寂しがり少女
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快晴で高い気温の中行われた、カタール代表『デザートライオン』の試合。
前半はイナズマジャパンが2点取得していたものの、この天気で体力の消耗も激しく、後半ではそれが狙いだったデザートライオンの猛攻によって同点へと追いつかれた。
選手を交代して(まだ私を出す予定はないのか、控えGKである立向居くんがMFとして交代していた)ギリギリ戦っていたイナズマジャパンにとって延長戦に入れば勝ち目はない。
そして、そんな中でも鮮やかなプレーに反して頑なにシュートを打たずに豪炎寺さんへとパスを出す、宇都宮くんについに痺れを切らした豪炎寺さんのシュートが、
宇都宮くんにぶつけられた。
「うわぁ……」
痛そう、と思わず声を零す。
…………豪炎寺さんが宇都宮くんの態度に不信感を抱いていることは知っていた。先日の宇都宮くんの捜査にも同行してたと聞いていたし、その時に話しているのかと思っていたけれど……あの様子じゃしてないな。
だけど、そんな豪炎寺さんの力業な説得方法と円堂さんを始めとした周りの選手の声かけで宇都宮くんの心境に変化があったみたいだ。
試合が再開し、飛鷹さん、風丸さんにより取ったボールは鬼道さんへと繋がり、そして前方を走る宇都宮くんへと渡る。
それからの彼は吹っ切れた、という表現がぴったりな目覚ましい活躍をしていた。
「……これが、彼の本当の実力」
激しいチャージを躱す体のしなやかさに、崩されても倒れないボディバランス。特訓しても身に付くことはないそれらが宇都宮虎丸の個性、と久遠監督は告げた。
「だから、このタイミングで彼を……」
「そうか。彼を存分に動かす為には敵を消耗させておく必要があった。それができたのは皆が特訓で鍛えた体力があればこそ、ということですね?」
私の呟きに、基山さんも監督の意図に気づいたのかそう納得して久遠監督を見る。
「選手には活躍すべき場面がある。チームには勝つべき状態がある」
久遠監督はフィールドに目線を外さずに淡々と告げた。
「選手たちの能力を結集し、出し切らない限り、勝ち続けることは不可能。
力を出し惜しんで行ける世界は無い」
その言葉にどきり、となぜか心臓が鳴った。
私は誤魔化すように首を振りながらフィールドへと目線を向ければ、
「 “タイガードライブ”!!」
宇都宮くんの力強い必殺シュートが、ゴールに突き刺さっていた。
そしてそれと同時に、試合終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。
イナズマジャパンはアジア予選決勝へと駒を進めることができた。
+++
「不動さん、バス一緒に座りましょう!!」
「は?……えっ」
合宿所に帰るためのキャラバンに乗る際に、今回の試合のMVPである宇都宮くんに早々に手を引かれ隣同士座ることになった。
「……憧れの豪炎寺さんの隣じゃなくていいの」
「不動さんと話したかったので!」
「そーですか」
私が窓側に押し込まれ、その隣を座る宇都宮くんに遠回しの提案も笑顔ではっきりそう告げられれば何も言えなくなる。
……なんか雰囲気変わってる気がする。いやこっちの認識も変わったことも原因あるかもしれない。まさか、彼がまだ小学6年生だとは……。
「改めて、先日は母さんを助けてくれて、ありがとうございます」
「だから助けた程じゃないって……」
バスに乗れば、虎ノ屋で言われた時よりも元気な声で頭を下げられ、私は小声で返しながら腕を組む。
「でも母さんは、不動さんとお話できてよかったって言ってましたよ?」
何話したんですか?と尋ねられるもその時なんて、まずその人が宇都宮くんの母親なんて知らずに色々話した気がする。
「……宇都宮くんのこと」
嘘はついていない、と思いながらそう返答すればなぜか彼は変な顔をしだした。
「なんで宇都宮って呼ぶんですか?虎ノ屋では名前で呼んでたのに……」
「は?」
変な顔の理由はまさかの名前の呼び方だったらしく、私は思わず声を上げた。
「親御さんの前で名字呼びも変だと思っただけで、私は基本的に一律名字呼びなんだよ」
「でも虎丸の方が文字数少なくて呼びやすいですよ」
「一文字だけだろーが。……呼び方なんてどっちでもいいだろ」
「どっちでもいいなら、虎丸、でもいいですよね!」
周りは名前で呼ぶことが多いためか、宇都宮くんは譲る気はないらしい。この押しの強さが本来の彼だとしたら……大人しく私の圧に頷いていた彼が懐かしく思えた。
「……虎丸くん。これでいい?」
呼ぶまで隣で催促されそうな気配がしたので、結局私が折れることになった。
「はい!明奈さん、また虎ノ屋に来てくださいね!サービスしますので」
……名前で呼べば名前で呼ぶのが当たり前なのか最近の小学生は。
突っ込みたくなったけれど、先ほどどっちでもいいと言った手前戻さないだろうと悟った私は早々に諦めることにした。
……これは、懐かれている、のだろうか……。
「……そこは奢るとかじゃないの」
「うちも商売なんで」
私の周りにいなかったタイプなのでどう接するべきか分からず、ふと思ったことを口にしてみれば、笑顔でぺろりと舌を出された。……しっかりしてるな。
「あと……明奈さんが言っていた言葉の意味、分かりました」
それからほぼほぼ一方的に宇都宮……虎丸くんが話していたけれど、ふと頬を掻きながら切り出したのは今日の試合のことだった。
「このチームの皆となら全力でプレーをしていい。躊躇するなんて勿体ない、って明奈さんは言いたかったんですよね?」
「え?ああ……」
そこで虎丸くんが指している言葉が虎ノ屋でつい漏らした言葉だったことが分かった。……いやでも、
「違う。……ただ本気出してない事が不服だっただけで、別にそんなとこまでは知らない」
かなり好意的な解釈に私は窓の外を眺めながら答えた。
私が仲間との信頼を説くなんて、馬鹿馬鹿しい。
「でも、明奈さん!」
雑談ならともかく、そういった話はしたくなかったのに虎丸くんはぐいぐいと私の肩を掴んで、会話を続けようとしてくる。
その結果、もうなんだよ、と無事私が折れた。
「仲間を信じないと本気を出せませんよ?」
私が顔を向ければ、不思議そうに首を傾げられた。
「…………それは……そう、かもだけど……」
それは彼にとっては純粋な疑問かもしれないけれど、こちらにとっては予想外の言葉で。
だから私は咄嗟に答えられなくて、ごにょごにょと唇を動かすことしかできず、それを見た虎丸くんはでしょう?、とにんまりと得意げに笑うもんだから思わず手で彼の鼻を摘まむ。
小学生に言い負かされているのは我ながら情けないけれど、答え方も分からなかったから実力行使だ。
「ふぎゃっ」
「もう、うるさい。有り余ってる元気は明日の練習にとっとけバーカ」
尻尾を踏まれた猫のような声を出す虎丸くんから手を離した私は、体ごと窓の方と向けて今度こそ会話を終わらせた。
「……明奈さん、ずっとベンチにいたから一番元気なくせに」
ちくちく言葉やめろ。
前半はイナズマジャパンが2点取得していたものの、この天気で体力の消耗も激しく、後半ではそれが狙いだったデザートライオンの猛攻によって同点へと追いつかれた。
選手を交代して(まだ私を出す予定はないのか、控えGKである立向居くんがMFとして交代していた)ギリギリ戦っていたイナズマジャパンにとって延長戦に入れば勝ち目はない。
そして、そんな中でも鮮やかなプレーに反して頑なにシュートを打たずに豪炎寺さんへとパスを出す、宇都宮くんについに痺れを切らした豪炎寺さんのシュートが、
宇都宮くんにぶつけられた。
「うわぁ……」
痛そう、と思わず声を零す。
…………豪炎寺さんが宇都宮くんの態度に不信感を抱いていることは知っていた。先日の宇都宮くんの捜査にも同行してたと聞いていたし、その時に話しているのかと思っていたけれど……あの様子じゃしてないな。
だけど、そんな豪炎寺さんの力業な説得方法と円堂さんを始めとした周りの選手の声かけで宇都宮くんの心境に変化があったみたいだ。
試合が再開し、飛鷹さん、風丸さんにより取ったボールは鬼道さんへと繋がり、そして前方を走る宇都宮くんへと渡る。
それからの彼は吹っ切れた、という表現がぴったりな目覚ましい活躍をしていた。
「……これが、彼の本当の実力」
激しいチャージを躱す体のしなやかさに、崩されても倒れないボディバランス。特訓しても身に付くことはないそれらが宇都宮虎丸の個性、と久遠監督は告げた。
「だから、このタイミングで彼を……」
「そうか。彼を存分に動かす為には敵を消耗させておく必要があった。それができたのは皆が特訓で鍛えた体力があればこそ、ということですね?」
私の呟きに、基山さんも監督の意図に気づいたのかそう納得して久遠監督を見る。
「選手には活躍すべき場面がある。チームには勝つべき状態がある」
久遠監督はフィールドに目線を外さずに淡々と告げた。
「選手たちの能力を結集し、出し切らない限り、勝ち続けることは不可能。
力を出し惜しんで行ける世界は無い」
その言葉にどきり、となぜか心臓が鳴った。
私は誤魔化すように首を振りながらフィールドへと目線を向ければ、
「 “タイガードライブ”!!」
宇都宮くんの力強い必殺シュートが、ゴールに突き刺さっていた。
そしてそれと同時に、試合終了を知らせるホイッスルが鳴り響いた。
イナズマジャパンはアジア予選決勝へと駒を進めることができた。
+++
「不動さん、バス一緒に座りましょう!!」
「は?……えっ」
合宿所に帰るためのキャラバンに乗る際に、今回の試合のMVPである宇都宮くんに早々に手を引かれ隣同士座ることになった。
「……憧れの豪炎寺さんの隣じゃなくていいの」
「不動さんと話したかったので!」
「そーですか」
私が窓側に押し込まれ、その隣を座る宇都宮くんに遠回しの提案も笑顔ではっきりそう告げられれば何も言えなくなる。
……なんか雰囲気変わってる気がする。いやこっちの認識も変わったことも原因あるかもしれない。まさか、彼がまだ小学6年生だとは……。
「改めて、先日は母さんを助けてくれて、ありがとうございます」
「だから助けた程じゃないって……」
バスに乗れば、虎ノ屋で言われた時よりも元気な声で頭を下げられ、私は小声で返しながら腕を組む。
「でも母さんは、不動さんとお話できてよかったって言ってましたよ?」
何話したんですか?と尋ねられるもその時なんて、まずその人が宇都宮くんの母親なんて知らずに色々話した気がする。
「……宇都宮くんのこと」
嘘はついていない、と思いながらそう返答すればなぜか彼は変な顔をしだした。
「なんで宇都宮って呼ぶんですか?虎ノ屋では名前で呼んでたのに……」
「は?」
変な顔の理由はまさかの名前の呼び方だったらしく、私は思わず声を上げた。
「親御さんの前で名字呼びも変だと思っただけで、私は基本的に一律名字呼びなんだよ」
「でも虎丸の方が文字数少なくて呼びやすいですよ」
「一文字だけだろーが。……呼び方なんてどっちでもいいだろ」
「どっちでもいいなら、虎丸、でもいいですよね!」
周りは名前で呼ぶことが多いためか、宇都宮くんは譲る気はないらしい。この押しの強さが本来の彼だとしたら……大人しく私の圧に頷いていた彼が懐かしく思えた。
「……虎丸くん。これでいい?」
呼ぶまで隣で催促されそうな気配がしたので、結局私が折れることになった。
「はい!明奈さん、また虎ノ屋に来てくださいね!サービスしますので」
……名前で呼べば名前で呼ぶのが当たり前なのか最近の小学生は。
突っ込みたくなったけれど、先ほどどっちでもいいと言った手前戻さないだろうと悟った私は早々に諦めることにした。
……これは、懐かれている、のだろうか……。
「……そこは奢るとかじゃないの」
「うちも商売なんで」
私の周りにいなかったタイプなのでどう接するべきか分からず、ふと思ったことを口にしてみれば、笑顔でぺろりと舌を出された。……しっかりしてるな。
「あと……明奈さんが言っていた言葉の意味、分かりました」
それからほぼほぼ一方的に宇都宮……虎丸くんが話していたけれど、ふと頬を掻きながら切り出したのは今日の試合のことだった。
「このチームの皆となら全力でプレーをしていい。躊躇するなんて勿体ない、って明奈さんは言いたかったんですよね?」
「え?ああ……」
そこで虎丸くんが指している言葉が虎ノ屋でつい漏らした言葉だったことが分かった。……いやでも、
「違う。……ただ本気出してない事が不服だっただけで、別にそんなとこまでは知らない」
かなり好意的な解釈に私は窓の外を眺めながら答えた。
私が仲間との信頼を説くなんて、馬鹿馬鹿しい。
「でも、明奈さん!」
雑談ならともかく、そういった話はしたくなかったのに虎丸くんはぐいぐいと私の肩を掴んで、会話を続けようとしてくる。
その結果、もうなんだよ、と無事私が折れた。
「仲間を信じないと本気を出せませんよ?」
私が顔を向ければ、不思議そうに首を傾げられた。
「…………それは……そう、かもだけど……」
それは彼にとっては純粋な疑問かもしれないけれど、こちらにとっては予想外の言葉で。
だから私は咄嗟に答えられなくて、ごにょごにょと唇を動かすことしかできず、それを見た虎丸くんはでしょう?、とにんまりと得意げに笑うもんだから思わず手で彼の鼻を摘まむ。
小学生に言い負かされているのは我ながら情けないけれど、答え方も分からなかったから実力行使だ。
「ふぎゃっ」
「もう、うるさい。有り余ってる元気は明日の練習にとっとけバーカ」
尻尾を踏まれた猫のような声を出す虎丸くんから手を離した私は、体ごと窓の方と向けて今度こそ会話を終わらせた。
「……明奈さん、ずっとベンチにいたから一番元気なくせに」
ちくちく言葉やめろ。