寂しがり少女
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試合再開後、奪われたボールを取り返し、攻め上がれば前方からチャンスウとウミャンに塞がれ、後方にはアフロディさんに南雲さんと涼野さん。……さっさとボールを奪って攻め込む気満々な編成だ。
「味方には嫌われても敵には人気だなぁ!」
「か弱い女の子相手に五人がかりで卑怯だと思わないんですかぁ?」
「てめぇのどこがか弱いんだよ……!」
背後の南雲さんから煽られたので、わざとしおらしい態度を取ればすぐに睨みつけられた。
「……遊びの時間は終わりだ」
そんな茶番を挟んでから私は無理矢理浮かべていた笑みをやめる。
そして前を見据え、軽く息を整えた後。
「はぁ……!」
前方にいる風丸さんへと“パス”を出した。
「っ……!」
けれど、ボールは風丸さんに届くことはなかった。
彼が走るスピードに合わせて蹴ったボールを、風丸さんはとっくに追い抜いていた。
「…………なんで」
ホイッスルの鳴る音を聞きながら思わず風丸さんを見れば、彼自身も呆然とした様子で、外に出たボールを見ている。
「……次はちゃんと取ってください」
わざと………ではないにしろ………
感じた違和感を気のせいだと思いたくて、私は彼の返答を待たずにさっさと背中を向けて走り出した。
試合が再開された後も私はボールを奪い、何度かパスを出す。
壁山くんに基山さん……けれどどちらにもボールは届かなくて、外へと転がっていく。
散々、パスを欲しがっていたくせにこの有り様かよ……!
「何、してんだよ……!」
「今のは取れるわけないっス!」
「はぁ!?」
苛立ちを誤魔化すことができずに声を上げれば、壁山くんにそう非難をされるが心当たりのない言葉につい声を上げる。
「取れない訳ないだろ!?だって……私は…………」
選手の動きを計算してパスを出している……はずだった。
「…………」
だけど、取れていない現状を考えれば、思いつく事は一つ。
私のせいだ。
「不動さん……」
思わず手で口を覆う私に対して話しかけてきたのは基山さん。
必殺タクティクスを破った時からこちらを意味ありげに見る事が増えたのは気のせいではないのだろう。
「もしかして、君は……まだ、」
「ッ!るせぇなぁ……!」
「ひぃ……!」
「っ……チッ!!」
“そっち”側の人間だったんだ。
バレたくない感情を読み取る姿に、一瞬だけあの頃の基山さんが重なって反射的に声を上げてしまえば、壁山くんが竦み上がってしまった。
違う、私は怖がらせたい訳ではない……!!
そんな弁明だって今の自分の行動を考えれば、意味がないと思ってしまい舌打ちしかできなかった。
私なんかの言葉を、信じてもらえる訳がない。
「………ッ」
そんな事しか思えない自分が嫌で、私はぐしゃりと前髪を掻き乱し、その場から背を向けた。
じわりと額に汗が流れる。疲労からではない、冷たい汗。
強くなれば、変われると思っていた。
変わってちゃんとした自分になって、兄妹に謝って………世界に行く彼らを見送る。
そのはずだったのに。この期に及んで、私はまだ人を信じられない。
私が周りを信じていないから、周りも私を信じられない。
だから、私が信じないと。
信じないと。
信じないと!!
信じないと……ッ!!
けれど、
信じて、裏切られたら?
私が再び彼らを裏切ってしまったら?
「不動、来るぞ!」
「っ!!」
風丸さんの声にハッと前を見れば、自陣へと攻め込んで行くファイアードラゴンの選手がいて、ボールを奪うため反射的に私の足は動いた。
「さっきとは打って変わって余裕がなさそうだね、明奈ちゃん」
「はっ、気のせいですよ………!!」
私は何度もボールを取るために動くが、全て動きを読まれていて取れない。……ダメだ、上手く頭が働かない。
「……君はまだ、囚われの身なんだね」
笑みを浮かべていた彼が一瞬だけ、切なそうに目を細めたかと思えば片腕を上げるのが見えて。
「 “ヘブンズタイム” !」
「!!」
指を鳴らされ私の周囲の時間が止まり――数秒後には私の前を歩くアフロディさんを確認したと同時に突風に拭き飛ばされた。
「ッ……!」
「本気の君と戦えると思ったのに……残念だよ」
受け身すら上手く取れずにフィールドへと突っ伏す自分に向かって、私を横目で見ながらそう呟いた彼はすぐに前を向いて、南雲!涼野!とボールを前線へと繋いでいた。
「……ざッけんなよ!!」
吐き捨てた言葉すらも、あまりにも無様で私は思わず唇を噛みしめる。
………チームプレーも解決するって、明王さんにも言ったのに。
これじゃあ、信じてもらえないのも当然だ。
「不動……大丈夫か…………?」
上半身を起こした際に近くにいた風丸さんに遠慮がちに声を掛けられ、立ち上がらせようとしているのかこちらに手を伸ばしていた。
さっきから風丸さんはそうだ。
パスを出さない事、パスが繋がらずにボールを追い抜いてしまう事に不可解そうにしながらも私を見ている目は心配の色が確かにあって。
だったら……なんで……!!
「私に優しくしたいんだったら、わざわざボールを追い抜かないでくれますか……!!?」
パチンッと手を振り払いそう訴えれば風丸さんの肩が揺れ、ぎゅっと眉を寄せ苦し気な表情を浮かべた。
「っ違う!俺はお前のパスをちゃんと取りたくて……!!」
「ッ……もうそういうのいいから……!」
こんな時でも私に気を遣って優しい言葉を掛ける風丸さんに、湧き上がる感情はやっぱり苦しさで。
私は守備のため、風丸さんを置いて先に走り出した。
+++
明奈のパスは尽く、通らなかった。
だがそれは彼女の実力が追いついていない訳でも、もちろん悪意があるわけでもない事はプレーを見て分かった。
「今のは、いつもの壁山なら追いついていた。………さっきの風丸だって、ボールを追い越すなんて普段はしないのに……!」
それはベンチからチームを見るように言われていた円堂も同じで、疑問を口にしていた。
そこで、円堂は明奈の意図に気づいたんだろう。
ハッとした顔でオレを見た。同意するように頷き、オレは言葉にするため口を開いた。
「明奈は闇雲にパスを出してるんじゃない。敵の動きも味方の動きも分かった上であのパスを出している」
……前半のベンチでも、後半開始の一人で攻め上がる時もファイアードラゴン、イナズマジャパンの動きを視ていたんだ。
そして、パスを出すという行動はきっと………
「……不動ってスゲーよな。」
飛鷹、豪炎寺と虎丸のプレイを見ていた円堂が、ポツリと呟いた。
「鬼道の怪我の事、交代する前から気づいていたんだ」
「!」
……それは監督以外には隠し通せていたと思っていた事で。
オレ気づけなくて、不動に聞いたら怒られたんだよな。と苦笑交じりに言いながら視線を明奈へと向けた。
「周りのことをしっかりと見てサッカーをしてる……うん……やっぱりオレ、アイツにもサッカーは楽しいものって思ってほしい!」
そうハッキリ告げる円堂の顔は何かを掴もうとしているのか、じっとベンチからフィールドで戦うイナズマジャパンの選手を見ている。
円堂は世界に行くためにキャプテンとしての役割を果たそうとしている。
なら俺がするべきことをするだけだ。
迷いはもう――ない。
「……不動さん」
オレはベンチから立ち上がり、柱に凭れピッチを……いや、彼女を静かに見ている不動さんに声を掛け、頭を下げた。
「明奈の事を教えてくれて、ありがとうございました」
「……この試合が勝とうが負けようが、アイツがあのままならサッカーはやめさせるからな」
……初めからそのつもりで来たのだろう。
軽い口調に反して、試されるような視線にオレは真っ直ぐと向き合った。
「オレが……いやオレ達が、明奈のサッカーを変えてみせます」
「味方には嫌われても敵には人気だなぁ!」
「か弱い女の子相手に五人がかりで卑怯だと思わないんですかぁ?」
「てめぇのどこがか弱いんだよ……!」
背後の南雲さんから煽られたので、わざとしおらしい態度を取ればすぐに睨みつけられた。
「……遊びの時間は終わりだ」
そんな茶番を挟んでから私は無理矢理浮かべていた笑みをやめる。
そして前を見据え、軽く息を整えた後。
「はぁ……!」
前方にいる風丸さんへと“パス”を出した。
「っ……!」
けれど、ボールは風丸さんに届くことはなかった。
彼が走るスピードに合わせて蹴ったボールを、風丸さんはとっくに追い抜いていた。
「…………なんで」
ホイッスルの鳴る音を聞きながら思わず風丸さんを見れば、彼自身も呆然とした様子で、外に出たボールを見ている。
「……次はちゃんと取ってください」
わざと………ではないにしろ………
感じた違和感を気のせいだと思いたくて、私は彼の返答を待たずにさっさと背中を向けて走り出した。
試合が再開された後も私はボールを奪い、何度かパスを出す。
壁山くんに基山さん……けれどどちらにもボールは届かなくて、外へと転がっていく。
散々、パスを欲しがっていたくせにこの有り様かよ……!
「何、してんだよ……!」
「今のは取れるわけないっス!」
「はぁ!?」
苛立ちを誤魔化すことができずに声を上げれば、壁山くんにそう非難をされるが心当たりのない言葉につい声を上げる。
「取れない訳ないだろ!?だって……私は…………」
選手の動きを計算してパスを出している……はずだった。
「…………」
だけど、取れていない現状を考えれば、思いつく事は一つ。
私のせいだ。
「不動さん……」
思わず手で口を覆う私に対して話しかけてきたのは基山さん。
必殺タクティクスを破った時からこちらを意味ありげに見る事が増えたのは気のせいではないのだろう。
「もしかして、君は……まだ、」
「ッ!るせぇなぁ……!」
「ひぃ……!」
「っ……チッ!!」
“そっち”側の人間だったんだ。
バレたくない感情を読み取る姿に、一瞬だけあの頃の基山さんが重なって反射的に声を上げてしまえば、壁山くんが竦み上がってしまった。
違う、私は怖がらせたい訳ではない……!!
そんな弁明だって今の自分の行動を考えれば、意味がないと思ってしまい舌打ちしかできなかった。
私なんかの言葉を、信じてもらえる訳がない。
「………ッ」
そんな事しか思えない自分が嫌で、私はぐしゃりと前髪を掻き乱し、その場から背を向けた。
じわりと額に汗が流れる。疲労からではない、冷たい汗。
強くなれば、変われると思っていた。
変わってちゃんとした自分になって、兄妹に謝って………世界に行く彼らを見送る。
そのはずだったのに。この期に及んで、私はまだ人を信じられない。
私が周りを信じていないから、周りも私を信じられない。
だから、私が信じないと。
信じないと。
信じないと!!
信じないと……ッ!!
けれど、
信じて、裏切られたら?
私が再び彼らを裏切ってしまったら?
「不動、来るぞ!」
「っ!!」
風丸さんの声にハッと前を見れば、自陣へと攻め込んで行くファイアードラゴンの選手がいて、ボールを奪うため反射的に私の足は動いた。
「さっきとは打って変わって余裕がなさそうだね、明奈ちゃん」
「はっ、気のせいですよ………!!」
私は何度もボールを取るために動くが、全て動きを読まれていて取れない。……ダメだ、上手く頭が働かない。
「……君はまだ、囚われの身なんだね」
笑みを浮かべていた彼が一瞬だけ、切なそうに目を細めたかと思えば片腕を上げるのが見えて。
「 “ヘブンズタイム” !」
「!!」
指を鳴らされ私の周囲の時間が止まり――数秒後には私の前を歩くアフロディさんを確認したと同時に突風に拭き飛ばされた。
「ッ……!」
「本気の君と戦えると思ったのに……残念だよ」
受け身すら上手く取れずにフィールドへと突っ伏す自分に向かって、私を横目で見ながらそう呟いた彼はすぐに前を向いて、南雲!涼野!とボールを前線へと繋いでいた。
「……ざッけんなよ!!」
吐き捨てた言葉すらも、あまりにも無様で私は思わず唇を噛みしめる。
………チームプレーも解決するって、明王さんにも言ったのに。
これじゃあ、信じてもらえないのも当然だ。
「不動……大丈夫か…………?」
上半身を起こした際に近くにいた風丸さんに遠慮がちに声を掛けられ、立ち上がらせようとしているのかこちらに手を伸ばしていた。
さっきから風丸さんはそうだ。
パスを出さない事、パスが繋がらずにボールを追い抜いてしまう事に不可解そうにしながらも私を見ている目は心配の色が確かにあって。
だったら……なんで……!!
「私に優しくしたいんだったら、わざわざボールを追い抜かないでくれますか……!!?」
パチンッと手を振り払いそう訴えれば風丸さんの肩が揺れ、ぎゅっと眉を寄せ苦し気な表情を浮かべた。
「っ違う!俺はお前のパスをちゃんと取りたくて……!!」
「ッ……もうそういうのいいから……!」
こんな時でも私に気を遣って優しい言葉を掛ける風丸さんに、湧き上がる感情はやっぱり苦しさで。
私は守備のため、風丸さんを置いて先に走り出した。
+++
明奈のパスは尽く、通らなかった。
だがそれは彼女の実力が追いついていない訳でも、もちろん悪意があるわけでもない事はプレーを見て分かった。
「今のは、いつもの壁山なら追いついていた。………さっきの風丸だって、ボールを追い越すなんて普段はしないのに……!」
それはベンチからチームを見るように言われていた円堂も同じで、疑問を口にしていた。
そこで、円堂は明奈の意図に気づいたんだろう。
ハッとした顔でオレを見た。同意するように頷き、オレは言葉にするため口を開いた。
「明奈は闇雲にパスを出してるんじゃない。敵の動きも味方の動きも分かった上であのパスを出している」
……前半のベンチでも、後半開始の一人で攻め上がる時もファイアードラゴン、イナズマジャパンの動きを視ていたんだ。
そして、パスを出すという行動はきっと………
「……不動ってスゲーよな。」
飛鷹、豪炎寺と虎丸のプレイを見ていた円堂が、ポツリと呟いた。
「鬼道の怪我の事、交代する前から気づいていたんだ」
「!」
……それは監督以外には隠し通せていたと思っていた事で。
オレ気づけなくて、不動に聞いたら怒られたんだよな。と苦笑交じりに言いながら視線を明奈へと向けた。
「周りのことをしっかりと見てサッカーをしてる……うん……やっぱりオレ、アイツにもサッカーは楽しいものって思ってほしい!」
そうハッキリ告げる円堂の顔は何かを掴もうとしているのか、じっとベンチからフィールドで戦うイナズマジャパンの選手を見ている。
円堂は世界に行くためにキャプテンとしての役割を果たそうとしている。
なら俺がするべきことをするだけだ。
迷いはもう――ない。
「……不動さん」
オレはベンチから立ち上がり、柱に凭れピッチを……いや、彼女を静かに見ている不動さんに声を掛け、頭を下げた。
「明奈の事を教えてくれて、ありがとうございました」
「……この試合が勝とうが負けようが、アイツがあのままならサッカーはやめさせるからな」
……初めからそのつもりで来たのだろう。
軽い口調に反して、試されるような視線にオレは真っ直ぐと向き合った。
「オレが……いやオレ達が、明奈のサッカーを変えてみせます」