寂しがり少女
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「…………音無さん」
「春奈だよ!お姉ちゃん……!!」
目の前まで歩いてきた春奈は私の手を取った。強く握る手はまるで私を離さないように見えて、思わず彼女の顔を見れば、真っ直ぐとこちらを見つめている。
「お姉ちゃん……なんで私達を避けるの?なんで名前で呼んでくれないの?」
「……私に、そんな資格はない」
「また、それ?」
私は俯いて彼女の視線から逃げながら、前に言った言葉を再び口にすれば、握られた手にさらに力が入る。
「資格って何よ!?兄妹と話すのになんで資格がいるの……!?」
「……っ、私が何をしたか覚えてないの!?私は嫌われて当然のことをした!だから……!!」
「でも、私はっ……お姉ちゃんのことを嫌いになんかなってない!!」
春奈の叫ぶように訴える声に、私は言葉を詰まらせ思わず顔を上げる。
少し息を上がらせながらも、強い意志を宿した目が変わらず私を映していた。
「確かに……真・帝国学園で出会ったお姉ちゃんは……別人みたいに氷みたいに冷たくて、話も全く聞いてくれなくて、怖かったよ。
お兄ちゃんがいなくなって、泣いてしまう私を慰めてくれた優しいお姉ちゃんは、もういないんだって」
それから目を伏せられて語られるのは最初に再会した時の心境だろう。……そう仕向けたのは他でもない私だから、黙って聞くことしかできない。
「あの時、助けてくれるまで……そう思ってた」
「……は」
そんな過去形の言い回し方に、私はつい声を漏らしてしまった。
辛そうに話していた春奈が静かに笑みを浮かべていた。どこか寂し気な静かな笑み。
ああ……この子は、もうそんな大人びた表情できるようになったんだ。
「潜水艦の爆発前の揺れで転びそうになった私を助けてくれたよね。少ししか顔は見れなかったけれど、あの時のお姉ちゃんは確かに私の知ってるお姉ちゃんだった」
「……そんなこと、覚えてない」
「私は覚えているよ」
私が適当に呟いた言葉なんて、何の効果もなくて春奈は顔を上げて、握っていた手に空いていた方の手も添えた。
「私は……私だけじゃない。お兄ちゃんだって……一人で苦しんでいるお姉ちゃんを見たくない」
ーお姉ちゃんと一緒にいたいよ……
寂しそうな笑みを浮かべていた春奈はぎゅうと目を瞑って私の手を握り締める。
それは、私にとってはあまりにも優しい懇願で。
そんな彼女を見て、私は…………
怖くなった。
だから、私は。
「……やっぱり私にそんな資格はない」
彼女の声から、目線から、手から、
「ごめんなさい」
逃げた。
できる限りの笑みを浮かべて、春奈にそう伝えた私はすぐに背を向けて走り出した。
上手く笑えていなかったのは、百も承知だ。
+++
「ハァッ……ハァッ……!!」
雷門中に辿り着いた時には私は肩で息をしていた。彼女と別れてた地点からずっと全力疾走してたせいなので自業自得だけど……。
「あつい…………」
青かった空は橙色に染まっており、グラウンドを見ても自主練習終わりのストレッチをしている選手が数名ほど見えたぐらいになっていた。
私は合宿所の出入口前の手洗い場の水道の蛇口を捻り、流れる水の冷たさを感じながら手や顔の汗を流れ落とす。
「ッ……」
その間にもじくじくと体を襲う感覚を全て暑さだけのせいにして、頭を冷やすため髪ごと濡らした。
しばらくして、蛇口の栓を閉めた所でぽたりぽたりと髪から水滴が滴り落ちる。
顔を上げれば、当然ながら濡れた髪がぺたんと顔に張り付いてうっとおしい。前髪を掻き上げてタオルを探して…………そもそも自分は合宿所から帰ってきたばかりで、タオルを持ってきていない事を思い出した。
「……チッ」
自分自身の計画性のない行動に嫌気を指しながら、できるだけ髪の水分を絞っていると。
「不動さん、濡れたままは風邪ひくよ」
目の前に真っ白なタオルを差し出されたと、同時に耳に届いた声にそちらを向いた。
「……基山さん」
そこにいたのは基山さんだった。あまり面識がない人で少し驚いている間にも、彼は私の手にそのタオルを乗せてにこりと微笑む。
「……ありがとうございます」
どうせ濡れてしまったし、と軽く頭を下げてそのタオルで顔と髪を拭かせてもらう。
「不動さんも自主練習の帰り?」
「はい。……体力つけないといけないので」
拭いている間も基山さんに話しかけられた。
諸々について答える必要はないので、簡潔に答えれば基山さんはそっかと小さく頷いて、それからゆるりと目を細める。
「君は相変わらず、熱心だね」
「…………はぁ……?」
基山さんの柔らかい表情の理由が分からず私は首を傾げる。合宿が始まって日も長くはないのに、妙な言い回しをするな。
「相変わらずって……」
だから尋ねようと口を開いた矢先、
「明奈」
合宿所から聞こえた、自分の名前を呼ぶ声に背筋が伸びた。
「あ、鬼道くん」
その隣の基山さんは当たり前だけど普通に名前を呼ぶ。
その間に私は首にかけていたタオルを頭の上に被せて視界を狭める。
だって、髪を拭かないといけない、し……。
「ヒロトもいたのか……2人で特訓か?」
「ううん。出入り口前でたまたま会っただけだよ。ちょっと困ってそうだったし」
「……そうか。明奈」
ぐしゃぐしゃと手を動かしながら基山さんと彼の会話を聞き流していると、名前を呼ばれ仕方なく手の動きを止めた。
「今なら風呂場も空いているはずだ。先に入ったらどうだ」
タオルとか、濡れた髪を見て察したのだろう兄ちゃんはそう提案した。きっとこの人は誰であろうとそう言ってくれるのだろう。
けれど、今の私にはそうやって普通に声を掛けてくれているが苦しくて、タオルを持つ手に力が入る。
「……一々、私に指図すんな」
結局は私はその感情のまま突っぱねて、彼の横を通り過ぎて合宿所へと入った。
自室へと帰り、私は扉を閉めたと同時にずるずるとその場に座り込んだ。
本当は兄の言う通り濡らしたのだから、暖かめるためにも風呂に直行するべきなのだろうけど、私は動けなかった。
あの人の声を聞いて、脳裏に浮かんだのはあの子とのやりとりで。
「……心配なんて、しないで」
ーごめんなさい
ポツリと1人呟いた謝罪は、真っ暗な室内に静かに響いた。
「春奈だよ!お姉ちゃん……!!」
目の前まで歩いてきた春奈は私の手を取った。強く握る手はまるで私を離さないように見えて、思わず彼女の顔を見れば、真っ直ぐとこちらを見つめている。
「お姉ちゃん……なんで私達を避けるの?なんで名前で呼んでくれないの?」
「……私に、そんな資格はない」
「また、それ?」
私は俯いて彼女の視線から逃げながら、前に言った言葉を再び口にすれば、握られた手にさらに力が入る。
「資格って何よ!?兄妹と話すのになんで資格がいるの……!?」
「……っ、私が何をしたか覚えてないの!?私は嫌われて当然のことをした!だから……!!」
「でも、私はっ……お姉ちゃんのことを嫌いになんかなってない!!」
春奈の叫ぶように訴える声に、私は言葉を詰まらせ思わず顔を上げる。
少し息を上がらせながらも、強い意志を宿した目が変わらず私を映していた。
「確かに……真・帝国学園で出会ったお姉ちゃんは……別人みたいに氷みたいに冷たくて、話も全く聞いてくれなくて、怖かったよ。
お兄ちゃんがいなくなって、泣いてしまう私を慰めてくれた優しいお姉ちゃんは、もういないんだって」
それから目を伏せられて語られるのは最初に再会した時の心境だろう。……そう仕向けたのは他でもない私だから、黙って聞くことしかできない。
「あの時、助けてくれるまで……そう思ってた」
「……は」
そんな過去形の言い回し方に、私はつい声を漏らしてしまった。
辛そうに話していた春奈が静かに笑みを浮かべていた。どこか寂し気な静かな笑み。
ああ……この子は、もうそんな大人びた表情できるようになったんだ。
「潜水艦の爆発前の揺れで転びそうになった私を助けてくれたよね。少ししか顔は見れなかったけれど、あの時のお姉ちゃんは確かに私の知ってるお姉ちゃんだった」
「……そんなこと、覚えてない」
「私は覚えているよ」
私が適当に呟いた言葉なんて、何の効果もなくて春奈は顔を上げて、握っていた手に空いていた方の手も添えた。
「私は……私だけじゃない。お兄ちゃんだって……一人で苦しんでいるお姉ちゃんを見たくない」
ーお姉ちゃんと一緒にいたいよ……
寂しそうな笑みを浮かべていた春奈はぎゅうと目を瞑って私の手を握り締める。
それは、私にとってはあまりにも優しい懇願で。
そんな彼女を見て、私は…………
怖くなった。
だから、私は。
「……やっぱり私にそんな資格はない」
彼女の声から、目線から、手から、
「ごめんなさい」
逃げた。
できる限りの笑みを浮かべて、春奈にそう伝えた私はすぐに背を向けて走り出した。
上手く笑えていなかったのは、百も承知だ。
+++
「ハァッ……ハァッ……!!」
雷門中に辿り着いた時には私は肩で息をしていた。彼女と別れてた地点からずっと全力疾走してたせいなので自業自得だけど……。
「あつい…………」
青かった空は橙色に染まっており、グラウンドを見ても自主練習終わりのストレッチをしている選手が数名ほど見えたぐらいになっていた。
私は合宿所の出入口前の手洗い場の水道の蛇口を捻り、流れる水の冷たさを感じながら手や顔の汗を流れ落とす。
「ッ……」
その間にもじくじくと体を襲う感覚を全て暑さだけのせいにして、頭を冷やすため髪ごと濡らした。
しばらくして、蛇口の栓を閉めた所でぽたりぽたりと髪から水滴が滴り落ちる。
顔を上げれば、当然ながら濡れた髪がぺたんと顔に張り付いてうっとおしい。前髪を掻き上げてタオルを探して…………そもそも自分は合宿所から帰ってきたばかりで、タオルを持ってきていない事を思い出した。
「……チッ」
自分自身の計画性のない行動に嫌気を指しながら、できるだけ髪の水分を絞っていると。
「不動さん、濡れたままは風邪ひくよ」
目の前に真っ白なタオルを差し出されたと、同時に耳に届いた声にそちらを向いた。
「……基山さん」
そこにいたのは基山さんだった。あまり面識がない人で少し驚いている間にも、彼は私の手にそのタオルを乗せてにこりと微笑む。
「……ありがとうございます」
どうせ濡れてしまったし、と軽く頭を下げてそのタオルで顔と髪を拭かせてもらう。
「不動さんも自主練習の帰り?」
「はい。……体力つけないといけないので」
拭いている間も基山さんに話しかけられた。
諸々について答える必要はないので、簡潔に答えれば基山さんはそっかと小さく頷いて、それからゆるりと目を細める。
「君は相変わらず、熱心だね」
「…………はぁ……?」
基山さんの柔らかい表情の理由が分からず私は首を傾げる。合宿が始まって日も長くはないのに、妙な言い回しをするな。
「相変わらずって……」
だから尋ねようと口を開いた矢先、
「明奈」
合宿所から聞こえた、自分の名前を呼ぶ声に背筋が伸びた。
「あ、鬼道くん」
その隣の基山さんは当たり前だけど普通に名前を呼ぶ。
その間に私は首にかけていたタオルを頭の上に被せて視界を狭める。
だって、髪を拭かないといけない、し……。
「ヒロトもいたのか……2人で特訓か?」
「ううん。出入り口前でたまたま会っただけだよ。ちょっと困ってそうだったし」
「……そうか。明奈」
ぐしゃぐしゃと手を動かしながら基山さんと彼の会話を聞き流していると、名前を呼ばれ仕方なく手の動きを止めた。
「今なら風呂場も空いているはずだ。先に入ったらどうだ」
タオルとか、濡れた髪を見て察したのだろう兄ちゃんはそう提案した。きっとこの人は誰であろうとそう言ってくれるのだろう。
けれど、今の私にはそうやって普通に声を掛けてくれているが苦しくて、タオルを持つ手に力が入る。
「……一々、私に指図すんな」
結局は私はその感情のまま突っぱねて、彼の横を通り過ぎて合宿所へと入った。
自室へと帰り、私は扉を閉めたと同時にずるずるとその場に座り込んだ。
本当は兄の言う通り濡らしたのだから、暖かめるためにも風呂に直行するべきなのだろうけど、私は動けなかった。
あの人の声を聞いて、脳裏に浮かんだのはあの子とのやりとりで。
「……心配なんて、しないで」
ーごめんなさい
ポツリと1人呟いた謝罪は、真っ暗な室内に静かに響いた。