寂しがり少女
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「確かに最初はピョン子に重ねてる部分はあったけれど、今はちゃんと一人の人として不動さんを見てるから大丈夫だよ」
「そうじゃないと困りますよ……」
「…………本当にな」
緑川さんの元気な謝罪の後も基山さんはあっけらかんとした態度でそう告げてきて、即答する私の隣にいる緑川さんは疲れた顔をしていた。普段はこんな奴じゃないんだ……と嘆くぐらいには珍しい姿らしい。
「それに、俺は不動さんと一緒にサッカーできることも、嬉しく思ってるんだ」
そんな親友の嘆きも知らずに、基山さんはぐいっと私の顔を覗き込みながらそう微笑んだ。
「……あの時は、できなかったからさ」
「………え」
ー『しばらく、サッカーはしたくない』
ー『ごめんね』
基山さんのその言葉を聞いて、思い出すのは真帝国後の入院した夜の出来事。ああそうだ、グランさんは基山さんなんだから当たり前か。
……あの時のグランさん、夢じゃなかったんだ。
「ヒーロートー!!」
だけど、私がその言葉に対して返答するよりも前に、緑川さんが間に入ったので私は彼の背中に隠れることになる。
「これ以上、不動に変なことを吹き込むなよ!!」
「えぇ?ただの世間話だよ」
ね、不動さんと緑川さん越しに尋ねる基山さんは、見慣れた優しい笑顔だった。
「……合宿所に着いたので、私は失礼します」
「そっか。じゃあまたね、不動さん」
雷門の正門まで帰ってこれた私は二人へ告げれば基山さんに挨拶されながらも合宿所へと向かおうとすれば、
「不動!」
名前を呼ばれたので、仕方なく振り返った。
「えっと、さっきは……元気づけてくれてありがとうな」
あとヒロトのことはごめん、なんて付け足しながら笑顔で手を振る緑川さんがいた。後者はともかく、その礼の理由が何となく告げた感想だと遅れて気づいて瞬きを一つ。
「…………いえ」
緑川さんは自分の言葉に対してそう言ってくれたことに、不思議な感覚になりながら、軽く頭を下げて私は今度こそ歩き出した。
+++
夜、昼間に動かせなかった分まで体を動かしていた私は何度目かのシュートをゴールへと叩き込んだ。そのボールを拾いに行きながらぼんやりと浮かぶのは今日の出来事。
……いつもより人と喋ったな。
虎丸くんに心配してもらった。久遠さんに絆創膏を貰った。ネオジャパンで郷院くんや忍ちゃんと再会できたし、源田先輩も私を気遣ってくれた。基山さんへの疑問も解消できたし、緑川さんに掛けた言葉を感謝してもらえた。
うん、すごい。人見知りの私が一日でこんな色んな人と話すことなんて初めてかも。
進歩だ、と思えたのは一瞬で。
「…………ダメだ」
私は拾ったボールを持ちながら頭をゆるゆると振る。
このままじゃ、ダメだ。
結局、私は周りの優しさに甘えているだけで、自分から話しかけられなくて、誰よりも話さなくちゃいけない人に結局何も言えてない。
「……強く、ならないと」
まるでお守りのようにボールをぎゅうと両手で抱えながら呟く。
強くなって、少しでも自分を認めることができたら、きっと……
「不動!」
「ッ……!!」
背後から聞こえた声に、思わずボールが手から転がり落ちてしまった。ころころと転がっていくボールを目で追いながら振り返れば、声の主の足元へと辿り着いたボールはその人によって持ち上げられる。
「悪い、驚かせたか?」
「…………いえ」
その人、円堂守さんはボールを持ちながらそう尋ねるので、私は首を横に振った。
「凄いな、こんな時間まで特訓してたのか?」
そう言いながら彼は目の前まで歩いて来て、ん。とサッカーボールを差し出してきた。
「……もう終わる所です。私のことは気にしないでください」
裏表のない賞賛の言葉と笑顔を見て私は思わず目線を逸らしながら、片付けのために受け取ろうと手を伸ばした時だった。
「一人で特訓も大事だけどさ、……オレたちとも一緒にやらないか?」
なんて、ボールを手渡しながら突然私を特訓に誘ってきた。……いや、実際は突然じゃない。
…………何度か話しかけようとしてきた円堂さんから逃げて来たのは私の方だ。
「……円堂さんに私の相手は役不足でしょう」
「やく、ぶ……ん?」
「え?…………忘れてください」
一瞬変な間ができてしまったけれど、円堂さんは気を取り直してこちらを見ながら笑いかける。
「オレだけじゃなくてさ、みんなとサッカーしたらもっと楽しいと思うぜ?……鬼道だって、口には出さないけど本当は誰よりもお前と……」
「……ッ!今その人は関係ないでしょ!」
「!」
静かに聞いていたけれど、出てきたその名前に反射的に声を上げてしまった。
「……すみません…………」
「……不動」
怒鳴ったせいで黙ってしまった円堂さんに、言い訳のように謝りながら私は額に手を当てて唇を噛む。
そんな私をじっと見ていた円堂さんは、何かを考え込むように俯いて、それから顔を上げて、再び私の名前を呼んだ。
「一回だけでいいんだ。……オレにシュートくれないか?」
唐突な提案だった。
だけど、円堂さんの顔はいつになく真剣味を帯びていて、呆然としている間に、彼はもうゴール前でぶんぶんと笑顔で両手を振って私のシュートを待っていた。
「…………威力は期待しないでくださいね」
「大丈夫だ!」
ここまで、されたら逃げられない。
私は頭を振って、切り替えながら一応失望されないようそんな保険をかけた。
「来い!」
ゴールの前で構えるキャプテンは真剣に私を見据えながらも、どこか楽しそうに笑みを浮かべている。
……きっと飛鷹さんの時もこんな風にしたんだろうな、と思いながら私はボールを足元へ置いた。それから数歩後ろへと下がって、一つ深呼吸をしてから足を踏み出す。
私の渾身のシュートはバシンッと円堂さんの手の中に収まった。
……予想通りの結果だ。私じゃ円堂さんだって練習にならないだろう。
「これでいいですよね。私帰りますよ」
「…………なぁ、不動……」
帰ろうとする私に対して、じっと手元のボールを見ながら何度か首を傾げていた円堂さんは、困惑しきったような声で、絞り出すように呟いた。
「……怖いのか……?」
「…………は」
怖い?
何が??
「不動のシュート、何かを怖がってるような……苦しんでいるような…………そんな感じがするんだ」
ボールを受け止めただけで、選手の心情が分かったとでも言いたいのかこの人は。
「不動……」
まるで自分の事のように悲しげに眉を下げている円堂さんは私を見て一つ問いかけた。
「サッカー、楽しいか?」
「ッ……!」
思わず俯いてしまった。
ああ、駄目だ。やっぱりこの人と話すべきじゃなかった!さっさと合宿所へと帰るべきだった……!!
いや……違う。
変わらないと……自分から話せるように、ならないと。
私はぎゅうとユニフォームを握りしめながら、何とか声だけは出した。
「……円堂さんは」
「ん?」
「…………私を、許せるんですか」
問いかけたくせに、返答を聞きたくなくて口を必死に動かした。
「影山について、に……いや、えっと…………貴方の仲間に、酷いことした私を」
声が段々小さくなっていく自覚はあった。きっと円堂さんには届いてない。
それに私がもう一度言えるかどうか……
「ああ」
耳に届いた肯定の声に、反射的に顔を上げてしまった。
「当たり前だろ?」
円堂さんは、笑っていた。
「だって今は同じチームの仲間だからな。いいところも悪いところも全部受け止めるのが仲間だ!!」
何の引っ掛かりもなく頷いたかと思えば、円堂さんはボールを持っていない方の腕を広げてそう力強く告げる。
それからずんずんと私の目の前まで歩いて来たかと思えば、片手を出してきた。
「不動もサッカー楽しもうぜ。オレたちと一緒にさ!!」
二ッと歯を見せて笑って手を差し伸ばす姿は、再会した体育館で最初に挨拶をしてきた時の笑顔と何一つ変わらなくて。
私は、その手と円堂さんの顔を交互に見る。
そして、自分の手を見れば小さく震えていて、それを誤魔化すようにぎゅうと拳を握りながら私は俯いた。
「不動?」
「…………私は……一人で、大丈夫だから」
結局、その手は取れないまま私は彼に背中を向けた。
「そうじゃないと困りますよ……」
「…………本当にな」
緑川さんの元気な謝罪の後も基山さんはあっけらかんとした態度でそう告げてきて、即答する私の隣にいる緑川さんは疲れた顔をしていた。普段はこんな奴じゃないんだ……と嘆くぐらいには珍しい姿らしい。
「それに、俺は不動さんと一緒にサッカーできることも、嬉しく思ってるんだ」
そんな親友の嘆きも知らずに、基山さんはぐいっと私の顔を覗き込みながらそう微笑んだ。
「……あの時は、できなかったからさ」
「………え」
ー『しばらく、サッカーはしたくない』
ー『ごめんね』
基山さんのその言葉を聞いて、思い出すのは真帝国後の入院した夜の出来事。ああそうだ、グランさんは基山さんなんだから当たり前か。
……あの時のグランさん、夢じゃなかったんだ。
「ヒーロートー!!」
だけど、私がその言葉に対して返答するよりも前に、緑川さんが間に入ったので私は彼の背中に隠れることになる。
「これ以上、不動に変なことを吹き込むなよ!!」
「えぇ?ただの世間話だよ」
ね、不動さんと緑川さん越しに尋ねる基山さんは、見慣れた優しい笑顔だった。
「……合宿所に着いたので、私は失礼します」
「そっか。じゃあまたね、不動さん」
雷門の正門まで帰ってこれた私は二人へ告げれば基山さんに挨拶されながらも合宿所へと向かおうとすれば、
「不動!」
名前を呼ばれたので、仕方なく振り返った。
「えっと、さっきは……元気づけてくれてありがとうな」
あとヒロトのことはごめん、なんて付け足しながら笑顔で手を振る緑川さんがいた。後者はともかく、その礼の理由が何となく告げた感想だと遅れて気づいて瞬きを一つ。
「…………いえ」
緑川さんは自分の言葉に対してそう言ってくれたことに、不思議な感覚になりながら、軽く頭を下げて私は今度こそ歩き出した。
+++
夜、昼間に動かせなかった分まで体を動かしていた私は何度目かのシュートをゴールへと叩き込んだ。そのボールを拾いに行きながらぼんやりと浮かぶのは今日の出来事。
……いつもより人と喋ったな。
虎丸くんに心配してもらった。久遠さんに絆創膏を貰った。ネオジャパンで郷院くんや忍ちゃんと再会できたし、源田先輩も私を気遣ってくれた。基山さんへの疑問も解消できたし、緑川さんに掛けた言葉を感謝してもらえた。
うん、すごい。人見知りの私が一日でこんな色んな人と話すことなんて初めてかも。
進歩だ、と思えたのは一瞬で。
「…………ダメだ」
私は拾ったボールを持ちながら頭をゆるゆると振る。
このままじゃ、ダメだ。
結局、私は周りの優しさに甘えているだけで、自分から話しかけられなくて、誰よりも話さなくちゃいけない人に結局何も言えてない。
「……強く、ならないと」
まるでお守りのようにボールをぎゅうと両手で抱えながら呟く。
強くなって、少しでも自分を認めることができたら、きっと……
「不動!」
「ッ……!!」
背後から聞こえた声に、思わずボールが手から転がり落ちてしまった。ころころと転がっていくボールを目で追いながら振り返れば、声の主の足元へと辿り着いたボールはその人によって持ち上げられる。
「悪い、驚かせたか?」
「…………いえ」
その人、円堂守さんはボールを持ちながらそう尋ねるので、私は首を横に振った。
「凄いな、こんな時間まで特訓してたのか?」
そう言いながら彼は目の前まで歩いて来て、ん。とサッカーボールを差し出してきた。
「……もう終わる所です。私のことは気にしないでください」
裏表のない賞賛の言葉と笑顔を見て私は思わず目線を逸らしながら、片付けのために受け取ろうと手を伸ばした時だった。
「一人で特訓も大事だけどさ、……オレたちとも一緒にやらないか?」
なんて、ボールを手渡しながら突然私を特訓に誘ってきた。……いや、実際は突然じゃない。
…………何度か話しかけようとしてきた円堂さんから逃げて来たのは私の方だ。
「……円堂さんに私の相手は役不足でしょう」
「やく、ぶ……ん?」
「え?…………忘れてください」
一瞬変な間ができてしまったけれど、円堂さんは気を取り直してこちらを見ながら笑いかける。
「オレだけじゃなくてさ、みんなとサッカーしたらもっと楽しいと思うぜ?……鬼道だって、口には出さないけど本当は誰よりもお前と……」
「……ッ!今その人は関係ないでしょ!」
「!」
静かに聞いていたけれど、出てきたその名前に反射的に声を上げてしまった。
「……すみません…………」
「……不動」
怒鳴ったせいで黙ってしまった円堂さんに、言い訳のように謝りながら私は額に手を当てて唇を噛む。
そんな私をじっと見ていた円堂さんは、何かを考え込むように俯いて、それから顔を上げて、再び私の名前を呼んだ。
「一回だけでいいんだ。……オレにシュートくれないか?」
唐突な提案だった。
だけど、円堂さんの顔はいつになく真剣味を帯びていて、呆然としている間に、彼はもうゴール前でぶんぶんと笑顔で両手を振って私のシュートを待っていた。
「…………威力は期待しないでくださいね」
「大丈夫だ!」
ここまで、されたら逃げられない。
私は頭を振って、切り替えながら一応失望されないようそんな保険をかけた。
「来い!」
ゴールの前で構えるキャプテンは真剣に私を見据えながらも、どこか楽しそうに笑みを浮かべている。
……きっと飛鷹さんの時もこんな風にしたんだろうな、と思いながら私はボールを足元へ置いた。それから数歩後ろへと下がって、一つ深呼吸をしてから足を踏み出す。
私の渾身のシュートはバシンッと円堂さんの手の中に収まった。
……予想通りの結果だ。私じゃ円堂さんだって練習にならないだろう。
「これでいいですよね。私帰りますよ」
「…………なぁ、不動……」
帰ろうとする私に対して、じっと手元のボールを見ながら何度か首を傾げていた円堂さんは、困惑しきったような声で、絞り出すように呟いた。
「……怖いのか……?」
「…………は」
怖い?
何が??
「不動のシュート、何かを怖がってるような……苦しんでいるような…………そんな感じがするんだ」
ボールを受け止めただけで、選手の心情が分かったとでも言いたいのかこの人は。
「不動……」
まるで自分の事のように悲しげに眉を下げている円堂さんは私を見て一つ問いかけた。
「サッカー、楽しいか?」
「ッ……!」
思わず俯いてしまった。
ああ、駄目だ。やっぱりこの人と話すべきじゃなかった!さっさと合宿所へと帰るべきだった……!!
いや……違う。
変わらないと……自分から話せるように、ならないと。
私はぎゅうとユニフォームを握りしめながら、何とか声だけは出した。
「……円堂さんは」
「ん?」
「…………私を、許せるんですか」
問いかけたくせに、返答を聞きたくなくて口を必死に動かした。
「影山について、に……いや、えっと…………貴方の仲間に、酷いことした私を」
声が段々小さくなっていく自覚はあった。きっと円堂さんには届いてない。
それに私がもう一度言えるかどうか……
「ああ」
耳に届いた肯定の声に、反射的に顔を上げてしまった。
「当たり前だろ?」
円堂さんは、笑っていた。
「だって今は同じチームの仲間だからな。いいところも悪いところも全部受け止めるのが仲間だ!!」
何の引っ掛かりもなく頷いたかと思えば、円堂さんはボールを持っていない方の腕を広げてそう力強く告げる。
それからずんずんと私の目の前まで歩いて来たかと思えば、片手を出してきた。
「不動もサッカー楽しもうぜ。オレたちと一緒にさ!!」
二ッと歯を見せて笑って手を差し伸ばす姿は、再会した体育館で最初に挨拶をしてきた時の笑顔と何一つ変わらなくて。
私は、その手と円堂さんの顔を交互に見る。
そして、自分の手を見れば小さく震えていて、それを誤魔化すようにぎゅうと拳を握りながら私は俯いた。
「不動?」
「…………私は……一人で、大丈夫だから」
結局、その手は取れないまま私は彼に背中を向けた。