寂しがり少女
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要塞みたいな見た目は相変わらずだな、と久々の帝国学園を見て目を細める。
元々通っていたの学校だけど思い入れはあまりなく、私にとっては“あの男”を思い出す場所だった。
脳裏を掠める同じような内装の潜水艦を忘れるように首を振って私は無機質な廊下を歩いていく。
万が一迷ってもいいようにと集合時間よりずっと早めの時間に訪れた私の判断は間違ってなかったなとグラウンドを目指して歩くこと数分後、どこか見覚えのある場所に出た。
この学園で覚えている場所があるのかと記憶を辿ってみる。
ー『人違いだ』
ガンッ
「……思い出すんじゃなかった」
思わず、廊下へ体を打ち付けた。鉄製の壁にぶつけた頭はじぃんと痛むが今の私にはどうでもよくて、手で顔半分を覆いながら大きく息を吐く。
同時に前方から足音が聞こえたかと思えば、すぐに曲がり角から人がやって来た。
「……あ」
「……お前」
現れた人は私がいることに驚いているのか、眼帯に隠れていない橙色の瞳を見開いていた。
「壁に凭れてどうした」
「……っ、何でも」
驚いている理由が壁にくっついていることも含まれていることに気づいて、私は慌てて体を起こして目の前にいるー佐久間次郎さんを見る。
「……そっちのチームも帝国学園で練習ですか」
「いや。こっちのチームは雷門で練習をする。俺はMRにある荷物を取りに来ただけだ」
「ああ……だから」
改めて佐久間さんを見れば確かに帝国のスポーツバックを肩にかけていて、練習前に取りに来たから自分と鉢合わせたのだろう。
「…………真・帝国学園の件はすみませんでした」
少しの沈黙の後に、私は謝罪の言葉を口にした。
「源田から聞いたんだろ」
佐久間さんの顔は相変わらず見れないけれど、聞こえた声は平然としていた。
「あの一件は自分の弱さが招いた結果だ。帝国イレブンとしてまた一から鍛え直すだけだ」
「……そうですか」
強い人達だと思った。
源田さんの時も思ったけれど、やっぱり2人共あの時のことを……挫折を強さに変えて、前に進もうとしている。
いつまでも動けないのは、私だけ。
「まあ入院したばかりの頃はお前を毎日呪っていたけどな」
「いやなセンパイだ……」
「恨み言言うぐらい可愛いもんだろ」
さらりと言い放つ佐久間さんの言葉に前言撤回しそうになるが、表情を緩めている彼を初めて目にして思わず口を閉ざした。
「……お前はどうなんだ」
「え?」
一拍置いて、佐久間さんに主語のない質問に首を傾げれば、彼は俯きながら話を続けた。
「禁断の技……お前も、使ってただろ」
「ああ……」
私が実際に手本を見せた事なんて、覚えていないだろうと思っていたからその指摘に驚いた。
「生憎私はそんなに軟じゃないですよ。……なーんて、エイリア石のおかげですけどね」
先程のお返しに大袈裟に両腕を広げて笑ってみせるが、佐久間さんの表情は固いままだ。……やっぱりこういうの下手だな自分。
私はすぐに笑顔を諦めて、両腕を下げながら疑問を口にした。
「私がそれ使ってたこと、誰か……いや、あの人に言いましたか」
「……言ってない」
名前は言えなかったけれど、伝わったらしく佐久間さんは首を横に振った。
その言葉に私はほっと息をついた。
「よかった。大事な選考試合の前に影山の事を思い出させるのは酷ですもんね」
「……は?」
私の言葉に佐久間さんは顔を上げた。
目を見開いてこちらを見る佐久間さんの言いたいことは分かるので、私は肩を竦めて笑った。
「そうですね。そんな気遣いできるなら……私がここにいることは矛盾している」
私がいることで真・帝国学園や影山の事を思い出して苦しむことを分かっていたにもかかわらず、結局この場に姿を現わしたんだ。
きっと佐久間さんはそんな自分の言葉に困惑してるんだろう。自分勝手な奴だと思われたかもしれない……なんて、今更か。
「違うだろッ!」
キンッと怒鳴り声が頭に響いて、咄嗟に手で耳を押さえながら声の方を見れば、佐久間さんが鋭い目つきで私を睨んでいた。
……あの時と違って黒い感情は全くない、ただ怒りを感じられる目だった。
「佐久間さん……?」
「俺が言わなかったのは鬼道が心配すると思ったからだ……!アイツがあんなに必死に探していた妹とあの男を重ねる訳ないだろ!」
ハッキリとした否定の言葉は兄への信頼の証だ。
だから、兄をそんな人間だと捉える私が許せないのだろう。
「……そんな、怒鳴る事かよ」
その姿を見て感じるのは、真・帝国の事も和解できていて安心する気持ちと、原因不明の少しの苛立ち。
源田先輩の時には感じなかった感情に私は戸惑うことしかできずに、ぽつりと呟く。
私のその感情の正体が分かる前に、
「兄妹なのになぜ分からない!」
「……ッ!!」
そんな指摘に、一瞬息が詰まった。
「……鬼道鬼道、うるせぇんだよ……!」
私はぐしゃりと前髪を搔き乱して、目の前の佐久間さんを睨みつけ彼の襟首を掴んだ。
「分からなかったからっ、あんな事をしたんだろうがッ!!」
頭の中の冷静な部分で彼の言葉の理解はしていたはずなのに、感情は止められず気づいた時には怒鳴りつけていた。
「兄妹だから何だ!?何年離れたと思ってんだよ!!今さらっ……今さら私にあの人の気持ちなんてっ、分かる訳ないだろ……!!?」
自分勝手に周りを傷つけた私なんかの名前を呼んでくれる兄の気持ちなんて、私には分かるはずもない……!!
嘆くことしかできない自分が情けなく感じて佐久間さんを睨む視界がじわりとぼやけた時だった。
「何をしてるんだ!!」
突然第三者の怒鳴り声が聞えたと同時に、肩を掴まれて佐久間さんから引き剥がされた。
「……あ……」
「……風丸」
現れたのは風丸さんだった。
昨日の時よりも鋭い目つきがこちらを睨みつけてきて、思わず俯いた。
「……何を、してた」
「…………」
「風丸、俺は平気だ」
何も言えない私の代わりに佐久間さんが口を開いた。
さっきまでの怒りはどこかに行ったのか落ち着いた様子でジャージの襟を直しながら風丸さんと軽く話していた。聞こえてきた内容は自分が帝国学園にいる理由を手身近に説明しているものだった。
「騒がしくして悪かった」
顔を上げた時には、佐久間さんは私のせいで足元に落ちてしまったスポーツバックを手に取って歩き出そうとしていた。
そのとき目線が合って、そこで私はさっきの態度を謝らないとと口を開こうとするけど先に佐久間さんが口を開いた。
「俺は、源田のようにお前に接することはできない」
ポツリと吐き出された言葉に分かりやすい壁を感じたのと、私が源田先輩に甘えていると言われてる気がして、
「こっちだって、願い下げだ……!」
謝るために開いた口はそんな八つ当たりしかできなかった。
「……不動」
佐久間さんが去ってから私は何もできずに立ち尽くしていたところに名前を呼ばれ、顔を上げれば風丸さんが私が放り投げてしまっていたスポーツバックを差し出してくれていた。
「……すみません」
「それを言うのは俺じゃないだろ」
受け取りながら思わず謝れば眉を寄せられて一言そう窘められた。
「……大事な選考試合前に、あんな風に乱暴に掴んで佐久間に怪我をしたら危ないだろ、分かるな?」
「……はい」
……もっともすぎて、何も言えなくなる。
帽子があったら顔を隠していただろうけど、生憎帽子は紛失中だ。……雷門に行ったら探さないとな。
「よし、じゃあ行こう」
私の顔をじっと見ていた風丸さんだったけど、一息ついてそう提案された。
「……どこに?」
「どこって……練習に決まってるだろ」
そのために帝国学園に来たんだろ?と首を傾げる風丸さんに今度は私が眉を寄せてしまった。
風丸さんが言う事は至極真っ当だ。だけど、
「よく私と一緒に行けますね……真・帝国の事もあったのに」
普通ならさっさと別れてグラウンドに行くだろう。
私が風丸さんの立場ならそうしてる……何なら掴みかかってる現場に遭遇しても見て見ぬふりをしているかもしれない。
「……真・帝国学園の事についてお前を𠮟る権利、俺にはないよ」
私の言葉に対する風丸さんは困ったように笑っていた。
予想外の反応にどう返すべきか迷っていると「とりあえず向かうか」と言いながら私が歩き出すのを待っていて、私は仕方なく彼の隣へと向かった。
かつてあの人が歩いていた、サッカーグラウンドへと続く廊下を成り行きで風丸さんと一緒に歩いていると、ふと彼が口を開いた。
「……羨ましかったんだ。あんな風にシュートを打てるお前が」
「えっ」
突然の告白に私は一瞬何のことか分からなくて固まりそうになる。
ー『羨ましいよ。お前が』
けれど、あの試合の時に彼に掛けられた言葉を思い出せば、自ずとその言葉の意味が分かった。
「……エイリア石のおかげですよ」
石の効果で身体強化された時の自分を指していたようで、一応もうつけてませんけどね。と佐久間さんに見せたように腕を広げてみせれば風丸さんは分かってる、と頷いた。
「俺が羨ましいと思っていたあの石の力は……仲間を傷つけただけだった」
「…………は?」
私は今度こそ固まった。
「…………使ったんですか?」
「ああ…………言っただろ。𠮟る権利がないって」
それはエイリア石を手に取ったと言っているように聞こえて、思わず彼を見れば風丸さんは焦る様子もなくすぐに頷いて、それから少し困ったように笑った。
……私のように周りを傷つける試合をしたから、ということらしい。
「……なんか……意外ですね。……雷門中の人はそういった事をしない人達だと思ってたので」
私はスポーツバックを抱え直しながら率直な感想を口にして、ちらりと風丸さんを見て、さっきの発言を後悔する。
「……そう、だったらよかったんだけどな」
「あ…………すみません」
あまりにも切ない表情と声に、私が知らない所でいろんな問題があったのだろうと察してしまう。
「いや、こっちこそ。勝手に思い出して勝手に落ち込んで悪いな」
私の謝罪に風丸さんはすぐに表情を戻して、頬を掻いて笑みを浮かべた。
「それに今は、みんなサッカーの楽しさを思い出せたから大丈夫だ」
「それは……よかったですね」
エイリア学園を倒すために力を付ける方法で雷門同士で衝突したけれど、最終的に解決した……といった話なのだろう。
私は無難な返事を返しながら、なんで私に話しているんだろうと内心首を傾げていると。
「不動もあまり、過去の事で自分を追い込むなよ」
そう風丸さんは目を合わせて言った。
「……え」
そこで、風丸さんが思い出したくないだろう事までわざわざ私に教えてそんな話をしたのか分かった。
……真面目な人だとは思っていたけれど、さらにお人好しなんだろう。
あの時の陰は一切感じさせない、真っ直ぐな瞳に既視感を感じつつ、私は何を言うべきかわからなくて、一度口を開いて閉じた。
「…………先に、失礼します」
それから何とか吐き出せた一言と一緒に頭を下げて、頭を上げると同時に私はサッカーグラウンドへと駆けだす。
端的に言うと、風丸さんから逃げた。
サッカーグラウンドは予想通り、誰もいなくて一番乗りだった。
私はグラウンド内の人工芝に足を踏み入れたところで足を止めて、息を整えている最中、ふと真上を見れば真っ暗な天井が広がっていて。
そこから鉄骨が降り注いでこのサッカーグラウンドに突き刺さった中継映像を思い出して、私は思わずその場に蹲った。
「……一緒な訳、ないじゃん」
風丸さんは、私に気を遣ってああ言ってくれたのだろう。
だけど、私は風丸さんや佐久間さん達みたいにエイリア石の洗脳を受けていた訳ではない(多少の影響はあったかもしれないけれど)
あの時だって、鉄骨が落ちると分かっているグラウンドを眺めていた。
誰にも操られていない自分の意思で家族を信じず、傷つけた自分とは同じである訳ないんだ。
元々通っていたの学校だけど思い入れはあまりなく、私にとっては“あの男”を思い出す場所だった。
脳裏を掠める同じような内装の潜水艦を忘れるように首を振って私は無機質な廊下を歩いていく。
万が一迷ってもいいようにと集合時間よりずっと早めの時間に訪れた私の判断は間違ってなかったなとグラウンドを目指して歩くこと数分後、どこか見覚えのある場所に出た。
この学園で覚えている場所があるのかと記憶を辿ってみる。
ー『人違いだ』
ガンッ
「……思い出すんじゃなかった」
思わず、廊下へ体を打ち付けた。鉄製の壁にぶつけた頭はじぃんと痛むが今の私にはどうでもよくて、手で顔半分を覆いながら大きく息を吐く。
同時に前方から足音が聞こえたかと思えば、すぐに曲がり角から人がやって来た。
「……あ」
「……お前」
現れた人は私がいることに驚いているのか、眼帯に隠れていない橙色の瞳を見開いていた。
「壁に凭れてどうした」
「……っ、何でも」
驚いている理由が壁にくっついていることも含まれていることに気づいて、私は慌てて体を起こして目の前にいるー佐久間次郎さんを見る。
「……そっちのチームも帝国学園で練習ですか」
「いや。こっちのチームは雷門で練習をする。俺はMRにある荷物を取りに来ただけだ」
「ああ……だから」
改めて佐久間さんを見れば確かに帝国のスポーツバックを肩にかけていて、練習前に取りに来たから自分と鉢合わせたのだろう。
「…………真・帝国学園の件はすみませんでした」
少しの沈黙の後に、私は謝罪の言葉を口にした。
「源田から聞いたんだろ」
佐久間さんの顔は相変わらず見れないけれど、聞こえた声は平然としていた。
「あの一件は自分の弱さが招いた結果だ。帝国イレブンとしてまた一から鍛え直すだけだ」
「……そうですか」
強い人達だと思った。
源田さんの時も思ったけれど、やっぱり2人共あの時のことを……挫折を強さに変えて、前に進もうとしている。
いつまでも動けないのは、私だけ。
「まあ入院したばかりの頃はお前を毎日呪っていたけどな」
「いやなセンパイだ……」
「恨み言言うぐらい可愛いもんだろ」
さらりと言い放つ佐久間さんの言葉に前言撤回しそうになるが、表情を緩めている彼を初めて目にして思わず口を閉ざした。
「……お前はどうなんだ」
「え?」
一拍置いて、佐久間さんに主語のない質問に首を傾げれば、彼は俯きながら話を続けた。
「禁断の技……お前も、使ってただろ」
「ああ……」
私が実際に手本を見せた事なんて、覚えていないだろうと思っていたからその指摘に驚いた。
「生憎私はそんなに軟じゃないですよ。……なーんて、エイリア石のおかげですけどね」
先程のお返しに大袈裟に両腕を広げて笑ってみせるが、佐久間さんの表情は固いままだ。……やっぱりこういうの下手だな自分。
私はすぐに笑顔を諦めて、両腕を下げながら疑問を口にした。
「私がそれ使ってたこと、誰か……いや、あの人に言いましたか」
「……言ってない」
名前は言えなかったけれど、伝わったらしく佐久間さんは首を横に振った。
その言葉に私はほっと息をついた。
「よかった。大事な選考試合の前に影山の事を思い出させるのは酷ですもんね」
「……は?」
私の言葉に佐久間さんは顔を上げた。
目を見開いてこちらを見る佐久間さんの言いたいことは分かるので、私は肩を竦めて笑った。
「そうですね。そんな気遣いできるなら……私がここにいることは矛盾している」
私がいることで真・帝国学園や影山の事を思い出して苦しむことを分かっていたにもかかわらず、結局この場に姿を現わしたんだ。
きっと佐久間さんはそんな自分の言葉に困惑してるんだろう。自分勝手な奴だと思われたかもしれない……なんて、今更か。
「違うだろッ!」
キンッと怒鳴り声が頭に響いて、咄嗟に手で耳を押さえながら声の方を見れば、佐久間さんが鋭い目つきで私を睨んでいた。
……あの時と違って黒い感情は全くない、ただ怒りを感じられる目だった。
「佐久間さん……?」
「俺が言わなかったのは鬼道が心配すると思ったからだ……!アイツがあんなに必死に探していた妹とあの男を重ねる訳ないだろ!」
ハッキリとした否定の言葉は兄への信頼の証だ。
だから、兄をそんな人間だと捉える私が許せないのだろう。
「……そんな、怒鳴る事かよ」
その姿を見て感じるのは、真・帝国の事も和解できていて安心する気持ちと、原因不明の少しの苛立ち。
源田先輩の時には感じなかった感情に私は戸惑うことしかできずに、ぽつりと呟く。
私のその感情の正体が分かる前に、
「兄妹なのになぜ分からない!」
「……ッ!!」
そんな指摘に、一瞬息が詰まった。
「……鬼道鬼道、うるせぇんだよ……!」
私はぐしゃりと前髪を搔き乱して、目の前の佐久間さんを睨みつけ彼の襟首を掴んだ。
「分からなかったからっ、あんな事をしたんだろうがッ!!」
頭の中の冷静な部分で彼の言葉の理解はしていたはずなのに、感情は止められず気づいた時には怒鳴りつけていた。
「兄妹だから何だ!?何年離れたと思ってんだよ!!今さらっ……今さら私にあの人の気持ちなんてっ、分かる訳ないだろ……!!?」
自分勝手に周りを傷つけた私なんかの名前を呼んでくれる兄の気持ちなんて、私には分かるはずもない……!!
嘆くことしかできない自分が情けなく感じて佐久間さんを睨む視界がじわりとぼやけた時だった。
「何をしてるんだ!!」
突然第三者の怒鳴り声が聞えたと同時に、肩を掴まれて佐久間さんから引き剥がされた。
「……あ……」
「……風丸」
現れたのは風丸さんだった。
昨日の時よりも鋭い目つきがこちらを睨みつけてきて、思わず俯いた。
「……何を、してた」
「…………」
「風丸、俺は平気だ」
何も言えない私の代わりに佐久間さんが口を開いた。
さっきまでの怒りはどこかに行ったのか落ち着いた様子でジャージの襟を直しながら風丸さんと軽く話していた。聞こえてきた内容は自分が帝国学園にいる理由を手身近に説明しているものだった。
「騒がしくして悪かった」
顔を上げた時には、佐久間さんは私のせいで足元に落ちてしまったスポーツバックを手に取って歩き出そうとしていた。
そのとき目線が合って、そこで私はさっきの態度を謝らないとと口を開こうとするけど先に佐久間さんが口を開いた。
「俺は、源田のようにお前に接することはできない」
ポツリと吐き出された言葉に分かりやすい壁を感じたのと、私が源田先輩に甘えていると言われてる気がして、
「こっちだって、願い下げだ……!」
謝るために開いた口はそんな八つ当たりしかできなかった。
「……不動」
佐久間さんが去ってから私は何もできずに立ち尽くしていたところに名前を呼ばれ、顔を上げれば風丸さんが私が放り投げてしまっていたスポーツバックを差し出してくれていた。
「……すみません」
「それを言うのは俺じゃないだろ」
受け取りながら思わず謝れば眉を寄せられて一言そう窘められた。
「……大事な選考試合前に、あんな風に乱暴に掴んで佐久間に怪我をしたら危ないだろ、分かるな?」
「……はい」
……もっともすぎて、何も言えなくなる。
帽子があったら顔を隠していただろうけど、生憎帽子は紛失中だ。……雷門に行ったら探さないとな。
「よし、じゃあ行こう」
私の顔をじっと見ていた風丸さんだったけど、一息ついてそう提案された。
「……どこに?」
「どこって……練習に決まってるだろ」
そのために帝国学園に来たんだろ?と首を傾げる風丸さんに今度は私が眉を寄せてしまった。
風丸さんが言う事は至極真っ当だ。だけど、
「よく私と一緒に行けますね……真・帝国の事もあったのに」
普通ならさっさと別れてグラウンドに行くだろう。
私が風丸さんの立場ならそうしてる……何なら掴みかかってる現場に遭遇しても見て見ぬふりをしているかもしれない。
「……真・帝国学園の事についてお前を𠮟る権利、俺にはないよ」
私の言葉に対する風丸さんは困ったように笑っていた。
予想外の反応にどう返すべきか迷っていると「とりあえず向かうか」と言いながら私が歩き出すのを待っていて、私は仕方なく彼の隣へと向かった。
かつてあの人が歩いていた、サッカーグラウンドへと続く廊下を成り行きで風丸さんと一緒に歩いていると、ふと彼が口を開いた。
「……羨ましかったんだ。あんな風にシュートを打てるお前が」
「えっ」
突然の告白に私は一瞬何のことか分からなくて固まりそうになる。
ー『羨ましいよ。お前が』
けれど、あの試合の時に彼に掛けられた言葉を思い出せば、自ずとその言葉の意味が分かった。
「……エイリア石のおかげですよ」
石の効果で身体強化された時の自分を指していたようで、一応もうつけてませんけどね。と佐久間さんに見せたように腕を広げてみせれば風丸さんは分かってる、と頷いた。
「俺が羨ましいと思っていたあの石の力は……仲間を傷つけただけだった」
「…………は?」
私は今度こそ固まった。
「…………使ったんですか?」
「ああ…………言っただろ。𠮟る権利がないって」
それはエイリア石を手に取ったと言っているように聞こえて、思わず彼を見れば風丸さんは焦る様子もなくすぐに頷いて、それから少し困ったように笑った。
……私のように周りを傷つける試合をしたから、ということらしい。
「……なんか……意外ですね。……雷門中の人はそういった事をしない人達だと思ってたので」
私はスポーツバックを抱え直しながら率直な感想を口にして、ちらりと風丸さんを見て、さっきの発言を後悔する。
「……そう、だったらよかったんだけどな」
「あ…………すみません」
あまりにも切ない表情と声に、私が知らない所でいろんな問題があったのだろうと察してしまう。
「いや、こっちこそ。勝手に思い出して勝手に落ち込んで悪いな」
私の謝罪に風丸さんはすぐに表情を戻して、頬を掻いて笑みを浮かべた。
「それに今は、みんなサッカーの楽しさを思い出せたから大丈夫だ」
「それは……よかったですね」
エイリア学園を倒すために力を付ける方法で雷門同士で衝突したけれど、最終的に解決した……といった話なのだろう。
私は無難な返事を返しながら、なんで私に話しているんだろうと内心首を傾げていると。
「不動もあまり、過去の事で自分を追い込むなよ」
そう風丸さんは目を合わせて言った。
「……え」
そこで、風丸さんが思い出したくないだろう事までわざわざ私に教えてそんな話をしたのか分かった。
……真面目な人だとは思っていたけれど、さらにお人好しなんだろう。
あの時の陰は一切感じさせない、真っ直ぐな瞳に既視感を感じつつ、私は何を言うべきかわからなくて、一度口を開いて閉じた。
「…………先に、失礼します」
それから何とか吐き出せた一言と一緒に頭を下げて、頭を上げると同時に私はサッカーグラウンドへと駆けだす。
端的に言うと、風丸さんから逃げた。
サッカーグラウンドは予想通り、誰もいなくて一番乗りだった。
私はグラウンド内の人工芝に足を踏み入れたところで足を止めて、息を整えている最中、ふと真上を見れば真っ暗な天井が広がっていて。
そこから鉄骨が降り注いでこのサッカーグラウンドに突き刺さった中継映像を思い出して、私は思わずその場に蹲った。
「……一緒な訳、ないじゃん」
風丸さんは、私に気を遣ってああ言ってくれたのだろう。
だけど、私は風丸さんや佐久間さん達みたいにエイリア石の洗脳を受けていた訳ではない(多少の影響はあったかもしれないけれど)
あの時だって、鉄骨が落ちると分かっているグラウンドを眺めていた。
誰にも操られていない自分の意思で家族を信じず、傷つけた自分とは同じである訳ないんだ。