寂しがり少女
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何度目か分からない場外へと転がるボールを見送る。……得点を奪われていないことが奇跡だなと思いながらも依然として動かない得点板をぼんやりと眺めた。
守備もギリギリで、チームプレイもままならない。挙句にはシュートチャンスすら逃してしまうイナズマジャパンに対する観客のブーイングの声が耳に届いた。
うるさい……。
今すぐにでも怒鳴りつけてしまいたかった。だけど、そんな事をしても状況は変わらない。
私のパスが通るわけでもない。
とてもじゃないけれど、あの人達がいるベンチなんて見れる訳もなく私は片手で頭を押さえる。
頭がぐらぐらする。目の前のフィールドが揺れているような感覚もするけれど、きっとこれは私の幻覚で。
周りにバレないように平然を装いながら、ポジションへつくために足を踏み出そうとした時だった。
「選手交代!立向居勇気に変って円堂守!!」
久遠監督から交代の申し出が入り、ついに円堂さんが試合に出ることになった。それだけで、周りの選手に笑顔が戻り駆け寄っていくのをぼうと眺めていると。
「明奈」
「!」
背後から聞こえた声は、今一番聞きたくなかった人の声で。
それでも、反射的に私は振り返ってその人の姿を視界に入れてしまう。
真っ直ぐと立つ彼を見て、私は咄嗟に膝を見る。
「……怪我は」
「もう大丈夫だ。円堂に聞いたが、怪我に気づいていたらしいな」
「…………」
「よく見てるんだな。選手の事」
「………何が、言いたいの?」
鬼道さんが話したのは前半戦の時の事で。ベンチにいる時に円堂さんから聞いたとしても、このタイミングでする話だとは思えなくて私はつい尋ねてしまった。
彼は一度、顔を俯かせ何かを思案する素振りを見せてから口を開いた。
「お前の事は保護者である不動明王さんに教えてもらった」
「………………は」
兄の口から出るはずのない人間の名前に一瞬呆然とした後に慌ててベンチを見れば、確かに明王さんがいた。
柱に凭れ、腕を組んでいる明王さんは私の視線に気づいたのかニヤリと笑みを浮かべて軽く手を振ってくるけれど、上手く反応できなかった。
……いつもの調子に見えるけれど、話したという事実は本当なのだろう。
「……なんで…………」
だったら尚更、彼が私に話しかける理由が分からなくて呆然と見て、それから拳を握りしめた。
「なんで、嫌ってくれないんだよ……!」
言うつもりはなかったのに、バレてしまったら隠しても意味がない。
だからもう、開き直ることしか出来ない。
「聞いたんでしょ、私の事……!
私が我が身可愛さで兄妹を裏切ったくせにっ、人をまともに信じられない馬鹿ってことも知ったんでしょ……!?なのに、なのになんで……!!」
なんで、そんなに優しい声で私の名前を呼んでくれるの……?!
「だったら何故パスを出したんだ」
「……ッ!」
問いただすような言葉だったけれど、彼にはもう答えが分かっているようで、口元には小さく笑みが浮かべられている。
「……信じようと思ったんだろ?」
―自分を、仲間を。
「……でも、結局……わ、私は…………」
ダメだった。
私じゃ、パスは通らない。
「やっぱり……貴方の、妹なんて言える資格……私には……」
「お前の思いを無駄になんかさせない」
沈みかけた思考を遮るのは真っ直ぐとした声で。
「オレが必ず繋いでみせる」
だから、明奈。と彼は私の名前をもう一度呼んで、手を差し伸ばした。
「もう一度だけ、信じてくれないか?」
咄嗟に彼の顔を見ても、下がった眉しか分からなくてゴーグルには彼の目よりも先に反射をした自分の顔が見えた。
資格がないなんて言っている癖に……縋 るように兄を見つめている情けない自分の顔。
思わず俯くけれど、もしちゃんと兄の目が見えても、同じ事をしてたと思う。
「………パス、通らなかったら……許さないんだから」
そんな私が絞り出した言葉は、謝罪でも感謝でもない、あまりにも可愛くない一言。
「ふっ、そうか」
なのに耳元に届いたのは、彼の少し柔らかい声。
「オレがお前のパスを受け損ねたことなんてあったか?」
「……!」
その言葉に慌てて顔を上げた時には、彼は前を歩いて行ってしまって赤いマントが翻っていた。
「……………なかった」
私はといえば、彼の言葉に呼び起された記憶が脳裏を掠め、ポツリと、呟く。
「………1度も、なかった」
兄との話に夢中で、円堂さん達側が何を話しているのか分からないけれど、試合開始をする頃には周りの選手に今まで感じていた威圧感はなくなっていた。
円堂さんが彼らに何かを言ったのか、私の捉え方が変わったのか……その両方か。
……我ながら、単純な人間だなと自嘲した所で試合再開のホイッスルが鳴った。
ペクヨンからボールを奪えば、待っていたかのように四方へ選手に囲まれる。……周りの選手のマークは手薄なのは、私のパスは無意味だと思っているからだろう。
視線だけを動かして周りを見れば、サイドを走るあの人の姿が見えて、私はそこにボールを蹴って走り出す。
あの人は怪我してるのにあそこのパスで届くのか。
どうせ口だけだ繋がる訳ない。彼だってどうせ私のことを……。
やめろやめろやめろ!!なんで私はあの人の事すら信じられないの!?
結局、あんなに手を伸ばしてくれた実の兄すらも私は……!!
スローモーションで転がっていくボール。それを見ながら渦巻いていく思考に、思わず立ち竦んでしまいそうになった時だった。
「っぐっ……!!」
ボールが、あの人の足元にちゃんと届いた。
「もっと強く早いパスで構わない!」
ー『もっと強いパスでいいぞ!』
「…………あ」
そう言ってくれるあの人が、幼少期のまだ一緒にサッカーをしていた時のあの人と重なった。
「ッなら、これで!」
だけど今は思い出に浸っている場合ではない。私はソンファンが立ち塞がる彼からのパスを受け取り、抜いたタイミングで指示通りのパスをすれば再び取って貰えた。
それから、彼はコーナーギリギリにシュートを撃つけれど、パンチングで弾かれて惜しくも得点にはならなかった。
だけど自分のシュートが決まらなかった時の苛立ちはまるで感じなくて。
そうだ。
そうだった。
あの人は、いつもそう助言をくれながら私にサッカーを教えてくれた。
私が見当違いな方向にボールを飛ばしても何でもないように簡単にとって『明奈はサッカー上手いな』なんて笑って褒めてくれた。
もちろんそれは決して私が上手いのではなく、あの人の実力のおかげだと今なら分かっているけれど……その当時の私は本当に嬉しかった。
あの人は……兄ちゃんは、私の憧れだった。
自分でも正直、分からなかった。なんでここに来たのか。
もちろん謝りたかった。だけど、それだけじゃない。
私はもう一度、兄ちゃんとボールを蹴りたかったんだ。
サッカーを、したかったんだ。
「ナイスパスだ」
こちら側のスローイングのため、ポジションへと戻るために小走りで走る兄は去り際にぽつりと呟いた。
私は咄嗟に目の前で翻る赤いマントを掴めば、くんっと彼は軽く仰け反った。
「明奈?」
「……あ!えっと……」
反射的にしてしまったことで、小首傾げてこちらを見る彼に私は自分で掴んだくせにどう返せばいいか分からなくなってしまって、慌ててマントから手を離すもしどろもどろな態度を取ってしまう。
そんな私にも彼は不審がる事もなく、小さく笑みを浮かべて一言。
「この試合、勝つぞ」
「!……うん……!」
その言葉に何とか頷いて、私もポジションへとつくために動いた。
守備もギリギリで、チームプレイもままならない。挙句にはシュートチャンスすら逃してしまうイナズマジャパンに対する観客のブーイングの声が耳に届いた。
うるさい……。
今すぐにでも怒鳴りつけてしまいたかった。だけど、そんな事をしても状況は変わらない。
私のパスが通るわけでもない。
とてもじゃないけれど、あの人達がいるベンチなんて見れる訳もなく私は片手で頭を押さえる。
頭がぐらぐらする。目の前のフィールドが揺れているような感覚もするけれど、きっとこれは私の幻覚で。
周りにバレないように平然を装いながら、ポジションへつくために足を踏み出そうとした時だった。
「選手交代!立向居勇気に変って円堂守!!」
久遠監督から交代の申し出が入り、ついに円堂さんが試合に出ることになった。それだけで、周りの選手に笑顔が戻り駆け寄っていくのをぼうと眺めていると。
「明奈」
「!」
背後から聞こえた声は、今一番聞きたくなかった人の声で。
それでも、反射的に私は振り返ってその人の姿を視界に入れてしまう。
真っ直ぐと立つ彼を見て、私は咄嗟に膝を見る。
「……怪我は」
「もう大丈夫だ。円堂に聞いたが、怪我に気づいていたらしいな」
「…………」
「よく見てるんだな。選手の事」
「………何が、言いたいの?」
鬼道さんが話したのは前半戦の時の事で。ベンチにいる時に円堂さんから聞いたとしても、このタイミングでする話だとは思えなくて私はつい尋ねてしまった。
彼は一度、顔を俯かせ何かを思案する素振りを見せてから口を開いた。
「お前の事は保護者である不動明王さんに教えてもらった」
「………………は」
兄の口から出るはずのない人間の名前に一瞬呆然とした後に慌ててベンチを見れば、確かに明王さんがいた。
柱に凭れ、腕を組んでいる明王さんは私の視線に気づいたのかニヤリと笑みを浮かべて軽く手を振ってくるけれど、上手く反応できなかった。
……いつもの調子に見えるけれど、話したという事実は本当なのだろう。
「……なんで…………」
だったら尚更、彼が私に話しかける理由が分からなくて呆然と見て、それから拳を握りしめた。
「なんで、嫌ってくれないんだよ……!」
言うつもりはなかったのに、バレてしまったら隠しても意味がない。
だからもう、開き直ることしか出来ない。
「聞いたんでしょ、私の事……!
私が我が身可愛さで兄妹を裏切ったくせにっ、人をまともに信じられない馬鹿ってことも知ったんでしょ……!?なのに、なのになんで……!!」
なんで、そんなに優しい声で私の名前を呼んでくれるの……?!
「だったら何故パスを出したんだ」
「……ッ!」
問いただすような言葉だったけれど、彼にはもう答えが分かっているようで、口元には小さく笑みが浮かべられている。
「……信じようと思ったんだろ?」
―自分を、仲間を。
「……でも、結局……わ、私は…………」
ダメだった。
私じゃ、パスは通らない。
「やっぱり……貴方の、妹なんて言える資格……私には……」
「お前の思いを無駄になんかさせない」
沈みかけた思考を遮るのは真っ直ぐとした声で。
「オレが必ず繋いでみせる」
だから、明奈。と彼は私の名前をもう一度呼んで、手を差し伸ばした。
「もう一度だけ、信じてくれないか?」
咄嗟に彼の顔を見ても、下がった眉しか分からなくてゴーグルには彼の目よりも先に反射をした自分の顔が見えた。
資格がないなんて言っている癖に……
思わず俯くけれど、もしちゃんと兄の目が見えても、同じ事をしてたと思う。
「………パス、通らなかったら……許さないんだから」
そんな私が絞り出した言葉は、謝罪でも感謝でもない、あまりにも可愛くない一言。
「ふっ、そうか」
なのに耳元に届いたのは、彼の少し柔らかい声。
「オレがお前のパスを受け損ねたことなんてあったか?」
「……!」
その言葉に慌てて顔を上げた時には、彼は前を歩いて行ってしまって赤いマントが翻っていた。
「……………なかった」
私はといえば、彼の言葉に呼び起された記憶が脳裏を掠め、ポツリと、呟く。
「………1度も、なかった」
兄との話に夢中で、円堂さん達側が何を話しているのか分からないけれど、試合開始をする頃には周りの選手に今まで感じていた威圧感はなくなっていた。
円堂さんが彼らに何かを言ったのか、私の捉え方が変わったのか……その両方か。
……我ながら、単純な人間だなと自嘲した所で試合再開のホイッスルが鳴った。
ペクヨンからボールを奪えば、待っていたかのように四方へ選手に囲まれる。……周りの選手のマークは手薄なのは、私のパスは無意味だと思っているからだろう。
視線だけを動かして周りを見れば、サイドを走るあの人の姿が見えて、私はそこにボールを蹴って走り出す。
あの人は怪我してるのにあそこのパスで届くのか。
どうせ口だけだ繋がる訳ない。彼だってどうせ私のことを……。
やめろやめろやめろ!!なんで私はあの人の事すら信じられないの!?
結局、あんなに手を伸ばしてくれた実の兄すらも私は……!!
スローモーションで転がっていくボール。それを見ながら渦巻いていく思考に、思わず立ち竦んでしまいそうになった時だった。
「っぐっ……!!」
ボールが、あの人の足元にちゃんと届いた。
「もっと強く早いパスで構わない!」
ー『もっと強いパスでいいぞ!』
「…………あ」
そう言ってくれるあの人が、幼少期のまだ一緒にサッカーをしていた時のあの人と重なった。
「ッなら、これで!」
だけど今は思い出に浸っている場合ではない。私はソンファンが立ち塞がる彼からのパスを受け取り、抜いたタイミングで指示通りのパスをすれば再び取って貰えた。
それから、彼はコーナーギリギリにシュートを撃つけれど、パンチングで弾かれて惜しくも得点にはならなかった。
だけど自分のシュートが決まらなかった時の苛立ちはまるで感じなくて。
そうだ。
そうだった。
あの人は、いつもそう助言をくれながら私にサッカーを教えてくれた。
私が見当違いな方向にボールを飛ばしても何でもないように簡単にとって『明奈はサッカー上手いな』なんて笑って褒めてくれた。
もちろんそれは決して私が上手いのではなく、あの人の実力のおかげだと今なら分かっているけれど……その当時の私は本当に嬉しかった。
あの人は……兄ちゃんは、私の憧れだった。
自分でも正直、分からなかった。なんでここに来たのか。
もちろん謝りたかった。だけど、それだけじゃない。
私はもう一度、兄ちゃんとボールを蹴りたかったんだ。
サッカーを、したかったんだ。
「ナイスパスだ」
こちら側のスローイングのため、ポジションへと戻るために小走りで走る兄は去り際にぽつりと呟いた。
私は咄嗟に目の前で翻る赤いマントを掴めば、くんっと彼は軽く仰け反った。
「明奈?」
「……あ!えっと……」
反射的にしてしまったことで、小首傾げてこちらを見る彼に私は自分で掴んだくせにどう返せばいいか分からなくなってしまって、慌ててマントから手を離すもしどろもどろな態度を取ってしまう。
そんな私にも彼は不審がる事もなく、小さく笑みを浮かべて一言。
「この試合、勝つぞ」
「!……うん……!」
その言葉に何とか頷いて、私もポジションへとつくために動いた。