寂しがり少女
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「いらっしゃい…………珍しいな。お前がこの時間に来るなんて」
暖簾をくぐり、店に入れば店主である響木さんは私が来店したことを意外に思ったように眉を上げる。
「……自主練習、早めに切り上げたので」
私は後ろ手で引き戸を閉めながら答える。
FFI本戦が始まるまで、一か月ほど時間が与えられた。
他国の予選がまだ終わってなかったり、本選の舞台設計に時間がかかるからと理由は様々だ。
その間にも当然練習はあるのでそれらを終えてから私は一人、雷雷軒へと訪れていた。
「……いい顔つきになったな」
「そう、ですかね……」
私の顔を見るなり、響木さんはニヤリと笑みを浮かべてそう言うもんだから何だか恥ずかしさが勝って思わず目を逸らした。
兄妹やチームメイトと仲良くなれたからって、我ながら分かりやすすぎる……日常生活でもポーカーフェイスを身に付けたい……。
「……スカウトしてくれて、ありがとうございます。…………大切なものを思い出せました」
私は目線を逸らしながら、何とか思いを口にした。
……兄妹が探してくれていたことと、響木さんが私を呼んでくれたから私はここにいるんだと思ったからちゃんと礼を言いたかった。
「俺はあくまでチャンスを与えただけだ。……まぁ、だが、」
響木さんの反応は相変わらず落ち着いているけれど、それでも一緒に喜んでくれていることは伝わった。
「2人共、無事に殻を破れたたようで安心した」
2人共。その言葉に響木さんがスカウトしたもう一人を思い出す。
「ちょっと空き地に寄って行きますね」
「行ってやれ。最近不動が来ないって寂しがっていたぞ」
「へぇ、そうなんですか?」
この時間なら多分いるだろうと考えて、私がそう言えば響木さんはとっくに意図は分かってるんだろう。にやりと冗談交じりにそう言うもんだから、つい笑ってしまった。
それから、私は店を出るため、くるりと背を向けて引き戸を開ける。だけど、店を出る前に気になったことがあって、顔だけを響木さんに向ける。
「響木さんも久遠監督と一緒に本戦会場に来てくれますよね?」
「そのつもりだが……どうした?」
「…… “安心した”って言い方にちょっと違和感があって……いや、自分の気のせいですね」
改めて響木さんを見ても変わった所はないし思い過ごしだろうと判断して、私は失礼します。と頭を下げて、今度こそ店を後にした。
「……本当に不動は鋭いな」
戸を完全に閉めた店内で、胸を抑えながら苦し気に息を吐く響木さんがいたとも知らずに。
+++
久々の空き地へ行けば、彼は変わらず一人でボールを蹴っていた。けれど、その表情やプレーはその当時と比べると全くの別物に感じる……まぁ、表情に関しては私も人のこと言えないけれど。
「よっ……!」
「!?………不動!」
そんな姿を一通り眺めてから駆け出し、彼ー飛鷹さんからボールを奪えば突然のことに目を丸くしていた。さらにボールを奪ったのは私だと分かりさらに目を大きく見開いていた。
「私が来なくて寂しがっていると響木さんから聞いたので、来てあげましたよ」
「っ、んなこと言ってねぇよ……!」
ボールの上に足を置いて、私は彼にニヤリと笑って見せれば大袈裟に肩を跳ねさせ否定する飛鷹さん。……この反応から見て、本当に寂しがってたんだなと内心驚いたし、嬉しさもあった。
「ボール、取れるもんなら取って見てくださいよ」
「っ……!」
だけどそれらを言葉にするよりも、ボールを通してのやり取りの方が性に合うので私はボールを足の甲で軽くリフティングをしながら挑発をすれば、飛鷹さんも顔を引き締めてこちらを真っ直ぐと視線を向けた。
それから今まで互いに個人練習をしていた空き地で、初めて彼とボールの取り合いを始めた。
「 “真空魔” !」
「チッ……!」
互いに譲らないせめぎ合いの後に、力余って高く上がってしまったボールに向かって跳躍した飛鷹さんは韓国戦でお披露目した必殺技を使った。
「よしっ……!」
必殺技を使いこなせてガッツポーズをする飛鷹さんを見れば、彼の成長は一目瞭然で、悔しいながらも私は笑ってしまう。
「もう無事に初心者卒業ですね」
「そ、そうか?」
「動きはまだ拙い所もありますが、前のようなプレッシャーに怯む事もなくなりましたし……韓国戦の後から吹っ切れて動きに迷いがなくなった。……キャプテンに感謝ですね」
そのきっかけをくれたのはキャプテンだったことは分かっている。試合中、遠目だったけれど彼が飛鷹さんに助言をしていた姿は見えたから。
…………飛鷹さんが不調なのはベンチで見ていて分かっていたはずなのに、自分にいっぱいいっぱいで結局私は何もできなかった。
自業自得なのに、コーチとして助言の一つも言えなかった事に悔しい気持ちもありつい目を伏せていると、
「おい」
「え?……うわっ!」
蹴る音が聞こえて、ぱっと顔を上げればボールが目の前まで迫っていて。私は何とか胸でトラップをして受け止める。
「………パス、出すなら一言言ってくれませんか?」
「ボールを持ってるのに、よそ見する不動が悪い」
なんて、少し前にしたやり取りをまんま返されしまい思わず口を噤んでいるとら飛鷹さんはフッと力の抜けた笑みを浮かべる。それは何時ぞやに世話を焼いてくれた時に見せた笑い方だった。
「確かにキャプテンの言葉に目は覚めた。
だけど、世界相手に立ち向かえる力はお前が教えてくれたもんだ」
ーありがとな。
なんて、いつもは寄せているばかりの眉を下げて飛鷹さんは笑みを浮かべて私に礼を告げた。
嬉しさと、拗ねていた事を見透かされた恥ずかしさのせいで、じわじわと顔が熱くなっていく感覚がして、誤魔化すように私は隙だらけの飛鷹さんからボールを奪った。
「とっ……!」
「い、言っておきますが、初心者脱しただけですからね!本戦でもしっかり指導しますので覚悟しといてくださいね……!」
「お前…………ふっ、望むところだ」
「その生暖かい笑みやめてくださいよ……!」
私の態度に一瞬睨まれたものの、顔を見た瞬間に表情が和らいでしまった飛鷹さん。
苦し紛れにボールを蹴ってパスを出せば簡単に取られてしまった。成長が憎い……!
それから互いに軽口を叩きながらボールを蹴り合うことになったけれど、夢中になりすぎて夕飯の時間が頭から抜け落ちていて、春奈からの怒りの電話をもらって急いで走ったのはここだけの話だ。
暖簾をくぐり、店に入れば店主である響木さんは私が来店したことを意外に思ったように眉を上げる。
「……自主練習、早めに切り上げたので」
私は後ろ手で引き戸を閉めながら答える。
FFI本戦が始まるまで、一か月ほど時間が与えられた。
他国の予選がまだ終わってなかったり、本選の舞台設計に時間がかかるからと理由は様々だ。
その間にも当然練習はあるのでそれらを終えてから私は一人、雷雷軒へと訪れていた。
「……いい顔つきになったな」
「そう、ですかね……」
私の顔を見るなり、響木さんはニヤリと笑みを浮かべてそう言うもんだから何だか恥ずかしさが勝って思わず目を逸らした。
兄妹やチームメイトと仲良くなれたからって、我ながら分かりやすすぎる……日常生活でもポーカーフェイスを身に付けたい……。
「……スカウトしてくれて、ありがとうございます。…………大切なものを思い出せました」
私は目線を逸らしながら、何とか思いを口にした。
……兄妹が探してくれていたことと、響木さんが私を呼んでくれたから私はここにいるんだと思ったからちゃんと礼を言いたかった。
「俺はあくまでチャンスを与えただけだ。……まぁ、だが、」
響木さんの反応は相変わらず落ち着いているけれど、それでも一緒に喜んでくれていることは伝わった。
「2人共、無事に殻を破れたたようで安心した」
2人共。その言葉に響木さんがスカウトしたもう一人を思い出す。
「ちょっと空き地に寄って行きますね」
「行ってやれ。最近不動が来ないって寂しがっていたぞ」
「へぇ、そうなんですか?」
この時間なら多分いるだろうと考えて、私がそう言えば響木さんはとっくに意図は分かってるんだろう。にやりと冗談交じりにそう言うもんだから、つい笑ってしまった。
それから、私は店を出るため、くるりと背を向けて引き戸を開ける。だけど、店を出る前に気になったことがあって、顔だけを響木さんに向ける。
「響木さんも久遠監督と一緒に本戦会場に来てくれますよね?」
「そのつもりだが……どうした?」
「…… “安心した”って言い方にちょっと違和感があって……いや、自分の気のせいですね」
改めて響木さんを見ても変わった所はないし思い過ごしだろうと判断して、私は失礼します。と頭を下げて、今度こそ店を後にした。
「……本当に不動は鋭いな」
戸を完全に閉めた店内で、胸を抑えながら苦し気に息を吐く響木さんがいたとも知らずに。
+++
久々の空き地へ行けば、彼は変わらず一人でボールを蹴っていた。けれど、その表情やプレーはその当時と比べると全くの別物に感じる……まぁ、表情に関しては私も人のこと言えないけれど。
「よっ……!」
「!?………不動!」
そんな姿を一通り眺めてから駆け出し、彼ー飛鷹さんからボールを奪えば突然のことに目を丸くしていた。さらにボールを奪ったのは私だと分かりさらに目を大きく見開いていた。
「私が来なくて寂しがっていると響木さんから聞いたので、来てあげましたよ」
「っ、んなこと言ってねぇよ……!」
ボールの上に足を置いて、私は彼にニヤリと笑って見せれば大袈裟に肩を跳ねさせ否定する飛鷹さん。……この反応から見て、本当に寂しがってたんだなと内心驚いたし、嬉しさもあった。
「ボール、取れるもんなら取って見てくださいよ」
「っ……!」
だけどそれらを言葉にするよりも、ボールを通してのやり取りの方が性に合うので私はボールを足の甲で軽くリフティングをしながら挑発をすれば、飛鷹さんも顔を引き締めてこちらを真っ直ぐと視線を向けた。
それから今まで互いに個人練習をしていた空き地で、初めて彼とボールの取り合いを始めた。
「 “真空魔” !」
「チッ……!」
互いに譲らないせめぎ合いの後に、力余って高く上がってしまったボールに向かって跳躍した飛鷹さんは韓国戦でお披露目した必殺技を使った。
「よしっ……!」
必殺技を使いこなせてガッツポーズをする飛鷹さんを見れば、彼の成長は一目瞭然で、悔しいながらも私は笑ってしまう。
「もう無事に初心者卒業ですね」
「そ、そうか?」
「動きはまだ拙い所もありますが、前のようなプレッシャーに怯む事もなくなりましたし……韓国戦の後から吹っ切れて動きに迷いがなくなった。……キャプテンに感謝ですね」
そのきっかけをくれたのはキャプテンだったことは分かっている。試合中、遠目だったけれど彼が飛鷹さんに助言をしていた姿は見えたから。
…………飛鷹さんが不調なのはベンチで見ていて分かっていたはずなのに、自分にいっぱいいっぱいで結局私は何もできなかった。
自業自得なのに、コーチとして助言の一つも言えなかった事に悔しい気持ちもありつい目を伏せていると、
「おい」
「え?……うわっ!」
蹴る音が聞こえて、ぱっと顔を上げればボールが目の前まで迫っていて。私は何とか胸でトラップをして受け止める。
「………パス、出すなら一言言ってくれませんか?」
「ボールを持ってるのに、よそ見する不動が悪い」
なんて、少し前にしたやり取りをまんま返されしまい思わず口を噤んでいるとら飛鷹さんはフッと力の抜けた笑みを浮かべる。それは何時ぞやに世話を焼いてくれた時に見せた笑い方だった。
「確かにキャプテンの言葉に目は覚めた。
だけど、世界相手に立ち向かえる力はお前が教えてくれたもんだ」
ーありがとな。
なんて、いつもは寄せているばかりの眉を下げて飛鷹さんは笑みを浮かべて私に礼を告げた。
嬉しさと、拗ねていた事を見透かされた恥ずかしさのせいで、じわじわと顔が熱くなっていく感覚がして、誤魔化すように私は隙だらけの飛鷹さんからボールを奪った。
「とっ……!」
「い、言っておきますが、初心者脱しただけですからね!本戦でもしっかり指導しますので覚悟しといてくださいね……!」
「お前…………ふっ、望むところだ」
「その生暖かい笑みやめてくださいよ……!」
私の態度に一瞬睨まれたものの、顔を見た瞬間に表情が和らいでしまった飛鷹さん。
苦し紛れにボールを蹴ってパスを出せば簡単に取られてしまった。成長が憎い……!
それから互いに軽口を叩きながらボールを蹴り合うことになったけれど、夢中になりすぎて夕飯の時間が頭から抜け落ちていて、春奈からの怒りの電話をもらって急いで走ったのはここだけの話だ。