寂しがり少女
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知ってる人半分、知らない人半分、といったところか。
勢いでつい体育館に戻って来てしまい、入れば視線が一気に集まり体が固まりそうになったものの、話しかけてくれた綱海さんのおかげで平然とした態度を貫けた。
それからすぐにやってきた響木さんに内心安堵しながら、話を聞こうと移動した際に飛鷹さんを見つけて思わず「遅い」と周りにバレない程度に肘を当てた八つ当たりをすれば軽く睨まれたが、すぐに話し始めた響木さんの方へと顔を向けた。
「お前たちは、日本代表候補の強化選手だ!」
フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFI。
少年サッカーの世界一を決める大会が開催されるに当たってここに集まったのはその代表候補だと響木さんは言った。
サッカー少年にとって世界を相手にする機会に周りから喜色の声が上がる。隣の飛鷹さんだって緊張した様子で髪を櫛で梳いていた。
少年……か。
私は咄嗟に帽子で顔を隠そうとしたものの、その帽子がない事に気づいてすぐに腕を戻した。
「あくまでこの22人は候補だ。この中から16人に絞り込む」
そんな彼らを宥めるように響木さんがそう伝えて、それから響木さんの隣に控えていたマネージャーから詳しい説明を始める。
11人ずつの二チームに分かれ、二日後に日本代表選考試合が行われるらしく、すぐにそのチーム編成も発表された。
「円堂、鬼道。お前たちがそれぞれのキャプテンだ」
私が入ったのは鬼道さんがキャプテンのチームだった。しかも担当マネージャーはついさっき会ったあの子で。
ため息をつきそうになるも、きっと向こうの方がそう思っているだろうし我慢する。
「試合は二日後。一人一人の能力を見るために連携技は禁止とする。持てる力の全てを出してぶつかれ!」
「はい!!」
響木さんの言葉に応えるような元気な返事が体育館へと響いた。
それから響木さんが去った後に、チーム同士で集まって今後の予定を決めることになった。
先程まで痛いほど視線を感じていたものの、流石というべきか鬼道さんはキャプテンとして切り替えていて、明日からの練習場所と時間を決めていた。私は壁に凭れ掛かりながらぼんやりとそんな彼の姿を眺めていると、
「なぁ!」
「っ!?」
真隣から溌剌とした声で声を掛けられて肩が跳ねた。慌てて顔を向ければ更に驚く。
「……話す人間違えてませんか?」
「え?」
私へ声を掛けたのはオレンジ色のバンダナをしたのは雷門サッカー部の……何なら選考試合の相手チームのキャプテンである円堂守さんだった。
キャプテンである鬼道さんに用件でもあるのかと思わず口に出してしまったがぽかんとした顔を見る限り違うらしい。
「お前、真帝国の不動だろ!久しぶりだなっ!」
挨拶できてなかったなと思って、と気を取り直して笑顔を浮かべた円堂さんは私へと真っ直ぐ手を伸ばした。
私はその手を見てから、再び円堂さんの顔を見る。
「何ですか……」
「お前ともサッカーできるの、楽しみにしてる!」
真帝国の事を覚えていても尚、私に目を合わせて手を伸ばす円堂さんにくらりとめまいがしそうな感覚に陥った。
ああいっそ、委ねてしまおうか。
『あの時はごめんなさい。凄く反省しているので、仲良くしましょう』
そう笑って彼の手を取れば、いろいろ有耶無耶にして穏やかに終わらせるのでは?
なんて、どの口が言ってんだ。
「不動?」
全く動こうとしない私に首を傾げる円堂さん。
その後ろで円堂さん側のチームの人が円堂さんを慌てて止めようとしているのが視界の端にちらついた。
「…………ハッ、馬鹿じゃねぇの」
私は円堂さんの手を取る事なく、ジャージのポケットに手を突っ込んで笑みを浮かべた。
彼の太陽のような笑顔とは全く違うものだという自覚はあった。
「蹴落とし合いする奴らと仲良しこよしする気はありません」
それから私は壁から背中を離して体育館の出入り口へと、歩き出した。
「不動!話し合いはまだ終わってないぞ!」
そんな私を呼び止めたのは同じチームの青髪にポニーテールの……思い出した。風丸さんだ。
真面目な人なんだろうと思うが、今の自分に聞く義理はない。
「もう話すことは終わったでしょう。ですよねー!鬼道さん!」
「……ああ」
帝国学園に8時集合だと決まっている以上、もう留まる理由はないだろうと、鬼道さんに声を掛ければ彼は少しの間の後に短く肯定した。
だってさ、と納得できてなさそうな風丸さんに一言言ってから私は今度こそ体育館の出入り口まで歩き出す。
「明奈っ……」
「私は」
堪らず、といった様子で私を呼び止めようとする鬼道さんの顔も碌に見れないまま口だけ動かした。
「貴方達を兄妹だと呼べる資格なんてない」
それだけ呟いて、私はさっさと靴を履いて体育館から去った。
+++
家へと帰るため駅へと行く前に立ち寄ったのは商店街で、私はまだ暖簾をしていない雷雷軒へ入る。店は準備中で大鍋でスープを煮込んでいた響木さんがこちらを見るが、すぐに大鍋へと視線を戻しながら口を開いた。
「どうした、不動。飛鷹なら今日は来ないぞ」
「……なんで」
その理由は、単純な疑問を解消するためだった。
私はカウンターへと勝手に座って、響木さんの背中を見ながらその疑問を口にした。
「少年サッカーの大会で、女子の私を代表候補に入れたんですか」
世界大会という話が出た時にそこまで驚かなかった。
体育館に集められている人選を見る限り、察することはできた。……ただ自分の存在を除いて。
「FFIの規約に基づいた人選だ。サッカー協会も承諾している」
「そう……ですか」
ただそう言われてしまえば、私は何も返すことはできない。
「怖気づいたか?」
その言葉にバッと顔を上げれば、ニヤリと笑った響木さんがお玉片手にそんな挑発をしてきた。
「はっ、冗談」
私は迷わずそう返した。
「男子に混ざってサッカーなんて今に始まったことじゃない。このまま女子サッカー界も盛り上げてやるよ」
代表候補に選ばれて、嬉しくないわけではない。
それに響木さんは男女による体格差や力量の違いといった懸念材料込みで私を人選してくれたのなら……そのチャンスを手放したくなかった。
…………ただ、それはサッカー選手としての感情で。
「ただ……」
「ん?」
私はカウンターの上へ腕を組みながら顔を伏せれば、響木さんは聞き返しながら言葉の続きを待ってくれた。
まだまとめきれないながらも、吐き出さずには入れなくて数秒唸りながらポツリと呟く。
「周りが、優しすぎて……なんていうか、苦しくなる」
苦しくなる、という表現を口にしたけれど合っているか分からなかった。
だけど、綱海さんや円堂さんの真っ直ぐな笑顔や、私に声を掛けてくれる兄妹を思い浮かべると、胸の中に渦巻く感情が上手く消化できなくて項垂れることしかできない。
「わわっ!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる感覚に、私は慌てて顔を上げる。見れば、響木さんがカウンター越しに手を伸ばしていて撫でられたんだと納得する。
「それを乗り越えればお前はさらに強くなれる。期待してるぞ」
そこにはカウンター越しで私に手を伸ばす響木さんがいて、どこか楽しげにそう言ってから再び厨房へと戻っていた。
「……意味、分かんない」
私は乱暴に撫でられたせいで乱れた髪を直しながらそう呟くことしかできなかった。
勢いでつい体育館に戻って来てしまい、入れば視線が一気に集まり体が固まりそうになったものの、話しかけてくれた綱海さんのおかげで平然とした態度を貫けた。
それからすぐにやってきた響木さんに内心安堵しながら、話を聞こうと移動した際に飛鷹さんを見つけて思わず「遅い」と周りにバレない程度に肘を当てた八つ当たりをすれば軽く睨まれたが、すぐに話し始めた響木さんの方へと顔を向けた。
「お前たちは、日本代表候補の強化選手だ!」
フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFI。
少年サッカーの世界一を決める大会が開催されるに当たってここに集まったのはその代表候補だと響木さんは言った。
サッカー少年にとって世界を相手にする機会に周りから喜色の声が上がる。隣の飛鷹さんだって緊張した様子で髪を櫛で梳いていた。
少年……か。
私は咄嗟に帽子で顔を隠そうとしたものの、その帽子がない事に気づいてすぐに腕を戻した。
「あくまでこの22人は候補だ。この中から16人に絞り込む」
そんな彼らを宥めるように響木さんがそう伝えて、それから響木さんの隣に控えていたマネージャーから詳しい説明を始める。
11人ずつの二チームに分かれ、二日後に日本代表選考試合が行われるらしく、すぐにそのチーム編成も発表された。
「円堂、鬼道。お前たちがそれぞれのキャプテンだ」
私が入ったのは鬼道さんがキャプテンのチームだった。しかも担当マネージャーはついさっき会ったあの子で。
ため息をつきそうになるも、きっと向こうの方がそう思っているだろうし我慢する。
「試合は二日後。一人一人の能力を見るために連携技は禁止とする。持てる力の全てを出してぶつかれ!」
「はい!!」
響木さんの言葉に応えるような元気な返事が体育館へと響いた。
それから響木さんが去った後に、チーム同士で集まって今後の予定を決めることになった。
先程まで痛いほど視線を感じていたものの、流石というべきか鬼道さんはキャプテンとして切り替えていて、明日からの練習場所と時間を決めていた。私は壁に凭れ掛かりながらぼんやりとそんな彼の姿を眺めていると、
「なぁ!」
「っ!?」
真隣から溌剌とした声で声を掛けられて肩が跳ねた。慌てて顔を向ければ更に驚く。
「……話す人間違えてませんか?」
「え?」
私へ声を掛けたのはオレンジ色のバンダナをしたのは雷門サッカー部の……何なら選考試合の相手チームのキャプテンである円堂守さんだった。
キャプテンである鬼道さんに用件でもあるのかと思わず口に出してしまったがぽかんとした顔を見る限り違うらしい。
「お前、真帝国の不動だろ!久しぶりだなっ!」
挨拶できてなかったなと思って、と気を取り直して笑顔を浮かべた円堂さんは私へと真っ直ぐ手を伸ばした。
私はその手を見てから、再び円堂さんの顔を見る。
「何ですか……」
「お前ともサッカーできるの、楽しみにしてる!」
真帝国の事を覚えていても尚、私に目を合わせて手を伸ばす円堂さんにくらりとめまいがしそうな感覚に陥った。
ああいっそ、委ねてしまおうか。
『あの時はごめんなさい。凄く反省しているので、仲良くしましょう』
そう笑って彼の手を取れば、いろいろ有耶無耶にして穏やかに終わらせるのでは?
なんて、どの口が言ってんだ。
「不動?」
全く動こうとしない私に首を傾げる円堂さん。
その後ろで円堂さん側のチームの人が円堂さんを慌てて止めようとしているのが視界の端にちらついた。
「…………ハッ、馬鹿じゃねぇの」
私は円堂さんの手を取る事なく、ジャージのポケットに手を突っ込んで笑みを浮かべた。
彼の太陽のような笑顔とは全く違うものだという自覚はあった。
「蹴落とし合いする奴らと仲良しこよしする気はありません」
それから私は壁から背中を離して体育館の出入り口へと、歩き出した。
「不動!話し合いはまだ終わってないぞ!」
そんな私を呼び止めたのは同じチームの青髪にポニーテールの……思い出した。風丸さんだ。
真面目な人なんだろうと思うが、今の自分に聞く義理はない。
「もう話すことは終わったでしょう。ですよねー!鬼道さん!」
「……ああ」
帝国学園に8時集合だと決まっている以上、もう留まる理由はないだろうと、鬼道さんに声を掛ければ彼は少しの間の後に短く肯定した。
だってさ、と納得できてなさそうな風丸さんに一言言ってから私は今度こそ体育館の出入り口まで歩き出す。
「明奈っ……」
「私は」
堪らず、といった様子で私を呼び止めようとする鬼道さんの顔も碌に見れないまま口だけ動かした。
「貴方達を兄妹だと呼べる資格なんてない」
それだけ呟いて、私はさっさと靴を履いて体育館から去った。
+++
家へと帰るため駅へと行く前に立ち寄ったのは商店街で、私はまだ暖簾をしていない雷雷軒へ入る。店は準備中で大鍋でスープを煮込んでいた響木さんがこちらを見るが、すぐに大鍋へと視線を戻しながら口を開いた。
「どうした、不動。飛鷹なら今日は来ないぞ」
「……なんで」
その理由は、単純な疑問を解消するためだった。
私はカウンターへと勝手に座って、響木さんの背中を見ながらその疑問を口にした。
「少年サッカーの大会で、女子の私を代表候補に入れたんですか」
世界大会という話が出た時にそこまで驚かなかった。
体育館に集められている人選を見る限り、察することはできた。……ただ自分の存在を除いて。
「FFIの規約に基づいた人選だ。サッカー協会も承諾している」
「そう……ですか」
ただそう言われてしまえば、私は何も返すことはできない。
「怖気づいたか?」
その言葉にバッと顔を上げれば、ニヤリと笑った響木さんがお玉片手にそんな挑発をしてきた。
「はっ、冗談」
私は迷わずそう返した。
「男子に混ざってサッカーなんて今に始まったことじゃない。このまま女子サッカー界も盛り上げてやるよ」
代表候補に選ばれて、嬉しくないわけではない。
それに響木さんは男女による体格差や力量の違いといった懸念材料込みで私を人選してくれたのなら……そのチャンスを手放したくなかった。
…………ただ、それはサッカー選手としての感情で。
「ただ……」
「ん?」
私はカウンターの上へ腕を組みながら顔を伏せれば、響木さんは聞き返しながら言葉の続きを待ってくれた。
まだまとめきれないながらも、吐き出さずには入れなくて数秒唸りながらポツリと呟く。
「周りが、優しすぎて……なんていうか、苦しくなる」
苦しくなる、という表現を口にしたけれど合っているか分からなかった。
だけど、綱海さんや円堂さんの真っ直ぐな笑顔や、私に声を掛けてくれる兄妹を思い浮かべると、胸の中に渦巻く感情が上手く消化できなくて項垂れることしかできない。
「わわっ!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる感覚に、私は慌てて顔を上げる。見れば、響木さんがカウンター越しに手を伸ばしていて撫でられたんだと納得する。
「それを乗り越えればお前はさらに強くなれる。期待してるぞ」
そこにはカウンター越しで私に手を伸ばす響木さんがいて、どこか楽しげにそう言ってから再び厨房へと戻っていた。
「……意味、分かんない」
私は乱暴に撫でられたせいで乱れた髪を直しながらそう呟くことしかできなかった。