寂しがり少女
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《ここでイナズマジャパン。緑川に代わって今大会初出場、そして唯一の女子選手である不動明奈を入れてきた!
FFIの規定により女子選手の加入は各代表チーム一名のみ認められていますが、現在、その枠を使っているのはイナズマジャパンのみ!
2対1で韓国優勢!不動明奈を投入し、十人で挑む日本にいったいどんな秘策が!?久遠監督の采配に注目です!》
「……そんな枠あったんだ」
試合開始前に聞こえる実況の解説にぽつりと呟く。……響木さんから代表候補に選んだことは間違いではないという話で私の中で終わってたので仕組みを考えたことなかった。
MFとして中盤のポジションにつきながらその場で軽く足を踏み鳴らす。
元々あの男の元にいた私にとって、こんな観客が大勢いる公式試合の出場は始めてで……緊張をしていないと言ったら嘘になる。
けれど……うん。いける。
試合開始のホイッスルが鳴り、ファイアードラゴンからのキックオフで始まった。
南雲さんとアフロディさんのツートップで上がっていけば、イナズマジャパンの選手もそれに対抗するために走り出す。
私は一度だけベンチを一瞥してから駆け出した。
前線へと上がる南雲さんへと追いつき、チャージを仕掛けた。
「ハッ、その程度の攻撃で俺からボールを奪えるかっ!」
そんな事を言われるけど、答える必要はない。何度もチャージを繰り返せば笑みを浮かべていた南雲さんの表情がみるみると苛立たしそうにこちらを睨みつけてくる。
「っ!この女ッ……しつけーんだよ!!」
その感情のまま突っ込んできた南雲さんをかわすことは簡単だった。一歩後ろに下がればいいだけ。
「何!?」
「あはっ」
最後に南雲さんに嫌みったらしく笑いかけてから、ボールを奪った。
韓国に私のデータがないことは本当の事なんだろう(そもそも私が正式な選手として活動していてなかった事も要因なんだろうけど)
攻め上がる中、キム・ウンヨンが立ち塞がった。私は後方を確認して自陣へと体を向けた。
「壁山ァ!」
「ひぃっ!?」
そして一番近くにいたDFの壁山くんに声を掛けて足を上げれば、文字通り飛び上がる壁山くんとのパスをカットしようと私から一度視線を外すウンヨン。
「なーんてな」
「っ!?」
私はその隙を縫って、彼を追い越す。パスをするつもりはなかった。フリをしただけだ。
私がどんな選手か分からない以上、向こうは単純な駆け引きでも面白いぐらい引っかかってくれる。
突破した先にはファン・ウミャンが迫ってきた。
「不動、こっちだ!」
右には同じように走っている風丸さんがそう声を上げる。
だけど、私は無視して前方へと思いっきりボールを蹴り上げた。
先程鬼道さんが生み出した必殺タクティクスとは何も関係ない、ただの高く蹴り上げたボール。相手は私の行動に呆気に取られてボールを見上げるしかない。
私はそのボールの落下地点へと走り、ボールを取る。
「こっちだ!」
ゴール前、基山さんからパスの催促がくるが彼の後ろにはコ・ソンファンが走ってくるのが見えたので見送る。
「らぁ……!!」
そして放った普通のシュートは正面ということもあって、GKのジョンスに難なく止められてしまった。
「チッ……」
反射で舌打ちはしてしまったけれど……まぁ私のシュート力じゃ妥当だと思う。
…………思ったより早く攻め込めた。私が女子選手だからか、軽視している選手も多数いたのが嬉しい誤算だったな。
けどまぁ……次はこう上手くはいかないだろうな…………。
「不動!」
ポジションへと歩いていると名前を呼ばれる。
「なんでヒロトに回さなかった。なぜパスをしない?」
振り返れば風丸さんが歩いてきて、咎めるような口ぶりで話しかけられた。
……仲間想いなこの人のことだ。独りよがりなプレーをする自分を見過ごせないのだろう。
基山さんには背後に選手がいたから回さなかった。なんて言った所で、彼の能力ならきっとかわせていただろう。
パスをしない言い訳にしかすぎない。
「……どうしようが私の勝手でしょう」
「不動……」
ハッと笑ってそう吐き捨てるものの、目の前の風丸さんは戸惑ったような表情で私を見下ろしてきて…………思い出すのは前日の食堂のことだった。
「チッ……」
私は再度舌打ちをして、彼から背を向けた。
「パスを回せ、不動!」
「…………」
「不動!」
時間が経てば当然だけど、私が周りにパスを出さないという事はバレる。
そんな隙を見逃す程、ファイアードラゴンも馬鹿ではない。
「必殺技タクティクス “パーフェクトゾーンプレス” !」
「ッ……!」
FWとMFが迫ってきたと思った時には、私は囲まれ必殺タクティクスの餌食となってしまった。
「不動!泥の特訓を思い出せ!そいつらの頭を出すパスを出すんだ!」
「…………」
外側にいるらしい風丸さんの助言が聞こえるけれど…………生憎私は泥の特訓を受けていないし、パスを出す気はないので口を閉じて目の前のボールにだけ集中する。
「一人ではパーフェクトゾーンプレスは破れません」
隙を見せれば奪おうとする足を躱している間にも選手達は迫ってきていた。
その中で奪えると思ったらしいチャンスウの声が聞こえて……自然と口角が上がった。
「……本当に?」
「何?……ッ!」
私が笑った顔が見えたのかチャンスウが反応を示したと同時に、私はその壁へとボールを蹴り込んだ。
選手側へとボールを蹴られると思っていなかったのか、ボールを目の前にチャンスウは足を止め、トラップしようとするが受け止めきれずにボールは宙を舞い、
「ナイスパス」
ボールを取りながら、動きが止まったファイアードラゴンを抜くのは簡単なことだった。
「させるか……っ!」
「チッ……!」
ただ、抜いた先にいた涼野さんのスライディングでボールを外に出されたので、完全攻略という訳でもなかったのが惜しい所だ。
「……外の様子が分からないの面倒だな」
「孤立の身でありながら、あんな方法で必殺タクティクスを破るなんて……」
「あんなただの女に……」
ファイアードラゴンの面々は私一人で必殺タクティクスを抜け出したことに驚きを隠せないようで、戸惑うような視線をもらったので笑みを浮かべてみせた。
「あははっ、安心してください。私は?あなた方と違って?相手選手を軽んじたりしませんから」
チッと舌打ちしたのは南雲さんだろう。つくづく彼には嫌われていると肩を竦めた。
「全力で挑むにあたって、私はアンタらにプレッシャーなんて感じない。それだけですよ」
パーフェクトゾーンプレスの最大の強みは、閉じ込めることによるプレッシャーだろう。しかも相手が強力な選手となればそれだけプレッシャーは強いものになる。
私だって閉じ込められた時に、感じるかと思ったけれど…………冷静さを保てたのはもっと別のプレッシャーのせいだろう。
「なるほど……貴女の実力は分かりました。しかし、パスを出せない貴女に何ができますか?」
「……ハッ、言ってろ」
……そしてそれをチャンスウが読み取るのにそう時間はかからない。
男女差別はなくなりそうだけど、まだ余裕の笑みを浮かべるチャンスウに言い返す術のない私は鼻で笑う強がりをして自陣へと戻った。
「……不動」
「すいません、ボール取られました」
「そうじゃない……なんでパスを出さなかった!」
再び風丸さんに話しかけられた。正規ではない方法で破った私に納得が出来ていないようだ。
「……突破できたんだからいいでしょう」
「不動さん。さっきの方法は……一歩タイミングがずれてたら君自身が怪我をしていたよ」
中立を保っていた基山さんまでもが風丸さんに参戦するように私にそう指摘した。
確かに、運よく韓国代表が呆気に取られて動きを止めたからできたことだとは思う。それなりのスピードで走っていた選手に弾かれてボールが当たる可能性なり、選手同士の接触事故だって十分にあり得ただろう。
「……そんなヘマしませんよ。それに……当たってもただの自業自得でしょう」
「は?」
「えっ」
そもそも必殺タクティクスに嵌らないに限るな……と考えながら呟いた言葉に前にいる二人からそれぞれ声が上がった。
前を向けば、眉を寄せている風丸さんと目を丸くしている基山さんがいて、そんなおかしい言葉を言ったのかと思い返すが、先に試合再開の号令がかかり、そのままそれぞれのポジションへとつくことになった。
ー『パスを出せない貴女に何ができますか?』
イナズマジャパンからのスローインを構えながら思い出すのはチャンスウの言葉。
……韓国代表の実力は分かった。確かに強いけれど、戦える。
だから今度は……自分との戦いだ。
FFIの規定により女子選手の加入は各代表チーム一名のみ認められていますが、現在、その枠を使っているのはイナズマジャパンのみ!
2対1で韓国優勢!不動明奈を投入し、十人で挑む日本にいったいどんな秘策が!?久遠監督の采配に注目です!》
「……そんな枠あったんだ」
試合開始前に聞こえる実況の解説にぽつりと呟く。……響木さんから代表候補に選んだことは間違いではないという話で私の中で終わってたので仕組みを考えたことなかった。
MFとして中盤のポジションにつきながらその場で軽く足を踏み鳴らす。
元々あの男の元にいた私にとって、こんな観客が大勢いる公式試合の出場は始めてで……緊張をしていないと言ったら嘘になる。
けれど……うん。いける。
試合開始のホイッスルが鳴り、ファイアードラゴンからのキックオフで始まった。
南雲さんとアフロディさんのツートップで上がっていけば、イナズマジャパンの選手もそれに対抗するために走り出す。
私は一度だけベンチを一瞥してから駆け出した。
前線へと上がる南雲さんへと追いつき、チャージを仕掛けた。
「ハッ、その程度の攻撃で俺からボールを奪えるかっ!」
そんな事を言われるけど、答える必要はない。何度もチャージを繰り返せば笑みを浮かべていた南雲さんの表情がみるみると苛立たしそうにこちらを睨みつけてくる。
「っ!この女ッ……しつけーんだよ!!」
その感情のまま突っ込んできた南雲さんをかわすことは簡単だった。一歩後ろに下がればいいだけ。
「何!?」
「あはっ」
最後に南雲さんに嫌みったらしく笑いかけてから、ボールを奪った。
韓国に私のデータがないことは本当の事なんだろう(そもそも私が正式な選手として活動していてなかった事も要因なんだろうけど)
攻め上がる中、キム・ウンヨンが立ち塞がった。私は後方を確認して自陣へと体を向けた。
「壁山ァ!」
「ひぃっ!?」
そして一番近くにいたDFの壁山くんに声を掛けて足を上げれば、文字通り飛び上がる壁山くんとのパスをカットしようと私から一度視線を外すウンヨン。
「なーんてな」
「っ!?」
私はその隙を縫って、彼を追い越す。パスをするつもりはなかった。フリをしただけだ。
私がどんな選手か分からない以上、向こうは単純な駆け引きでも面白いぐらい引っかかってくれる。
突破した先にはファン・ウミャンが迫ってきた。
「不動、こっちだ!」
右には同じように走っている風丸さんがそう声を上げる。
だけど、私は無視して前方へと思いっきりボールを蹴り上げた。
先程鬼道さんが生み出した必殺タクティクスとは何も関係ない、ただの高く蹴り上げたボール。相手は私の行動に呆気に取られてボールを見上げるしかない。
私はそのボールの落下地点へと走り、ボールを取る。
「こっちだ!」
ゴール前、基山さんからパスの催促がくるが彼の後ろにはコ・ソンファンが走ってくるのが見えたので見送る。
「らぁ……!!」
そして放った普通のシュートは正面ということもあって、GKのジョンスに難なく止められてしまった。
「チッ……」
反射で舌打ちはしてしまったけれど……まぁ私のシュート力じゃ妥当だと思う。
…………思ったより早く攻め込めた。私が女子選手だからか、軽視している選手も多数いたのが嬉しい誤算だったな。
けどまぁ……次はこう上手くはいかないだろうな…………。
「不動!」
ポジションへと歩いていると名前を呼ばれる。
「なんでヒロトに回さなかった。なぜパスをしない?」
振り返れば風丸さんが歩いてきて、咎めるような口ぶりで話しかけられた。
……仲間想いなこの人のことだ。独りよがりなプレーをする自分を見過ごせないのだろう。
基山さんには背後に選手がいたから回さなかった。なんて言った所で、彼の能力ならきっとかわせていただろう。
パスをしない言い訳にしかすぎない。
「……どうしようが私の勝手でしょう」
「不動……」
ハッと笑ってそう吐き捨てるものの、目の前の風丸さんは戸惑ったような表情で私を見下ろしてきて…………思い出すのは前日の食堂のことだった。
「チッ……」
私は再度舌打ちをして、彼から背を向けた。
「パスを回せ、不動!」
「…………」
「不動!」
時間が経てば当然だけど、私が周りにパスを出さないという事はバレる。
そんな隙を見逃す程、ファイアードラゴンも馬鹿ではない。
「必殺技タクティクス “パーフェクトゾーンプレス” !」
「ッ……!」
FWとMFが迫ってきたと思った時には、私は囲まれ必殺タクティクスの餌食となってしまった。
「不動!泥の特訓を思い出せ!そいつらの頭を出すパスを出すんだ!」
「…………」
外側にいるらしい風丸さんの助言が聞こえるけれど…………生憎私は泥の特訓を受けていないし、パスを出す気はないので口を閉じて目の前のボールにだけ集中する。
「一人ではパーフェクトゾーンプレスは破れません」
隙を見せれば奪おうとする足を躱している間にも選手達は迫ってきていた。
その中で奪えると思ったらしいチャンスウの声が聞こえて……自然と口角が上がった。
「……本当に?」
「何?……ッ!」
私が笑った顔が見えたのかチャンスウが反応を示したと同時に、私はその壁へとボールを蹴り込んだ。
選手側へとボールを蹴られると思っていなかったのか、ボールを目の前にチャンスウは足を止め、トラップしようとするが受け止めきれずにボールは宙を舞い、
「ナイスパス」
ボールを取りながら、動きが止まったファイアードラゴンを抜くのは簡単なことだった。
「させるか……っ!」
「チッ……!」
ただ、抜いた先にいた涼野さんのスライディングでボールを外に出されたので、完全攻略という訳でもなかったのが惜しい所だ。
「……外の様子が分からないの面倒だな」
「孤立の身でありながら、あんな方法で必殺タクティクスを破るなんて……」
「あんなただの女に……」
ファイアードラゴンの面々は私一人で必殺タクティクスを抜け出したことに驚きを隠せないようで、戸惑うような視線をもらったので笑みを浮かべてみせた。
「あははっ、安心してください。私は?あなた方と違って?相手選手を軽んじたりしませんから」
チッと舌打ちしたのは南雲さんだろう。つくづく彼には嫌われていると肩を竦めた。
「全力で挑むにあたって、私はアンタらにプレッシャーなんて感じない。それだけですよ」
パーフェクトゾーンプレスの最大の強みは、閉じ込めることによるプレッシャーだろう。しかも相手が強力な選手となればそれだけプレッシャーは強いものになる。
私だって閉じ込められた時に、感じるかと思ったけれど…………冷静さを保てたのはもっと別のプレッシャーのせいだろう。
「なるほど……貴女の実力は分かりました。しかし、パスを出せない貴女に何ができますか?」
「……ハッ、言ってろ」
……そしてそれをチャンスウが読み取るのにそう時間はかからない。
男女差別はなくなりそうだけど、まだ余裕の笑みを浮かべるチャンスウに言い返す術のない私は鼻で笑う強がりをして自陣へと戻った。
「……不動」
「すいません、ボール取られました」
「そうじゃない……なんでパスを出さなかった!」
再び風丸さんに話しかけられた。正規ではない方法で破った私に納得が出来ていないようだ。
「……突破できたんだからいいでしょう」
「不動さん。さっきの方法は……一歩タイミングがずれてたら君自身が怪我をしていたよ」
中立を保っていた基山さんまでもが風丸さんに参戦するように私にそう指摘した。
確かに、運よく韓国代表が呆気に取られて動きを止めたからできたことだとは思う。それなりのスピードで走っていた選手に弾かれてボールが当たる可能性なり、選手同士の接触事故だって十分にあり得ただろう。
「……そんなヘマしませんよ。それに……当たってもただの自業自得でしょう」
「は?」
「えっ」
そもそも必殺タクティクスに嵌らないに限るな……と考えながら呟いた言葉に前にいる二人からそれぞれ声が上がった。
前を向けば、眉を寄せている風丸さんと目を丸くしている基山さんがいて、そんなおかしい言葉を言ったのかと思い返すが、先に試合再開の号令がかかり、そのままそれぞれのポジションへとつくことになった。
ー『パスを出せない貴女に何ができますか?』
イナズマジャパンからのスローインを構えながら思い出すのはチャンスウの言葉。
……韓国代表の実力は分かった。確かに強いけれど、戦える。
だから今度は……自分との戦いだ。