寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
選考試合当日。
世界大会の日本代表を決めるためか大勢の観客に見守られる中、試合は始まる。
「どうだ!」
「その程度で力まないで下さい」
私からスライディングでボールを奪った佐久間さんは自陣へとパスを出してからこちらを見る。私は肩をすくめて大人の反応をしながら彼の横を通り過ぎた。
「明奈。油断をするな」
背後から鬼道さんにそう咎められるけれど、私は顔を向けずにそのまま口を開いた。
「これは勝敗を決める試合じゃない。決めるところで決めればいいんですよ」
ひらりと軽く手を振って、相手の返事も待たずにその場を去った。
そう、これは勝ちに拘る試合じゃない。代表に選ばれるための“魅せる”試合だ。
響木さんだって私に男子顔負けの力強いプレイを期待している訳ではないだろう。だから私は攻め込むことはせず、相手チームを見る事に徹する。
好機が訪れたのは円堂チームに先取点を奪われた時だった。
「オレだって本当はFWなんだ。MFなんて納得いかねぇ…みたいな!」
そう悔し気に呟くのは木戸川清修の……武方さん。FF出場校の選手は頭に入っているお陰で名前を思い出せた。
「そんなに攻めたきゃ、攻めさせてやるよ」
私はポジションへと戻りながら口角を上げた。
試合再開後、勢いづいた円堂チームが上がっていくのを見ながら私はDF側に声を掛けた。
「木暮くん、風丸さん。もっと前に来てください」
「え?」
「いいから前に出て」
私の呼びかけに2人は目を合わせていたけれど最終的に従ってくれた。
ガラ空きになったゴール前に走り出す武方さんを見つけて、思わず口角が上がるのを感じながら私も走り出す。
「風丸さん、松野さんに当たって!」
「パスだ!オレにパスを寄越せ……みたいな!」
ボールを持っていた松野さんへ風丸さんがマークすれば自然と前にいる武方さんへとボールが渡る。
その軌道を見ながら私は彼からそっと離れた。その事にも気づかずに武方さんはボールで必殺技を決めようとして、
ピー!!!
オフサイドを知らせるホイッスルが鳴り響いた。
オフサイドトラップ大成功。
それから試合が再開後に、私はボールを貰い走っていく。
ゴール前の円堂チームのDFには何かと関わる機会があった飛鷹さんの姿があった。
「通すな!飛鷹!」
「お……オッス!」
棒立ちだったものの、ゴールにいる円堂さんの指示にようやくぎこちない動きで走り出す飛鷹さん。
「遅いんだよ!」
私は彼が辿り着く前にループシュートで円堂さんの頭の上を越えてゴールに入れようとしたけれど、ギリギリで綱海さんに阻まれた。
「……どうやら考えすぎだったようだな」
鬼道さんが飛鷹さんの様子を見ながら呟いていた。彼からしたら初めてみる顔に警戒していたみたいで、その反応から彼が初心者だと知っているのは選手内だと私ぐらいだと察する。
……なんで響木さんは私だけにわざわざ会わせたんだという疑問は沸いたけれど今は関係ないなと、考えを切り替えて走り出した。
+++
それから時間は進み、試合はあっという間に終わった。
情報がなかった選手の一人である宇都宮くんがシュートを打つ気がなかったり、飛鷹さんが必殺技の衝撃を和らげる蹴りをしたりと気になる点はいくつもあったけど、私が追究する事ではない。
私は息を整えながら掲示板を見る。
試合は3-2で円堂チームの勝利。だけどこの試合は勝敗は関係ない。日本代表として相応しいかどうかが見られた試合だ。
魅せるためのプレイはしたつもりだったけれど、できているかは正直分からない。
不安はあれど、それを表に出さないように腕を組んで発表を待っていると、響木さんと一緒に見慣れない紫髪の無愛想な男性がやって来た。
「私が日本代表監督の久遠道也だ。よろしく頼む」
私はともかく、周りは響木さんが代表監督になると思っていたようで戸惑いを見せていたが、彼自身の判断だと告げれば納得したようで。
それからすぐにバインダー片手に久遠監督は代表の名前を発表していった。
「不動明奈」
「……はい」
淡々とした声で名前を呼ばれて、私は返事をしてそれから大きく息を吐いた。
それから最後にキャプテンとして選ばれた円堂守さんの名前が呼ばれ、16人の日本代表が決定した。
「今日からお前達は日本代表イナズマジャパンだ。選ばれた者は、選ばれなかった者の想いを背負うのだ!」
はいっ!!!と元気のいい言葉がグラウンドに響くのを聞きながら私は視線を地面へと落とす。
選ばれなかった者の想いに応える。日本代表としての重さを実感して一人拳を握っていると。
「不動」
まだ聞きなれていない声に顔を上げれば、久遠監督がバインダーを小脇に抱えながら私を見ていて、彼に呼ばれたんだと分かった。
「はい」
「お前は、FFIに出場する唯一の女子選手だ」
代表メンバーを発表する時と同じトーンで、そう告げる久遠監督の表情は変わらないが、髪で隠れていない方の視線だけは鋭く私を見下ろしていた。
「その自覚を持って練習に励むように」
「……分かりました」
それだけ告げて、久遠監督は響木さんと共に去っていった。
唯一、ね……。
全員の目の前でその情報を公表されるとは……分かりやすく釘を刺されたな。
周りを見れば予想通りざわざわし始めていて、もう少し隠せよと思いながら耳を傾ければ。
「?なんで監督は不動にだけ名指ししたんだ?」
「女子ってことで監督なりの気遣いとかか?」
「でも不動さんを睨む目、怖かったッス~!」
「…………」
前言撤回。
私は日本代表数名の能天気さに思わず固まってしまった。
「……監督はたぶん別の意図があって名指しをしたんだと思う」
円堂さんの隣で鬼道さんが説明をしていた。流石にこのままにしておけなかったのだろう。
「別の意図?なんだそれ?」
「……それは…………」
一切察する様子のない円堂さんに首を傾げられ、言い淀む鬼道さん。彼らしくない物言いと、送られる視線から逃げるように目線を逸らしながら私は小さくため息をつく。
……今更、事実を言われた所で傷つかないんだから、こんな所で気を遣わないでほしい。
「あれは脅しですよ、脅し」
鬼道さん以外にも察している人はいるけれど、誰も言い出さなかったので私自身で答えることにした。
「女子はどうしても男子に劣るから。人一倍頑張らないと代表落とすぞっていうやつですよ」
自分の代表の立場はギリギリですよ、なんてなんで自分で懇切丁寧に教えなくてはいけないんだと思わず乾いた笑いが漏れた。
久遠監督の考えは妥当だと思う。
ただのやっかみで女のくせにと言われるのは訳が違う、正当な理由だからこそ私も素直に受け止めることができた。
もちろん、簡単に潰される気は一切ないけれど、と顔を俯かせながら狙う人間がいた場合の対策法を脳内でまとめていると。
「そうか!じゃあ一緒に頑張ろうな不動!!」
「えっ」
満面の笑みを浮かべた円堂さんが私の手を握って、そう言葉をかけた。
当たり前のように“一緒に”なんて言葉を使って。
数日前と全く変わらない太陽のような笑顔を浮かべて。
「…………はぁ」
勘弁してくれ、私には眩しすぎる。
世界大会の日本代表を決めるためか大勢の観客に見守られる中、試合は始まる。
「どうだ!」
「その程度で力まないで下さい」
私からスライディングでボールを奪った佐久間さんは自陣へとパスを出してからこちらを見る。私は肩をすくめて大人の反応をしながら彼の横を通り過ぎた。
「明奈。油断をするな」
背後から鬼道さんにそう咎められるけれど、私は顔を向けずにそのまま口を開いた。
「これは勝敗を決める試合じゃない。決めるところで決めればいいんですよ」
ひらりと軽く手を振って、相手の返事も待たずにその場を去った。
そう、これは勝ちに拘る試合じゃない。代表に選ばれるための“魅せる”試合だ。
響木さんだって私に男子顔負けの力強いプレイを期待している訳ではないだろう。だから私は攻め込むことはせず、相手チームを見る事に徹する。
好機が訪れたのは円堂チームに先取点を奪われた時だった。
「オレだって本当はFWなんだ。MFなんて納得いかねぇ…みたいな!」
そう悔し気に呟くのは木戸川清修の……武方さん。FF出場校の選手は頭に入っているお陰で名前を思い出せた。
「そんなに攻めたきゃ、攻めさせてやるよ」
私はポジションへと戻りながら口角を上げた。
試合再開後、勢いづいた円堂チームが上がっていくのを見ながら私はDF側に声を掛けた。
「木暮くん、風丸さん。もっと前に来てください」
「え?」
「いいから前に出て」
私の呼びかけに2人は目を合わせていたけれど最終的に従ってくれた。
ガラ空きになったゴール前に走り出す武方さんを見つけて、思わず口角が上がるのを感じながら私も走り出す。
「風丸さん、松野さんに当たって!」
「パスだ!オレにパスを寄越せ……みたいな!」
ボールを持っていた松野さんへ風丸さんがマークすれば自然と前にいる武方さんへとボールが渡る。
その軌道を見ながら私は彼からそっと離れた。その事にも気づかずに武方さんはボールで必殺技を決めようとして、
ピー!!!
オフサイドを知らせるホイッスルが鳴り響いた。
オフサイドトラップ大成功。
それから試合が再開後に、私はボールを貰い走っていく。
ゴール前の円堂チームのDFには何かと関わる機会があった飛鷹さんの姿があった。
「通すな!飛鷹!」
「お……オッス!」
棒立ちだったものの、ゴールにいる円堂さんの指示にようやくぎこちない動きで走り出す飛鷹さん。
「遅いんだよ!」
私は彼が辿り着く前にループシュートで円堂さんの頭の上を越えてゴールに入れようとしたけれど、ギリギリで綱海さんに阻まれた。
「……どうやら考えすぎだったようだな」
鬼道さんが飛鷹さんの様子を見ながら呟いていた。彼からしたら初めてみる顔に警戒していたみたいで、その反応から彼が初心者だと知っているのは選手内だと私ぐらいだと察する。
……なんで響木さんは私だけにわざわざ会わせたんだという疑問は沸いたけれど今は関係ないなと、考えを切り替えて走り出した。
+++
それから時間は進み、試合はあっという間に終わった。
情報がなかった選手の一人である宇都宮くんがシュートを打つ気がなかったり、飛鷹さんが必殺技の衝撃を和らげる蹴りをしたりと気になる点はいくつもあったけど、私が追究する事ではない。
私は息を整えながら掲示板を見る。
試合は3-2で円堂チームの勝利。だけどこの試合は勝敗は関係ない。日本代表として相応しいかどうかが見られた試合だ。
魅せるためのプレイはしたつもりだったけれど、できているかは正直分からない。
不安はあれど、それを表に出さないように腕を組んで発表を待っていると、響木さんと一緒に見慣れない紫髪の無愛想な男性がやって来た。
「私が日本代表監督の久遠道也だ。よろしく頼む」
私はともかく、周りは響木さんが代表監督になると思っていたようで戸惑いを見せていたが、彼自身の判断だと告げれば納得したようで。
それからすぐにバインダー片手に久遠監督は代表の名前を発表していった。
「不動明奈」
「……はい」
淡々とした声で名前を呼ばれて、私は返事をしてそれから大きく息を吐いた。
それから最後にキャプテンとして選ばれた円堂守さんの名前が呼ばれ、16人の日本代表が決定した。
「今日からお前達は日本代表イナズマジャパンだ。選ばれた者は、選ばれなかった者の想いを背負うのだ!」
はいっ!!!と元気のいい言葉がグラウンドに響くのを聞きながら私は視線を地面へと落とす。
選ばれなかった者の想いに応える。日本代表としての重さを実感して一人拳を握っていると。
「不動」
まだ聞きなれていない声に顔を上げれば、久遠監督がバインダーを小脇に抱えながら私を見ていて、彼に呼ばれたんだと分かった。
「はい」
「お前は、FFIに出場する唯一の女子選手だ」
代表メンバーを発表する時と同じトーンで、そう告げる久遠監督の表情は変わらないが、髪で隠れていない方の視線だけは鋭く私を見下ろしていた。
「その自覚を持って練習に励むように」
「……分かりました」
それだけ告げて、久遠監督は響木さんと共に去っていった。
唯一、ね……。
全員の目の前でその情報を公表されるとは……分かりやすく釘を刺されたな。
周りを見れば予想通りざわざわし始めていて、もう少し隠せよと思いながら耳を傾ければ。
「?なんで監督は不動にだけ名指ししたんだ?」
「女子ってことで監督なりの気遣いとかか?」
「でも不動さんを睨む目、怖かったッス~!」
「…………」
前言撤回。
私は日本代表数名の能天気さに思わず固まってしまった。
「……監督はたぶん別の意図があって名指しをしたんだと思う」
円堂さんの隣で鬼道さんが説明をしていた。流石にこのままにしておけなかったのだろう。
「別の意図?なんだそれ?」
「……それは…………」
一切察する様子のない円堂さんに首を傾げられ、言い淀む鬼道さん。彼らしくない物言いと、送られる視線から逃げるように目線を逸らしながら私は小さくため息をつく。
……今更、事実を言われた所で傷つかないんだから、こんな所で気を遣わないでほしい。
「あれは脅しですよ、脅し」
鬼道さん以外にも察している人はいるけれど、誰も言い出さなかったので私自身で答えることにした。
「女子はどうしても男子に劣るから。人一倍頑張らないと代表落とすぞっていうやつですよ」
自分の代表の立場はギリギリですよ、なんてなんで自分で懇切丁寧に教えなくてはいけないんだと思わず乾いた笑いが漏れた。
久遠監督の考えは妥当だと思う。
ただのやっかみで女のくせにと言われるのは訳が違う、正当な理由だからこそ私も素直に受け止めることができた。
もちろん、簡単に潰される気は一切ないけれど、と顔を俯かせながら狙う人間がいた場合の対策法を脳内でまとめていると。
「そうか!じゃあ一緒に頑張ろうな不動!!」
「えっ」
満面の笑みを浮かべた円堂さんが私の手を握って、そう言葉をかけた。
当たり前のように“一緒に”なんて言葉を使って。
数日前と全く変わらない太陽のような笑顔を浮かべて。
「…………はぁ」
勘弁してくれ、私には眩しすぎる。