寂しがり少女
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「「「カンパーイッ!!!!」」」
それから全員でキャラバンに乗り、雷門中へと帰って早々に体育館で祝勝会が開かれた。
料理や飲み物など、日本対韓国の試合を見ていた雷門中サッカー部員をはじめとした生徒や商店街の人々がアジア予選突破を祝して用意してくれたらしく、雷門中出身の人は楽しそうに話しているのが見えた。
「凄い賑やかだね……」
「それだけイナズマジャパンが応援されてるってことだよ!」
勝利をこんなに大っぴらに祝う状況なんて今までなかったので、周りの雰囲気に少し圧倒されていると、隣にいる春奈がジュースが入った紙コップを持ちながら笑った。
私はキャラバンを降りてからずっと春奈と一緒にいた。
これ美味しいよ。このジュース初めて飲むかも。え、本当?美味しいからおすすめだよ!なんて、料理や飲み物を受け取る際にはどこにでもいるような姉妹のやり取りをして祝勝会を楽しんでいた。
……試合前だったら考えられない、幸せな空間で、もしかしたら都合のいい夢かもなんて思ってしまう。
だったら覚めてほしくないなぁ。
「お姉ちゃん!」
「ん?」
だけど、耳にハッキリと届く声と、ぎゅうと握られた手は現実であることを示していて。
春奈の呼びかけに返事をすれば、それすらも嬉しそうに頬を染めながら口を開いた。
「あのね、今日一緒に寝てもいい?」
昔みたいに……と呟く春奈に思い出すのは施設にいた頃の事。よく一緒に寝ていたなと思い出す。
拒否をする理由なんてないから私はもちろん、と頷く。だけど……
「合宿所のベット、2人で寝れる?」
あの時よりもお互い成長したし、狭くないか?と思ってしまって首を傾げるけれど、春奈はすぐに大丈夫!と笑った。
「ぎゅーってしたら落ちないよ!こんな風に!!」
「おっと…………うん、そうだね」
紙コップを傍のテーブルに置いてから抱きしめてくる春奈に、私も応えるように背中に腕を回して抱きしめた。
「あとね、お風呂とかご飯とか……練習終わった後にショッピングや喫茶店とかも行ってみたいし……えっとね、あと……!」
「春奈」
ぎゅうと抱きしめながら段々と早口になっていく興奮気味な春奈を落ち着かせるため、背中をとんとんと叩く。
「……私はどこにもいかないから、そんな急がなくていいんだよ」
それから一度腕を離して彼女の顔を覗き込みながらそう伝える。
もう、同じような不安を与えたくなかった。
「!………うん……!!」
その言葉に春奈は目を丸くして、それから満面の笑みを浮かべて頷いた。
「もうすっかり仲良しね」
「はい。……本当によかったです」
そんな私達のやり取りを見守っていた木野さんと久遠さんから暖かい視線を貰って、恥ずかしさはあるけれどやっぱり嬉しさの方が大きかった。
「せっかく選手のみんなとも仲良くなれたんだから、私ばっか独占したらダメだよね!」
「えっ」
とりあえず寝ることは絶対!なんて指切りをして笑い合ってから、思い出したかのようにそう言って、春奈は私が止める間もなく別の輪へと歩いて行ってしまって私一人残される事になる。
……選手と話せという事か。
試合の時は勝ちたいという思いの強さから気にすることなく、それなりに声掛けをした記憶はある。
けれど、冷静になった今。散々周りを避けていた自分がいきなり話しかけてくるのは困るのではないかと思ってしまう。……いや、違うな。……私が話しかけ方が分からないから困っているだけだ。
……とりあえず、前から比較的に話していた人を探そうと体育館内を見回していると。
「不動」
隣から、少し緊張をしている声が聞こえて私はそちらに顔を向けた。
「……風丸さん」
「少し、いいか?」
そこにいたのは風丸さんで、声の通り表情は少し強張っていた。
「……はい。大丈夫です」
それを見て、何となく話の内容を察して私は二つ返事で頷いた。
みんなの集まりから少しだけ離れた体育館の壁にお互い凭れたところで、表情が固い風丸さんから口を開いた。
「……円堂や鬼道が戻ってくるまで、パスを繋げられなくて悪かった」
「…………えっ?」
それはまさかの謝罪で、私は思わず声を上げてしまう。風丸さんの表情から韓国戦についての話だとは思っていたけれど、そんな謝られるとは思わなかった。
「パスが通らなかったのは自分の問題なんでそんな謝らなくても…………」
「いや、あの時は俺も意地になっていた」
「意地?」
その言葉に首を傾げると風丸さんはばつが悪そうな表情を浮かべた。
「その……不動のパスを取りたくて、必死だった。そのせいで余計な力が入って、ボールを追い越してしまった。ちゃんと計算したパスをくれていたのに……」
ー『っ違う!俺はお前のパスをちゃんと取りたくて……!!』
その説明で思い出すのは、私が怒鳴ってしまった時に悲痛な顔をしてそう答えてた風丸さんで。
「……円堂が戻ってきてからも言われたよ。 “お前らしくない。不動の言葉じゃなくて、プレーを見ろ”って」
「キャプテンが……だから…………」
兄ちゃん以外にもボールが繋がるようになったんだ。
私が見えていない所で周りに助けられっぱなしだなと、気恥ずかしくなっていると、
「はぁぁぁ……」
「か、風丸さん?」
風丸さんは不意に深いため息を吐きながら片手で頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
「信頼してほしいと思っていたくせに……結局、俺一人じゃ不動自身を見れていなかったことにも気づけなくて……情けないよな…………」
試合に勝った今でも、風丸さんは悔しそうで。そんな彼を見て私の答えはただ一つ。
「情けないなんて、思いませんよ」
私もその場で屈んで、すぐ隣の彼の顔を覗き込んで伝えた。
「私のために頑張ってくれた人にそんな事、思えませんよ」
風丸さんの話を聞けば聞くほど、彼の優しさがひしひしと伝わって自然と頬が緩む。信頼して欲しくて空回りなんて……自分には勿体なさすぎる理由だ。
「その時の私は……余裕がなくて嫌な態度ばかり取ってましたが…………その、日本代表になる前から色々親切にしてくれた貴方に、感謝はすれど、嫌な気持ちにはなりません」
無事パスも繋がりましたしね。と話している間に試合の時を思い出して、じんわりと胸が暖かくなって。
「だから……ありがとうございます」
試合中は色々いっぱいいっぱいで言えなかった礼をやっと口にした。
「………」
「風丸さん?」
「あ!…………えっと、」
それから風丸さんは何故かポカンとした表情で私の顔をじっと見ていた。……そんなに私が礼を言うの意外だと思われているのか。
それにこんなやり取り前もあったような気がする。
名前を呼べば、やっと反応してそれから彼は少し迷った素振りをしてか恐る恐るといった感じ私に尋ねた。
「……もう、苦しくないか……?」
「…………あっ」
―『優しすぎて、苦しくなる』
それは韓国戦前日に私が吐き出してしまった言葉で。
この言葉のせいで、風丸さんが罪悪感を抱いていると思うと申し訳なさが襲ってきて私はすぐにぶんぶんと首を縦に振った。
「も、もう大丈夫です!全くない、とは言い切れませんが……えっと……な……仲間の言葉を素直に受け止められたらな、とは思ってます……!」
「……そうか」
私の言葉に今度こそ安心を与えれたのか、風丸さんはほっと息をついてそれから柔らかく微笑んだ。
「何だか……自分の事のように喜んでくれますね」
「……え!?そうか!?」
そんな彼を見て、感じた事を指摘すれば一拍置いて驚きの声を上げる風丸さん。……どうやら無意識だったらしい。
「前から思ってはいましたが、やっぱり風丸さんって……」
「ふ、不動…………?」
私は顎に手を置いて、今までの風丸さんの言動を思い出せば、ある確信を得ることができてそのまま口にした。
「すっごく仲間想いなんですね」
「……………えっ?」
「ほら、前だってビデオカメラの充電器探してくれたり、私を一人にしたくないって言ってくれたり……今だってわざわざ話してくれたり…………一選手に対してそこまで想ってくれるなんていい人だなって」
確か、キャプテンとは幼なじみだと噂で聞いたことあるけれど、納得の関係だな。と一人納得をしていたので、私は「いい人……か…………」と固まっていた風丸さんには気づかなかった。
「風丸!不動!そんな端っこで何してるんだ?料理なくなっちゃうぞ?」
「キャプテン」
しゃがみ込みながらそんなやり取りをしている私達に声を掛けたのはキャプテンだった。ずっと壁側にいる私達を不思議に思ったらしい。
私からすればタイミングよく現れてくれたため、立ち上がって早速話しかけた。
「風丸さんがいい人って話をしてました」
「……!そっか!分かるぜ、風丸はいい奴だよな!!」
私の言葉にうんうんと頷いて笑いかけてくれる円堂さん。幼なじみの彼が言うんだから私の読みは間違っていないだろう。
「あっ!なぁなぁ、不動!」
するとキャプテンは突然、思い出したかのように声を上げ、ずいっとこちらに顔を近づけてきた。
「今日の試合、楽しかったか?」
「!」
楽しかったか?その言葉を彼の口から聞くのは二度目だった。
一度目は、楽しいなんてとてもじゃなくて言えなくて逃げてしまった。
だけど、今日の韓国戦で私のサッカーへの気持ちは変化した。……元に戻ったと言った方が正しいのかもしれない。
私は兄との連携必殺技や、得点へ繋げられたパス、その後の激しい試合内容を思い出せば答えは決まっている。
「……楽しかった、です」
このチームで試合をすることを、心待ちにしている自分がいてこくりと頷いた。
「~~っ!」
その言葉を聞いたキャプテンはキョトンとした後に、みるみると嬉しそうな笑顔へと変わっていく。……まるで自分のことのように笑う所は風丸さんと似ている。幼なじみってそういう所も似たりするんだろうか。
「不動ぉッ!!」
「えっ……わぁっ!?」
なんて吞気に考えていたので、感極まった様子のキャプテンにハグをされた際、反応が遅れてしまった。
「ちょ、キャプテン……!?」
手を繋ぐとかはともかく、身内以外で異性に密着されたことはなかったことはなかったので、恥ずかしさから自然と頬に熱が集まるがキャプテンは嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きついてきて、気づく様子はない。
「「円堂ぉ!!」」
隣にいた風丸さんと、いつの間にか現れた兄ちゃんによってすぐに引き剥がされたけれど。