寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
FFIアジア予選二回戦はカタール代表『デザートライオン』に決まった。
砂漠の地方で鍛え抜かれた体力と身体能力が売りなチーム。
そんな彼らと戦うために課されたのは基礎体力と身体能力の強化。
練習法は綱海さんが提案した徹底的な走り込みに決まった。単純だけど、少しでも差を埋めるためには体を動かすしかない。
だったら早速走ろう、と決まった矢先に宇都宮くんは荷物をまとめて帰ってしまった。急いでいるのかあっという間に足音は聞こえなくなり、周りはそんな彼に不思議そうに顔を見合わせている。
そんな疑問を解決しようと音無さんが宇都宮くんの捜査をすると言い出し、木野さんを引っ張って食堂を出ていった。
周りはその勢いにしばし圧倒された後、予定通りの走り込みのトレーニングが始まった。
「よし!今日の特訓はここまで!」
それからグラウンドをひたすら走っていた私達は円堂さんの号令で走り込みは終わる。ほとんどが座ったり、倒れたりしながら肩で息をしている。
私だって何とか立てれてはいるけれど、正直強がりな部分もあるのでもっと体力つけて安定させないとな、と考えながらユニフォームの襟で汗を拭った。
チームではしっかりと休憩をとった後に、自主練習としてボールを蹴る者もいたけれど私は走ることを選んだ。
といっても、グラウンドでしたような走り込みというより、ジョギングに近い休憩ありきのものでとにかく足を動かしたかった。
そんな思いで走ったからだろうか。
「……あれ、雷門は?」
ハッと周りを見回せば、全く知らない道に一人突っ立っていた。試しに数歩歩いて見るが、知らない場所ばかりでとりあえず元の場所に戻るため引き返……した、はずだけど目の前にはさっきは見なかった小さな公園。
私は腕を組んで色々考えた後にある結論に辿り着く。
「道に迷った……かも」
かも、じゃなくて迷ってんだよ。という明王さんの幻聴が聞こえた気がした。
グラウンドに人がいたから、という理由で学校に出たのがいけなかったのだろうか。でも、学校の周りを走っていただけのはずなのに……不思議だ。
なんて、考えても合宿所に帰れるわけではないので、私はとりあえず歩くことにした。
それから数分歩いたけれど、見慣れた道に出る訳でもなく、道を聞けそうな人も見当たらない。いつもは私に絡んでくる奴らも一人や二人いるのに今日に限って来ないし……いや、そういう連中は道を教えてくれないか。
…………なんか、昨日のビデオカメラの件だったり、最近こういうのばっかりだな。
「……同じチームの奴にバレたら嫌だなぁ」
あまり、弱みを晒したくない。
小さくため息をつきながら少し大きな道へ出れば、前方に女性が歩いていることに気づいた。
……よし、あの人に尋ねよう。と小走りで前の女性の方まで行く。
「あの、すいませ……!」
私はその女性の前まで行って、正面から話しかけようとして言葉を詰まらせてしまった。
だって、その人は今にも倒れそうな真っ青な顔色をしていたから。
「だ、大丈夫ですか?!」
「え、ええ……」
反射的に私は、声を上げてしまった。
彼女は私に気づいたのか、こちらを見て小さく微笑んで頷いた。苦しさを無理矢理抑え込んだ笑みはこちらへの配慮をいやでも感じてしまう。
本当に大丈夫、なのだろうか。
救急車……と咄嗟に手をジャージのポケットに突っ込んだけれど携帯はない。合宿所に忘れてしまったんだと、舌打ちをしそうになったけれど、女性が目の前にいる手前何とか飲み込む。
「ちょっとした立ち眩みだから……少ししたら治まるわ」
「……そう、ですか」
女性はそう言っていたけれど、そのまま置き去りにするのはなんだか嫌で、私はしばらくその人の傍にいた。
「ごめんなさいね、荷物まで持ってもらって」
「お気になさらず」
申し訳なさそうに笑う女性に対して、私もなるべく穏やかな笑みを作って返しながら買い物かごを落とさないようにしっかり握る。
あれからこの人からもう大丈夫と言われたものの、道を歩く足元がまだふらついているのを見て、気づけば家まで送ると言い出していた。いい人ぶるつもりはないけど、放っておけなかった。
…………まぁ、その代わりに雷門中までの道のりは教えてもらうことにはしたけれど。
彼女の家までの道を歩いてる間に、話を聞く。
なんでも、病弱な自分に代わりに店の切り盛りをしてくれる息子のため、買い物ぐらいはと出掛けた後の帰り道だったらしい。
「……あの子にはいつも苦労かけているわ。合宿だって本当はちゃんと参加したいはずなのに……」
息子……さん?に対して憂い顔をする女性は負い目を感じていることが分かった。合宿という言葉に引っ掛かりはあれど、私はその人の表情から目を離せなかった。
「……息子さんは、貴女の笑顔が見たいから頑張ってるんじゃないでしょうか」
「え?」
「そうやって想ってくれるだけでも、嬉しいと……私なら思います」
無意識に言葉に出ていた。
ハッとして女性を見れば目を丸くしてこちらを見ていて、私は誤魔化すように声を上げる。
「あっ!いや!部外者が余計な口出ししてすみません!気持ち悪いですよね……!!忘れてください!!!」
買い物袋は揺らさないように気を付けながら慌てて頭を下げる。
ついさっき出会ったばかりの女性の、更に知らない息子さんの真意なんて私が分かるはずないのになに代弁みたいなことしてるんだ……!!と脳内で頭を抱えていると、
「ふふっ」
笑い声が耳に届いた。
恐る恐る顔を上げればその人は小さく笑っていた。
「ありがとう。元気づけてくれて」
そしてそんなお礼まで言ってくれて。予想外の反応に私は呆然としている間に目的地へと辿り着いたらしい。
「あ、この店よ」
「虎ノ屋……」
そこは商店街ー雷雷軒より奥にある場所ーに並ぶ小さな定食屋だった。
「お荷物どうぞ。……えっと、それと」
「ええ。地図を書くからちょっとお店の中で待っていてくれる?」
「え?」
何事もなくてちゃんと送れてよかったと思いながら、買い物かごを手渡す。その後に雷門への道のりを聞こうとすればその人は笑顔を浮かべて店の扉を開ける。
「いや口頭で十分、」
「母さん!ダメだろ、勝手に出歩いたら!!」
私の断ろうとする言葉は室内からの声に見事に被さり、かき消された。
「買い物はオレが行くって……!」
恐らく店の切り盛りをしているという息子さんだろう。病弱な母親が帰って来たと知って慌てて来たみたいだ。
大きな声で母親を心配する声に、つい言ってしまったことは嘘にはならなさそうで安堵して顔を上げるが、その息子さんを見て私は驚いた。
「…………宇都宮くん?」
「え……っええ!不動さん!?」
そこにいたのは、今日何かと話題になっていた宇都宮くん本人だった。
私が家に送った女性は宇都宮くんの母親だったらしい。……言われてみれば髪色や目元が似てる気がする。
ついさっきまで出前に行っていたらしい宇都宮くんもひと段落ついたらしく、私と宇都宮くんが同じチームだと知った彼のお母さんは、よかったらお話して待ってて、と私と彼を残して地図を書くために奥の部屋へと行ってしまった。
同じチーム、とは言ったけれど私達に接点はない。……なんて、とてもじゃないけれど言えなかった。
少なくとも目の前にいるのが憧れの豪炎寺さんだったら、宇都宮くんも喜んだだろうに。
「……母を、助けてくれてありがとうございます」
とりあえず椅子に座りながら腕を組んで地図を待っていると、宇都宮くんがポツリと呟いた。
「……助けた、なんて程じゃない」
勝手な既視感を抱いて、勝手なお節介を焼いただけだ。
私は宇都宮くんの母親の話を思い返して、一足先に宇都宮くんが早く帰る理由は理解した。そしてこの件は、シュートを打とうとしない事に関しては全くの別問題ということも。
「……どうしました?」
「いや……少し勿体ないと思っただけ」
思わず彼を見ていたからか不思議そうに首を傾げられ、私は肩をすくめながらそう答えた。
だけど、その問題を解決するのは私ではない。
「勿体ない……?」
「不動さん。地図、書けたわよ」
「ありがとうございます」
宇都宮くんが私の言葉に眉をひそめたのと、手書きの地図を持った宇都宮くんのお母さんが来るのは同時で、私は椅子から立ち上がりながら笑顔を作ってその紙を受け取った。
「あの……もし同じチームの人が来たら私がここに来たこと内緒にしてくれませんか?……その……道に迷ったってことを知られるのは、少し恥ずかしいので」
「ふふっ、ええ。分かったわ」
「うつの……虎丸くんもそれでいいかな?」
「え?……は、はい!」
私が申し訳なさそうに苦笑しながら頼めば、宇都宮くんのお母さんは微笑みながら頷いてくれて、宇都宮くんもこくこくと首を縦に振ってくれた。……別に圧力なんかはかけていない。宇都宮くんが大人しい子でよかった。
「それでは、失礼します。虎丸くんも、また明日」
私は最後まで笑みを張り付けたまま一度頭を深く下げた後に、虎の屋を後にした。
宇都宮くんのお母さん作の地図は分かりやすく、すぐに商店街の見慣れた通りに出て来れた。……響木さんも見習ってほしいものだ。
「お母さん、か……」
私は宇都宮家とのやり取りを思い返しながら小さく息を吐き出す。
息子を想う母親を見たせいで、幼い頃の記憶を思い出してしまった。
―『あなたは偉くなって他人を見返せる人になりなさい』
―『……ごめんなさい、明奈。こんな弱い親で』
強さを求めながらも、泣きながら謝る……自分の母の姿を。
生みの親の顔を思い出せない私にとって、お母さんというとやっぱりあの人なんだ、と認識しながらも私は俯く。
……笑顔は、思い出せないけれど。
本当に自分は勝手だな。と商店街を出て雷門へと続く歩道を歩いていると。
「お姉ちゃん!」
私がわざわざ宇都宮くんの家に訪れた事を伏せる理由である彼女の声が背後から聞こえた。
捜査をする、と言ってたんだ。彼女の行動力ならとっくに見つけていることも分かっていた。……ああつくづくタイミングが悪いな。
「…………音無さん」
振り返れば、春奈が眉を寄せて難しい顔でこちらをじっと見ていた。
砂漠の地方で鍛え抜かれた体力と身体能力が売りなチーム。
そんな彼らと戦うために課されたのは基礎体力と身体能力の強化。
練習法は綱海さんが提案した徹底的な走り込みに決まった。単純だけど、少しでも差を埋めるためには体を動かすしかない。
だったら早速走ろう、と決まった矢先に宇都宮くんは荷物をまとめて帰ってしまった。急いでいるのかあっという間に足音は聞こえなくなり、周りはそんな彼に不思議そうに顔を見合わせている。
そんな疑問を解決しようと音無さんが宇都宮くんの捜査をすると言い出し、木野さんを引っ張って食堂を出ていった。
周りはその勢いにしばし圧倒された後、予定通りの走り込みのトレーニングが始まった。
「よし!今日の特訓はここまで!」
それからグラウンドをひたすら走っていた私達は円堂さんの号令で走り込みは終わる。ほとんどが座ったり、倒れたりしながら肩で息をしている。
私だって何とか立てれてはいるけれど、正直強がりな部分もあるのでもっと体力つけて安定させないとな、と考えながらユニフォームの襟で汗を拭った。
チームではしっかりと休憩をとった後に、自主練習としてボールを蹴る者もいたけれど私は走ることを選んだ。
といっても、グラウンドでしたような走り込みというより、ジョギングに近い休憩ありきのものでとにかく足を動かしたかった。
そんな思いで走ったからだろうか。
「……あれ、雷門は?」
ハッと周りを見回せば、全く知らない道に一人突っ立っていた。試しに数歩歩いて見るが、知らない場所ばかりでとりあえず元の場所に戻るため引き返……した、はずだけど目の前にはさっきは見なかった小さな公園。
私は腕を組んで色々考えた後にある結論に辿り着く。
「道に迷った……かも」
かも、じゃなくて迷ってんだよ。という明王さんの幻聴が聞こえた気がした。
グラウンドに人がいたから、という理由で学校に出たのがいけなかったのだろうか。でも、学校の周りを走っていただけのはずなのに……不思議だ。
なんて、考えても合宿所に帰れるわけではないので、私はとりあえず歩くことにした。
それから数分歩いたけれど、見慣れた道に出る訳でもなく、道を聞けそうな人も見当たらない。いつもは私に絡んでくる奴らも一人や二人いるのに今日に限って来ないし……いや、そういう連中は道を教えてくれないか。
…………なんか、昨日のビデオカメラの件だったり、最近こういうのばっかりだな。
「……同じチームの奴にバレたら嫌だなぁ」
あまり、弱みを晒したくない。
小さくため息をつきながら少し大きな道へ出れば、前方に女性が歩いていることに気づいた。
……よし、あの人に尋ねよう。と小走りで前の女性の方まで行く。
「あの、すいませ……!」
私はその女性の前まで行って、正面から話しかけようとして言葉を詰まらせてしまった。
だって、その人は今にも倒れそうな真っ青な顔色をしていたから。
「だ、大丈夫ですか?!」
「え、ええ……」
反射的に私は、声を上げてしまった。
彼女は私に気づいたのか、こちらを見て小さく微笑んで頷いた。苦しさを無理矢理抑え込んだ笑みはこちらへの配慮をいやでも感じてしまう。
本当に大丈夫、なのだろうか。
救急車……と咄嗟に手をジャージのポケットに突っ込んだけれど携帯はない。合宿所に忘れてしまったんだと、舌打ちをしそうになったけれど、女性が目の前にいる手前何とか飲み込む。
「ちょっとした立ち眩みだから……少ししたら治まるわ」
「……そう、ですか」
女性はそう言っていたけれど、そのまま置き去りにするのはなんだか嫌で、私はしばらくその人の傍にいた。
「ごめんなさいね、荷物まで持ってもらって」
「お気になさらず」
申し訳なさそうに笑う女性に対して、私もなるべく穏やかな笑みを作って返しながら買い物かごを落とさないようにしっかり握る。
あれからこの人からもう大丈夫と言われたものの、道を歩く足元がまだふらついているのを見て、気づけば家まで送ると言い出していた。いい人ぶるつもりはないけど、放っておけなかった。
…………まぁ、その代わりに雷門中までの道のりは教えてもらうことにはしたけれど。
彼女の家までの道を歩いてる間に、話を聞く。
なんでも、病弱な自分に代わりに店の切り盛りをしてくれる息子のため、買い物ぐらいはと出掛けた後の帰り道だったらしい。
「……あの子にはいつも苦労かけているわ。合宿だって本当はちゃんと参加したいはずなのに……」
息子……さん?に対して憂い顔をする女性は負い目を感じていることが分かった。合宿という言葉に引っ掛かりはあれど、私はその人の表情から目を離せなかった。
「……息子さんは、貴女の笑顔が見たいから頑張ってるんじゃないでしょうか」
「え?」
「そうやって想ってくれるだけでも、嬉しいと……私なら思います」
無意識に言葉に出ていた。
ハッとして女性を見れば目を丸くしてこちらを見ていて、私は誤魔化すように声を上げる。
「あっ!いや!部外者が余計な口出ししてすみません!気持ち悪いですよね……!!忘れてください!!!」
買い物袋は揺らさないように気を付けながら慌てて頭を下げる。
ついさっき出会ったばかりの女性の、更に知らない息子さんの真意なんて私が分かるはずないのになに代弁みたいなことしてるんだ……!!と脳内で頭を抱えていると、
「ふふっ」
笑い声が耳に届いた。
恐る恐る顔を上げればその人は小さく笑っていた。
「ありがとう。元気づけてくれて」
そしてそんなお礼まで言ってくれて。予想外の反応に私は呆然としている間に目的地へと辿り着いたらしい。
「あ、この店よ」
「虎ノ屋……」
そこは商店街ー雷雷軒より奥にある場所ーに並ぶ小さな定食屋だった。
「お荷物どうぞ。……えっと、それと」
「ええ。地図を書くからちょっとお店の中で待っていてくれる?」
「え?」
何事もなくてちゃんと送れてよかったと思いながら、買い物かごを手渡す。その後に雷門への道のりを聞こうとすればその人は笑顔を浮かべて店の扉を開ける。
「いや口頭で十分、」
「母さん!ダメだろ、勝手に出歩いたら!!」
私の断ろうとする言葉は室内からの声に見事に被さり、かき消された。
「買い物はオレが行くって……!」
恐らく店の切り盛りをしているという息子さんだろう。病弱な母親が帰って来たと知って慌てて来たみたいだ。
大きな声で母親を心配する声に、つい言ってしまったことは嘘にはならなさそうで安堵して顔を上げるが、その息子さんを見て私は驚いた。
「…………宇都宮くん?」
「え……っええ!不動さん!?」
そこにいたのは、今日何かと話題になっていた宇都宮くん本人だった。
私が家に送った女性は宇都宮くんの母親だったらしい。……言われてみれば髪色や目元が似てる気がする。
ついさっきまで出前に行っていたらしい宇都宮くんもひと段落ついたらしく、私と宇都宮くんが同じチームだと知った彼のお母さんは、よかったらお話して待ってて、と私と彼を残して地図を書くために奥の部屋へと行ってしまった。
同じチーム、とは言ったけれど私達に接点はない。……なんて、とてもじゃないけれど言えなかった。
少なくとも目の前にいるのが憧れの豪炎寺さんだったら、宇都宮くんも喜んだだろうに。
「……母を、助けてくれてありがとうございます」
とりあえず椅子に座りながら腕を組んで地図を待っていると、宇都宮くんがポツリと呟いた。
「……助けた、なんて程じゃない」
勝手な既視感を抱いて、勝手なお節介を焼いただけだ。
私は宇都宮くんの母親の話を思い返して、一足先に宇都宮くんが早く帰る理由は理解した。そしてこの件は、シュートを打とうとしない事に関しては全くの別問題ということも。
「……どうしました?」
「いや……少し勿体ないと思っただけ」
思わず彼を見ていたからか不思議そうに首を傾げられ、私は肩をすくめながらそう答えた。
だけど、その問題を解決するのは私ではない。
「勿体ない……?」
「不動さん。地図、書けたわよ」
「ありがとうございます」
宇都宮くんが私の言葉に眉をひそめたのと、手書きの地図を持った宇都宮くんのお母さんが来るのは同時で、私は椅子から立ち上がりながら笑顔を作ってその紙を受け取った。
「あの……もし同じチームの人が来たら私がここに来たこと内緒にしてくれませんか?……その……道に迷ったってことを知られるのは、少し恥ずかしいので」
「ふふっ、ええ。分かったわ」
「うつの……虎丸くんもそれでいいかな?」
「え?……は、はい!」
私が申し訳なさそうに苦笑しながら頼めば、宇都宮くんのお母さんは微笑みながら頷いてくれて、宇都宮くんもこくこくと首を縦に振ってくれた。……別に圧力なんかはかけていない。宇都宮くんが大人しい子でよかった。
「それでは、失礼します。虎丸くんも、また明日」
私は最後まで笑みを張り付けたまま一度頭を深く下げた後に、虎の屋を後にした。
宇都宮くんのお母さん作の地図は分かりやすく、すぐに商店街の見慣れた通りに出て来れた。……響木さんも見習ってほしいものだ。
「お母さん、か……」
私は宇都宮家とのやり取りを思い返しながら小さく息を吐き出す。
息子を想う母親を見たせいで、幼い頃の記憶を思い出してしまった。
―『あなたは偉くなって他人を見返せる人になりなさい』
―『……ごめんなさい、明奈。こんな弱い親で』
強さを求めながらも、泣きながら謝る……自分の母の姿を。
生みの親の顔を思い出せない私にとって、お母さんというとやっぱりあの人なんだ、と認識しながらも私は俯く。
……笑顔は、思い出せないけれど。
本当に自分は勝手だな。と商店街を出て雷門へと続く歩道を歩いていると。
「お姉ちゃん!」
私がわざわざ宇都宮くんの家に訪れた事を伏せる理由である彼女の声が背後から聞こえた。
捜査をする、と言ってたんだ。彼女の行動力ならとっくに見つけていることも分かっていた。……ああつくづくタイミングが悪いな。
「…………音無さん」
振り返れば、春奈が眉を寄せて難しい顔でこちらをじっと見ていた。