寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カタール戦から数日、私はリフティングをしながら練習風景を眺めていた。
目覚めた虎は今日も絶好調に紅白戦で大活躍している傍ら、パスすらまともに通らなくて、そのまま走り込みという名目で逃げてしまう鷹。
一応、コーチだしなぁ……と考えたところで人の事考えているばかりではないと、切り替えて私は個人の練習に取り組んだ。
その後、久遠監督からの号令がかかり、今日の練習は早めに終わった。
決勝戦が近づいてる中のその指示に緑川さんは少し不服そうだったがそれぐらいで監督が意思を変える訳なく、疲れを残さないためのクールダウンのストレッチをするように言って、監督はグラウンドを去っていった。
ストレッチをする傍ら、合宿所の方で見かけた人影に私は少し考えて足を進めた。
「一人の方が性に合ってるので……」
「飛鷹……」
「ハッ、偉そうに」
合宿所前の水飲み場では練習に誘った円堂さんを断る飛鷹さんがいて、私は反対側の水飲み場に凭れながら声を掛けた。
「不動」
「まともにパスもできないアンタがフィールドにいたら、私達10人で戦ってるようなもんですよ」
「やめろ不動!飛鷹は代表選考やカタール戦でも頑張ってるじゃないか……!」
私が絡むことに不可解そうな顔をする飛鷹さんには気づかずに庇う円堂さん。……円堂さんの方が前方にいるからいいけれど、フリぐらいはしてほしい。
「頑張るなんて当たり前だろーが。……このままじゃアンタのせいで負けるかもね。飛鷹センパイ」
「ッ……!」
「……は?何その目」
「よせ二人共!!」
本人も思う所があるのか、私の一言により鋭い眼光で睨んできた。応戦してやろうかと足を踏み出せば円堂さんに間に入られる。
「……私の足、引っ張んなよ」
「おい、不動!」
私はその姿を見て、鼻で笑ってから合宿所の方へ戻った。説教でもあるのか円堂さんに呼び止められそうになったものの、無視だ無視。
+++
「…………昼間の、アレ。何だ」
「ん?」
夕方のいつもの空き地でボールをリフティングしていると、いつも通りやって来た飛鷹さんは響木さんに頭を下げて、それから私を見て思いっきり顔をしかめた。
「プレッシャーを与えて、周りを頼らざるを得ない状況にしようかと」
とん、とん、とんと足元へと戻したボールをリフティングしながらそう告げれば僅かに飛鷹さんの肩が揺れる。
「……余計な事すんな」
「ひっでぇの」
そして気まずそうに顔を俯かれれば、特徴的な髪のせいで表情はほとんど見えない。
「けど、」
私はぽんっと軽く上げたボールを、
「言った言葉は、本心ですよ」
飛鷹さんの方へと思いっきり蹴りつけた。
「っ……は!?」
私の言葉にばっと顔を上げた飛鷹さんは、やっとボールが迫ってくることに気づいた。
それから蹴り返すためか、避けるためか半歩後ろに下がろうとする際に、足を滑らせそのまま後ろに転んでしまう。その際に、投げ出された右足がぶんっと振り上げられ、
――風が生まれた。
「……?」
「チッ……」
真っ向から風を浴びたせいで、砂埃が目に入った私は手で目を擦りながら飛鷹さんの方へと視線向けるものの、彼も何が何だか分からない呆けた顔でころ…と転がるボールを見ていた。
「……ボール蹴る場所考えとくべきだったな」
彼の技を見損なった、と舌打ちをしながらも詳細を知っているはずの響木さんをちらりと見ても、ブロックに座ったまま何も言わない。
「おーい、大丈夫ですか?」
周りの大人、話してくれない人ばっかだなと思いながら飛鷹さんの目の前まで近づいて手を振っていると、彼は文字通り飛び上がった。と、それと同時に。
シュッ
「~~いっ!?」
真っ直ぐな手刀が頭の上に落とされ、今度は私が座り込んでしまった。
「……パスするなら一言言え。あぶねぇだろーが」
「私がボールを持ってるのに、よそ見する飛鷹さんが悪いんですよ」
べぇと舌を出した私を一睨みして、飛鷹さんはさっさと響木さんへの指示を聞きに行っていた。
わりと練習に付き合う機会が増えたからか、彼の私への扱いもだいぶ雑になってきた感じがする。
出会ったばかりの手が腕に触れただけで謝ってきた初心な飛鷹さんはどこに行ったのやら、とため息を一つついて立ち上がった。
最近になって空き地でもボールを蹴るようになった飛鷹さん。
だけど、癖を直しきれないままのシュートは目的の場所へと中々当たらず、私だけでなく、響木さんの助言に対してもなかなか活かせることができていない。
サッカー初心者である彼が、埋められない周りの実力の差に拳を握って焦っていることは明白だった。
そして、そんな彼の精神的な不安を解消できるのは、サッカーへの認識を変えるのは私、ではないことも。
「円堂さんと練習しないんですか」
練習終わり、今日は暗くなるまで残っていたので飛鷹さんと並んで帰っている(私は大丈夫って言ったのに飛鷹さんは譲らなかった)最中、私が出した名前に飛鷹さんは眉を寄せた。
「私相手でも頭下げれるんですから、円堂さんとかそこら辺とも練習した方がいいと思います。丁度気に掛けてもらってるじゃないですか」
今話題に出されたくないのは分かるけれど、大事なことなので無視して続けることにする。
「……お前がそうすればいいだろ」
「は?」
ぶっきらぼうに吐き出された言葉に私は首を傾げた。
「……俺はお前が、一部を避けてる理由なんか知らねぇが。…………俺よりずっとサッカー上手いんだし、お前がそっちに行けばいいだろ」
サッカー上手い奴同士で練習しろ、なんて。
飛鷹さんの話をしていたのに、そんな提案お門違いだと思ったけれど、彼はわざとそうしてるんだろう。
つくづく、お互い素直になれないようだ。
だけど……うん。飛鷹さんは私とは違うから。
「だったらアンタが、こっちまで上がって来てくださいよ」
「は……」
話しながら帰っていたせいなのか、いつもより早く雷門中が見えてきたのを確認した私は、そう言い返せば、飛鷹さんは呆け顔でこちらを見て思わず笑ってしまう。
「待ってますよ」
それから、一足先に駆け出して先に雷門中へと帰った。
+++
『今日はちょっと急用ができて飛鷹の特訓に付き合えそうにない。代わりに見てやってくれないか』
数日後の練習中、木野さんから伝言を受けて食堂内への受話器を受け取ればそう言われた。
「……珍しいですね」
ラーメン屋の店主もしていることから、店の仕込み等で不在の時間はあれど、必ず顔を出していた響木さんが全く来れないなんて珍しい。……とはいえ、だ。
「…………飛鷹さんのことは、やっぱり……私より他の人に頼んだ方がいいと思います」
私はトン、トン、トンと一定のリズムで電話ボックスを指で叩きながら呟いた。
それは何時ぞやに飛鷹さんに伝えた事だった。あの時はそれでも頼ってくれた飛鷹さんに……少しだけ嬉しく思ったから、承諾してしまった。
だけど、
「技術はともかく私じゃ……」
『だったらお前から頼んどいてくれ』
トン……と思わず電話ボックスを叩いていた指の動きが止まる。
その言葉は、まるで私がそう言うことを見越していたかのように聞こえたから。
「……分かってるなら、直接その人に言えばいいのに。適当に指導するかもしれないのによく私に言いましたね」
『お前はそんな事しないだろう』
「………ッ」
ハッと鼻で笑いながらそう言うも、響木さんは至って平然とした声でそんな事言うもんだから、私は言葉を失った。
それから程なくして、響木さんは『出先だから切るぞ』と一方的に締めくくって電話を切られた。
「……うぐぅ…………」
ツーツー、と通話が切れた受話器片手に、私が漏らしたのは呻き声だった。
それから合宿所を出て、グラウンドを眺めればすぐに目的の人物を見つける。ベンチでドリンクを飲んでいる小休憩中で、周りの選手は絶賛練習中。
今しかない、と私は階段を下りてその人の元へと向かった。
「……あの」
「ん?」
真正面から名前を呼べる勇気は持っていないので、とんとんと後ろから肩を叩けば、ドリンク片手に彼はすぐに振り返った。
「不動?どうした??」
丸い目をこちらに合わせて、不思議そうに小首を傾げる彼――円堂さんに、周りに聞こえない程度の声量で話しかけた。
「……響木さんからの伝言です。練習後、雷雷軒の近くの廃ビルに囲まれた空き地に行ってほしいって」
「響木監督から……?ああ……分かった?」
円堂さんはまるで心当たりはないようだけど、間違ってはいないはずだ。
だって、円堂さんはサッカーの楽しさを教えられる。
それは彼に必要なことで、だけど私にはできないことだから。
それで変わるかどうかは、彼次第だけれど。
「それだけです、失礼します」
要件を伝え終えた達成感で息をついて、私も練習を再開させようとグラウンドへと足を向けて走り出す。
「あっ、待てよ!不動!!」
先日よりも強く呼び止められたけれど、やっぱり私は聞かなかったことにした。
目覚めた虎は今日も絶好調に紅白戦で大活躍している傍ら、パスすらまともに通らなくて、そのまま走り込みという名目で逃げてしまう鷹。
一応、コーチだしなぁ……と考えたところで人の事考えているばかりではないと、切り替えて私は個人の練習に取り組んだ。
その後、久遠監督からの号令がかかり、今日の練習は早めに終わった。
決勝戦が近づいてる中のその指示に緑川さんは少し不服そうだったがそれぐらいで監督が意思を変える訳なく、疲れを残さないためのクールダウンのストレッチをするように言って、監督はグラウンドを去っていった。
ストレッチをする傍ら、合宿所の方で見かけた人影に私は少し考えて足を進めた。
「一人の方が性に合ってるので……」
「飛鷹……」
「ハッ、偉そうに」
合宿所前の水飲み場では練習に誘った円堂さんを断る飛鷹さんがいて、私は反対側の水飲み場に凭れながら声を掛けた。
「不動」
「まともにパスもできないアンタがフィールドにいたら、私達10人で戦ってるようなもんですよ」
「やめろ不動!飛鷹は代表選考やカタール戦でも頑張ってるじゃないか……!」
私が絡むことに不可解そうな顔をする飛鷹さんには気づかずに庇う円堂さん。……円堂さんの方が前方にいるからいいけれど、フリぐらいはしてほしい。
「頑張るなんて当たり前だろーが。……このままじゃアンタのせいで負けるかもね。飛鷹センパイ」
「ッ……!」
「……は?何その目」
「よせ二人共!!」
本人も思う所があるのか、私の一言により鋭い眼光で睨んできた。応戦してやろうかと足を踏み出せば円堂さんに間に入られる。
「……私の足、引っ張んなよ」
「おい、不動!」
私はその姿を見て、鼻で笑ってから合宿所の方へ戻った。説教でもあるのか円堂さんに呼び止められそうになったものの、無視だ無視。
+++
「…………昼間の、アレ。何だ」
「ん?」
夕方のいつもの空き地でボールをリフティングしていると、いつも通りやって来た飛鷹さんは響木さんに頭を下げて、それから私を見て思いっきり顔をしかめた。
「プレッシャーを与えて、周りを頼らざるを得ない状況にしようかと」
とん、とん、とんと足元へと戻したボールをリフティングしながらそう告げれば僅かに飛鷹さんの肩が揺れる。
「……余計な事すんな」
「ひっでぇの」
そして気まずそうに顔を俯かれれば、特徴的な髪のせいで表情はほとんど見えない。
「けど、」
私はぽんっと軽く上げたボールを、
「言った言葉は、本心ですよ」
飛鷹さんの方へと思いっきり蹴りつけた。
「っ……は!?」
私の言葉にばっと顔を上げた飛鷹さんは、やっとボールが迫ってくることに気づいた。
それから蹴り返すためか、避けるためか半歩後ろに下がろうとする際に、足を滑らせそのまま後ろに転んでしまう。その際に、投げ出された右足がぶんっと振り上げられ、
――風が生まれた。
「……?」
「チッ……」
真っ向から風を浴びたせいで、砂埃が目に入った私は手で目を擦りながら飛鷹さんの方へと視線向けるものの、彼も何が何だか分からない呆けた顔でころ…と転がるボールを見ていた。
「……ボール蹴る場所考えとくべきだったな」
彼の技を見損なった、と舌打ちをしながらも詳細を知っているはずの響木さんをちらりと見ても、ブロックに座ったまま何も言わない。
「おーい、大丈夫ですか?」
周りの大人、話してくれない人ばっかだなと思いながら飛鷹さんの目の前まで近づいて手を振っていると、彼は文字通り飛び上がった。と、それと同時に。
シュッ
「~~いっ!?」
真っ直ぐな手刀が頭の上に落とされ、今度は私が座り込んでしまった。
「……パスするなら一言言え。あぶねぇだろーが」
「私がボールを持ってるのに、よそ見する飛鷹さんが悪いんですよ」
べぇと舌を出した私を一睨みして、飛鷹さんはさっさと響木さんへの指示を聞きに行っていた。
わりと練習に付き合う機会が増えたからか、彼の私への扱いもだいぶ雑になってきた感じがする。
出会ったばかりの手が腕に触れただけで謝ってきた初心な飛鷹さんはどこに行ったのやら、とため息を一つついて立ち上がった。
最近になって空き地でもボールを蹴るようになった飛鷹さん。
だけど、癖を直しきれないままのシュートは目的の場所へと中々当たらず、私だけでなく、響木さんの助言に対してもなかなか活かせることができていない。
サッカー初心者である彼が、埋められない周りの実力の差に拳を握って焦っていることは明白だった。
そして、そんな彼の精神的な不安を解消できるのは、サッカーへの認識を変えるのは私、ではないことも。
「円堂さんと練習しないんですか」
練習終わり、今日は暗くなるまで残っていたので飛鷹さんと並んで帰っている(私は大丈夫って言ったのに飛鷹さんは譲らなかった)最中、私が出した名前に飛鷹さんは眉を寄せた。
「私相手でも頭下げれるんですから、円堂さんとかそこら辺とも練習した方がいいと思います。丁度気に掛けてもらってるじゃないですか」
今話題に出されたくないのは分かるけれど、大事なことなので無視して続けることにする。
「……お前がそうすればいいだろ」
「は?」
ぶっきらぼうに吐き出された言葉に私は首を傾げた。
「……俺はお前が、一部を避けてる理由なんか知らねぇが。…………俺よりずっとサッカー上手いんだし、お前がそっちに行けばいいだろ」
サッカー上手い奴同士で練習しろ、なんて。
飛鷹さんの話をしていたのに、そんな提案お門違いだと思ったけれど、彼はわざとそうしてるんだろう。
つくづく、お互い素直になれないようだ。
だけど……うん。飛鷹さんは私とは違うから。
「だったらアンタが、こっちまで上がって来てくださいよ」
「は……」
話しながら帰っていたせいなのか、いつもより早く雷門中が見えてきたのを確認した私は、そう言い返せば、飛鷹さんは呆け顔でこちらを見て思わず笑ってしまう。
「待ってますよ」
それから、一足先に駆け出して先に雷門中へと帰った。
+++
『今日はちょっと急用ができて飛鷹の特訓に付き合えそうにない。代わりに見てやってくれないか』
数日後の練習中、木野さんから伝言を受けて食堂内への受話器を受け取ればそう言われた。
「……珍しいですね」
ラーメン屋の店主もしていることから、店の仕込み等で不在の時間はあれど、必ず顔を出していた響木さんが全く来れないなんて珍しい。……とはいえ、だ。
「…………飛鷹さんのことは、やっぱり……私より他の人に頼んだ方がいいと思います」
私はトン、トン、トンと一定のリズムで電話ボックスを指で叩きながら呟いた。
それは何時ぞやに飛鷹さんに伝えた事だった。あの時はそれでも頼ってくれた飛鷹さんに……少しだけ嬉しく思ったから、承諾してしまった。
だけど、
「技術はともかく私じゃ……」
『だったらお前から頼んどいてくれ』
トン……と思わず電話ボックスを叩いていた指の動きが止まる。
その言葉は、まるで私がそう言うことを見越していたかのように聞こえたから。
「……分かってるなら、直接その人に言えばいいのに。適当に指導するかもしれないのによく私に言いましたね」
『お前はそんな事しないだろう』
「………ッ」
ハッと鼻で笑いながらそう言うも、響木さんは至って平然とした声でそんな事言うもんだから、私は言葉を失った。
それから程なくして、響木さんは『出先だから切るぞ』と一方的に締めくくって電話を切られた。
「……うぐぅ…………」
ツーツー、と通話が切れた受話器片手に、私が漏らしたのは呻き声だった。
それから合宿所を出て、グラウンドを眺めればすぐに目的の人物を見つける。ベンチでドリンクを飲んでいる小休憩中で、周りの選手は絶賛練習中。
今しかない、と私は階段を下りてその人の元へと向かった。
「……あの」
「ん?」
真正面から名前を呼べる勇気は持っていないので、とんとんと後ろから肩を叩けば、ドリンク片手に彼はすぐに振り返った。
「不動?どうした??」
丸い目をこちらに合わせて、不思議そうに小首を傾げる彼――円堂さんに、周りに聞こえない程度の声量で話しかけた。
「……響木さんからの伝言です。練習後、雷雷軒の近くの廃ビルに囲まれた空き地に行ってほしいって」
「響木監督から……?ああ……分かった?」
円堂さんはまるで心当たりはないようだけど、間違ってはいないはずだ。
だって、円堂さんはサッカーの楽しさを教えられる。
それは彼に必要なことで、だけど私にはできないことだから。
それで変わるかどうかは、彼次第だけれど。
「それだけです、失礼します」
要件を伝え終えた達成感で息をついて、私も練習を再開させようとグラウンドへと足を向けて走り出す。
「あっ、待てよ!不動!!」
先日よりも強く呼び止められたけれど、やっぱり私は聞かなかったことにした。