寂しがり少女
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「新必殺技?」
朝食の時間、鬼道さんからそんな提案が持ち掛けられた。アジア予選を勝ち抜くために必要だと考えたらしい。
鬼道さんが選んだのは、選考試合の時の動きから風丸さん、互いの強みを活かした連携必殺技の習得を吹雪さんと土方さんに提案していた。
それとは別に感化された綱海さんが壁山くんを無理矢理誘っていたが……そちらは、望み薄だな。
朝食会の後に始まった練習では、必殺技習得の練習をする者と、通常通りの練習をする者で別れた。私は後者の人間で、それも学校の外に出るためジャージを羽織りながらグラウンドへと出れば、ボールを蹴る選手の姿が見える。
吹雪さんと土方さんがボールを蹴っている逆側のゴールでは紅白戦が行われいて、緑川さんのスライディングを躱した虎丸くんが飛鷹さんへとパスを出していた。
「飛鷹さん!」
「え?……うおっ!?」
尚、そのボールは受け止め損ねてベンチにいたマネージャーを通り過ぎてこちらの足元まで転がってきた。
「……へたくそ」
「ぐっ……」
仕方なく、私はボールを拾って飛鷹さんへと手渡しながら一言毒を吐けば、飛鷹さんは小さく唸った。
だけど、その表情は悔しそうなものの、前みたいに酷く焦ったものではない。
「……前に言っただろ、パスされる場所は分かってんだ。ボールから目を離すな」
「お、おう……」
私がグラウンドで助言をするのがそんなに珍しいのか、少しだけ目を丸くしながら頷いて練習へと戻って行った。
私の目論見通り、なんて言い方をするほど手を貸した訳でもないけれど。円堂さんに伝言をした日を境に、飛鷹さんのサッカーへの向き合い方が変わった気がする。
間違ってなくてよかった、と一人そっと息を吐いて正門へ体を向ければ。
「不動さんも個人練習?」
マネージャーの一人である久遠さんに話しかけられた。
「みんなと一緒に練習しないの?」
「……基礎体力をつけたいので。失礼します」
彼女の純粋な視線から逃げるように早口で告げて、私は正門を走り抜けた。
「……必殺技かぁ…………」
私が辿り着いたのは、やたら大きな鉄塔が近くにある高台。その通路を少し外れた森林で練習をしていた。高い所からなら雷門中だって見えるし、これなら迷子にならないだろうと見つけた場所だ。
私は持ってきたサッカーボールを転がしポツリと呟いて、それから自分が身に付けている必殺技を目の前の木を選手と想定して打ってみることにする。
「 “ジャッジスルー!!” 」
それは勝つために相手を潰す必殺技で。木の表面に傷をつけながら自分の足元に返ってきたボールを見て、分かってはいたけれどやっぱり公式試合で使うものではないな、と結論付けた。
「……世界大会で使用したものなら、大ブーイングだな」
私自身の評価ならともかく、日本代表の評価となると尚更使えない。かといって、今から必殺技を一から作るには必殺技初心者にはちょっと時間が足りない。
なら、必殺技に頼らずに世界の選手を突破するぐらいじゃないと、イナズマジャパンにいられないだろう。
「……よし」
私は一つの目標を決めてボールを蹴り始めた。
「……忍ちゃんからメールだ」
グラウンドでの練習も終わってるだろう夕方過ぎ。
私は雷門中へと帰りながら、虎丸くんのお母さんとの一件から常にジャージのポケットに入れている携帯電話を見れば、メールが届いていたことに気づいた。その送り主は私の唯一の女の子の友達からだった。
練習の合間の空いた時間、私はたまに真帝国のみんなとメールでやりとりをしているので、そのことはそんなに可笑しい事ではない。ただ、彼女のメールの内容が気になった。
―【近々、楽しみにしてなさい】
「楽しみ?」
短く一言だけ書かれたその文章に首を傾げている時だった。
「お!不動!!」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえたので、携帯を閉じてポケットに入れながら振り返る。
「お前も特訓帰りか?俺たちも新必殺技のために河川敷でやってた帰りだ!な、壁山!!」
「……は……はい…ッス」
「……壁山くん、瀕死ですが…………」
元気よく駆け寄ってきたのは、同じく学外で練習していた綱海さんで、その後ろには半ば強引に決められた新必殺技のパートナーである壁山さんの姿があった。
もっとも壁山くんは虫の息で、私の存在にすら気づいていない様子だったけれど。
私の指摘に綱海さんは一度壁山くんを見たけれど「ま、大丈夫だろ!」とからりと笑って気にする様子はない。
……一体どんな特訓してたんだ。
「不動ももう帰るんだろ?一緒に帰ろうぜ」
「え…………私は走って帰ろうと思ってるので……」
さっさと別れようとする前に、綱海さんにそう誘われて私は咄嗟にそう答えた。……走る気はなかったけれど、体力はまだ残っているから問題ないだろう。
「そうか……あ、じゃあ俺らも一緒に走るか壁山!」
「やめてあげてください壁山くん死んじゃいます」
この先輩鬼か。
まるで名案と言わんばかりに壁山くんに提案する綱海さんを、慌てて止める。
「チッ……帰ればいいんだろ、帰れば」
「おう、ノリ分かってんじゃねーか不動!」
それから渋々と頷けば、やたら楽しそうな綱海さんに背中をばしんっと叩かれた。……本当に元気な人だな。
それから綱海さんの出身地らしい沖縄の話を聞きながらの帰り、雷門中の正門では反対側の道から歩いてくる人影が見える。
「不動、綱海…………あと、壁山は大丈夫か?」
「お!風丸も帰りか!」
相手は同じく外で個人練習をしていた風丸さんで、やっぱり背後から何とか歩いてきている壁山くんに視線は向いていた。
「河川敷でお二人で特訓してたそうです」
「ああ…………まあ夕飯の時には復活するだろ」
端的に説明すれば風丸さんは納得したように頷いて、苦笑を浮かべていた。……確かに大食漢のイメージは強いけれどそれでいいのか。
「不動も河川敷で練習を?」
雷門中に辿り着いたことだし、さっさと合宿所に帰ろうとする前に、会話の延長線なのか風丸さんに尋ねられ仕方なく足を止める。
「いえ……場所の正式名称は知りませんが、高台にいました」
「高台?」
「あの、大きな鉄塔があるところです」
「え?」
「ん?」
風丸さんと綱海さんが同時に首を傾げた。
綱海さんはともかく風丸さんは地元なのに知らないのか?と私も首を傾げていると、
「だったら何で俺らと合流するんだ?」
「は?」
綱海さんの指摘にさらに意味が分からずに眉を寄せる。その間も綱海さんはさらりと言い放った。
「河川敷と鉄塔の場所、真逆だぞ」
ー鉄塔にいたならそっちで特訓してた風丸と合流するはずだよな?
「え…………」
私がいた鉄塔のある場所は風丸さんと同じ場所だったらしい。
そして、綱海さんが練習をしていた河川敷の場所は真逆で。
なのに私は雷門へと帰ろうとする綱海さん達と合流した。
つまり……?
「あ!そういや不動、方向音痴だったよな。選考試合前の集まりでも迷って……ぐはっ」
「ちょっと遠回りしたい気分だっただけですよ!!!!」
いろんな恥ずかしさがこみ上げてきた私は、とりあえず目の前で笑っている綱海さんの脇腹へ手刀を突き立てて、そう怒鳴りつけてから私は今度こそ先に合宿所へと走り出した。
「いってぇ……!相変わらず難しい奴だなぁー」
「……今のは綱海が正直すぎたな」
朝食の時間、鬼道さんからそんな提案が持ち掛けられた。アジア予選を勝ち抜くために必要だと考えたらしい。
鬼道さんが選んだのは、選考試合の時の動きから風丸さん、互いの強みを活かした連携必殺技の習得を吹雪さんと土方さんに提案していた。
それとは別に感化された綱海さんが壁山くんを無理矢理誘っていたが……そちらは、望み薄だな。
朝食会の後に始まった練習では、必殺技習得の練習をする者と、通常通りの練習をする者で別れた。私は後者の人間で、それも学校の外に出るためジャージを羽織りながらグラウンドへと出れば、ボールを蹴る選手の姿が見える。
吹雪さんと土方さんがボールを蹴っている逆側のゴールでは紅白戦が行われいて、緑川さんのスライディングを躱した虎丸くんが飛鷹さんへとパスを出していた。
「飛鷹さん!」
「え?……うおっ!?」
尚、そのボールは受け止め損ねてベンチにいたマネージャーを通り過ぎてこちらの足元まで転がってきた。
「……へたくそ」
「ぐっ……」
仕方なく、私はボールを拾って飛鷹さんへと手渡しながら一言毒を吐けば、飛鷹さんは小さく唸った。
だけど、その表情は悔しそうなものの、前みたいに酷く焦ったものではない。
「……前に言っただろ、パスされる場所は分かってんだ。ボールから目を離すな」
「お、おう……」
私がグラウンドで助言をするのがそんなに珍しいのか、少しだけ目を丸くしながら頷いて練習へと戻って行った。
私の目論見通り、なんて言い方をするほど手を貸した訳でもないけれど。円堂さんに伝言をした日を境に、飛鷹さんのサッカーへの向き合い方が変わった気がする。
間違ってなくてよかった、と一人そっと息を吐いて正門へ体を向ければ。
「不動さんも個人練習?」
マネージャーの一人である久遠さんに話しかけられた。
「みんなと一緒に練習しないの?」
「……基礎体力をつけたいので。失礼します」
彼女の純粋な視線から逃げるように早口で告げて、私は正門を走り抜けた。
「……必殺技かぁ…………」
私が辿り着いたのは、やたら大きな鉄塔が近くにある高台。その通路を少し外れた森林で練習をしていた。高い所からなら雷門中だって見えるし、これなら迷子にならないだろうと見つけた場所だ。
私は持ってきたサッカーボールを転がしポツリと呟いて、それから自分が身に付けている必殺技を目の前の木を選手と想定して打ってみることにする。
「 “ジャッジスルー!!” 」
それは勝つために相手を潰す必殺技で。木の表面に傷をつけながら自分の足元に返ってきたボールを見て、分かってはいたけれどやっぱり公式試合で使うものではないな、と結論付けた。
「……世界大会で使用したものなら、大ブーイングだな」
私自身の評価ならともかく、日本代表の評価となると尚更使えない。かといって、今から必殺技を一から作るには必殺技初心者にはちょっと時間が足りない。
なら、必殺技に頼らずに世界の選手を突破するぐらいじゃないと、イナズマジャパンにいられないだろう。
「……よし」
私は一つの目標を決めてボールを蹴り始めた。
「……忍ちゃんからメールだ」
グラウンドでの練習も終わってるだろう夕方過ぎ。
私は雷門中へと帰りながら、虎丸くんのお母さんとの一件から常にジャージのポケットに入れている携帯電話を見れば、メールが届いていたことに気づいた。その送り主は私の唯一の女の子の友達からだった。
練習の合間の空いた時間、私はたまに真帝国のみんなとメールでやりとりをしているので、そのことはそんなに可笑しい事ではない。ただ、彼女のメールの内容が気になった。
―【近々、楽しみにしてなさい】
「楽しみ?」
短く一言だけ書かれたその文章に首を傾げている時だった。
「お!不動!!」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえたので、携帯を閉じてポケットに入れながら振り返る。
「お前も特訓帰りか?俺たちも新必殺技のために河川敷でやってた帰りだ!な、壁山!!」
「……は……はい…ッス」
「……壁山くん、瀕死ですが…………」
元気よく駆け寄ってきたのは、同じく学外で練習していた綱海さんで、その後ろには半ば強引に決められた新必殺技のパートナーである壁山さんの姿があった。
もっとも壁山くんは虫の息で、私の存在にすら気づいていない様子だったけれど。
私の指摘に綱海さんは一度壁山くんを見たけれど「ま、大丈夫だろ!」とからりと笑って気にする様子はない。
……一体どんな特訓してたんだ。
「不動ももう帰るんだろ?一緒に帰ろうぜ」
「え…………私は走って帰ろうと思ってるので……」
さっさと別れようとする前に、綱海さんにそう誘われて私は咄嗟にそう答えた。……走る気はなかったけれど、体力はまだ残っているから問題ないだろう。
「そうか……あ、じゃあ俺らも一緒に走るか壁山!」
「やめてあげてください壁山くん死んじゃいます」
この先輩鬼か。
まるで名案と言わんばかりに壁山くんに提案する綱海さんを、慌てて止める。
「チッ……帰ればいいんだろ、帰れば」
「おう、ノリ分かってんじゃねーか不動!」
それから渋々と頷けば、やたら楽しそうな綱海さんに背中をばしんっと叩かれた。……本当に元気な人だな。
それから綱海さんの出身地らしい沖縄の話を聞きながらの帰り、雷門中の正門では反対側の道から歩いてくる人影が見える。
「不動、綱海…………あと、壁山は大丈夫か?」
「お!風丸も帰りか!」
相手は同じく外で個人練習をしていた風丸さんで、やっぱり背後から何とか歩いてきている壁山くんに視線は向いていた。
「河川敷でお二人で特訓してたそうです」
「ああ…………まあ夕飯の時には復活するだろ」
端的に説明すれば風丸さんは納得したように頷いて、苦笑を浮かべていた。……確かに大食漢のイメージは強いけれどそれでいいのか。
「不動も河川敷で練習を?」
雷門中に辿り着いたことだし、さっさと合宿所に帰ろうとする前に、会話の延長線なのか風丸さんに尋ねられ仕方なく足を止める。
「いえ……場所の正式名称は知りませんが、高台にいました」
「高台?」
「あの、大きな鉄塔があるところです」
「え?」
「ん?」
風丸さんと綱海さんが同時に首を傾げた。
綱海さんはともかく風丸さんは地元なのに知らないのか?と私も首を傾げていると、
「だったら何で俺らと合流するんだ?」
「は?」
綱海さんの指摘にさらに意味が分からずに眉を寄せる。その間も綱海さんはさらりと言い放った。
「河川敷と鉄塔の場所、真逆だぞ」
ー鉄塔にいたならそっちで特訓してた風丸と合流するはずだよな?
「え…………」
私がいた鉄塔のある場所は風丸さんと同じ場所だったらしい。
そして、綱海さんが練習をしていた河川敷の場所は真逆で。
なのに私は雷門へと帰ろうとする綱海さん達と合流した。
つまり……?
「あ!そういや不動、方向音痴だったよな。選考試合前の集まりでも迷って……ぐはっ」
「ちょっと遠回りしたい気分だっただけですよ!!!!」
いろんな恥ずかしさがこみ上げてきた私は、とりあえず目の前で笑っている綱海さんの脇腹へ手刀を突き立てて、そう怒鳴りつけてから私は今度こそ先に合宿所へと走り出した。
「いってぇ……!相変わらず難しい奴だなぁー」
「……今のは綱海が正直すぎたな」