してもらって、船着き場から直接、試合会場であるヤマネコ島へと向かおうとしていた。
キャラバンで進む傍ら、アルデナさんは仲間内と携帯で船の出航時間について確認を取ってくれていた。
2時35分の船に乗れば3時の試合には間に合うとのことだ。だけど、その船に乗り遅れたら次の船は4時半。……試合には間に合わないだろう。
このまま行けば間に合いそうだった。
「ありがとう。フィディオ!」
「ありがとうなんて……、元はといえば、俺達のせい……」
「それは違う」
「そうです。これは影山が仕組んだことなんですから」
電話を終えたアルデナさんに礼を言うキャプテン。
アルデナさんはこの事に責任を感じているようだったけれど、それを私は兄と一緒に否定した。
「俺達が影山を見た瞬間から……」
「………」
私が……いや違うな、兄や佐久間さんが影山を目撃した事から仕組まれていたのだろう。
それにしても…………
「ん?どうした?不動」
顎に手を当てて考え込んでいると、私に隣に座っているキャプテンに不思議そうに尋ねられた。
「いえ……少し、違和感があって…………」
「違和感?」
「……どんな方法を使ったか知りませんが、今のイタリア代表の監督は影山。だけど一監督に試合日程を丸々変更できる力があるとは思えなくて……」
FFでは少年サッカー協会副会長としての権力を行使していた。だけど、世界大会という規模の大きな大会ですらも思い通りに操れることが不思議だった。
「……そう言われれば不自然だな」
「……まあ、あの男のことが分からないのは今に始まったことじゃないけど…………」
兄が頷くのを見ながら私は今までの影山の動きを思い返していた。
例えば、真帝国の時に作った潜水艦の資金とか。不動家の借金とかもその他諸々。一度考えると、当時は何も思わなかった(考える余裕がなかった)不自然な点がぽつりぽつりと浮かび上がってきて、……いや、これは試合を控える今考えることじゃないな。と私は首を振って帽子を深く被りながら、座席の背凭れに背中を預けて港までの到着を待つことにした。
「明奈」
歩いている時は影山を探すために人ばかり見ていたので、改めてイタリアエリアの景観を窓から眺めていると、兄に名前を呼ばれた。
その声のトーンで、窓に反射する兄の表情で何を話したかった察した私は振り返らない。
「……試合で言った言葉は、本心だから」
そのまま私はぽつりと呟いた。
それは、チームKの試合中に兄を立ち上がらせる場で怒鳴りつけた内容の事だった。
口が悪かった自覚はある。だけど、何言われても取り消す気はない。
「……そうか」
「けど、」
窓に写る兄が僅かに顔を俯かせたのを見て、私は自分の行動を思い返して口を開いた。
「私もちょっと……いや、かなり軽率なところがあって……その、兄ちゃんが心配かけるのも仕方ないところあったなって…………それは、えっと…………ごめん」
謝罪はちゃんと自分の顔を動かして兄の顔を見て、伝えた。
その時は影山のことで必死だったけれど、独断で単独行動をしたり、不審者に会ったりと我ながら危ない目に合っていたと思う。
……自分の身は自分で守れるよう、もっと気を付けないと。
「……謝らなくていい」
兄は私を真っ直ぐと見返して、それから笑った。
「…………強くなったな、明奈」
キャラバンの通路を挟んで隣の席にいた兄ちゃん。一瞬だけ見えたゴーグル越しの赤いツリ目も柔らかく細められていて。
「っと…………う、うん……」
ゴーグルの下でそんな優しく見守られていた事を今さら思い知りながら私は何とか頷いて、それから帽子を深く被って再び目線を窓の外に向けた。
「……兄妹揃って不器用だな」
「大丈夫だ。サッカーをしている時の二人は息ピッタリだったしな!」
「ああ、2人の連携は素晴らしいものだった」
こっ恥ずかしい気持ちで兄から背中を向けたけれど、当然ながら一緒に乗っているキャプテンや佐久間さん、アルデナさんにはやり取りを聞かれている。
呆れつつも安堵したような声音の佐久間さんに、相談を聞いていたからか元気よく和解を喜んでくれるキャプテンの声。それから試合の時を思い出して相槌を打つアルデナさん。
「お前たち……」
それから兄ちゃんの引きつった声も聞こえて、そんな兄が珍しくてこっそり笑ってしまったのはここだけの話だ。
そんな和やかな雰囲気の中、キャラバンは進んでいて港まであと数分というところ。
キャラバンは突然止まってしまった。前方を見れば多くの車が並んでいた。あと森を抜ければ船着き場、という所で事故による大渋滞が起きてしまっていた。
試合に間に合う船が出航される時間は残り6分。
「……っ行くぞ!」
「ここからですか!?」
車が進めない今、走って行くしかないとキャプテンが立ち上がった。それに続いて私達もイタリア代表のキャラバンの運転手へと頭を下げて港へと走り出した。
港まで走れば、一隻の船が止まっているのが見えた。
間に合ったかと思ったけれど、あと一歩のところで船は出港してしまった。何もできずに、呆然と見送ることしかできなくて。
私達の努力も虚しく、船は出航してしまった。
+++
時刻は3時前。フィールドへと駆けつけることも出来ない私達は、港の休息所にあるテレビでその試合中継を見守ることしかできない。
チームのキャプテンに、司令塔である兄ちゃん。
イナズマジャパンの精神的支柱と言える二人が不在であるこの試合勝てるのだろうか。
テレビ越しに見えたイナズマジャパンの不安そうな表情が見えた。
それに不在なのは私達、選手だけじゃない。ベンチの方では監督や響木さんの姿もなく、マネージャーと目金さんだけがベンチに座っていた。
…………そういえば一年生の特訓、結局何もできないままになってしまった。日本宿舎に帰ったらチームのみんなはもちろん立向居くん達にも謝ららないと。
携帯で連絡を取ろうにも、もう試合が始まる直前じゃ春奈も携帯の電源を切ってしまってる。
私にできることと言えば、試合を見ることに専念することにするだけだ。
画面に映るのはキャプテンマークをつけた風丸さんだった。
「ああ!試合で会おう!」
キャプテンとアルデナさん。互いに試合を心待ちにするように爽やかに笑い合い握手をしていると、水を差すような拍手の音がその場に響いた。
「そう、イタリア代表は君たち。オルフェウスだ」
今までずっと静観していた影山が手を叩いていて、芝居かかった口調で私達に話しかけた。
「だが、イナズマジャパン。君達日本代表はこんな所にいていいのかね?」
「何っ!?」
私を含め全員が険しい顔つきで影山を睨むも、影山は平然とした様子でそんな問いを投げかけてきて、私が反応をしたのと彼の背後の電子掲示板のモニターの映像が変わった。
映像に映し出されたのはどこかのスタジアムだった。盛り上がる観客席。
……今日、どこか試合する予定ってあったか?
私の考えがまとまる前に映像が変わり、フィールドの様子が映された。そこで、目に入ったのは風丸さんや豪炎寺さん達の姿と、テレス・トルーエがいるアルゼンチン代表の選手の姿で……
≪さあ、大観衆が見守る中、日本代表イナズマジャパン対アルゼンチン代表ジ・エンパイアの一戦が、ここヤマネコスタジアムで行われようとしています!≫
映像の光景を裏付けるかのように実況は確かに言った。
日本代表対アルゼンチン代表の試合が今から行われる、と。
「えっ!?なんだって!?」
「バカな……アルゼンチン戦は明日のはずだぞ!?」
「どうなってるんだ……!?」
「まさか……!」
画面に映った光景を飲み込み切れずに愕然としたけれど、すぐに私達は影山を見やると、彼は不適な笑みを浮かべた。
「試合は3時から……お前たちなしでどこまで戦えるかな?」
「影山、お前が試合日程を……!」
「フッ。そこでイナズマジャパンが負ける姿をじっくり楽しむんだな」
わざわざ私達にモニターを見せたのも、見せつけるためなんだろう。
兄の指摘に影山は答えず、悪意に満ちた笑みを浮かべそのまま去っって行った。
「チッ。まんまとハメられたってわけか……」
影山にとっては勝っても負けても、どっちでもよかったという事か。
「まだ試合に間に合わないと決まったわけじゃない!」
思わず舌打ちしながら吐き捨てる私の隣で、キャプテンが声を上げた。キャプテンが視線を向けたのはモニターの右上に表示されている現在の時刻。
今は2時15分。試合開始とされている3時まで時間はある、とキャプテンは諦めていなかった。
それから私達はアルデナさんの案内の下でオルフェウスのキャラバンを貸してもらって、船着き場から直接、試合会場であるヤマネコ島へと向かおうとしていた。
キャラバンで進む傍ら、アルデナさんは仲間内と携帯で船の出航時間について確認を取ってくれていた。
2時35分の船に乗れば3時の試合には間に合うとのことだ。だけど、その船に乗り遅れたら次の船は4時半。……試合には間に合わないだろう。
このまま行けば間に合いそうだった。
「ありがとう。フィディオ!」
「ありがとうなんて……、元はといえば、俺達のせい……」
「それは違う」
「そうです。これは影山が仕組んだことなんですから」
電話を終えたアルデナさんに礼を言うキャプテン。
アルデナさんはこの事に責任を感じているようだったけれど、それを私は兄と一緒に否定した。
「俺達が影山を見た瞬間から……」
「………」
私が……いや違うな、兄や佐久間さんが影山を目撃した事から仕組まれていたのだろう。
それにしても…………
「ん?どうした?不動」
顎に手を当てて考え込んでいると、私に隣に座っているキャプテンに不思議そうに尋ねられた。
「いえ……少し、違和感があって…………」
「違和感?」
「……どんな方法を使ったか知りませんが、今のイタリア代表の監督は影山。だけど一監督に試合日程を丸々変更できる力があるとは思えなくて……」
FFでは少年サッカー協会副会長としての権力を行使していた。だけど、世界大会という規模の大きな大会ですらも思い通りに操れることが不思議だった。
「……そう言われれば不自然だな」
「……まあ、あの男のことが分からないのは今に始まったことじゃないけど…………」
兄が頷くのを見ながら私は今までの影山の動きを思い返していた。
例えば、真帝国の時に作った潜水艦の資金とか。不動家の借金とかもその他諸々。一度考えると、当時は何も思わなかった(考える余裕がなかった)不自然な点がぽつりぽつりと浮かび上がってきて、……いや、これは試合を控える今考えることじゃないな。と私は首を振って帽子を深く被りながら、座席の背凭れに背中を預けて港までの到着を待つことにした。
「明奈」
歩いている時は影山を探すために人ばかり見ていたので、改めてイタリアエリアの景観を窓から眺めていると、兄に名前を呼ばれた。
その声のトーンで、窓に反射する兄の表情で何を話したかった察した私は振り返らない。
「……試合で言った言葉は、本心だから」
そのまま私はぽつりと呟いた。
それは、チームKの試合中に兄を立ち上がらせる場で怒鳴りつけた内容の事だった。
口が悪かった自覚はある。だけど、何言われても取り消す気はない。
「……そうか」
「けど、」
窓に写る兄が僅かに顔を俯かせたのを見て、私は自分の行動を思い返して口を開いた。
「私もちょっと……いや、かなり軽率なところがあって……その、兄ちゃんが心配かけるのも仕方ないところあったなって…………それは、えっと…………ごめん」
謝罪はちゃんと自分の顔を動かして兄の顔を見て、伝えた。
その時は影山のことで必死だったけれど、独断で単独行動をしたり、不審者に会ったりと我ながら危ない目に合っていたと思う。
……自分の身は自分で守れるよう、もっと気を付けないと。
「……謝らなくていい」
兄は私を真っ直ぐと見返して、それから笑った。
「…………強くなったな、明奈」
キャラバンの通路を挟んで隣の席にいた兄ちゃん。一瞬だけ見えたゴーグル越しの赤いツリ目も柔らかく細められていて。
「っと…………う、うん……」
ゴーグルの下でそんな優しく見守られていた事を今さら思い知りながら私は何とか頷いて、それから帽子を深く被って再び目線を窓の外に向けた。
「……兄妹揃って不器用だな」
「大丈夫だ。サッカーをしている時の二人は息ピッタリだったしな!」
「ああ、2人の連携は素晴らしいものだった」
こっ恥ずかしい気持ちで兄から背中を向けたけれど、当然ながら一緒に乗っているキャプテンや佐久間さん、アルデナさんにはやり取りを聞かれている。
呆れつつも安堵したような声音の佐久間さんに、相談を聞いていたからか元気よく和解を喜んでくれるキャプテンの声。それから試合の時を思い出して相槌を打つアルデナさん。
「お前たち……」
それから兄ちゃんの引きつった声も聞こえて、そんな兄が珍しくてこっそり笑ってしまったのはここだけの話だ。
そんな和やかな雰囲気の中、キャラバンは進んでいて港まであと数分というところ。
キャラバンは突然止まってしまった。前方を見れば多くの車が並んでいた。あと森を抜ければ船着き場、という所で事故による大渋滞が起きてしまっていた。
試合に間に合う船が出航される時間は残り6分。
「……っ行くぞ!」
「ここからですか!?」
車が進めない今、走って行くしかないとキャプテンが立ち上がった。それに続いて私達もイタリア代表のキャラバンの運転手へと頭を下げて港へと走り出した。
港まで走れば、一隻の船が止まっているのが見えた。
間に合ったかと思ったけれど、あと一歩のところで船は出港してしまった。何もできずに、呆然と見送ることしかできなくて。
私達の努力も虚しく、船は出航してしまった。
+++
時刻は3時前。フィールドへと駆けつけることも出来ない私達は、港の休息所にあるテレビでその試合中継を見守ることしかできない。
チームのキャプテンに、司令塔である兄ちゃん。
イナズマジャパンの精神的支柱と言える二人が不在であるこの試合勝てるのだろうか。
テレビ越しに見えたイナズマジャパンの不安そうな表情が見えた。
それに不在なのは私達、選手だけじゃない。ベンチの方では監督や響木さんの姿もなく、マネージャーと目金さんだけがベンチに座っていた。
…………そういえば一年生の特訓、結局何もできないままになってしまった。日本宿舎に帰ったらチームのみんなはもちろん立向居くん達にも謝ららないと。
携帯で連絡を取ろうにも、もう試合が始まる直前じゃ春奈も携帯の電源を切ってしまってる。
私にできることと言えば、試合を見ることに専念することにするだけだ。
画面に映るのはキャプテンマークをつけた風丸さんだった。