寂しがり少女
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「兄ちゃん、兄貴、兄上……兄者……にいさま…………にいに、は流石に怒られそうだな」
「明奈さん、さっきからぶつぶつ何話してるんですか?」
「わっ」
夕食後の食堂。我ながら珍しくサッカー以外の事で考えこんでいて、虎丸くんに話しかけられて思わず肩が跳ねた。
「あれ、虎丸くん。家に帰らなくて大丈夫なの?」
「今日はお店定休日なので、遅くまで残ろうかなって」
いつもならとっくに帰っているはずなのにと首を傾げれば、虎丸くんはそう説明してくれた。
「それに、オレがイナズマジャパンでサッカー頑張ってるのを見て、最近乃々美姉ちゃん以外にも近所の人達も店を手伝うって名乗り出てくれて……」
「そっか。じゃあ本戦も気兼ねなくサッカーできるな」
「はい!」
毎日“虎ノ屋”の手伝いも頑張っていた虎丸くんにとって、それらを置いて本戦に行く事は気掛かりだったのだろう。
心底嬉しそうな笑顔を見せる虎丸くんを見て、私もつい頬が緩んだ。
「あと、実はオレ!本戦に向けて新しい必殺技の特訓もしてるんですよ!」
「へぇ、相変わらず向上心が強いね」
「!えへへ、ありがとうございます。それで、明奈さんに相談に乗ってほしいなって思ってて……」
「私?」
韓国戦でも新必殺技を編み出したばかりなのに、すごいなと素直に感心していると突然そう申し出を受けて首を傾げた。
「虎丸くんのサッカーだったら豪炎寺さんの方が理解あるんじゃ……」
「豪炎寺さんはダメですよ!オレ、あの人を驚かせたいので!!」
つまり豪炎寺さんには内緒で作りたい、とのことだ。
だとしても新必殺技の手伝いなんて重要な役割、私なんかでいいのかと決めかねていると笑顔だった虎丸くんの表情がだんだんと変わっていく。
「……飛鷹さんの特訓には付き合うのに、オレとは付き合ってくれないんですか」
「なんの対抗意識だよ…………分かった、付き合う付き合う」
悲しげ、なんてしおらしいものじゃない。むすりとした不機嫌顔だった。
なんで私の指導に拘るんだとか、初心者だった飛鷹さんはともかく元から才能のある虎丸くんと教えることもないだろ、とか思ったけれど言っても納得してくれなさそうなので私が折れることに。
「ありがとうございます。明奈さん!」
すると、虎丸くんは不機嫌顔から一変して満面の笑みを浮かべて、いつの間にか私の手をぎゅっと握っていた。無邪気というか強かというか………。
「いつかオレ達で連携必殺技も作りましょうね!」
「えぇ……FWのキック力に合わせられるかな……」
「それは明奈さんが頑張ってください」
必殺技の話から何故か一緒に作るという話が浮上して、つい不安要素を口にすればバッサリと言い切られた。ごもっともすぎる。
+++
しばらく虎丸くんの必殺技のイメージとか話して練習方法とか考えていると時間はあっという間で、虎丸くんが家に帰る時間になった。(明日の店の仕込みをするためだとか。本当にすごいなと思う)
「……お姉ちゃん、今大丈夫?」
「ん?どうしたの?」
「ちょっと部屋に来てほしくて!」
そして風呂を入り、就寝時間まで選手のデータを見ようかななんて考えた矢先に妹に話しかけられた。
前に一緒に寝た時は私の部屋だったので、春奈の部屋に入るのは初めてだなと思いながら入ればすぐにベットに座るように促される。
それからどこか緊張気味の様子の春奈は自分の鞄の中で何かを探しているようで、数分後に後ろ手で何かを持って私の目の前に来た。
「……お姉ちゃんに返さなきゃって思って」
「これって……」
差し出されたのは紺色の帽子―見覚えのあるそれに私が選考試合の集まり前まで被っていたあの帽子だとすぐに分かった。
校舎裏で、春奈と会って逃げてしまった際に落としてしまった帽子。……探さないとと思っていたのに、結局後回しにしていたなと思い出す。
「……春奈が見つけてくれたの?」
「……うん。本当はすぐに渡すべきだったんだろうけど、なかなかできなくて……ごめんね」
「謝らないでよ。話を聞かなかった私のせいなんだから」
いつ見つけたか分からないけれど、春奈の表情から前から持っていたのに、渡せなかったことに罪悪感を感じているようで私は首を横に振って笑いかけた。
だけど、春奈はそれだけじゃなくて……と目を伏せてぎゅっと帽子を持つ手に力を入れた。
「……お、お姉ちゃんに会うための口実が欲しくて、返せなかったの。…………もしお姉ちゃんが日本代表を辞めたら、もう会えないって思っちゃったから」
でも、お姉ちゃんの帽子を持っていたら渡すためって口実で探せるでしょ?と春奈は笑う。少し無理をした笑みだった。
「春奈……」
そんな春奈を見ながら私は呆然としてしまう。
だって、本当にそうしようと思っていた事を春奈に言い当てられたのだから。
韓国戦、私がイナズマジャパンの足を引っ張り続ける選手のままだったらきっともう代表を降ろされていたし、言われる前に私が離れていた。
その時の私は染岡さん達のように諦めずに代表に復帰しよう、なんてとてもじゃないけど思えなくて全て諦めて逃げていただろう。
サッカーから、兄妹から。
「けど、もうお姉ちゃんはそばにいてくれるから……ちゃんと返さないといけないと思って」
「……うん。ありがとう春奈」
そう呟いて、春奈は帽子を持つ力を抜いてこちらに渡してきた。私はそれを受け取って見れば地面に落としてしまったはずの帽子は清潔で、綺麗にしてくれたんだなとすぐに分かった。
「……会うための口実か…………やっぱり双子だから考えている事も似てるのかな」
「え?」
私は一度その帽子を膝の上に置いて、ジャージのポケットに入れていたあるものを取り出して、春奈へと差し出した。
それは手のひらサイズの小さな紙袋で、春奈の部屋に行く時にバックの内ポケットから取り出したものだ。
春奈は私と紙袋を交互に見て、それから両手で紙袋を受け取ってゆっくりと中身を確認した。
「桜の、ピン止め……」
「……不動家に再び引き取られて初めて行った雑貨屋で見つけたんだ。店員におすすめされて……そのデザイン、春奈に似合いそうだなって買っちゃった」
その時なんて会える保障すらもなかったのに。と苦笑いをしながら頬を掻く。
「多分、私も結局“その髪飾りをあげたいから”なんて口実で姿を現してたと思う……春奈と一緒だ」
会いたいのに、その本音を言うのが怖くて、理由を作ってしまう。思っていたものはそれぞれ違うけれどやっぱり姉妹なんだな、実感していると。
「~~っ!!」
「わっ!!?」
春奈が勢いよく飛び込んできた。突然のことで受け止めきれずにベットへとそのまま転がってしまう。
「……お姉ちゃん、大好き」
ぎゅうと腕を強く回されながら聞こえる声は本当に嬉しそうで。
こんな情けない姉をずっと待ってくれて、素直に愛してくれる妹に対して胸がいっぱいの気持ちになりながら私も背中に腕を回し、
「お姉ちゃんも春奈が大好きだよ」
ベットに寝転びながら私は大好きな妹を強く抱きしめた。
「お姉ちゃんどう?似合う?」
「うん、すっごく可愛い……!」
「ふふっ、褒めすぎだよ」
しばらく抱きしめ合って、それからお互いベットに並んで座ってから春奈は私が贈ったピン止めを実際につけて見せてくれた。
深めの青い髪の春奈にピンクの桜は綺麗に映えて、私は素直にそう伝えると春奈は頬を染めながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お姉ちゃん!練習が早く終わった日にショッピング行こうよ!」
「それはいいけど……随分急だね?」
それから嬉しそうにそう提案するものだから唐突だなと思いながら頷けば、春奈はにこにこと笑顔を浮かべる。
「私もお姉ちゃんに似合うもの買いたいなぁって思って!」
「私に似合うもの……?」
「うん!お姉ちゃんをとびっきり可愛くしてあげるね!!」
「……えっ」
いつの間にか春奈はよく分からないスイッチが入ったようで、ウキウキした様子でお姉ちゃんに似合いそうな服チャックしないと!なんて携帯電話を取り出していて慣れたように操作をしている。
「わ、私まで可愛くならなくてもいいんじゃない……?」
「ダメだよお姉ちゃん!」
ピシャリ。そう言い切った春奈は真剣な眼差しでこちらを見て強く拳を握った。
「私とお姉ちゃんは双子なんだから、一緒に可愛くならないと!!」
「そう、なの……?」
……本当にそういうもん、なのか……?
私の疑問に答えてくれる人は当然いなかった。
「明奈さん、さっきからぶつぶつ何話してるんですか?」
「わっ」
夕食後の食堂。我ながら珍しくサッカー以外の事で考えこんでいて、虎丸くんに話しかけられて思わず肩が跳ねた。
「あれ、虎丸くん。家に帰らなくて大丈夫なの?」
「今日はお店定休日なので、遅くまで残ろうかなって」
いつもならとっくに帰っているはずなのにと首を傾げれば、虎丸くんはそう説明してくれた。
「それに、オレがイナズマジャパンでサッカー頑張ってるのを見て、最近乃々美姉ちゃん以外にも近所の人達も店を手伝うって名乗り出てくれて……」
「そっか。じゃあ本戦も気兼ねなくサッカーできるな」
「はい!」
毎日“虎ノ屋”の手伝いも頑張っていた虎丸くんにとって、それらを置いて本戦に行く事は気掛かりだったのだろう。
心底嬉しそうな笑顔を見せる虎丸くんを見て、私もつい頬が緩んだ。
「あと、実はオレ!本戦に向けて新しい必殺技の特訓もしてるんですよ!」
「へぇ、相変わらず向上心が強いね」
「!えへへ、ありがとうございます。それで、明奈さんに相談に乗ってほしいなって思ってて……」
「私?」
韓国戦でも新必殺技を編み出したばかりなのに、すごいなと素直に感心していると突然そう申し出を受けて首を傾げた。
「虎丸くんのサッカーだったら豪炎寺さんの方が理解あるんじゃ……」
「豪炎寺さんはダメですよ!オレ、あの人を驚かせたいので!!」
つまり豪炎寺さんには内緒で作りたい、とのことだ。
だとしても新必殺技の手伝いなんて重要な役割、私なんかでいいのかと決めかねていると笑顔だった虎丸くんの表情がだんだんと変わっていく。
「……飛鷹さんの特訓には付き合うのに、オレとは付き合ってくれないんですか」
「なんの対抗意識だよ…………分かった、付き合う付き合う」
悲しげ、なんてしおらしいものじゃない。むすりとした不機嫌顔だった。
なんで私の指導に拘るんだとか、初心者だった飛鷹さんはともかく元から才能のある虎丸くんと教えることもないだろ、とか思ったけれど言っても納得してくれなさそうなので私が折れることに。
「ありがとうございます。明奈さん!」
すると、虎丸くんは不機嫌顔から一変して満面の笑みを浮かべて、いつの間にか私の手をぎゅっと握っていた。無邪気というか強かというか………。
「いつかオレ達で連携必殺技も作りましょうね!」
「えぇ……FWのキック力に合わせられるかな……」
「それは明奈さんが頑張ってください」
必殺技の話から何故か一緒に作るという話が浮上して、つい不安要素を口にすればバッサリと言い切られた。ごもっともすぎる。
+++
しばらく虎丸くんの必殺技のイメージとか話して練習方法とか考えていると時間はあっという間で、虎丸くんが家に帰る時間になった。(明日の店の仕込みをするためだとか。本当にすごいなと思う)
「……お姉ちゃん、今大丈夫?」
「ん?どうしたの?」
「ちょっと部屋に来てほしくて!」
そして風呂を入り、就寝時間まで選手のデータを見ようかななんて考えた矢先に妹に話しかけられた。
前に一緒に寝た時は私の部屋だったので、春奈の部屋に入るのは初めてだなと思いながら入ればすぐにベットに座るように促される。
それからどこか緊張気味の様子の春奈は自分の鞄の中で何かを探しているようで、数分後に後ろ手で何かを持って私の目の前に来た。
「……お姉ちゃんに返さなきゃって思って」
「これって……」
差し出されたのは紺色の帽子―見覚えのあるそれに私が選考試合の集まり前まで被っていたあの帽子だとすぐに分かった。
校舎裏で、春奈と会って逃げてしまった際に落としてしまった帽子。……探さないとと思っていたのに、結局後回しにしていたなと思い出す。
「……春奈が見つけてくれたの?」
「……うん。本当はすぐに渡すべきだったんだろうけど、なかなかできなくて……ごめんね」
「謝らないでよ。話を聞かなかった私のせいなんだから」
いつ見つけたか分からないけれど、春奈の表情から前から持っていたのに、渡せなかったことに罪悪感を感じているようで私は首を横に振って笑いかけた。
だけど、春奈はそれだけじゃなくて……と目を伏せてぎゅっと帽子を持つ手に力を入れた。
「……お、お姉ちゃんに会うための口実が欲しくて、返せなかったの。…………もしお姉ちゃんが日本代表を辞めたら、もう会えないって思っちゃったから」
でも、お姉ちゃんの帽子を持っていたら渡すためって口実で探せるでしょ?と春奈は笑う。少し無理をした笑みだった。
「春奈……」
そんな春奈を見ながら私は呆然としてしまう。
だって、本当にそうしようと思っていた事を春奈に言い当てられたのだから。
韓国戦、私がイナズマジャパンの足を引っ張り続ける選手のままだったらきっともう代表を降ろされていたし、言われる前に私が離れていた。
その時の私は染岡さん達のように諦めずに代表に復帰しよう、なんてとてもじゃないけど思えなくて全て諦めて逃げていただろう。
サッカーから、兄妹から。
「けど、もうお姉ちゃんはそばにいてくれるから……ちゃんと返さないといけないと思って」
「……うん。ありがとう春奈」
そう呟いて、春奈は帽子を持つ力を抜いてこちらに渡してきた。私はそれを受け取って見れば地面に落としてしまったはずの帽子は清潔で、綺麗にしてくれたんだなとすぐに分かった。
「……会うための口実か…………やっぱり双子だから考えている事も似てるのかな」
「え?」
私は一度その帽子を膝の上に置いて、ジャージのポケットに入れていたあるものを取り出して、春奈へと差し出した。
それは手のひらサイズの小さな紙袋で、春奈の部屋に行く時にバックの内ポケットから取り出したものだ。
春奈は私と紙袋を交互に見て、それから両手で紙袋を受け取ってゆっくりと中身を確認した。
「桜の、ピン止め……」
「……不動家に再び引き取られて初めて行った雑貨屋で見つけたんだ。店員におすすめされて……そのデザイン、春奈に似合いそうだなって買っちゃった」
その時なんて会える保障すらもなかったのに。と苦笑いをしながら頬を掻く。
「多分、私も結局“その髪飾りをあげたいから”なんて口実で姿を現してたと思う……春奈と一緒だ」
会いたいのに、その本音を言うのが怖くて、理由を作ってしまう。思っていたものはそれぞれ違うけれどやっぱり姉妹なんだな、実感していると。
「~~っ!!」
「わっ!!?」
春奈が勢いよく飛び込んできた。突然のことで受け止めきれずにベットへとそのまま転がってしまう。
「……お姉ちゃん、大好き」
ぎゅうと腕を強く回されながら聞こえる声は本当に嬉しそうで。
こんな情けない姉をずっと待ってくれて、素直に愛してくれる妹に対して胸がいっぱいの気持ちになりながら私も背中に腕を回し、
「お姉ちゃんも春奈が大好きだよ」
ベットに寝転びながら私は大好きな妹を強く抱きしめた。
「お姉ちゃんどう?似合う?」
「うん、すっごく可愛い……!」
「ふふっ、褒めすぎだよ」
しばらく抱きしめ合って、それからお互いベットに並んで座ってから春奈は私が贈ったピン止めを実際につけて見せてくれた。
深めの青い髪の春奈にピンクの桜は綺麗に映えて、私は素直にそう伝えると春奈は頬を染めながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お姉ちゃん!練習が早く終わった日にショッピング行こうよ!」
「それはいいけど……随分急だね?」
それから嬉しそうにそう提案するものだから唐突だなと思いながら頷けば、春奈はにこにこと笑顔を浮かべる。
「私もお姉ちゃんに似合うもの買いたいなぁって思って!」
「私に似合うもの……?」
「うん!お姉ちゃんをとびっきり可愛くしてあげるね!!」
「……えっ」
いつの間にか春奈はよく分からないスイッチが入ったようで、ウキウキした様子でお姉ちゃんに似合いそうな服チャックしないと!なんて携帯電話を取り出していて慣れたように操作をしている。
「わ、私まで可愛くならなくてもいいんじゃない……?」
「ダメだよお姉ちゃん!」
ピシャリ。そう言い切った春奈は真剣な眼差しでこちらを見て強く拳を握った。
「私とお姉ちゃんは双子なんだから、一緒に可愛くならないと!!」
「そう、なの……?」
……本当にそういうもん、なのか……?
私の疑問に答えてくれる人は当然いなかった。