寂しがり少女
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『もっと強いパスでいいぞ!』
『分かったぁ!ーーっ、パース!』
『よしっ!ーーは本当にサッカーが上手いな』
『本当?ーー上手?』
『ああ、嘘をつく訳ないだろ?』
『えへへ、やったぁ!!』
「…う……どう……不動っ」
「……ッ!」
軽く肩を揺すられ、意識が覚醒するのを感じた。
バッと顔を上げればこちらに手を伸ばしたままの……
「風丸、さん……?」
「……なんで疑問形なんだ?」
「あ、いや…………髪下ろしてて、一瞬誰か分からなくて…………」
「ああ……」
風丸さんはいつものポニーテールを解いていて、髪を下ろしていた。
夕食後の自主練習を終えてシャワーを浴びたからだと、説明をもらう。確かに風呂上がりだからか、風丸さんの顔はうっすらと赤みがかっていた。
「それで、食堂で寝てる不動を見つけて………」
「……すみません」
私は周りを見回して改めて現状の確認をした。
ここは合宿所の食堂。目の前の机に置かれたビデオカメラと広げたノートと筆記用具。…………データを見るつもりでビデオカメラを起動したくせに途中で寝落ちしてしまったのだろう。
「大丈夫か?」
「?」
「いや……うなされていたから…………」
明日にはもう決勝戦当日なのに何をしてるんだ、と眉間を押さえていると風丸さんにそう言われた。
うなされる…………そんなに酷い夢を見たのだろうか。
内容は思い出せないが、ぞわぞわと上手く言葉にできない気持ち悪さを感じるので、うなされたという風丸さんの話は事実だろう。
「夢の内容は覚えてないので何とも言えませんが…………起こしてくれてありがとうございます」
私は軽く頭を下げて、ビデオカメラを手に取る。
真っ暗な画面をタッチすれば、すぐに起動したので充電が消費されてる訳じゃないらしくほっと息をついた。
「……寝ないのか?」
椅子に座り直そうとした矢先に、隣からそう声を掛けられた。就寝時間も迫ってるし、まだ食堂にいる私を不審がってるのだろう。
「就寝時間には寝ますよ。風丸さんは先に部屋に戻っておいてください」
「……前に日付変わる手前までいなかったか?」
「…………今日は気を付けます」
「寝落ちするほど疲れてるんだろ。明日に備えて今日はもう寝た方がいいんじゃないか?」
正論だとは思った。だけど、私はそれに素直に頷けなかった。
……今の自分に、そんな余裕はない。
「…………分かったので、一人にしてください」
だけど、ここで感情をそのままぶつけてしまえば先日の明王さんの二の舞いだと、拳を握ってなんとかそう呟いた。
さっさと、私なんかを放って食堂から出て行ってほしい。
そう思っているのに。
「俺は……今の不動を一人にしたくはない」
なんて、自分の事のように傷ついた顔をする風丸さんの真意がまるで読めなくてつい頭に手を当ててしまう。
「……なんで?」
「なんでって…………あっ、いやっ……な、仲間だからだ!」
「なかま…………」
それからつい疑問を口にするけども、風丸さんは目線を彷徨わせたかと思ったらそう早口で声を上げた。……まだ風呂の熱が残っているのか顔は赤いままだ。
「い、言っておくけど俺だけじゃなくて円堂達もそう思っているからな!?」
「……何の焦りですか。分かってますよ」
「お、おう……」
円堂さんにもそう言ってもらえた事は覚えている。
そしてその言葉が……嬉しかったことも。
だけど、それと同時に…………。
「風丸さん」
「ん、どうした?」
私が立ち上がりながら名前を呼べば、風丸さんはすぐに目を合わせてくれた。
「風丸さんは……優しいですね……」
ビデオカメラの電源を落とせたのを確認して、筆記用具をまとめながら言葉を続ける。
「えっ!?そ、そんなことは……」
「……風丸さんだけじゃないです。イナズマジャパンはいい人達ばかりで……本当、」
ー優しすぎて、苦しくなる。
「…………えっ」
目線をろくに合わせられないままに呟いた言葉は、息を吞んだ風丸さんの耳に確実に届いているだろう。それも無視して、俯いたまま私物片手に、食堂から抜け出した。
「結局、逃げちゃった……」
怒鳴りつけることはしなかったけれど……いい態度ではなかった。
なんて一人きりの個室で寝る気もなれない私は椅子に座りながらぼんやりと思った。……ノートを書き綴る気力も今は起きない。
ー『不動もあまり、過去の事で自分を追い込むなよ』
選考試合前にそう声を掛けてくれた風丸さんの印象は日本代表になっても変わらずいい人、だと思う。
だけど結局、私は彼の助言を活かせていない。
手を伸ばしてくれる人に対して、何かを返せられる自信がどうしても持てない。
けれど、タイムリミットは確実に近づいている。
「……頑張らないと」
自分で選んだことなんだから、もうこれ以上逃げる訳にはいかない。