寂しがり少女
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部屋に戻り、再びボールを蹴り続けていればいつの間にか空の色は橙色に変わっていた。
室内だからユニフォームじゃなくてシャツで過ごしていた私は流れる汗をタオルで拭いながら一度息をつく。
そうしていると静かだった周りの音がうるさくなっていることに気づいた。廊下での話し声とは違う、壁に何かぶつかったりがたがたと何かが走っている音。
「……結局うるさいじゃん」
思わずそう呟いてしまうぐらいには騒がしくて、タオルで髪を拭くついでに耳を塞いでため息をつく。
「………………」
そして少しだけ考えて、シャツを着替えた私はジャージを羽織ってこの部屋を出た。
「あれ、不動さん。どこか出掛けるの?」
「……ちょっと買い物を。すぐに戻ります」
見張る必要がないからか、久遠監督はもういなくてそのまま一階に降りれば夕食の準備をしている木野さんと鉢合わせた。
「そっか。いってらっしゃい、気を付けてね」
簡潔な説明にも木野さんは笑みを浮かべて見送ってくれて、軽く一礼を返しながら合宿所を後にした。
「……本当にいた」
数日前、食堂で小耳に挟んだ話通り、その人は河川敷で一人ひたすらボールを蹴っていた。
階段を降りて、一度深呼吸をしてから意を決して声を上げた。
「あの!」
「!お前は……」
丁度シュートをゴールに決めたタイミングで一息ついていたその人は、すぐに反応して振り返り、目を丸くした。
「不動……だったよな?」
「合ってます。真・帝国学園の、不動です。……染岡さん」
買い物、なんて言ったけどただの外に出るための口実だった。
私は、雷門中の染岡さんに会いたくて……円堂さんがここで特訓してると話していたからつい赴いてしまった。
「なんでここに……?」
染岡さんは腕で汗を拭いながら私がいる事に首を傾げて困惑している様子だった。
……ここまで来たんだから。ちゃんと言わないと、と私は拳を握りながら頭を下げる。
「真帝国の時は危険なプレーをして怪我をさせてしまい、ごめんなさい」
それは私がサッカーのプレーで故意に傷つけてしまった被害者に対する、遅すぎる謝罪だった。
「……は!?」
「……本当は退院したらすぐにでも謝罪に行くべきだった。それができなくても、選考試合の時とか……タイミングはあったはずなのに、今の今まで行けなくてすみませんでした」
「は、退院ってお前……ちょっ、分かった!分かったから一回顔上げろ!!」
頭を下げながら喋る私に染岡さんは焦ったように声を上げて、私の肩を掴んだ。言われた通りに顔を上げれば、困惑を隠せないように眉を下げながらこちらを見下ろしていた。
……真帝国の時は怒ってばかりのイメージだったから少しびっくりした。
「もう昔のことだろ、もう気にすんな」
怪我はちゃんと治ったしな!と努めて明るい声を出す彼の様子を見ると、気を遣わせていることが伝わり思わず俯く。
その時に見えたのは、イナズマジャパンのジャージに描かれたイナズママーク。
私は、じくじくと湧き上がる罪悪感のまま染岡さんにある申し出をした。
「……譲りましょうか」
「は」
「代表枠、譲りましょうか」
私は俯きながらそのイナズママークを握り込んで呟いた。
「そんなもので怪我の償いになるとは思いませんが、っ!」
「ふざけんじゃねぇッ!!!」
ぐいっと思いっきり襟首を掴み上げられ鼓膜を震わす怒号に私の言葉は遮られた。
強制的に顔を上げた先には私を睨みつける染岡さんがいた。
「代表に選ばれなかったのは俺の力不足だ!そんな同情でなったものに価値なんかねぇ!!」
染岡さんから発せられる怒りに、私は何も言えない。
言える権利なんてない。
……それはそうだ。彼は自分の実力で日本代表になりたくてこんな時間にボールを蹴っているのに、私がしようとした事は彼の努力を踏みにじる行為だ。
「!わ、わりぃ……!」
「……いえ。染岡さんの怒りは最もです」
しばらく私を睨んでた染岡さんだけど、やがてハッと慌てた様子で手を放す。だけどこれは自分が悪いので、苦笑を浮かべて平気だと伝えた。
「代表を譲るなんて……そんなの……託された奴が言う事じゃないって分かってるはずなのに…………すみません」
頑張るって決めたはずなのに。昼だって飛鷹さんのコーチをすると宣ってるくせに。
少しでも過去の事を思い出すと押しつぶされそうになる。
今だって、染岡さんを理由に……逃げようとした。
「……とりあえず一回落ち着け」
拳を握って俯いてしまう私に、染岡さんは頼んでもないのに私の背中を押して、ベンチに座るように促される。
結局私と染岡さんは並んでそのまま腰掛けることになった。
「で。何であんな変なこと言ったんだよ」
少し落ち着いてから、染岡さんから改めて尋ねられた。
怒っているという訳ではなさそうだ。……それほど、私の提案に違和感を感じたんだろう。
あまり楽しい話ではないけれど、あんな失礼をした手前はぐらかすのも申し訳ないので正直に言うことにした。
「絡まれた時に、そう強要されたのを思い出して……つい」
「は?絡まれた??」
「……町で歩いていたら、女のくせに代表入りなんて生意気だなんだ絡んでくる選手、かどうか知りませんけど。
そんな感じのうざ……困った人達に絡まれるんですよ」
そもそも雷門の人がこんな提案を飲み込む訳ないのに……。
断られると分かった上で言い出したのなら、尚更タチが悪いと一人自嘲しながら染岡さんを見れば何故かこちらを見て口を開きながら固まっていた。
「染岡さん?」
どうしたんだ、と名前を呼んで彼の顔の前で手を振ってみる。
「おまっ……大丈夫か!?」
それから数秒後、弾かれたように染岡さんは動き出して開口一番そんな事を言い出した。
大丈夫?……ああ。
「安心してください。流石に何も知らない赤の他人に譲ろうと思うほど、このユニフォームが軽いものとは思ってませんよ」
「ちげぇよ!」
「え?」
私が申し出たのは染岡さんが初めてです、と誤解がないように説明したのになぜか慌てた様子で否定された。
「お前の事を聞いてんだよ!絡まれたんだろ!?怪我とかしてねぇか!??」
「え……」
今度は私が固まる番だった。
「いや…………まぁ……日本代表選手として名前や姿が公表されている以上、想定はできてたことなので……それに暴力沙汰はご法度なんで、基本隙を見て逃げてます」
私自身の心配をしている。
その事実に反応が少し遅れてしまったけれど、何とか返事を返せば染岡さんは落ち着きを取り戻したものの、表情はどこか浮かない。私の言葉が的外れだったようで納得できていないようだった。
「逃げるって……誰かと一緒にいたほうがいいんじゃねぇか?それこそ、」
ーお前の兄貴とか。
「ッ……!」
染岡さんの言葉を理解した瞬間、私の足はベンチから立ち上がっていた。
「これ以上、あの人に迷惑かけれる訳ないでしょ!?」
あんな事をして、また守ってもらおうだなんて図々しい……!!
「っ、あ……すみ、ません……」
一瞬の沈黙の後に私は感情のまま怒鳴りつけてしまったことをやっと自覚して、手で口を当てながらも何とか謝罪だけはして、再びベンチへと座った。
「……じゃあせめて、監督や響木さんにはちゃんと言っとけよ」
「っ……」
そんな私の癇癪に触れずに、染岡さんは静かにそう告げた。
彼なりの優しさに私は取り繕うことも出来ずにその場で膝を抱えて顔を埋めてしまう。
「…………円堂さんといい、風丸さんといい雷門の人達は、優しくて……いやになる」
「いやになるって……何だよそれ」
思わず言葉を吐きだしてしまった言葉に染岡さんは困惑しきった声を出していて、埋めていた顔を上げれば、自分の坊主頭を掻きながら落ち着かないように視線を彷徨わせていた。
「嫌って言われても、俺は……反省してる奴を責め続ける気にはならねぇよ」
「でも……」
「あ~~…………じゃあ、分かった!」
私みたいな酷いことした奴なんて、放っておけばいいのに一緒に悩んでいた染岡さんは突然自分の膝を叩いて吹っ切るように声を上げた。
「お前は二度と代表譲るとか言うんじゃねぇ!」
「わわっ」
それから大きな声でそう言ったかと思えば、ドンッと背中を力強く叩かれる。前のめりになってベンチから落ちそうになったので抱えていた膝を慌てて地面へと戻した。
「男だ女だ関係ねぇ!お前は実力で日本代表の選手になったすげぇ奴なんだからそんな辛気くせぇ顔すんな!!
この約束で真帝国学園のことはチャラだ!!分かったな不動!!!」
怒涛の勢いで染岡さんは私の否応も待たずにそんな約束を取り付けた。
「…………分かり、ました」
しばらく呆気にとられていたけれど、当人がそれを約束だというのなら、ちゃんと守るべきだろう。
円堂さんとは別の類で裏表のない人だなと思いながら私は頷いた。
「話……付き合ってくれてありがとうございました。そろそろ失礼します」
それから少しの雑談をして、私は帰るためにベンチから立ち上がる。練習を中断させて付き合わせて本当に申し訳なさしかない。
「おう、ちょっと待ってろ。すぐ片付けっから」
「はい?」
染岡さんはそんなことを言ってグラウンドの方へボールを拾いに行った。その光景に思わず首を傾げる。
「一人で帰れますよ?」
「あんな話聞いといて一人で帰らせれる訳ねぇだろ!」
まさか送ってくれようとしてるとは思わなかったので、断ろうと声を掛ければぎろりと怖い顔で睨まれてそう怒鳴られた。
「……同情されたくて話した訳じゃないんですけど」
「同情じゃねぇ!心配だっ!」
室内だからユニフォームじゃなくてシャツで過ごしていた私は流れる汗をタオルで拭いながら一度息をつく。
そうしていると静かだった周りの音がうるさくなっていることに気づいた。廊下での話し声とは違う、壁に何かぶつかったりがたがたと何かが走っている音。
「……結局うるさいじゃん」
思わずそう呟いてしまうぐらいには騒がしくて、タオルで髪を拭くついでに耳を塞いでため息をつく。
「………………」
そして少しだけ考えて、シャツを着替えた私はジャージを羽織ってこの部屋を出た。
「あれ、不動さん。どこか出掛けるの?」
「……ちょっと買い物を。すぐに戻ります」
見張る必要がないからか、久遠監督はもういなくてそのまま一階に降りれば夕食の準備をしている木野さんと鉢合わせた。
「そっか。いってらっしゃい、気を付けてね」
簡潔な説明にも木野さんは笑みを浮かべて見送ってくれて、軽く一礼を返しながら合宿所を後にした。
「……本当にいた」
数日前、食堂で小耳に挟んだ話通り、その人は河川敷で一人ひたすらボールを蹴っていた。
階段を降りて、一度深呼吸をしてから意を決して声を上げた。
「あの!」
「!お前は……」
丁度シュートをゴールに決めたタイミングで一息ついていたその人は、すぐに反応して振り返り、目を丸くした。
「不動……だったよな?」
「合ってます。真・帝国学園の、不動です。……染岡さん」
買い物、なんて言ったけどただの外に出るための口実だった。
私は、雷門中の染岡さんに会いたくて……円堂さんがここで特訓してると話していたからつい赴いてしまった。
「なんでここに……?」
染岡さんは腕で汗を拭いながら私がいる事に首を傾げて困惑している様子だった。
……ここまで来たんだから。ちゃんと言わないと、と私は拳を握りながら頭を下げる。
「真帝国の時は危険なプレーをして怪我をさせてしまい、ごめんなさい」
それは私がサッカーのプレーで故意に傷つけてしまった被害者に対する、遅すぎる謝罪だった。
「……は!?」
「……本当は退院したらすぐにでも謝罪に行くべきだった。それができなくても、選考試合の時とか……タイミングはあったはずなのに、今の今まで行けなくてすみませんでした」
「は、退院ってお前……ちょっ、分かった!分かったから一回顔上げろ!!」
頭を下げながら喋る私に染岡さんは焦ったように声を上げて、私の肩を掴んだ。言われた通りに顔を上げれば、困惑を隠せないように眉を下げながらこちらを見下ろしていた。
……真帝国の時は怒ってばかりのイメージだったから少しびっくりした。
「もう昔のことだろ、もう気にすんな」
怪我はちゃんと治ったしな!と努めて明るい声を出す彼の様子を見ると、気を遣わせていることが伝わり思わず俯く。
その時に見えたのは、イナズマジャパンのジャージに描かれたイナズママーク。
私は、じくじくと湧き上がる罪悪感のまま染岡さんにある申し出をした。
「……譲りましょうか」
「は」
「代表枠、譲りましょうか」
私は俯きながらそのイナズママークを握り込んで呟いた。
「そんなもので怪我の償いになるとは思いませんが、っ!」
「ふざけんじゃねぇッ!!!」
ぐいっと思いっきり襟首を掴み上げられ鼓膜を震わす怒号に私の言葉は遮られた。
強制的に顔を上げた先には私を睨みつける染岡さんがいた。
「代表に選ばれなかったのは俺の力不足だ!そんな同情でなったものに価値なんかねぇ!!」
染岡さんから発せられる怒りに、私は何も言えない。
言える権利なんてない。
……それはそうだ。彼は自分の実力で日本代表になりたくてこんな時間にボールを蹴っているのに、私がしようとした事は彼の努力を踏みにじる行為だ。
「!わ、わりぃ……!」
「……いえ。染岡さんの怒りは最もです」
しばらく私を睨んでた染岡さんだけど、やがてハッと慌てた様子で手を放す。だけどこれは自分が悪いので、苦笑を浮かべて平気だと伝えた。
「代表を譲るなんて……そんなの……託された奴が言う事じゃないって分かってるはずなのに…………すみません」
頑張るって決めたはずなのに。昼だって飛鷹さんのコーチをすると宣ってるくせに。
少しでも過去の事を思い出すと押しつぶされそうになる。
今だって、染岡さんを理由に……逃げようとした。
「……とりあえず一回落ち着け」
拳を握って俯いてしまう私に、染岡さんは頼んでもないのに私の背中を押して、ベンチに座るように促される。
結局私と染岡さんは並んでそのまま腰掛けることになった。
「で。何であんな変なこと言ったんだよ」
少し落ち着いてから、染岡さんから改めて尋ねられた。
怒っているという訳ではなさそうだ。……それほど、私の提案に違和感を感じたんだろう。
あまり楽しい話ではないけれど、あんな失礼をした手前はぐらかすのも申し訳ないので正直に言うことにした。
「絡まれた時に、そう強要されたのを思い出して……つい」
「は?絡まれた??」
「……町で歩いていたら、女のくせに代表入りなんて生意気だなんだ絡んでくる選手、かどうか知りませんけど。
そんな感じのうざ……困った人達に絡まれるんですよ」
そもそも雷門の人がこんな提案を飲み込む訳ないのに……。
断られると分かった上で言い出したのなら、尚更タチが悪いと一人自嘲しながら染岡さんを見れば何故かこちらを見て口を開きながら固まっていた。
「染岡さん?」
どうしたんだ、と名前を呼んで彼の顔の前で手を振ってみる。
「おまっ……大丈夫か!?」
それから数秒後、弾かれたように染岡さんは動き出して開口一番そんな事を言い出した。
大丈夫?……ああ。
「安心してください。流石に何も知らない赤の他人に譲ろうと思うほど、このユニフォームが軽いものとは思ってませんよ」
「ちげぇよ!」
「え?」
私が申し出たのは染岡さんが初めてです、と誤解がないように説明したのになぜか慌てた様子で否定された。
「お前の事を聞いてんだよ!絡まれたんだろ!?怪我とかしてねぇか!??」
「え……」
今度は私が固まる番だった。
「いや…………まぁ……日本代表選手として名前や姿が公表されている以上、想定はできてたことなので……それに暴力沙汰はご法度なんで、基本隙を見て逃げてます」
私自身の心配をしている。
その事実に反応が少し遅れてしまったけれど、何とか返事を返せば染岡さんは落ち着きを取り戻したものの、表情はどこか浮かない。私の言葉が的外れだったようで納得できていないようだった。
「逃げるって……誰かと一緒にいたほうがいいんじゃねぇか?それこそ、」
ーお前の兄貴とか。
「ッ……!」
染岡さんの言葉を理解した瞬間、私の足はベンチから立ち上がっていた。
「これ以上、あの人に迷惑かけれる訳ないでしょ!?」
あんな事をして、また守ってもらおうだなんて図々しい……!!
「っ、あ……すみ、ません……」
一瞬の沈黙の後に私は感情のまま怒鳴りつけてしまったことをやっと自覚して、手で口を当てながらも何とか謝罪だけはして、再びベンチへと座った。
「……じゃあせめて、監督や響木さんにはちゃんと言っとけよ」
「っ……」
そんな私の癇癪に触れずに、染岡さんは静かにそう告げた。
彼なりの優しさに私は取り繕うことも出来ずにその場で膝を抱えて顔を埋めてしまう。
「…………円堂さんといい、風丸さんといい雷門の人達は、優しくて……いやになる」
「いやになるって……何だよそれ」
思わず言葉を吐きだしてしまった言葉に染岡さんは困惑しきった声を出していて、埋めていた顔を上げれば、自分の坊主頭を掻きながら落ち着かないように視線を彷徨わせていた。
「嫌って言われても、俺は……反省してる奴を責め続ける気にはならねぇよ」
「でも……」
「あ~~…………じゃあ、分かった!」
私みたいな酷いことした奴なんて、放っておけばいいのに一緒に悩んでいた染岡さんは突然自分の膝を叩いて吹っ切るように声を上げた。
「お前は二度と代表譲るとか言うんじゃねぇ!」
「わわっ」
それから大きな声でそう言ったかと思えば、ドンッと背中を力強く叩かれる。前のめりになってベンチから落ちそうになったので抱えていた膝を慌てて地面へと戻した。
「男だ女だ関係ねぇ!お前は実力で日本代表の選手になったすげぇ奴なんだからそんな辛気くせぇ顔すんな!!
この約束で真帝国学園のことはチャラだ!!分かったな不動!!!」
怒涛の勢いで染岡さんは私の否応も待たずにそんな約束を取り付けた。
「…………分かり、ました」
しばらく呆気にとられていたけれど、当人がそれを約束だというのなら、ちゃんと守るべきだろう。
円堂さんとは別の類で裏表のない人だなと思いながら私は頷いた。
「話……付き合ってくれてありがとうございました。そろそろ失礼します」
それから少しの雑談をして、私は帰るためにベンチから立ち上がる。練習を中断させて付き合わせて本当に申し訳なさしかない。
「おう、ちょっと待ってろ。すぐ片付けっから」
「はい?」
染岡さんはそんなことを言ってグラウンドの方へボールを拾いに行った。その光景に思わず首を傾げる。
「一人で帰れますよ?」
「あんな話聞いといて一人で帰らせれる訳ねぇだろ!」
まさか送ってくれようとしてるとは思わなかったので、断ろうと声を掛ければぎろりと怖い顔で睨まれてそう怒鳴られた。
「……同情されたくて話した訳じゃないんですけど」
「同情じゃねぇ!心配だっ!」