寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あっ……」
「……っ!」
ずっと会いたかった存在が突然目の前に現れ、俺は息を呑んだ。
曲がり角から突然現れた茶色の髪に翡翠色の目をした少女はきょとんとこちらを見つめて数秒、キラリと瞳が輝いた。
「兄ちゃん……!」
そこには俺の妹の一人である明奈がいた。8年ぶりではあるものの見間違えるはずがない。
真新しい制服に身を包んでいるのを見るに今日入学した帝国学園の新入生であることは分かる。
なぜ、新入生が入学式もとうに終わったこの時間にグラウンドまでの道のりにいるんだと思ったが明奈が方向音痴なのを思い出して迷ったんだなと察した。……ああ、変わらないな。
影山総帥からゴーグルを与えられていて、ポーカーフェイスを身に付けていてよかった。
「あのっ、私……」
中学生になったばかりの妹はそわそわと何を言うか迷った様子で言葉に詰まらせている。
その言葉を待ってあげたかった。
言葉を交わすことなく離れ、碌に連絡を取れなかった事を謝りたかった。
再会できたことを一緒に喜びたかった。
だが、駄目だ。
「人違いだ」
今の俺に出来ることは淡々と目の前の新入生に告げて、部活に遅れないためにグラウンドへと歩くことだった。
「鬼道、知り合いか?」
隣を歩く源田にそう尋ねられ、俺は周りに悟られないように知らないなと答える。
ちらりと横目で見た時に土門に声を掛けられていた明奈がその手を振り払い走り去っていくのが見えた。
……これでいい。
俺が父と交わした約束……FFで三年間で優勝をし続ければ、鬼道家の跡取りとして恥ずかしくない成績を残すことができれば、妹達を鬼道家で迎え入れてもらえる。
その間に妹達と会うことは許されていない。明奈が同じ中学校に通うことになるとは予想外だったが俺がやることは変わらない。勝ち続けるだけだ。
だから、もう少しだけ待っていてくれ、明奈。
そんな選択があまりにも独りよがりな考えだと思い知ったのは、FF地区予選での雷門中との試合の後だった。
俺を変えてくれた雷門サッカー部との試合。負けてはしまったが全力で戦った試合に悔いはない。そんな試合後の帰り道、雷門のマネージャーでありもう一人の妹である音無春奈に呼び止められた。
春奈は俺と父の約束事を知ったらしく、その上で音無春奈がいいと微笑んだ。
その言葉に、妹達のためにやっていた行動は、所詮思い違いだと思い知った。
それでも春奈はそんな俺に自分を想ってくれて嬉しい、と目に涙を浮かべながらも笑顔で抱きついてきた。そんな優しい大切な存在を抱きとめて、思い出すのはもう一人の大切な妹。
……もしかしたら、
「……あいつにとっても余計なお世話だったかもしれないな」
「あいつ?……!もしかしてお姉ちゃんの事?」
声に出ていたのか春奈はバッと顔を上げて反応した。
その様子を見て、春奈も明奈が帝国学園に入学していたことを知らなかったようだった。俺は入学式の日に明奈に会った事を話せば、
「……お兄ちゃん」
「…………分かってる」
じとりと睨まれた。思わず目線を逸らすが、言いたいことは察しているので頷く。
「お姉ちゃんに会ったら絶対謝ってね!何だったらその時は私も呼んで!!」
お兄ちゃんの代わりに私がお姉ちゃん抱きしめるからっ!なんて、ぎゅうと手を握りながらそう訴える春奈の表情は本当に明奈を心配しているもので、言い返す権利の持たない俺はぐうの音もでない。
明奈が引き取られたという不動家については分からなかったが、入学式の時の明奈の様子を思い出すに、不自由なく暮らせているのだろう。冷たく当たった時の傷を癒してもらえてることを祈るばかりだった。
「……お姉ちゃん、私達の事忘れた訳じゃなくてよかった」
一通り怒ったのちに安心したようにほっと息を吐く春奈。
聞けばそれぞれ引き取られてからもしばらく手紙等のやり取りはしていたらしいが、引越しをするからしばらく連絡を取れないという内容の手紙が最後のものらしい。
「勉学に励んで時間を取れなかったのかもしれないな……学園にいることは確かなんだ。あいつにもすぐに会えるさ」
「お兄ちゃん……うん!」
気休めではあるもののそう結論を出した後に、寂しそうな春奈をそう元気づければ笑みが戻り、そのことに安堵した。
俺は春奈と再び兄妹に戻れたからこそ、明奈にもすぐ会える。そして三人の兄妹に戻れるという希望を持っていた。
その翌日の学園で、不動明奈という一年生が昨日限りで帝国学園を去ったと聞かされることも知らずに。