寂しがり少女
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「あれ、明奈さん。どうしたんですか、その傷」
「え?」
練習前のストレッチをしている最中、いつもより早めに来た虎丸くんからの指摘に私は首を傾げる。
「手に傷できてますよ」
「…………ああ、これ」
私は屈伸を一度止めて確認してみれば手の甲に、見覚えのない傷痕を見つけた。
……時間経ってそうだし、昨日の森林での練習時にいつの間にか傷つけたのだろう。場所によっては低めの木も生えていたし。
「ただの掠り傷だよ。気にすんな」
「ダメです!そのままにしたらばい菌が入っちゃいますよ!!」
「は?……あ、おい……!」
あんまり手に傷は残したくないんだけどな。とは思いつつも大事にする気もないので手をひらひら振って平然と返す。
だけど虎丸くんは納得してくれず、私が止める暇もなく颯爽とマネージャーの元へと走ってしまった。
「とりあえず、冬花さんから絆創膏を貰ってきました!」
それから帰ってきた際に虎丸くんが持っていたのは、デフォルメのうさぎの絵がプリントされたやたら可愛らしい絆創膏だった。
医務室にあったか?と思わずベンチの方を見れば、絆創膏を渡したらしい久遠さんと目が合ってにこりと微笑まれた。
……これは多分、久遠さんの私物だな、と思いながら私は軽く頭を下げる。
「ほら、絆創膏貼るので手を出してください」
「……いや、自分でできるわ」
流石に小学生に世話焼かれる訳にはいかない、と彼の手から絆創膏をひったくった。
「……豪炎寺さんに憧れてるんだから、彼の方に行けばいいのに」
「豪炎寺さんは練習中にこんなドジで怪我しないので。明奈さんはちゃんと見ておかない色々……アレなんで!」
「…………アレってなんだよ」
……手遅れな気がしてきた。
「……ありがとう」
「はい!」
事実怪我してることで強く言う事はできず、絆創膏を貼りながら礼を呟けば、虎丸くんは元気よく返事をした。
それからいつも通り久遠監督の号令がかかり、今日の練習が始まる。今日は試合形式の練習を行うらしく、そのチームを発表しようとした時だった。
突然の鋭い音と共に、鋭いシュートがこちらに飛んできた。
「さすがは円堂。素晴らしい反応だ」
それを咄嗟に受け止めた円堂さんに対する賞賛が正面から聞こえ、目線を向ければ、いつの間にかグラウンドに見知らぬ人間が立っていることに気づいた。
その人は、イナズマジャパンのユニフォームと似たユニフォームを身に付けていた。
「デザーム!」
「デザーム?……今の私は砂木沼治。チーム、ネオジャパンのキャプテンだ」
見知らぬ人という感想は私や虎丸くんといった一部の人だけみたいで。周りは顔見知りのような反応をしていた。
「ネオジャパン……?」
そんな名称に円堂さんが首を傾げていると、砂木沼さんの背後からずらりと彼と同じユニフォームを着た人達が並んだ。
それは、帝国学園も含めたFFで活躍した選手だったり、そして真・帝国学園やエイリア学園の選手といった雷門中と戦ってきた人達で構成されていることが分かった。
「久しぶりね。円堂くん」
「瞳子監督ぅ!!?」
そんな選手の後ろから現れたのは、かつての雷門イレブンの監督をしていた吉良瞳子さん。予想外の再会に円堂さんや周りはさらに驚愕の声を上げていた。
だけど、私は瞳子さんの隣に立った髪の色と同じピンク色のジャージを着たマネージャーに意識は持って行かれることになる。
「来てやったわよ。明奈」
私の視線に気づいたその子は、腰に手を当てながらふんっと得意げに笑う。そんな好戦的な笑みを懐かしく感じながら私はその子の名前を呟いた。
「忍ちゃん……!」
―近々、楽しみにしてなさい。
そんなメールを送った友達の真意が、ようやく分かった。
挑戦だと、瞳子さんは久遠監督に告げる。
砂木沼さん率いるネオジャパンの監督となった瞳子さんはイナズマジャパンに試合の申し込みをした。その試合に勝つことが出来れば日本代表の座を頂く、という条件で。
そんな申し込みを受けた久遠監督は、周りが不安そうに見守る中「いいでしょう」と短い返事で、そう承諾をした。
「果たして、この試合に勝利して日本代表の座を勝ち取るのはイナズマジャパンか!?瞳子監督率いるネオジャパンか!?」
突然始まった試合に対して、どこからか現れた実況の声を聞きながら私は安定のベンチで試合開始のホイッスルの音を聞いた。
ポジションの変更はあれど、元FW率の高さから完全攻撃型のチームなのかという予想に反して、キャプテンである砂木沼さんの適確な指示による守備も硬く、イナズマジャパンはいまいち攻めきれていなかった。
「……風丸」
そんなとき、グラウンドを見ていた久遠監督が風丸さんを呼ぶ。
それが気になり、ちらりと横目で見れば彼は監督と二言三言交わした後にどこかへ走り去った。
……そういえば風丸さんも鉄塔で個人練習してたんだっけ。
「 “ウルフレジェンド” !」
一方、試合の方を見れば吹雪さんが必殺シュートを打ったところだった。
「 “ドリルスマッシャーV2” !」
しかし、その必殺技はGKである源田先輩の必殺技によって止められた。
「今のって……!」
「デザームの必殺技ですよね……!?」
私からしたら初めて見る必殺技だったけれど、ベンチが騒然としていることからデザーム……砂木沼さんの必殺技だったものを使ったらしい。
それから源田先輩からボールを受け取ったネオジャパンの反撃が始まった。
彼らはエイリア学園だけでなく、帝国学園、世宇子中の必殺技をより強化させた形で使いこなし、あっという間に先制点を入れられることになった。
試合が再開され、イナズマジャパンは攻めようとするも砂木沼さんの指示と必殺技を駆使したディフェンスを中々突破はできない。
逆に攻められ、シュートを許してしまう場面もあったけれど、それは必殺技を進化させた円堂さんが何とか止めた。
凄まじい気迫だな、と腕を組みながら私は試合の流れを見ていた。
イナズマジャパンも、ネオジャパンも互角のぶつかり合いだった。
強くなるだけならまだしも、他の選手の必殺技を自分のものとして使う、なんて簡単なことではない。文字通り血の滲む努力を重ねた証拠だろう。
それに、どの選手にどの選手を当てるべきかを考えられている指示の出し方から、イナズマジャパンの選手達を徹底的に研究されている。
……公式試合なんて、テレビ中継も行われていて見ようと思えば何度でも見れるし当たり前だろう。
「…………あ」
その試合を見ながら私は咄嗟に監督を見た。
監督は相変わらず表情一つ変えずにグラウンドを見ている。
「……そうか」
そんな中で私は監督が自分を試合に出さなかった理由を、ようやく理解することができた。
間違ってはいない、とは思うけれど……
「監督!」
声が聞こえた方を向けば、汗だくで肩を息をしている風丸さんがいてマネージャーが驚いた声を上げる。
「選手交代だ!宇都宮に変わって風丸!」
そんな風丸さんを見た久遠監督は顔色一つ変えずに、ボールが出たタイミングでそう指示を出した。
風丸さんはMF、そして土方さんをDFへと下げて守りのフォーメーションとなるイナズマジャパン。
基山さんのスローインで再開される試合、ボールは風丸さんへと繋がる郷院くんがディフェンスへ入った時だった。
「 “風神の舞” !!」
風を纏った風丸さんは縦横無尽に飛び回り、竜巻を作り上げて相手を翻弄させたかと思えば、強風で郷院くんを吹き飛ばしてディフェンスを突破した。
あれが特訓で身につけた風丸さんの新必殺技なんだろう。
それから、風丸さんのパスを受け取った豪炎寺さんの“爆熱ストーム”がゴールへと突き刺さった。
同点に追いついた所でホイッスルが鳴り、前半が終了した。グラウンド側では全員が風丸さんのもとへ駆け寄り賞賛の声を上げている。
土壇場で究極奥義を進化させた円堂さん筆頭に、試合を経て進化するチームだとつくづく実感させられる。
ネオジャパンは確かに強いけれど、イナズマジャパンだって日本代表として世界を相手に戦ってきた。簡単に負けはしないだろう。
だけど、雷門中の前監督だった瞳子さんだって、それを理解しているはずだ。後半戦でどう動くのか気になった。
「不動さんも」
「……え?」
ハーフタイム中、何かしらの話し合いが行われているネオジャパン側のベンチを眺めていると、目の前が橙色に染まった。
何事かと顔を上げればピッチに出てた選手達に、ドリンクやタオルを配っていたマネージャーの一人である久遠さんが、私にドリンクのボトルを差し出していた。
「……私は、ベンチに座ってただけなんで。他の人にあげてください」
何で私に?と思いながらそう伝えるけれど、久遠さんは離れようとしない。
「でも不動さん、凄く集中して試合を見てたから……喉乾いてるんじゃないかって思って……」
迷惑だったかな、なんて眉を下げる姿にじわじわと申し訳なさが襲ってくる。
「……どうも……あと、絆創膏も」
「!うん……!」
結局、ボトルを受け取ることにした。……実際喉も乾いていたし。
それから私は手の甲に貼っている可愛らしい絆創膏も合わせて、軽く頭を下げれば久遠さんは頷きながら微笑んだ。