寂しがり少女
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「明奈といいます!こっ、これからっよろしくお願いします!!」
「あはは、元気いっぱいだなぁ」
「子どもがそんな敬語を使わなくていいのよ。明奈ちゃん」
施設内では何度か話したことがあるけれど、いざ不動家の敷地に足を踏み入れリビングで改めて挨拶をすることになると緊張してしまいバッと頭を下げながら挨拶をすれば、父親になる人が笑い飛ばしてくれて、母親になる人は私と目線を合わせて優しく笑いかけてくれた。
「今日から私達は家族になるんだから」
それは施設の先生の多数に向ける笑みや言葉ではなく、私個人に向けられたもので兄妹とはまた違った暖かさにじんわりと胸の中が熱くなるのを感じて、私はこくりと頷いた。
不動家の両親はずっと女の子が欲しいと思っていたらしく自分を本当の娘のように可愛がってくれた。
女の子らしくないし怒られるかなと思っていたサッカーに関しても止められる事なく、誕生日にはサッカーボールをプレゼントしてくれるぐらい優しい家族だった。
……ただ、困ったことを挙げるとするなら、お母さんは私が元の家族、春奈と連絡を取ろうとするといい顔をしないことだった。最初のうちは手紙も出すことを電話をすることも見守ってくれていたのに、月日が経つにつれて遠回しに否定されることが増え、手紙を書いている所を見られると機嫌が悪くなる。
お父さんにそれを伝えれば「母さんは明奈が実の家族の方がいいって自分達を置いていかないか心配なんだ」と苦笑を浮かべていつものように頭を撫でられる。それは暗に母に心配かけないように従ってくれと言っているようなもので、私の気持ちは一切反映されていないものだった。
春奈や兄ちゃん、不動家の両親、どちらも私にとっては家族だけれど、周りはそう思ってくれないらしい。
寂しくは感じたけれど、説得する力を持たないない私は「私、お母さんとお父さんとずっと一緒にいるよ。お母さん、私と同じ寂しがりなんだね」と本音半分機嫌取り半分の気持ちで父に抱き着いた。
春奈と話はしたかったけれど、今の家族を悲しませたくないことも本音だった。だから、少しずつ音無家に送る手紙の頻度は減っていった。
こんな風に少し母が敏感な人ぐらいで、それ以外に関しては普通の家庭だったと思う。
ただ…………
「男の子……」
休日、部屋の掃除をしている最中、タンスの奥から一枚の少し古ぼけた写真を見つけた。そしてそこには一人の男の子がつまらなそうな顔をして見覚えのある公園のブランコに腰掛けていた。それは家の一番近くにある公園だった。
父の小さい頃の写真……にしては綺麗すぎる気がする。何よりこの写真の彼はどちらかというと母に似ていた。
「……息子かなぁ」
お兄ちゃん、と呼ぶべきなんだろうか。
母と父から息子がいたなんて話、一切聞いたことなかったし、部屋にもそんな痕跡はまるで残っていなかった。……何か事情があるんだろうと思い私は写真を元の場所に戻してゆっくりタンスを閉じて見なかったことにする。
……自分達は私の隠し事を怒るくせに、こんな自然に隠し事をされることをつまんなく思ったのは事実だ。
そう思ったからこそ、私は隠し事をされてもすぐ気づけるように家族を、周りの人間をよく見るようになっていった。
父がケーキを隠れて食べたのに気づいたのを指摘して、見事新しいケーキを買って貰ったり、逆にサンタクロースの正体を小学1年生で知るハメになったりもしたけれど新しい事を知るのは単純に楽しかった。
そんな風に自然と観察力を身につけたからこそ、私は気づかなくていい事に気づいてしまったのかもしれない。