寂しがり少女
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「明奈っ!」
必殺タクティクスに嵌ったものの、頑なにパスを出そうとしない彼女の無茶な突破方法に思わず声を上げてしまう。
スライディングでボールを外に出された後に、そのことを注意しているらしい風丸やヒロトの背を見ながら、思わず息をつく。
「鬼道……」
「……すまない。取り乱した…………」
隣の円堂にも心配をかけてしまい、頭を振りながら何とか冷静さを取り戻そうとする。
視野の広さや、ボールのキープ力。彼女のプレーは選考試合の時よりも磨きがかかり、男子達にも決して後れを取っていない。
だが、それでも……明奈のサッカーを穏やかに見れない自分がいて唇を噛む。
「相変わらずつまんなそうにサッカーしてんなぁ、あいつは」
その時だった。聞き覚えのない声が背後から聞こえたのは。
振り返れば響木監督ともう一人、見知らぬ茶髪の男が立っていた。
「響木監督!……と?」
「!」
円堂や他の選手も不思議そうに首を傾げているが、春奈だけはハッとした様子でその男性を見ていた。
「紹介しよう。彼は不動明王。
不動の保護者だ」
「明奈の……保護者…………」
義父なのかと最初に思った。
だけど、彼の容姿から父親にしては若すぎると考え、その考えを消す。……義兄、ということだろう。
「……なぜ、彼女の保護者がここに…………」
「……ぶっちゃけ口出しする気はなかったんだけど……なーんにも話せない臆病明奈チャンに代わって教えてやろうと思ってな」
ベンチの柱へと凭れ掛かりながら不動さんはそう告げた。視線の先には一人でプレイを続ける明奈がいて……口は笑みを浮かべているもののその目はどちらかというと…………
「……お願いします」
その結論に辿り着く前に、口が勝手に動いていた。
彼女の許可なしに過去を暴くマネをしていいのかという思いはあったが、それでも知りたかった。
今の明奈のことを。
頭を下げて、頼めば不動さんはちらりとこちらを一瞥して再びピッチへと視線を戻しながら口を開いた。
「……アイツは、一人置いてかれたんだよ」
明奈が不動家の養子になって一年をすぎた頃。不動家は父親が騙された会社を不当に辞めさせられた後に多額の借金を負わされたという。そしてその両親は明奈を置いて家を出た。
「置いていった理由は、借金に巻き込まないよう施設に預けるためだったが……時間がなくて説明もできてなかったらしいな。
ガキだったアイツがそんな事情察せる訳もねぇ。結果、その後に引き取った奴にまんまと騙され、自分は借金を押し付けて捨てられたと考えた」
当時、不動さんは家にいなかったらしく、義理の妹の存在や家の借金についても知らなかったらしい。
「……引き取った奴?」
「不動を引き取ったのは影山だ」
「!!」
響木監督の口から出てきたその名前に、膝に置いていた拳に力が入るのが分かった。
……影山が明奈の生活にそこまで深く関わっていたことへの驚きと、奴の元にいたはずなのにそれに一切気づかない自分の不甲斐なさでいっぱいだった。
「借金返済をしたのもその野郎だ。自分に従うことを条件に…………つっても、明奈にとって重要だったのはまた別の事だったらしいけれどな」
「…………別の事……借金のために従っていたわけではないのですか?」
俺は理解できねぇけど、呟きながらガシガシと髪を掻く不動さんの言葉に反応すれば、手の動きを止める。
「……一人になることが嫌だったんだとよ」
一人になりたくないから、強く在れば傍に置いてくれる影山に従った。
それは、影山がいなくなれば一人になってしまう。そういう教育をされていたのだろうという想像もできてしまった。
金銭的な条件よりも、強固な縛りだと影山は分かった上での教育方法だ。
ー『私にはっ!もうお父さんしかいないんだよ!!』
だからこそ、明奈はあんなに必死な剣幕で怒鳴りつけてきたんだろう。
だが……その結果は…………。
真帝国の潜水艦が爆発した際にオレを突き飛ばし、一人ぼっちになったのを助けたのは真帝国イレブンらしい。
その後、エイリア石を身につけていた影響で入院をしていたらしい明奈の元へ不動家の実子である不動明王さんが迎えに来て引き取った、とのことだ。
「一人残されたアイツに残ったのは、家族を裏切ったという罪悪感だけだ」
罪悪感。
それが今の明奈を縛り付けているものだと、不動さんは告げた。
「……そっか……だから不動は…………」
「円堂?」
その言葉に円堂は何かを思い出すような反応をしたのでつい名前を呼べば、どこか浮かない顔で明奈に視線を送った。
「前に、不動に聞かれたんだ…………自分を許せるかって…………オレは今の不動は仲間だから当たり前だって答えたけれど……」
「ハッ、そりゃあ大層な意思だな。けれど、んなもん明奈ちゃんには綺麗すぎる」
「……自分を受け入れようとする皆の事が眩しいから、距離を取っていた…………だから、不動さん練習も一人で…………」
不動さんの言葉に、ポツリと言葉を漏らしたのは久遠だった。
真帝国の事を知らない久遠と話している姿は度々見かけていたので、彼女も明奈の事を気に掛けていたのだろう。
ー『貴方達を兄妹だと呼べる資格なんてない』
再会した日に明奈はそう呟いた理由は、分かった。
「どうして……」
春奈も分かったのだろう、眉を寄せて唇を一文字にして苦しそうなのは彼女に感情移入をしている証だ。
「苦しいって分かってて、なんでお姉ちゃんは…………」
「……スカウトを受けたのは、他でもない不動自身だ」
その疑問を答えたのは響木監督だった。
「そしてあいつのサッカーの向き合い方が変わるかは、お前達次第でもある」
フィールド上の選手を見れば、頑なに連携をしない明奈に対しての不信感が募っていく様がベンチからでも分かった。
「このままでは日本は間違いなく負ける。どうする、円堂?」
ピッチに顔を向けたまま、久遠監督は円堂へと問う。円堂は一度顔を俯かせそれからピッチの選手を見るが、
「……わかりません」
いつもの円堂らしくない、静かな声で答えた。
「オレには、この試合をどう戦ったらいいのか……」
「試合を見ていても答えは出ない。今はチームを見るんだ」
「チームを……?」
久遠監督の言葉に円堂は自陣へと視線を向ける。
フィールドではドリブルで上がっていた明奈が、前後ともファイアードラゴンの選手に囲まれていた。
「味方に嫌われても敵には人気だなぁ!」
「か弱い女の子相手に五人がかりで卑怯だと思わないんですかぁ?」
「てめぇのどこがか弱いんだよ……!」
後方にいるバーン……いや、南雲のそんな喧嘩口調に対しても明奈は存ぜぬ態度でせせら笑っていた。
「……遊びの時間は終わりだ」
そんな彼女が、ふと笑みをやめる。
真顔で前方へ見据える明奈の表情は平然としているようで、僅かに緊張が滲んでいてーファイアードラゴンの前では一切出さなかったものだー小さく息を整えた後。
「はぁ……!」
前を走る風丸へとボールを蹴り、この試合初めての“パス”を出した。