寂しがり少女
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「ここまで来れば邪魔な男共は来ないでしょ」
「……忍ちゃん、マネージャーの仕事しなくて大丈夫?」
「雷門では撤収するだけだからいいのよ。ま、その後は帝国学園でミーティングがあるけど」
「帝国学園で練習してたんだ……」
忍ちゃんに連れられたのは雷門中の近くにあった児童公園(走り込みの時に見たような見てないような……)で、私達は公園のベンチへ座り、ようやく落ち着いて話すことができた。
「郷院くんとも話したかったんだけどなぁ」
「選手は流石に抜け出せなかったわね……」
道中で郷院くんについて聞いてみれば、ディフェンスの要だったからか、イナズマジャパンの選手たちから質問責めをされていて抜け出せなかったとか。
友人として誇らしい気持ちもあるけど、話したい気持ちもあったので少し寂しい。今日の夜にメールで今日の試合の感想を送ろう。
「えっとそれで、……忍ちゃん」
忍ちゃんもミーティングがあるだろうし、と私は早速気になることを聞くために口を開いた。
「帝国学園に入ったって……源田先輩は言ってたけど…………」
「……ええ、本当よ」
忍ちゃんは小さくため息をついて、それから頷いた。
本当はちゃんとした機会に言いたかったのに、とくるくると指で髪を巻きながら呟く忍ちゃんの顔は少しだけ拗ねている。源田先輩に先に言われた事が気に入らなかったのだろう。
「私だけじゃないわ。郷院とか、弥谷や日柄……そこら辺もいるわ」
「すごい、真帝国の子達がいっぱいだ」
「当たり前じゃない」
忍ちゃんはパッと髪から手を離して、私に顔を合わせる。
「私達がいる方が、アンタも帝国学園に戻りやすいでしょ?」
それはまるで天気の話をしているような気軽で、忍ちゃんは小首を傾げてそう告げた。
ああ、本当に彼女らは……
「明奈?」
私は思わず、すぐ近くにあった彼女の手を握っていた。
私自身、あまりそういう行動を自分からしないので、忍ちゃんは驚いたような顔で私の顔を覗き込んでくる。
「……ダメだよ」
握った時に沸いた感情と真逆な言葉を吐き出しながら私は笑顔を浮かべる。……本当はちゃんと笑いたいけれど、やっぱり下手くそな笑みしか作れない。
「……そんなに甘やかされたら、私、ダメになっちゃうよ」
私のために行動を起こしてくれて、信じてくれて嬉しかった。
だけど、やっぱり……怖くて。
自分に優しくしてくれる彼女にすら、そんな感情を持ってしまう事が情けなくて、つい俯いてしまう。
そのくせ、握った手は中々外せない。
「バカね」
そんな私の心境を見透かすような優しい声が耳に届いた。
「友達にぐらい甘えておきなさい」
なんて言って、握っていない方の手で私の頭を撫でてくれた。
+++
あれから、時間ギリギリまで一緒に話した(兄妹の事については言及されなかった。それも彼女の優しさなんだろう)こともあって、その場解散となった。
公園で忍ちゃんを見送った後に、私も一度雷門中へ戻るために歩き出す。流石にユニフォーム姿は目立つから。……また絡まれたら、めんどくさい事この上ない。
……練習試合もあったし、チーム練習は今日はないだろう。
とはいえ、試合に出てた周りはともかく私は体を動かさないといけない。さっさとジャージを着て再び雷門から出ようかな、と今日の予定を考えていると、
「あれ、不動さん?」
「……ん」
雷門中への道のりである曲がり角を曲がった所で、その道を真っ直ぐ歩いていた人達と鉢合わせることになる。
そこにいたのは、基山さんと緑川さんだった。
「不動さんも雷門に帰る途中?」
「…………まぁ」
「よかったら俺たちと一緒に帰る?」
「「えっ」」
基山さんに話しかけられ、ぶっきらぼうに返事をするも彼は気にする様子はなく笑顔でそんな提案をしてきた。
驚いて声を上げる私と緑川さんの声がぴったりと重なる。緑川さんの反応は当然だ。流れで話すことは数回あれど、そんな仲ではないはずだから。
「……いえ、大丈夫です。私のことはお気になさらず」
「でもまた迷子になっちゃったら、大変じゃないかな?」
だから私はこの場を去ろうとしたものの、基山さんにそう言われて思わず足を止める。
「…………誰から聞いたんですか、それ」
「綱海くんから」
…………あの野郎。
「……慣れてない土地だから、多少手こずっただけです」
「慣れてないんだったら尚更1人にできないよ」
強制ではないにしろ、ね?と悪意のない笑顔を向けられてしまえばそれを振り切れる術は私にはなくて。
結局三人で歩いて帰ることになった。
基山さんは瞳子さんの義理の弟らしい。その久々に会えた義姉の見送りに緑川さんも付き添ったとのことだ。
つまり、2人ともエイリア学園出身なのかと今更ながらに分かった。
「……ああ、だから緑川さん。ネオジャパンの試合で気迫凄かったんですね」
その時の試合の緑川さんの熱の入り方も。そしてそんな緑川さんを基山さんがフォローしてたな、と試合を思い返せば2人の繋がりも納得できた。
それに相手チームにだってエイリア学園の選手がいたのなら、やる気も出るのだろう。
「……けど、全然ダメだ」
肯定するだろうという予想に反して緑川さんは、悔しさを滲ませながら顔を俯かせている。
「結局シュートも入れられなくて交代させられるし……だから、もっと頑張らないと……!!」
「緑川……」
悔し気ながらも意気込む緑川さんの表情は少し前の頃よりはマシだけど、どこか意地になっているような気がする。そんな彼を基山さんは心配そうに見ていた。
きっと、彼らなりの事情はあるのだろう。
…………だとしても、だ。
「は?それ練習試合すらBWだった私の前で言います?」
今日も元気にベンチを温めていた選手の目の前で、ベンチ入りを嘆くとか喧嘩売ってんのか。
「あ……!いや………!!別にそんな訳じゃ……!!」
私の言葉に拳を握っていた緑川さんは、ハッとした表情から焦ったように急いでぶんぶんと両手を振っていた。
「……いいですよ。わざとじゃないですし」
悪意があったら容赦しなかったけれど、本人に悪気はない……それを気にする余裕もなさそうだったし、私はため息をつくだけにとどめた。
「…………あと、私は緑川さんの新しい必殺技を見て……凄いと思いましたよ」
それから、やたら悲観的な緑川さんにそう一言伝える。
……周りと馴染もうとしない自分が言っても効果はないにしろ、雷門中までの帰り道にこうずっと落ち込まれるのも気まずいのでちょっとした気休め程度のコメントだ。
「え?」
「緑川?」
そのはずだったのに、緑川さんは目を丸くしてしばらく固まってしまった。
静観していた基山さんが不思議そうに名前を呼べば再び緑川さんは動き出して、それからポツリと呟く。
「あ、いや……不動って人の事、褒めるんだと思って…………」
「…………」
私にどんなイメージを持ってるんだ……いや、自業自得か。
褒める以前にそんなにイナズマジャパンの面子と話していないな。
「大丈夫だよ、緑川。不動さん、こういう時には噓をついたりしない子だから」
「…………あの、基山さん」
そう考えると、私の言葉に半信半疑になっている緑川さんよりも、
やたら私に優しい?甘い?基山さんの態度の方が不自然に感じる。
同時に思い出したのはカタール戦前の水飲み場の出来事で、私は尋ね損ねた疑問を今度こそ口にした。
「前から思ってたんですか…………私と基山さん、過去に会ったことありましたか?」
「……え?」
「えっ」
一瞬の沈黙。それからつい、といった感じで声を漏らす基山さんの呆然とした表情に、私も声を上げてしまう。
彼の反応を見る限り、私は基山さんと顔見知りだったらしく、焦った。
「ええーと……」
私に知り合いに基山、という男子なんていたか?と口元に手を当てて記憶を辿っているもの、思い出せずにちらりと基山さんの様子を伺えば、苦笑いを浮かべていた。
「うーん、こうしたら分かってくれるかな?」
「あっ……」
そう言って基山さんは自分の髪の跳ねている部分を手で隠して……そこでやっと記憶の中にある選手の名を思い出した。
「……グランさん?」
「うん、正解」
その名前を呼べば、彼は手を外してにこりと微笑んだ。
そこで、私は基山ヒロトさんが、エイリア学園のマスターランクのグランさんだと初めて知った。
「グランは宇宙人ネーム。俺の本名は基山ヒロトって言うんだ」
「宇宙人ネーム……そういえばネオジャパンの砂木沼さんもそんな感じで呼ばれてたな…………」
当時の私は普通に宇宙人扱いしていたけれど(真偽に対して無関心だったせいだ。決して宇宙人を信じていた訳じゃない)、彼らだって私と同じ人間だったんだなと基山さん達を見てると納得できた。
「……ヒロト、覚えられてもなかったのに、あんなにぐいぐい言ってたの?」
「あはは、会えた事が嬉しくて。そういう説明する事抜け落ちてたよ」
私が思い出した様子にほっとしている基山さんは緑川さんの問いに対しても嬉しそうに答えていた。
「会えた事が嬉しいって…………」
彼がグランさんだとしても、そもそもそんな仲じゃなかったはずだ。
と思い返してみても、余裕のない自分の醜態を思い出すだけだった。
……何なら、彼にもそれなりに八つ当たりだってした。いやでも、彼だって……
「……またうさぎとか、そういう事思ってるんですか」
「あ……!覚えててくれたんだ!」
「は?うさぎ??」
好きで覚えていた訳ではないけど。グランさんの時に投げかけられた言葉の真意を知りたくて、ついその動物の名前を出せば、目を輝かせる基山さんと不思議そうに基山さんを見る緑川さん。
「あの時は……余裕がなかったので指摘できませんでしたが、なんで私をうさぎに例えたんですか」
「それは…………不動さんが……」
その質問に対して、基山さんは目線を彷徨わせて言い淀んでいたけれど、意を決したのか私の顔をじっと見てきた。
「私が……?」
基山さんの顔は薄っすらと頬を赤らめていて、緊張気味に一度呼吸をしたかと思えば、照れ臭そうに微笑んだ。
「不動さんが、おひさま園で飼っていたうさぎにそっくりだったからだよ」
……………………
「………飼っていた……うさぎ……?」
おひさま園、とは基山さん達が暮らす孤児院の名称なんだろうな。
なんて現実逃避をしてしまうぐらい基山さんの言葉は斜め上すぎて、私はオウム返ししかできなかった。
「不動をうさぎって……ヒロト??」
「緑川も覚えてるだろ?小学校低学年ぐらいでみんなで飼ってた茶色の小さい……」
「いや、ピョン子のことは覚えてるけど……いやそれよりも………」
ピョン子って言うんだ。
「不動さんを一目見た瞬間、本当に驚いた。あの子が人間になって俺の前に来てくれたんだって柄にもなく思っちゃった」
「…………えぇ……」
「警戒心が強いのに、寂しがりなところとかも本当にあの子にそっくりなのが本当可愛いなぁって……!」
「……はぁ……」
茶色のうさぎと茶髪の私。
そんな色だけの共通点で亡きペットと私を重ねてた、という事だろう。可愛い、という言葉もうさぎに対してなら納得できる。……私と重ねるセンスだけは謎だけど。
ピョン子……ちゃん?の事を本当に可愛がっていたのだろう、いつもよりもずっと元気よく喋る基山さんを見ながらそう思っていた。
…………ただ、私はうさぎの生まれ変わりでもなんでもない(何なら基山さん達が小学生なら私も小学生だろーが)ので、私に対してそんな慈愛に満ちた表情を向けられても正直困る。
あの時―京都で初めてうさぎと例えられた時も―の私は悪意だと決めつけていたけれど、実際は自分の大切にしていたペットを思い出して、ただただ感傷に浸っていただけなんて。
本人に悪意も悪気も一切ないなんて、想像できなかった。
付き合いの短さに比例して、元エイリア学園の人達のことはいまいち分からないな……観察不足だ。
「ヒロトがごめん!!!!」
「わっ……!?」
長い間自分の世界に逃げていたけれど、突然の大きな声で現実へと強制的に戻された。
正面を見れば、緑川さんが基山さんの頭を押さえつけて無理やり下げさせていた。
「俺はその時警察に保護されてた身だから、全然知らなかったんだけど、まさか女子をうさぎって呼んだりするなんて……そんな失礼なことしてるとは思わなくて……!!!」
「ちょっと、どうしたんだよ緑川……」
「ド天然ヒロトの代わりに謝ってんだ!!不動も!いつもの嫌味はどうしたんだよ!!」
「いや……ちょっと予想外な返答に、頭の処理が追いついてなくて…………」
「それは本当ごめん!!!!!」
……緑川さん、元気だな。
「あと……まぁ…………真意は分かったので、もう、大丈夫ですよ。うさぎに失礼かなとは思いますけど。
…………飼うと提案された時には舐められてるんだろうなと思ったぐらいで」
「か……ッ!!?」
新しい情報だったらしく、緑川さんは一瞬硬直したあとに、すごい勢いで基山さんの体を起こして詰め寄っていた。
なのにそのやり取りは小言で行われていて、私は聞き取れなかった。
「お前絶対にそれ、鬼道には言うなよ……!!?」
「え?なんで……?」
「なんでもだ……!!!」
……私でうさぎを連想するぐらいだ。きっとエイリア学園の生活ってとんでもないストレスだったんだろうな。
ヒロトくんは強かでありつつ天然な子だと勝手に思ってます。