寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「明奈さん、ちょっと聞きたいんですが!」
「…………手短にね」
アジア予選決勝に向けての練習中、私がベンチでドリンクを飲んでいると、虎丸くんがボール片手に尋ねてきた。
「豪炎寺さんとの必殺技、どうしたら出来ると思いますか?タイミングが全然噛み合わなくて…………」
連携必殺技を豪炎寺さんと作るんですよ!と嬉々として報告してた頃と打って変わって、しゅんと見るからに落ち込んでいる虎丸くん。完成する兆しが見えない事に参っている様子だ。
「……タイミングというより…………」
ちなみに豪炎寺さんは、理事長から呼び出されて不在だった。
要件はもちろん知らないけれど…………必殺技ができない事も関係あるんだろうなと最近の豪炎寺さんの姿を見てそう思った。
とはいえ…………。
「…………さぁ。私には分からない」
彼らに関して、私にできることなんて何もない。
「そうですか……明奈さんだったら何か分かると思ったんですが…………」
「んだよ、それ」
虎丸くんの過大評価に私は肩を竦めながら飲み干したドリンクを片付け、さっさとグラウンドへと戻り練習を再開することにした。
「不動さん」
久遠さんに呼ばれたのは、全体練習が終わり個人個人の自主練習をしている時の事だった。彼女は少し眉を下げて困ったような顔をしていたので何事かと首を傾げながらすぐに駆け寄った。
「今、合宿所の方に不動さんの保護者って名乗る人が来ていて……」
「保護者?…………!」
思い当たるのは一人だけで、私は咄嗟に合宿所を見る。それから久遠さんの不安そうな表情に納得もした。
「お父さん、かな……?」
父親にしては若すぎることに、違和感を感じているんだろう。
「……身内なので大丈夫です。ちょっと会ってきますね」
それに対して私は“兄”という説明もできずないまま、曖昧な返答だけを返して合宿所へと走り出した。
「よぉ、明奈チャン」
「……何でここにいるんだよ」
合宿所の玄関口の壁へと凭れていた彼は、私が来たことに気づいて体を起こし軽く手を振ってへらりと笑みを浮かべる。
思った通り、そこにいたのは私の保護者である不動明王さんだった。
「言っただろ?メール一日経っても返信なかったら合宿所に押しかけるって」
「は?」
私が尋ねれば明王さんはポケットから自分の携帯電話を取り出してそう笑った。一瞬言葉の意味が分からずに呆然としたあとに、合宿が始まる日の玄関でそんなやり取りをしたことを思い出した。
それからここ最近、携帯電話をジャージのポケットに入れたまま放置していたことも。
「……冗談じゃなかったの」
「嘘や冗談は好きじゃねぇ。てことで、ついでだ。お前今日は家に帰ってこい」
「はぁ……!?」
押しかけるだけで終わりだと思っていたのに、明王さんはそんな事を言い出すので思わず声を上げた。
突然帰れって……私はまだ夜に練習したり、データ見たりする予定だったのに、なんて言いたい事は山ほどあったはずなのに明王さんは監督に言ってきてやるからその間に準備しとけよ、と早々に歩いて行ってしまって、拒否権がない事を思い知らされる。
「…………チッ」
私はぐしゃりと前髪を掻き乱しながら、自室に行くために階段を上っていった。
選手もいる正門を通るには変な注目を集めるのは嫌だから、裏門から出て行こうと思いながら荷物を持って一階へと下りた。明王さんがさっきと同じ場所でいたので、話しかけようとした矢先に彼が誰かに話しかけられていることに気づいた。
そしてその声の主を見て、私の足は止まった。
「私、不動明奈の双子の妹の音無春奈といいます……!」
春奈が、明王さんに話しかけていた。
エプロン姿の彼女を見て、この時間はマネージャーが食堂で夕食を作っている時間だと今になって思い出す。
久遠さんに私の保護者が来てると聞いたのか……本人が話そうとしないから、関係者に尋ねようとしたのか。……あの子の行動力の高さを舐めていた。
「えっと、不動家の……不動明奈のお義父さん、で合ってますか?」
「は?」
早く止めないと、と思った時には、春奈の言葉に目を丸くしている明王さんがいて。
「お前……何も聞いてねぇのかよ?」
「え?」
……ああくそ、遅かった。
「明王さん……!!」
これ以上、会話をさせないように私は声を上げて明王さんの前へと駆け込んだ。
「待たせてすみません。行きましょう!」
「は、おい……」
「早く……!!」
それから彼の腕を引っ張りながら、裏口から合宿所へと出ていった。彼女の顔は見れなかった。
「妹に挨拶しなくてよかったのか」
「つーかお前、家のことすら言ってねぇの?」
「おーい、無視かよ、明奈チャン」
電車に乗って、家へと帰るための道のりで明王さんはいつもより口数は多かったけれど、返せる余裕のない私は全て無視をしてひたすら足を動かしていた。
「明奈」
「…………なに」
ちゃんと名前を呼ばれたのは家に帰ってからだった。
私から先に室内へと入れば、後から入った明王さんはガチャンと玄関の扉を閉めながら静かな声を出す。
その雰囲気にもう無視は通用しないな、と観念して私は振り返る。
「呼び出す前に少しだけ、お前が練習してるところ見ていた」
「…………そう」
明王さんはいつもみたいに笑っていなかった。
練習を見たということは…………私の周りへの態度だって知られているんだろう。
「俺はな、てめぇの選択に口出す気は一切なかったんだ。多少不安定な所も、環境が解決してくれるだろうって思ってた」
「え?……なに……いきなり」
チームプレイが基本なサッカーでそれが出来ない私への嫌味を言われるのか、なんてぼんやりと思っていたから、突然そんな事を言い出す明王さんに呆然としてしまった。
「でもまぁ…………ちょっと時期尚早だったな」
家に帰って、やっと明王さんが笑みを浮かべる。
ただ、それは見たことのない自嘲気味な、乾いた笑みだった。
「なぁ、明奈」
不動家で初めて感じる重たい雰囲気に呑まれて立ち尽くす私に、明王さんはもう一度名前を呼んで目の前まで歩いてきた。
そして私を見下ろして一言。
「サッカー、やめろよ」
「……え…………」
一瞬聞き間違いか、もしくは冗談なのかと思って、顔を上げるも明王さんは真顔でこちらを見ていてどちらでもない事を一瞬で理解した。
「あんな顔でプレーするぐらいなら、やめちまえ」
もう一度、そう告げられた。
その途中にどさり、と肩にかけていた荷物が床へと滑り落ちるけれど拾う余裕はなくて。
顔を俯きながら、明王さんの言葉を頭の中で反芻 して、それから拳を握る。
「い……いや、だ…………」
出した声はあまりにもか細くて、本当に私の声なのかと自分で疑ってしまうほどだった。
「私は…………サッカーで、強くならないと……強くなったらきっと…………」
彼らに素直に謝って、それから…………諦められるはずだから。
「っ……チームプレイが不出来で周りに迷惑かけてる件はちゃんと、解決するから。…………心配しないで」
私は拳を握ったまま、何とか口を動かしてくうちに、体も動くようになる。
「私は、大丈夫だから」
だから私は平然を装うために、いつも通りの言葉を呟きながら落としてしまったバックを手に取ろうと屈んだ。
「……またそれか」
吐き捨てるような声が聞こえたと同時に、目の前に影が差した。
私に目を合わせるためか、同じように屈んだ明王さんがいて、立っている時よりもぐっと近くなった距離で話しかけられる。
「お前は何があっても、二言には大丈夫、大丈夫…………あのなぁ、
その言葉を信じられねぇから言ってんの分かんねぇの?」
ー信じられない。
その言葉を聞いた瞬間、ぶわりと背中に冷たい汗が伝った。
それからはもう、反射的に体が動いていた。
「っ……!?」
バックを手に取るために屈んだのに、私の両手は同じように屈む目の前の彼を突き飛ばしていた。体制のせいで、彼の体はぐらりと傾いてそのまま尻餅をつく。
そんな姿を見ながら私は立ち上がる。
「………るよ…」
「あ?」
「分かってるよ!私は信じてもらえるような人じゃないことなんて……!!期待には応えられないって……!!」
座っている明王さんを見下ろしながら、感情のまま怒鳴りつけていた。
「……おい、明奈」
私の癇癪に対しても、明王さんは眉を寄せるだけで私に尚も手を伸ばそうとしてくる。
その姿が“あの人”と重なって、慌てて後退る。
「……ッもう私の事は放っておいて!!」
―他人のくせに、兄貴面しないでよッ!!
最後にそう怒鳴って、私は自室へと逃げ込んでしまった。
転がり込むように入った久々の自室。私は灯りもつけないままベットへと寝転んだ。
鍵があるわけでもないこの部屋は明王さんは入ろうと思えば、入れるはずなのにいつまで経っても扉は開く気配はせずに、私はベットに仰向けになってぼんやりと天井を眺める。
ゆっくり頭が冷えて、襲ったのは強烈な後悔の念だった。
「……なに、してんだろう。私…………」
兄妹喧嘩…………いや違う。そんな対等なものじゃない。
あれは一方的な八つ当たりだ。……兄ちゃんにしたことと全く同じ事をした。
先に騒いで喚いて、相手が何か言おうとする前に逃げ出した。
他人のくせに、なんてどの口が言うのだろう。
同一視していたのは、明王さんを兄と重ねそうになったのは、どう考えても私なのに。
考えれば考える程、自分は酷い妹だ。
ああ、本当…………
「嫌なところは何も変われない……」
じわりと滲んだ視界を誤魔化すように、腕で目元を押し付けながら私は唇を噛む。
ー『あんな顔でプレーするぐらいなら、やめちまえ』
分かってる。あの言葉は、心配をしてくれたんだ。
思えば、明王さんは私がサッカーに関わることに、否定はしないけれど肯定もしない。そんな態度だった。
それでも、日本代表に選ばれた際には祝ってくれたのに。
サッカーをしても大丈夫だろう、と信じてくれたのに。
私は、また……家族を裏切った。
でも、それでもやっぱり無理だ。私は明王さんが期待しているようなサッカーはできない。
サッカーの楽しみ方なんて、私にはもう思い出せない。
「…………手短にね」
アジア予選決勝に向けての練習中、私がベンチでドリンクを飲んでいると、虎丸くんがボール片手に尋ねてきた。
「豪炎寺さんとの必殺技、どうしたら出来ると思いますか?タイミングが全然噛み合わなくて…………」
連携必殺技を豪炎寺さんと作るんですよ!と嬉々として報告してた頃と打って変わって、しゅんと見るからに落ち込んでいる虎丸くん。完成する兆しが見えない事に参っている様子だ。
「……タイミングというより…………」
ちなみに豪炎寺さんは、理事長から呼び出されて不在だった。
要件はもちろん知らないけれど…………必殺技ができない事も関係あるんだろうなと最近の豪炎寺さんの姿を見てそう思った。
とはいえ…………。
「…………さぁ。私には分からない」
彼らに関して、私にできることなんて何もない。
「そうですか……明奈さんだったら何か分かると思ったんですが…………」
「んだよ、それ」
虎丸くんの過大評価に私は肩を竦めながら飲み干したドリンクを片付け、さっさとグラウンドへと戻り練習を再開することにした。
「不動さん」
久遠さんに呼ばれたのは、全体練習が終わり個人個人の自主練習をしている時の事だった。彼女は少し眉を下げて困ったような顔をしていたので何事かと首を傾げながらすぐに駆け寄った。
「今、合宿所の方に不動さんの保護者って名乗る人が来ていて……」
「保護者?…………!」
思い当たるのは一人だけで、私は咄嗟に合宿所を見る。それから久遠さんの不安そうな表情に納得もした。
「お父さん、かな……?」
父親にしては若すぎることに、違和感を感じているんだろう。
「……身内なので大丈夫です。ちょっと会ってきますね」
それに対して私は“兄”という説明もできずないまま、曖昧な返答だけを返して合宿所へと走り出した。
「よぉ、明奈チャン」
「……何でここにいるんだよ」
合宿所の玄関口の壁へと凭れていた彼は、私が来たことに気づいて体を起こし軽く手を振ってへらりと笑みを浮かべる。
思った通り、そこにいたのは私の保護者である不動明王さんだった。
「言っただろ?メール一日経っても返信なかったら合宿所に押しかけるって」
「は?」
私が尋ねれば明王さんはポケットから自分の携帯電話を取り出してそう笑った。一瞬言葉の意味が分からずに呆然としたあとに、合宿が始まる日の玄関でそんなやり取りをしたことを思い出した。
それからここ最近、携帯電話をジャージのポケットに入れたまま放置していたことも。
「……冗談じゃなかったの」
「嘘や冗談は好きじゃねぇ。てことで、ついでだ。お前今日は家に帰ってこい」
「はぁ……!?」
押しかけるだけで終わりだと思っていたのに、明王さんはそんな事を言い出すので思わず声を上げた。
突然帰れって……私はまだ夜に練習したり、データ見たりする予定だったのに、なんて言いたい事は山ほどあったはずなのに明王さんは監督に言ってきてやるからその間に準備しとけよ、と早々に歩いて行ってしまって、拒否権がない事を思い知らされる。
「…………チッ」
私はぐしゃりと前髪を掻き乱しながら、自室に行くために階段を上っていった。
選手もいる正門を通るには変な注目を集めるのは嫌だから、裏門から出て行こうと思いながら荷物を持って一階へと下りた。明王さんがさっきと同じ場所でいたので、話しかけようとした矢先に彼が誰かに話しかけられていることに気づいた。
そしてその声の主を見て、私の足は止まった。
「私、不動明奈の双子の妹の音無春奈といいます……!」
春奈が、明王さんに話しかけていた。
エプロン姿の彼女を見て、この時間はマネージャーが食堂で夕食を作っている時間だと今になって思い出す。
久遠さんに私の保護者が来てると聞いたのか……本人が話そうとしないから、関係者に尋ねようとしたのか。……あの子の行動力の高さを舐めていた。
「えっと、不動家の……不動明奈のお義父さん、で合ってますか?」
「は?」
早く止めないと、と思った時には、春奈の言葉に目を丸くしている明王さんがいて。
「お前……何も聞いてねぇのかよ?」
「え?」
……ああくそ、遅かった。
「明王さん……!!」
これ以上、会話をさせないように私は声を上げて明王さんの前へと駆け込んだ。
「待たせてすみません。行きましょう!」
「は、おい……」
「早く……!!」
それから彼の腕を引っ張りながら、裏口から合宿所へと出ていった。彼女の顔は見れなかった。
「妹に挨拶しなくてよかったのか」
「つーかお前、家のことすら言ってねぇの?」
「おーい、無視かよ、明奈チャン」
電車に乗って、家へと帰るための道のりで明王さんはいつもより口数は多かったけれど、返せる余裕のない私は全て無視をしてひたすら足を動かしていた。
「明奈」
「…………なに」
ちゃんと名前を呼ばれたのは家に帰ってからだった。
私から先に室内へと入れば、後から入った明王さんはガチャンと玄関の扉を閉めながら静かな声を出す。
その雰囲気にもう無視は通用しないな、と観念して私は振り返る。
「呼び出す前に少しだけ、お前が練習してるところ見ていた」
「…………そう」
明王さんはいつもみたいに笑っていなかった。
練習を見たということは…………私の周りへの態度だって知られているんだろう。
「俺はな、てめぇの選択に口出す気は一切なかったんだ。多少不安定な所も、環境が解決してくれるだろうって思ってた」
「え?……なに……いきなり」
チームプレイが基本なサッカーでそれが出来ない私への嫌味を言われるのか、なんてぼんやりと思っていたから、突然そんな事を言い出す明王さんに呆然としてしまった。
「でもまぁ…………ちょっと時期尚早だったな」
家に帰って、やっと明王さんが笑みを浮かべる。
ただ、それは見たことのない自嘲気味な、乾いた笑みだった。
「なぁ、明奈」
不動家で初めて感じる重たい雰囲気に呑まれて立ち尽くす私に、明王さんはもう一度名前を呼んで目の前まで歩いてきた。
そして私を見下ろして一言。
「サッカー、やめろよ」
「……え…………」
一瞬聞き間違いか、もしくは冗談なのかと思って、顔を上げるも明王さんは真顔でこちらを見ていてどちらでもない事を一瞬で理解した。
「あんな顔でプレーするぐらいなら、やめちまえ」
もう一度、そう告げられた。
その途中にどさり、と肩にかけていた荷物が床へと滑り落ちるけれど拾う余裕はなくて。
顔を俯きながら、明王さんの言葉を頭の中で
「い……いや、だ…………」
出した声はあまりにもか細くて、本当に私の声なのかと自分で疑ってしまうほどだった。
「私は…………サッカーで、強くならないと……強くなったらきっと…………」
彼らに素直に謝って、それから…………諦められるはずだから。
「っ……チームプレイが不出来で周りに迷惑かけてる件はちゃんと、解決するから。…………心配しないで」
私は拳を握ったまま、何とか口を動かしてくうちに、体も動くようになる。
「私は、大丈夫だから」
だから私は平然を装うために、いつも通りの言葉を呟きながら落としてしまったバックを手に取ろうと屈んだ。
「……またそれか」
吐き捨てるような声が聞こえたと同時に、目の前に影が差した。
私に目を合わせるためか、同じように屈んだ明王さんがいて、立っている時よりもぐっと近くなった距離で話しかけられる。
「お前は何があっても、二言には大丈夫、大丈夫…………あのなぁ、
その言葉を信じられねぇから言ってんの分かんねぇの?」
ー信じられない。
その言葉を聞いた瞬間、ぶわりと背中に冷たい汗が伝った。
それからはもう、反射的に体が動いていた。
「っ……!?」
バックを手に取るために屈んだのに、私の両手は同じように屈む目の前の彼を突き飛ばしていた。体制のせいで、彼の体はぐらりと傾いてそのまま尻餅をつく。
そんな姿を見ながら私は立ち上がる。
「………るよ…」
「あ?」
「分かってるよ!私は信じてもらえるような人じゃないことなんて……!!期待には応えられないって……!!」
座っている明王さんを見下ろしながら、感情のまま怒鳴りつけていた。
「……おい、明奈」
私の癇癪に対しても、明王さんは眉を寄せるだけで私に尚も手を伸ばそうとしてくる。
その姿が“あの人”と重なって、慌てて後退る。
「……ッもう私の事は放っておいて!!」
―他人のくせに、兄貴面しないでよッ!!
最後にそう怒鳴って、私は自室へと逃げ込んでしまった。
転がり込むように入った久々の自室。私は灯りもつけないままベットへと寝転んだ。
鍵があるわけでもないこの部屋は明王さんは入ろうと思えば、入れるはずなのにいつまで経っても扉は開く気配はせずに、私はベットに仰向けになってぼんやりと天井を眺める。
ゆっくり頭が冷えて、襲ったのは強烈な後悔の念だった。
「……なに、してんだろう。私…………」
兄妹喧嘩…………いや違う。そんな対等なものじゃない。
あれは一方的な八つ当たりだ。……兄ちゃんにしたことと全く同じ事をした。
先に騒いで喚いて、相手が何か言おうとする前に逃げ出した。
他人のくせに、なんてどの口が言うのだろう。
同一視していたのは、明王さんを兄と重ねそうになったのは、どう考えても私なのに。
考えれば考える程、自分は酷い妹だ。
ああ、本当…………
「嫌なところは何も変われない……」
じわりと滲んだ視界を誤魔化すように、腕で目元を押し付けながら私は唇を噛む。
ー『あんな顔でプレーするぐらいなら、やめちまえ』
分かってる。あの言葉は、心配をしてくれたんだ。
思えば、明王さんは私がサッカーに関わることに、否定はしないけれど肯定もしない。そんな態度だった。
それでも、日本代表に選ばれた際には祝ってくれたのに。
サッカーをしても大丈夫だろう、と信じてくれたのに。
私は、また……家族を裏切った。
でも、それでもやっぱり無理だ。私は明王さんが期待しているようなサッカーはできない。
サッカーの楽しみ方なんて、私にはもう思い出せない。