寂しがり少女
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「いくぞ明奈!」
「うん!」
アルデナさんのスローイングで試合が再開された早々、ボールを受け取った兄ちゃんと一緒にチームKへと切りこんでいく。
「ここだ!」
兄ちゃんのセンタリング。そのボールの着地地点に私と兄ちゃんは並んで、2人同時にボールを蹴った。
「「うおおぉぉ!!!」」
連携シュートはボールは僅かに紫色のオーラを纏った気がするけれど、ゴールへ行く頃にはそのオーラもなくなり大きく外してしまった。
「くっ、失敗か……」
「チッ、うまくいかない……!」
「鬼道!不動!」
タイミングは合ってるはずなのに……シュートとして不完全な必殺技の出来に悔しがっている最中、佐久間さんが私達の方に駆け寄ってきた。
「今のシュート…まさか!」
「佐久間……」
作ろうとしている必殺技の察しがついているんだろう佐久間さんに兄ちゃんは同意するかのように頷いた。
「二人で特訓していた必殺シュートだ。……だが、見ての通りまだ完成していない」
「……あの時のか」
……数日前の私が兄を誘った時の事を思い出しているんだろう、佐久間さんから視線を感じる。
その時に佐久間さんに対して、最悪な態度をした事も覚えているので少し気まずくて、私は思わず視線を逸らすが、
「俺にも協力させてくれ、不動!鬼道!」
そんな申し出をする彼に思わず顔を上げると、丁度、彼と目がばちりと会った。
「俺たち三人なら、そのシュートを完成させられるはずだ!」
「佐久間さん……」
「佐久間……!」
そう言い切ってくれる佐久間さんは笑みを浮かべていた。兄はともかく、私の事も信頼してくれる姿に驚く。……だけど、嬉しい気持ちも確かにあった。
チームKのボールキックで試合が再開され、そのボールをフィディオさんが取った。
「フィディオ!俺に考えがある!あと一回だけチャンスをくれ!」
「!」
「絶対成功させますから!お願いします!!」
「分かった!」
アルデナさんが攻め込もうとしてる矢先に、佐久間さんと私で頼み込めばその熱意を受け止めてくれたアルデナさんは笑みを浮かべて頷いた。
そんな彼をマークしたのはデモーニオだった。
「俺は究極だ!究極の存在なんだ!!」
「究極のものなんか存在しない!」
「何……!?」
「みんな、究極のプレイを目指して努力する。努力するから進化するんだ!自分を究極だと認めたら進化はそこで終わるぞ!!」
「!!黙れぇぇぇ……!!」
「イタリア代表の座は渡さない!」
アルデナさんの言葉に、デモーニオは怒鳴りながら突っ込む。だけど怒りからかその動きは単調でフィディオさんは悠々とかわした。
「キドウ!」
それからアルデナさんからのパスを受け取った兄ちゃんと一緒に攻め上がる。
「お前たちのシュートには高さが足りないんだ!」
「!」
ゴール前、GKが真正面から止めるため構えているのを見つつ、佐久間さんの助言を耳に入れる。
「高さ……高さか!!」
「そういうことか!」
そこであの必殺技の情報がなかった事にも納得した。だって、それは全く新しい次元の話だから。
「行くぞ!!」
「「おうっ!!」」
互いに理解できてから、私達は三人で並んで一斉に上がっていく。
「横のつながりと縦のスピード……。今までの“皇帝ペンギン”が二次元だとすれば……」
「さらなる進化を遂げるためには……!」
「そこに高さを加えて……!」
兄がボールを上げたタイミングで三人一緒に飛んだ。そして真ん中にいる兄の指笛により、表れた紫色のペンギンはボールを中心に円を描く。
「三次元にすればいいんだ!」
そしてエネルギーが溜まったボールを私達は同時に踵落としで撃った。
「「「 “皇帝ペンギン3号” !!」」」
私達が新しく生み出した必殺技はゴール前に立ちはだかっていたデモーニオの“皇帝ペンギンX”もろともゴールへと吸い込まれた。
「この技が完成できたのは佐久間……お前のおかげだ」
「鬼道……」
「兄ちゃんっ」
必殺技の完成と、2-1の逆転できた達成感のまま勢いで佐久間さんと話す兄へ手の平を出せば、満足そうな笑みを浮かべながら手をパチンと叩き合った。
「あと……佐久間さんも」
その後に、おずおずと手を出してみると佐久間さんは目を丸くしてたが、
「やったな」
やがて笑顔を浮かべて、パチンッと手を叩き合った。
今までの“皇帝ペンギン”には囚われない立体的な必殺技。皇帝ペンギンの最終進化“皇帝ペンギン3号”をやっと完成させることができた。
後半戦も残り僅かで再開された試合。
だけど、ボールを回されたデモーニオはそれに反応することなく一歩も動かない。それをチームKの選手は不思議そうに見た。
「俺は究極じゃなかった……!究極になれなかったんだ……!」
究極の存在だと思い込んでいたデモーニオにとって、この結果はあまりに残酷だったんだろう。その場で両手と両膝を地に付いて俯いてしまった。
「力を与えられた者の最後か……。なあ、いいのか」
経験がある佐久間さんはぽつりと呟いてから、私を見た。彼を気に掛けていた私が何も言わなくていいかと言う事だろう。
私は首を静かに横に振る。
「その役割は私じゃないので」
「パスだ!デモーニオ!」
絶望しかけていたデモーニオに声を掛けたのはチームKの選手だった。
プログラムの拒絶反応に苦しむデモーニオを、チームKはどこか心配そうに見ていた。そんな彼らを見て、思い出したのは真帝国学園のみんなだった。
影山は簡単にデモーニオを切り捨てたけど、チームKの選手は違う。彼をチームのキャプテンとして認めている。
仲間がいるからデモーニオはきっと大丈夫だ。
「戻ろうデモーニオ。力なんてなかったけど、俺たちのサッカーができていた、あの頃に!」
「でも……でもッ……!」
「大切なのは勝つことじゃない、全力で戦うこと!そう言ったのはお前じゃないか!デモーニオ・ストラーダ!」
「!」
きっと、チームKが作られる前から仲が良かったんだろうビアンコとビオレテが語るデモーニオは……私のよく知るデモーニオで。
思い出すのは、勝ちに拘る私に対して、勝敗関係なく頑張った事を褒めてくれた彼だった。
「……デモーニオはやっぱり、何にも変わってなかった」
それが、ただただ嬉しくて……つい視界が潤みそうになって慌てて腕で目を擦る。
「……よかったな、明奈」
その最中に頭に手を置かれる感覚がして、目を開ければ兄が優し気に微笑んでいた。
「うん……!」
チームKを見れば、デモーニオはもう立ち上がっていた。口元に笑みを浮かべているけれど、その笑みはさっきまでとは違う穏やかな笑みだった。
それからデモーニオは自身のマントとゴーグル。そしてまとめていた髪ゴムを解く。
「行くぞみんな!」
私が見慣れていた姿になったデモーニオは、あの時と同じ笑顔を浮かべてサッカーボールを蹴った。
それから私達はサッカーの楽しさを思い出したチームKとの純粋な試合を試合終了まで楽しんだ。
+++
試合終了を知らせるホイッスルが鳴った。
イタリア代表決定戦。その勝者はオルフェウスだ。
両チームのキャプテンであるアルデナさんとデモーニオは互いに笑顔で固い握手を交わしていた。
それから、デモーニオは表情を曇らせて私達、日本代表の方へと歩いてきた。
「キドウ、俺は……」
「またピッチで会おう」
「!」
「デモーニオ・ストラーダ」
「鬼道……!」
申し訳なさそうに口を開いたデモーニオの言葉を遮り笑顔で言う兄ちゃん。その顔を見て、デモーニオも再び笑顔を浮かべた。
「デモーニオ」
「!」
そんな彼を見て、私が隣から声を掛ければびくりと大袈裟にデモーニオの肩が跳ねて、こちらを見下ろす。
「ん」
「え?」
「ん!」
「えっと……?」
目が合ったタイミングで私が右手を差し出せば、ばつが悪そうな顔をしていたデモーニオは私の行動に戸惑っていたけれど、急かすように声を上げればおずおずと自分の手を私の手に重ねた。
「やっぱり……」
そこでやっと確信を得た私はデモーニオに笑いかけた。
「……君が、あの時私を助けてくれたんだね」
「!」
影山を探している最中、謎の不審者に連れていかれそうになった私をサッカーボールを蹴り、手を取って逃がしてくれたのはデモーニオだ。
手を握られた時に懐かしさを感じたけれど、彼がここにいるとは思ってなかったから不思議だった。だけど、目の前にいるのなら話は別だ。
「ありがとう、デモーニオ」
不審者に対する恐怖をそこまで引き摺らなかったのも、デモーニオが助けてくれたからだ。
だから礼を伝えれば、デモーニオは大きく目を見開いて固まっていた。そんな彼の名前を呼べば、ばっと顔を俯かせてた。
「どうして……お前はそんなに…………」
それからぽつりと呟いた声はどこか苦しそうで、握っていた手が小さく震えていることに気づく。
「好きだからだよ」
その震えを止めたくて、私は空いている方の手も重ねて両手で彼の手を握れば、デモーニオは顔を上げた。
「君とのサッカーが好きだから。……せっかく自分のサッカーを取り戻せたんだから、そんな顔してほしくないな」
私はデモーニオのサッカーを見たくて頑張ったんだから、なんて正直言うのは少し恥ずかしいのでそれは内緒にして、彼に罪悪感を抱えさせないように明るい声を出して笑いかける。
「また、一緒にサッカーしよう。デモーニオ」
そんな約束事を取り付ければ、デモーニオはまた呆けていたけれどやがて灰色の目を細めて柔らかく微笑んだ。
「……アキナには、敵わないな」
「!……ふふっ」
やっと名前を呼んでくれたデモーニオに、自然と頬を緩んだ。
「…………ということで」
「アキナ?」
無事にデモーニオと和解できて笑い合ったのち、私は彼の両肩を掴んでくるりと後ろ――チームKの選手がいる方へ振り返らせた。
「チームKの皆様は至急、デモーニオを病院に連れていってあげてください……!!」
「えっ」
「「「えっ」」」
デモーニオとチームKの選手達の驚いた声が響いたけれど、私は構わずにぐいぐいとデモーニオを押して、一番近くにいたビオレテへと話しかけた。
「影山の使用したプログラムのせいで、視力以外にも体に支障をきたしているかもしれないので、検査に連れて行ってあげてください」
「わ、分かった……!」
「いや、俺はもう大丈夫……」
「ダメ!私は健康になったデモーニオとサッカーしたいんだよ!!」
「……分かったよ」
サッカーの楽しさを思い出したデモーニオのプレーは、彼本来のものだったから平気そうに見えるけれど、影山の言うプログラムの詳細が分からない以上ちゃんと診てもらうべきだ。
病院という単語に嫌そうな顔をしたのを睨みつければ、デモーニオは渋々と頷いてチームメイトの元へと歩いて行き、それから彼らと一緒に去って行った。
「…………明奈」
「?兄ちゃん?……佐久間さんもどうしました?」
見送り終えて、ほっとしているとずっと隣で私とデモーニオのやり取りを見守っていた兄ちゃんに名前を呼ばれた。いつの間にか佐久間さんもいる。
「確認なんだが、さっきの告白の意味は…………」
「え?」
さっきまで笑っていた兄ちゃんは何故か緊張した様子で、私に聞いているくせにあからさまに目を逸らしている姿は答えを聞きたくないみたいでしばらく押し黙っていたけれど、やっと口を開いた。
「友愛、ということでいいのだろうか」
「え?うん……そうだけど?」
なんでそんな当たり前の事を兄ちゃんは尋ねているんだ?と不思議に思いながらこくりと頷いた。
「……そうか」
なのに兄ちゃんはあからさまに安堵の表情を浮かべていて、いつもの笑みを浮かべて頷いていた。
「??」
不思議な兄の様子に、佐久間さんに聞いてみようかと顔を向ければ、
「……鬼道が心配するのもよく分かるな…………」
「えっ!?」
呆れつつもどこか納得したよう頷く佐久間さんがいて、空港の時よりも雰囲気は柔らかいにしろ…………やっぱり何に対する心配をされているか分からなかった。
「うん!」
アルデナさんのスローイングで試合が再開された早々、ボールを受け取った兄ちゃんと一緒にチームKへと切りこんでいく。
「ここだ!」
兄ちゃんのセンタリング。そのボールの着地地点に私と兄ちゃんは並んで、2人同時にボールを蹴った。
「「うおおぉぉ!!!」」
連携シュートはボールは僅かに紫色のオーラを纏った気がするけれど、ゴールへ行く頃にはそのオーラもなくなり大きく外してしまった。
「くっ、失敗か……」
「チッ、うまくいかない……!」
「鬼道!不動!」
タイミングは合ってるはずなのに……シュートとして不完全な必殺技の出来に悔しがっている最中、佐久間さんが私達の方に駆け寄ってきた。
「今のシュート…まさか!」
「佐久間……」
作ろうとしている必殺技の察しがついているんだろう佐久間さんに兄ちゃんは同意するかのように頷いた。
「二人で特訓していた必殺シュートだ。……だが、見ての通りまだ完成していない」
「……あの時のか」
……数日前の私が兄を誘った時の事を思い出しているんだろう、佐久間さんから視線を感じる。
その時に佐久間さんに対して、最悪な態度をした事も覚えているので少し気まずくて、私は思わず視線を逸らすが、
「俺にも協力させてくれ、不動!鬼道!」
そんな申し出をする彼に思わず顔を上げると、丁度、彼と目がばちりと会った。
「俺たち三人なら、そのシュートを完成させられるはずだ!」
「佐久間さん……」
「佐久間……!」
そう言い切ってくれる佐久間さんは笑みを浮かべていた。兄はともかく、私の事も信頼してくれる姿に驚く。……だけど、嬉しい気持ちも確かにあった。
チームKのボールキックで試合が再開され、そのボールをフィディオさんが取った。
「フィディオ!俺に考えがある!あと一回だけチャンスをくれ!」
「!」
「絶対成功させますから!お願いします!!」
「分かった!」
アルデナさんが攻め込もうとしてる矢先に、佐久間さんと私で頼み込めばその熱意を受け止めてくれたアルデナさんは笑みを浮かべて頷いた。
そんな彼をマークしたのはデモーニオだった。
「俺は究極だ!究極の存在なんだ!!」
「究極のものなんか存在しない!」
「何……!?」
「みんな、究極のプレイを目指して努力する。努力するから進化するんだ!自分を究極だと認めたら進化はそこで終わるぞ!!」
「!!黙れぇぇぇ……!!」
「イタリア代表の座は渡さない!」
アルデナさんの言葉に、デモーニオは怒鳴りながら突っ込む。だけど怒りからかその動きは単調でフィディオさんは悠々とかわした。
「キドウ!」
それからアルデナさんからのパスを受け取った兄ちゃんと一緒に攻め上がる。
「お前たちのシュートには高さが足りないんだ!」
「!」
ゴール前、GKが真正面から止めるため構えているのを見つつ、佐久間さんの助言を耳に入れる。
「高さ……高さか!!」
「そういうことか!」
そこであの必殺技の情報がなかった事にも納得した。だって、それは全く新しい次元の話だから。
「行くぞ!!」
「「おうっ!!」」
互いに理解できてから、私達は三人で並んで一斉に上がっていく。
「横のつながりと縦のスピード……。今までの“皇帝ペンギン”が二次元だとすれば……」
「さらなる進化を遂げるためには……!」
「そこに高さを加えて……!」
兄がボールを上げたタイミングで三人一緒に飛んだ。そして真ん中にいる兄の指笛により、表れた紫色のペンギンはボールを中心に円を描く。
「三次元にすればいいんだ!」
そしてエネルギーが溜まったボールを私達は同時に踵落としで撃った。
「「「 “皇帝ペンギン3号” !!」」」
私達が新しく生み出した必殺技はゴール前に立ちはだかっていたデモーニオの“皇帝ペンギンX”もろともゴールへと吸い込まれた。
「この技が完成できたのは佐久間……お前のおかげだ」
「鬼道……」
「兄ちゃんっ」
必殺技の完成と、2-1の逆転できた達成感のまま勢いで佐久間さんと話す兄へ手の平を出せば、満足そうな笑みを浮かべながら手をパチンと叩き合った。
「あと……佐久間さんも」
その後に、おずおずと手を出してみると佐久間さんは目を丸くしてたが、
「やったな」
やがて笑顔を浮かべて、パチンッと手を叩き合った。
今までの“皇帝ペンギン”には囚われない立体的な必殺技。皇帝ペンギンの最終進化“皇帝ペンギン3号”をやっと完成させることができた。
後半戦も残り僅かで再開された試合。
だけど、ボールを回されたデモーニオはそれに反応することなく一歩も動かない。それをチームKの選手は不思議そうに見た。
「俺は究極じゃなかった……!究極になれなかったんだ……!」
究極の存在だと思い込んでいたデモーニオにとって、この結果はあまりに残酷だったんだろう。その場で両手と両膝を地に付いて俯いてしまった。
「力を与えられた者の最後か……。なあ、いいのか」
経験がある佐久間さんはぽつりと呟いてから、私を見た。彼を気に掛けていた私が何も言わなくていいかと言う事だろう。
私は首を静かに横に振る。
「その役割は私じゃないので」
「パスだ!デモーニオ!」
絶望しかけていたデモーニオに声を掛けたのはチームKの選手だった。
プログラムの拒絶反応に苦しむデモーニオを、チームKはどこか心配そうに見ていた。そんな彼らを見て、思い出したのは真帝国学園のみんなだった。
影山は簡単にデモーニオを切り捨てたけど、チームKの選手は違う。彼をチームのキャプテンとして認めている。
仲間がいるからデモーニオはきっと大丈夫だ。
「戻ろうデモーニオ。力なんてなかったけど、俺たちのサッカーができていた、あの頃に!」
「でも……でもッ……!」
「大切なのは勝つことじゃない、全力で戦うこと!そう言ったのはお前じゃないか!デモーニオ・ストラーダ!」
「!」
きっと、チームKが作られる前から仲が良かったんだろうビアンコとビオレテが語るデモーニオは……私のよく知るデモーニオで。
思い出すのは、勝ちに拘る私に対して、勝敗関係なく頑張った事を褒めてくれた彼だった。
「……デモーニオはやっぱり、何にも変わってなかった」
それが、ただただ嬉しくて……つい視界が潤みそうになって慌てて腕で目を擦る。
「……よかったな、明奈」
その最中に頭に手を置かれる感覚がして、目を開ければ兄が優し気に微笑んでいた。
「うん……!」
チームKを見れば、デモーニオはもう立ち上がっていた。口元に笑みを浮かべているけれど、その笑みはさっきまでとは違う穏やかな笑みだった。
それからデモーニオは自身のマントとゴーグル。そしてまとめていた髪ゴムを解く。
「行くぞみんな!」
私が見慣れていた姿になったデモーニオは、あの時と同じ笑顔を浮かべてサッカーボールを蹴った。
それから私達はサッカーの楽しさを思い出したチームKとの純粋な試合を試合終了まで楽しんだ。
+++
試合終了を知らせるホイッスルが鳴った。
イタリア代表決定戦。その勝者はオルフェウスだ。
両チームのキャプテンであるアルデナさんとデモーニオは互いに笑顔で固い握手を交わしていた。
それから、デモーニオは表情を曇らせて私達、日本代表の方へと歩いてきた。
「キドウ、俺は……」
「またピッチで会おう」
「!」
「デモーニオ・ストラーダ」
「鬼道……!」
申し訳なさそうに口を開いたデモーニオの言葉を遮り笑顔で言う兄ちゃん。その顔を見て、デモーニオも再び笑顔を浮かべた。
「デモーニオ」
「!」
そんな彼を見て、私が隣から声を掛ければびくりと大袈裟にデモーニオの肩が跳ねて、こちらを見下ろす。
「ん」
「え?」
「ん!」
「えっと……?」
目が合ったタイミングで私が右手を差し出せば、ばつが悪そうな顔をしていたデモーニオは私の行動に戸惑っていたけれど、急かすように声を上げればおずおずと自分の手を私の手に重ねた。
「やっぱり……」
そこでやっと確信を得た私はデモーニオに笑いかけた。
「……君が、あの時私を助けてくれたんだね」
「!」
影山を探している最中、謎の不審者に連れていかれそうになった私をサッカーボールを蹴り、手を取って逃がしてくれたのはデモーニオだ。
手を握られた時に懐かしさを感じたけれど、彼がここにいるとは思ってなかったから不思議だった。だけど、目の前にいるのなら話は別だ。
「ありがとう、デモーニオ」
不審者に対する恐怖をそこまで引き摺らなかったのも、デモーニオが助けてくれたからだ。
だから礼を伝えれば、デモーニオは大きく目を見開いて固まっていた。そんな彼の名前を呼べば、ばっと顔を俯かせてた。
「どうして……お前はそんなに…………」
それからぽつりと呟いた声はどこか苦しそうで、握っていた手が小さく震えていることに気づく。
「好きだからだよ」
その震えを止めたくて、私は空いている方の手も重ねて両手で彼の手を握れば、デモーニオは顔を上げた。
「君とのサッカーが好きだから。……せっかく自分のサッカーを取り戻せたんだから、そんな顔してほしくないな」
私はデモーニオのサッカーを見たくて頑張ったんだから、なんて正直言うのは少し恥ずかしいのでそれは内緒にして、彼に罪悪感を抱えさせないように明るい声を出して笑いかける。
「また、一緒にサッカーしよう。デモーニオ」
そんな約束事を取り付ければ、デモーニオはまた呆けていたけれどやがて灰色の目を細めて柔らかく微笑んだ。
「……アキナには、敵わないな」
「!……ふふっ」
やっと名前を呼んでくれたデモーニオに、自然と頬を緩んだ。
「…………ということで」
「アキナ?」
無事にデモーニオと和解できて笑い合ったのち、私は彼の両肩を掴んでくるりと後ろ――チームKの選手がいる方へ振り返らせた。
「チームKの皆様は至急、デモーニオを病院に連れていってあげてください……!!」
「えっ」
「「「えっ」」」
デモーニオとチームKの選手達の驚いた声が響いたけれど、私は構わずにぐいぐいとデモーニオを押して、一番近くにいたビオレテへと話しかけた。
「影山の使用したプログラムのせいで、視力以外にも体に支障をきたしているかもしれないので、検査に連れて行ってあげてください」
「わ、分かった……!」
「いや、俺はもう大丈夫……」
「ダメ!私は健康になったデモーニオとサッカーしたいんだよ!!」
「……分かったよ」
サッカーの楽しさを思い出したデモーニオのプレーは、彼本来のものだったから平気そうに見えるけれど、影山の言うプログラムの詳細が分からない以上ちゃんと診てもらうべきだ。
病院という単語に嫌そうな顔をしたのを睨みつければ、デモーニオは渋々と頷いてチームメイトの元へと歩いて行き、それから彼らと一緒に去って行った。
「…………明奈」
「?兄ちゃん?……佐久間さんもどうしました?」
見送り終えて、ほっとしているとずっと隣で私とデモーニオのやり取りを見守っていた兄ちゃんに名前を呼ばれた。いつの間にか佐久間さんもいる。
「確認なんだが、さっきの告白の意味は…………」
「え?」
さっきまで笑っていた兄ちゃんは何故か緊張した様子で、私に聞いているくせにあからさまに目を逸らしている姿は答えを聞きたくないみたいでしばらく押し黙っていたけれど、やっと口を開いた。
「友愛、ということでいいのだろうか」
「え?うん……そうだけど?」
なんでそんな当たり前の事を兄ちゃんは尋ねているんだ?と不思議に思いながらこくりと頷いた。
「……そうか」
なのに兄ちゃんはあからさまに安堵の表情を浮かべていて、いつもの笑みを浮かべて頷いていた。
「??」
不思議な兄の様子に、佐久間さんに聞いてみようかと顔を向ければ、
「……鬼道が心配するのもよく分かるな…………」
「えっ!?」
呆れつつもどこか納得したよう頷く佐久間さんがいて、空港の時よりも雰囲気は柔らかいにしろ…………やっぱり何に対する心配をされているか分からなかった。