寂しがり少女
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FFIのアジア予選一回戦。オーストラリア代表『ビッグウェイブス』との試合はイナズマジャパンの勝利で終わった。
世界を相手にした戦いは“戦術タクティクス”という存在だったり、一選手のレベルの高さだったりと壁は厚かったが、久遠監督の采配のおかげで勝ち進むことができた。
私はベンチからずっと試合を見ているだけだったけど、監督の指導者としての腕は確かなものだ。……少し、いやだいぶ言葉足らずではあるものの、こちらが気づけるギリギリの範囲の情報を出してはいるので意図的にしていることなんだろう。
怪我のためにベンチに下がっていた鬼道さんはそんな久遠監督を見て桜崎中の件について真意を聞き出そうとしていて、答えない監督の代わりに口を開いたのは響木さんだった。
そして10年前の桜咲木中の問題に関わっているのは、当時の対戦相手だった帝国学園……影山だという話だ。
私はその話を思い出しながら、勝利を喜んで何かと騒がしいキャラバンに揺られていた。
「なーに辛気くせぇ顔してんだ不動。せっかく試合に勝ったてのに!」
隣の席は今日の試合で大活躍した綱海さんで、前後の席の人達と楽しそうに話していたかと思えば、突然絡まれた。
「あ、もしかしてベンチだったから拗ねてんのか?」
「……違う」
「ま、次の試合もあるんだし、そんな落ち込むなよ!」
「…………だから拗ねてもないし、落ち込んでも……」
「そんな事海の広さに比べたらちっぽけな事だしな!」
「…………もういいです、それで」
私が訂正する前に綱海さんは納得してしまったので、諦めてそういうことにしておいた。
「そーいや、お前凄いな!」
「は?」
今度は何だと綱海さんを見れば変わらず笑顔だった。
「すぐに久遠監督の考え気づいたから、俺たちにああ言ったんだろ?」
綱海さんが指すのは合宿所の廊下で話しかけた時の事だろう。……って、
「……結局退屈だからと外に行ったセンパイに言われても説得力ないですよ」
「……え、不動も気づいてた?」
「あんな喜ぶ声を上げていたら誰でも気づきますよ」
固まる綱海さんにわざとにっこり笑いかけた所でキャラバンは雷門中に着いた。
夕食の後も周りは初戦を勝ち抜けたことで、しばらく食堂は騒がしかった。
今食堂にいないのは私と、雷門中に帰ってきてすぐに帰って行った宇都宮さんといつの間にかさっさと自室へ戻って行った飛鷹さん……いや試合に出てなかったしいつもの場所で特訓に行ってるかも。
私含めなかなかの問題児だなぁ、と他人事のように思いながら合宿所にいるはずのある人を探す。
その人は渇いた洗濯物を入れたカゴを両手で抱えていた。
「目金さん」
「はい!……って、ふ、不動さん!?」
すぐに振り返って返事をしたかと思えば、私の顔を見るなり肩を跳ねさせ後退るという大げさな反応をされた。……今さら傷つきはしないけれどちゃんと話せるか少し心配になった。
「……ビデオカメラで撮った選手の映像見たいので、一晩貸してください」
「ビデオカメラ、ですか……?」
相手も気まずいだろうし、さっさと終わらそうと要件だけ言えば目金さんは一度洗濯カゴを置いて首を傾げた。
「し、しかしあれはまだDVDに焼いてなくてテレビで見れませんよ」
「焼く?……別にビデオカメラ内でも映像は見れるでしょう。部屋で見るので操作だけ教えてほしいです」
「そう、言われましても……」
私にビデオカメラを貸したくないのか、視線を彷徨わせながらしどろもどろな態度になる目金さんにため息をつきそうになる。
……まぁ、私みたいな選手と交流してない奴がいきなり選手の情報を欲しがるなんて、怪しまれるか。
とはいえ……だ。
「ハッ、そうですか。イナズマジャパンの戦術アドバイザーサマは見る人を選ぶんですね。分かりましたもういいです失礼します!」
「えっ!?いや、ちがッ……!!分かりました!貸します貸しますよぉ!!」
選手が分析するために撮ったものなのに、選手の私が見れない事実に舌打ちをしながら(信頼がないから当然と言えば当然だが)吐き捨てれば、目金さんは面白いぐらい慌ててその勢いでビデオカメラの貸出を了承してもらった。
洗濯物を運んだら持ってきます!とカゴを持ち直した目金さんが走り去り、ビデオカメラを片手に再び現れるのにそう時間はかからなかった。
「ここのボタンで再生。こっちの赤いボタンで停止です。一回ちょっと押してみてください」
「……ここですか?……あ」
「あー!!?それは削除ボタンです!!絶対押さないでください!!最悪押したら絶対“いいえ”を選んでください!!!」
「は、はい……」
それから廊下でしばらくビデオカメラの操作方法を教えて貰った……が、思ったより時間がかかっていた。
……ビデオカメラってなんでこんなにボタンがあるんだ。
「危なかった……悪意でデータ消されるかもと構えてましたがそれ以前の問題でした……」
「聞こえてんぞ、アァ?」
「ひぃ……!!」
それから操作方法をやっと覚えて一息ついている最中にぼやく目金さんの言葉で私にカメラの貸し出しを渋っていた理由も分かった。
操作を教えてもらった身なので軽めに睨みつけるだけで終わらせていると、背後から別の声が聞こえた。
「お二人で何してるんですか?」
「冬花さん!」
振り返れば久遠さんがいて、廊下で立ちっぱなしの私達を不思議そうに見ていた。私と二人っきりなのがそんなに気まずかったのか、そんな彼女に助かったと言わんばかりに名前を呼ぶ目金さん。
「目金さんからビデオカメラ貸してもらってました。選手のデータを取りたいので」
私は軽く会釈をしながら久遠さんの質問に答えた。
目当てのものは手に入れたし、後は部屋に持ち帰るだけだなと考えていると、目金さんの手にあるビデオカメラをもらおうと手を伸ばせば。
「不動さん!」
その手から逃げるように目金さんはビデオカメラを頭上に掲げ、それからこちらを見た。
「言い忘れてましたが、ビデオカメラはイナズマジャパンの大切な備品なので!部屋に持って行く等の独占は禁止です!!見るなら食堂で見てください!!」
「…………」
「そっ、そんなに睨んだってこればっかりは譲れません!」
「…………チッ……分かりました」
初耳のルールは正直納得はできてないけれど、了承しないかぎり食堂ですらも映像見れなくなりそうなので、私は舌打ちをしながら渋々頷いた。
「不動さん、部屋で映像見たいの?」
「まぁ……はい、そうですね」
そんなやりとりを静かに眺めていた久遠さんに話しかけられ、私は意図がよく分からないまま素直に頷く。
それを見て、何か考える素振りを見せる久遠さん。目金さんの説得でもしてくれるのかなと見守っていると、顔を上げてある提案をした。
「だったら、音無さんにパソコン貸してもらったらどうかな?」
「え」
「音無さんもパソコンで選手のデータの記録してるらしいし……ちょっと呼んで来るね」
「ま……まって!!」
私が気づいた時には、久遠さんは彼女を呼ぶためか背中を向けて歩き出そうとしていて、堪らずその手を握って久遠さんを引き留める。
「?どうしたの?」
思わず彼女の顔を見ればきょとん、と不思議そうに私の顔と握った手を眺めている。
「……ぱ、パソコンの扱い方分からない、ので……大丈夫です」
「そう?分かった」
何とか絞り出した言葉に久遠さんは納得してくれたようで、私はほっと息をつきながら手を放した。
久遠さんの態度を見るに、仲を取り持とうとしている、とかじゃない。単純に知らないだけなんだろ。……とはいえ、心臓に悪い。
「要件も終わったので、私はこれで失礼します。……ビデオカメラ、よろしくお願いします」
久遠さんに一切の非はないけれど疲れた思いをしながら、軽く頭を下げて今度こそその場を後にした。
+++
それから私が再び食堂に訪れたのは、シャワーを浴びた後だった。
就寝時間が近いこともあって部屋には誰もなくて、手探りで明かりをつければテレビ付近にビデオカメラが置かれていて、それを手に取る。
「……誰も来ませんように」
それから自室から持ってきたノートと、ペンケースを机の上に置いて椅子に座りながらビデオカメラの電源をつけた。
それから私はビデオカメラにあった代表選考試合と、数日間のグラウンドでの練習映像を見ながら要点をノートにまとめていく。
本当はオーストラリア戦の試合データも見たかったけれど、自分だけじゃどうしようもないので諦める。DVDの再生方法なんて、私は知らない。
そして書き続けていたものの、突然カメラのディスプレイにバッテリー残量が少ないと表示されていて、私はペンを止めた。
バッテリー……?携帯と同じように充電しないといけないのだろうか??
ビデオカメラが置かれていたテレビ周辺を見てみるが、充電器みたいなものは用意されてなくて固まってしまった。
慌てて時計を見ればいつの間にか就寝時間から数時間経っていて、目金さんだってとっくに就寝してるだろうなと想像できた。
「……明日も使うよなぁ…………」
流石に素知らぬ顔でこのまま放置をするのは、非常識だと私でも分かる。分かるけど……解決する術がない。
「不動?」
「っ!?」
本当に二度とビデオカメラ貸し出してくれなくなりそうだなと思っていると、突然名前を呼ばれ、反射的に肩が跳ねた。
「……まだ起きてたのか?」
食堂の出入り口には風丸さんが目を丸くしてこちらを見て、それから彼の視線は私が持っているビデオカメラに注がれる。
「それ……」
「…………」
(一応)了承は得ているのに、何だか後ろめたい気分になって目線を逸らした所で、
ピーーー
「あっ!?」
突然ビデオカメラから電子音が鳴ったかと思えば、画面は真っ暗になってしまった。慌てて電源ボタンを押しても反応しない。
「ま、また壊れた……」
「あー……多分充電切れただけだと思うぞ?」
「え?」
途方に暮れている私に、風丸さんは苦笑を浮かべてそう教えてくれた。
「……すみません。こんな夜遅くに」
「気にするな…………あ、あった。ビデオカメラの充電ケーブル」
風丸さんは手洗いで起きた際に食堂の明かりに気づき、消し忘れかと様子を見に来たらしい。
それから、ビデオカメラの充電器も探し出してくれた。テレビ下のラックにあったらしい……灯台下暗しだ。
「……ありがとうございます」
私はそれを受け取ってビデオカメラへ繋ぎ、無事充電が開始されたのを確認してようやく一息ついた。
「……少し意外だな。不動が機械の扱い慣れてないの」
その流れを見てたらしい風丸さんは小さく笑いながらそんな指摘をする。……誰かにも言われたことある台詞だな。
「使う機会があまりなかったので……使ってもすぐに壊れるし」
「悪循環ってやつか……」
「そんな重く考えなくても……」
今までの経験談を思い返しながらそう答えれば、深刻に捉えてしまったのか少し腕を組む風丸さんの生真面目さに、今度は私が笑ってしまった。
「…………」
「?……風丸さん?」
すると、考え込んでいた風丸さんがなぜかこちらの顔を見たまましばらく固まっていた。……何か変なことを言ってしまったのかと思い返そうとするが、その前風丸さんはいや……と首を振ってなんでもないと答えた。
「充電しててビデオカメラも使えないだろうし、そろそろ寝たらどうだ?」
「え、使えないんですか……。…………分かりました」
続いて提案する風丸さんはいつも通りで、カメラの映像が見れないのなら食堂には用はないな、と私も頷いてから座っていた場所へと戻って、自分のノートとペンケースをまとめて持ち上げた。
世界を相手にした戦いは“戦術タクティクス”という存在だったり、一選手のレベルの高さだったりと壁は厚かったが、久遠監督の采配のおかげで勝ち進むことができた。
私はベンチからずっと試合を見ているだけだったけど、監督の指導者としての腕は確かなものだ。……少し、いやだいぶ言葉足らずではあるものの、こちらが気づけるギリギリの範囲の情報を出してはいるので意図的にしていることなんだろう。
怪我のためにベンチに下がっていた鬼道さんはそんな久遠監督を見て桜崎中の件について真意を聞き出そうとしていて、答えない監督の代わりに口を開いたのは響木さんだった。
そして10年前の桜咲木中の問題に関わっているのは、当時の対戦相手だった帝国学園……影山だという話だ。
私はその話を思い出しながら、勝利を喜んで何かと騒がしいキャラバンに揺られていた。
「なーに辛気くせぇ顔してんだ不動。せっかく試合に勝ったてのに!」
隣の席は今日の試合で大活躍した綱海さんで、前後の席の人達と楽しそうに話していたかと思えば、突然絡まれた。
「あ、もしかしてベンチだったから拗ねてんのか?」
「……違う」
「ま、次の試合もあるんだし、そんな落ち込むなよ!」
「…………だから拗ねてもないし、落ち込んでも……」
「そんな事海の広さに比べたらちっぽけな事だしな!」
「…………もういいです、それで」
私が訂正する前に綱海さんは納得してしまったので、諦めてそういうことにしておいた。
「そーいや、お前凄いな!」
「は?」
今度は何だと綱海さんを見れば変わらず笑顔だった。
「すぐに久遠監督の考え気づいたから、俺たちにああ言ったんだろ?」
綱海さんが指すのは合宿所の廊下で話しかけた時の事だろう。……って、
「……結局退屈だからと外に行ったセンパイに言われても説得力ないですよ」
「……え、不動も気づいてた?」
「あんな喜ぶ声を上げていたら誰でも気づきますよ」
固まる綱海さんにわざとにっこり笑いかけた所でキャラバンは雷門中に着いた。
夕食の後も周りは初戦を勝ち抜けたことで、しばらく食堂は騒がしかった。
今食堂にいないのは私と、雷門中に帰ってきてすぐに帰って行った宇都宮さんといつの間にかさっさと自室へ戻って行った飛鷹さん……いや試合に出てなかったしいつもの場所で特訓に行ってるかも。
私含めなかなかの問題児だなぁ、と他人事のように思いながら合宿所にいるはずのある人を探す。
その人は渇いた洗濯物を入れたカゴを両手で抱えていた。
「目金さん」
「はい!……って、ふ、不動さん!?」
すぐに振り返って返事をしたかと思えば、私の顔を見るなり肩を跳ねさせ後退るという大げさな反応をされた。……今さら傷つきはしないけれどちゃんと話せるか少し心配になった。
「……ビデオカメラで撮った選手の映像見たいので、一晩貸してください」
「ビデオカメラ、ですか……?」
相手も気まずいだろうし、さっさと終わらそうと要件だけ言えば目金さんは一度洗濯カゴを置いて首を傾げた。
「し、しかしあれはまだDVDに焼いてなくてテレビで見れませんよ」
「焼く?……別にビデオカメラ内でも映像は見れるでしょう。部屋で見るので操作だけ教えてほしいです」
「そう、言われましても……」
私にビデオカメラを貸したくないのか、視線を彷徨わせながらしどろもどろな態度になる目金さんにため息をつきそうになる。
……まぁ、私みたいな選手と交流してない奴がいきなり選手の情報を欲しがるなんて、怪しまれるか。
とはいえ……だ。
「ハッ、そうですか。イナズマジャパンの戦術アドバイザーサマは見る人を選ぶんですね。分かりましたもういいです失礼します!」
「えっ!?いや、ちがッ……!!分かりました!貸します貸しますよぉ!!」
選手が分析するために撮ったものなのに、選手の私が見れない事実に舌打ちをしながら(信頼がないから当然と言えば当然だが)吐き捨てれば、目金さんは面白いぐらい慌ててその勢いでビデオカメラの貸出を了承してもらった。
洗濯物を運んだら持ってきます!とカゴを持ち直した目金さんが走り去り、ビデオカメラを片手に再び現れるのにそう時間はかからなかった。
「ここのボタンで再生。こっちの赤いボタンで停止です。一回ちょっと押してみてください」
「……ここですか?……あ」
「あー!!?それは削除ボタンです!!絶対押さないでください!!最悪押したら絶対“いいえ”を選んでください!!!」
「は、はい……」
それから廊下でしばらくビデオカメラの操作方法を教えて貰った……が、思ったより時間がかかっていた。
……ビデオカメラってなんでこんなにボタンがあるんだ。
「危なかった……悪意でデータ消されるかもと構えてましたがそれ以前の問題でした……」
「聞こえてんぞ、アァ?」
「ひぃ……!!」
それから操作方法をやっと覚えて一息ついている最中にぼやく目金さんの言葉で私にカメラの貸し出しを渋っていた理由も分かった。
操作を教えてもらった身なので軽めに睨みつけるだけで終わらせていると、背後から別の声が聞こえた。
「お二人で何してるんですか?」
「冬花さん!」
振り返れば久遠さんがいて、廊下で立ちっぱなしの私達を不思議そうに見ていた。私と二人っきりなのがそんなに気まずかったのか、そんな彼女に助かったと言わんばかりに名前を呼ぶ目金さん。
「目金さんからビデオカメラ貸してもらってました。選手のデータを取りたいので」
私は軽く会釈をしながら久遠さんの質問に答えた。
目当てのものは手に入れたし、後は部屋に持ち帰るだけだなと考えていると、目金さんの手にあるビデオカメラをもらおうと手を伸ばせば。
「不動さん!」
その手から逃げるように目金さんはビデオカメラを頭上に掲げ、それからこちらを見た。
「言い忘れてましたが、ビデオカメラはイナズマジャパンの大切な備品なので!部屋に持って行く等の独占は禁止です!!見るなら食堂で見てください!!」
「…………」
「そっ、そんなに睨んだってこればっかりは譲れません!」
「…………チッ……分かりました」
初耳のルールは正直納得はできてないけれど、了承しないかぎり食堂ですらも映像見れなくなりそうなので、私は舌打ちをしながら渋々頷いた。
「不動さん、部屋で映像見たいの?」
「まぁ……はい、そうですね」
そんなやりとりを静かに眺めていた久遠さんに話しかけられ、私は意図がよく分からないまま素直に頷く。
それを見て、何か考える素振りを見せる久遠さん。目金さんの説得でもしてくれるのかなと見守っていると、顔を上げてある提案をした。
「だったら、音無さんにパソコン貸してもらったらどうかな?」
「え」
「音無さんもパソコンで選手のデータの記録してるらしいし……ちょっと呼んで来るね」
「ま……まって!!」
私が気づいた時には、久遠さんは彼女を呼ぶためか背中を向けて歩き出そうとしていて、堪らずその手を握って久遠さんを引き留める。
「?どうしたの?」
思わず彼女の顔を見ればきょとん、と不思議そうに私の顔と握った手を眺めている。
「……ぱ、パソコンの扱い方分からない、ので……大丈夫です」
「そう?分かった」
何とか絞り出した言葉に久遠さんは納得してくれたようで、私はほっと息をつきながら手を放した。
久遠さんの態度を見るに、仲を取り持とうとしている、とかじゃない。単純に知らないだけなんだろ。……とはいえ、心臓に悪い。
「要件も終わったので、私はこれで失礼します。……ビデオカメラ、よろしくお願いします」
久遠さんに一切の非はないけれど疲れた思いをしながら、軽く頭を下げて今度こそその場を後にした。
+++
それから私が再び食堂に訪れたのは、シャワーを浴びた後だった。
就寝時間が近いこともあって部屋には誰もなくて、手探りで明かりをつければテレビ付近にビデオカメラが置かれていて、それを手に取る。
「……誰も来ませんように」
それから自室から持ってきたノートと、ペンケースを机の上に置いて椅子に座りながらビデオカメラの電源をつけた。
それから私はビデオカメラにあった代表選考試合と、数日間のグラウンドでの練習映像を見ながら要点をノートにまとめていく。
本当はオーストラリア戦の試合データも見たかったけれど、自分だけじゃどうしようもないので諦める。DVDの再生方法なんて、私は知らない。
そして書き続けていたものの、突然カメラのディスプレイにバッテリー残量が少ないと表示されていて、私はペンを止めた。
バッテリー……?携帯と同じように充電しないといけないのだろうか??
ビデオカメラが置かれていたテレビ周辺を見てみるが、充電器みたいなものは用意されてなくて固まってしまった。
慌てて時計を見ればいつの間にか就寝時間から数時間経っていて、目金さんだってとっくに就寝してるだろうなと想像できた。
「……明日も使うよなぁ…………」
流石に素知らぬ顔でこのまま放置をするのは、非常識だと私でも分かる。分かるけど……解決する術がない。
「不動?」
「っ!?」
本当に二度とビデオカメラ貸し出してくれなくなりそうだなと思っていると、突然名前を呼ばれ、反射的に肩が跳ねた。
「……まだ起きてたのか?」
食堂の出入り口には風丸さんが目を丸くしてこちらを見て、それから彼の視線は私が持っているビデオカメラに注がれる。
「それ……」
「…………」
(一応)了承は得ているのに、何だか後ろめたい気分になって目線を逸らした所で、
ピーーー
「あっ!?」
突然ビデオカメラから電子音が鳴ったかと思えば、画面は真っ暗になってしまった。慌てて電源ボタンを押しても反応しない。
「ま、また壊れた……」
「あー……多分充電切れただけだと思うぞ?」
「え?」
途方に暮れている私に、風丸さんは苦笑を浮かべてそう教えてくれた。
「……すみません。こんな夜遅くに」
「気にするな…………あ、あった。ビデオカメラの充電ケーブル」
風丸さんは手洗いで起きた際に食堂の明かりに気づき、消し忘れかと様子を見に来たらしい。
それから、ビデオカメラの充電器も探し出してくれた。テレビ下のラックにあったらしい……灯台下暗しだ。
「……ありがとうございます」
私はそれを受け取ってビデオカメラへ繋ぎ、無事充電が開始されたのを確認してようやく一息ついた。
「……少し意外だな。不動が機械の扱い慣れてないの」
その流れを見てたらしい風丸さんは小さく笑いながらそんな指摘をする。……誰かにも言われたことある台詞だな。
「使う機会があまりなかったので……使ってもすぐに壊れるし」
「悪循環ってやつか……」
「そんな重く考えなくても……」
今までの経験談を思い返しながらそう答えれば、深刻に捉えてしまったのか少し腕を組む風丸さんの生真面目さに、今度は私が笑ってしまった。
「…………」
「?……風丸さん?」
すると、考え込んでいた風丸さんがなぜかこちらの顔を見たまましばらく固まっていた。……何か変なことを言ってしまったのかと思い返そうとするが、その前風丸さんはいや……と首を振ってなんでもないと答えた。
「充電しててビデオカメラも使えないだろうし、そろそろ寝たらどうだ?」
「え、使えないんですか……。…………分かりました」
続いて提案する風丸さんはいつも通りで、カメラの映像が見れないのなら食堂には用はないな、と私も頷いてから座っていた場所へと戻って、自分のノートとペンケースをまとめて持ち上げた。