寂しがり少女
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音無視点
響木監督からとある大会のマネージャーとして選ばれて、その代表候補の選手が集まる当日。
夏未さんは響木監督と話があるらしく、私と秋さんは中庭で二人を待っていた。
その間、さっき夏未さんから貰った候補生の名簿を確認していて、そこで見つけた名前を私は何度も見返して、その度に見間違いじゃないことを実感して大きく息を吐く。
「お姉ちゃん……」
私は名簿に印刷されている文字をなぞって呟いた。
不動 明奈。
私の双子のお姉ちゃん。
もちろん名前だけなら同姓同名の人という可能性だってあったけれど、名前の横に所属校として記載されている真・帝国学園という名前がその選手が姉という証明をしてくれていた(あの学園自体にいい思い出はないのに、それのおかげで姉を見つけられたのは皮肉だ)
「お姉さんに会えるといいね」
「はいっ!」
そんな私の様子を見て、秋さんもお姉ちゃんの名前を見つけたのかそう微笑んでくれて私も笑顔で返す。
だって、嬉しかったから。
エイリア学園の事が終わってからお兄ちゃんとお姉ちゃんを探していたけれど、全然見つからないし周りの大人は知っているはずなのになぜか教えてくれない。
けれど、こうして名簿に載っているってことはお姉ちゃんがこの雷門中学校に来てくれるかもしれない。
そう思うとやっぱり嬉しくて。私は名簿を両腕にぎゅうと抱えた。
「あれ」
「?どうしたの春奈ちゃん」
それからしばらく談笑していると、すぐ近くの体育館から離れていく人影に気づいた。体育館に背を向けて立っていた秋さんから見えてなかったので首を傾げられる。
「あ、いえ……さっき体育館から出てった人が見えた、ような」
「入っていく人、じゃなくて?」
他の部の人が間違えて入っちゃったのかな?と首を傾げる秋さんにきっとそうですよ、といつもなら気にせずにそう返したと思う。
だけど、私はその人のことがどうしても気になった。元新聞部としての探求心とは全く違う何かが胸をざわつかせる。
あの人に会わなきゃ、と思ってしまった。
「ちょっと気になるので、見てきますね!」
「えっ春奈ちゃん!?」
気づけば秋さんの返答を待つ前に駆け出していた。
体育館裏なんて大掃除の時に草むしりをするぐらいの場所だけど、その人がこっちに走って行った気がしたので、私は転ばないように足元に気をつけながら歩いて行く。
「ごめん、なさい……」
蚊の鳴くような小さな声が耳に届いて、私は動きを止めた。それからゆっくりと声のする方へ足を進めれば木の傍に膝を抱えて俯いている人の姿が見えた。
帽子のせいでその人の顔はよく見えない。
だけどその人は謝罪の言葉をひたすら呟いていて……その声があまりにも苦しそうで思わず近づけば不意にその人の肩が動いて、それからゆっくりと顔を上げた。
私はよくやくその人ー彼女の顔を見て息を呑んだ。
「お姉ちゃん……」
「……ぁ」
お姉ちゃんが、目の前にいた。
お姉ちゃんは私に気づいてなかったのか、呆然と顔を見上げたまましばらく固まっていた。
固まっていたのは、私も同じだった。
お姉ちゃんと再会できたら話したいと思っていた事はたくさんあったはずなのに、私は何も言えずにいた。
ただただ、お姉ちゃんの翡翠色の瞳をじっと見つめることしかできない。
幼少期のまっすぐこちらを見るキラキラしてるものでも、真・帝国学園での敵意を隠さない鋭く睨みつけるものとも違う、ぼんやりと目の前を見ているようで見ていない暗い瞳。
そんな今の彼女に何の言葉も届かない気がして口を噤んでしまう。
しばらく互いに目線を合わせたまま動けなくなっていると、
「春奈ちゃーん!」
「っ!」
「あっ……」
私を心配して探してくれている秋さんの声が聞こえて、一瞬姉から視界を外れた。
そのタイミングでお姉ちゃんは弾かれたように立ち上がり、走り去ってしまった。本当に早くて、呼び止める暇なんてまるでない。
ー傷つけて、ごめんなさい。
小さくなっていく背中を見て思い出してしまうのは、潜水艦での別れ際のことで。いい思い出ではないそれに思わず俯いてしまうと、ふと木の傍に何かが落ちていることに気づいた。
それはお姉ちゃんが被っていた帽子だった。紺色のシンプルなデザインのキャスケット帽。……走り去る時に落としたのかな。
私はその帽子を拾って、ぼんやりとそれを眺める。近くで見ればそのサイズは大きめで顔を隠すためのものかな、なんて…………
「……お姉ちゃん」
ぎゅうとその帽子を両腕で抱きしめる。
双子の片割れとして小さい頃はお互いに何を考えているかすぐに分かった。
それなのに、今じゃ何も分からない。
お姉ちゃんがどうしたら昔みたいに笑ってくれるのか、分からなかった。
ーお姉ちゃんは春奈が大好きだよ。
「……私も、大好きだよ」
ポツリとそう呟いて、私はこれ以上秋さんに心配かけないように「はーい!」と努めて明るい声を出しながら、私は駆けだした。
鬼道視点
「ん?あれ?」
響木監督に呼ばれ、集合場所である雷門中の体育館へ同じく呼ばれた佐久間と一緒に向かえば、綱海に元気よく出迎えられた。
それから吹雪や木暮、立向居とエイリア学園で共に戦った懐かしい面々が集まって来た時だった。不意に綱海が周りをキョロキョロと見回していた。
「どうしたの?綱海くん」
「ああ、いや鬼道達が来るまで話してた奴がいたんだけど見かけねーなって」
何処行っちまったんだ?と首を傾げる綱海。
「どんな奴だったんだ?」
綱海が知らないとなると、雷門中以外のFFに出るような選手かもしれない、そんな俺と同じ考えなのか佐久間が詳しく訪ねていた。
「んー、帽子かぶってて顔あんま見えなかったんだよなー。あっでも小さかったぜ!」
これぐらいって綱海が手でその選手の身長を再現していて、確かに小柄な選手だと分かった。だがそれだけじゃ選手の特定は難しく、佐久間と顔を見合わせてしまう。
「あ、あとそいつ海が好きらしいぜ!この青のジャージ見せたらすごいですねって褒めてくれたし!」
「褒めてはいるけど、それ本当にジャージのことなのかな……」
「そのすごいからどうやったら海好きになるんだよ」
その隣で文脈がどこか繋がっていない情報に吹雪と木暮が微妙な顔をしていた。
「あ!円堂さん!!」
その様子を苦笑して見ていた立向居が円堂が来たことに気づいて声を上げる。
そこで俺も円堂や他の選手の話を聞こうと、綱海が話していた選手の事を一度頭の隅に追いやった。
それから体育館に集まったのは雷門イレブン以外にもFFに出てた武方、エイリア学園では敵だったヒロトや緑川、沖縄で豪炎寺が世話になった土方などの懐かしい面子だけでなく、虎丸や飛鷹という初めて会う奴までいた。
「うーん、やっぱいねぇな」
しかし、綱海が言ってた例の選手はいないらしい。この間も聞き回っていたが周りを依然として首を傾げていた。
「……」
唯一反応を示していた飛鷹を除いて。
「どうした、飛鷹」
「……なんでもねぇ」
それを指摘すれば、平然とした態度で髪で櫛を梳いていた。
飛鷹の顔見知りなのかと考えていると、ガンッと体育館の扉が乱暴に掴む音が聞こえた。
集合時間間近なのもあって響木さんかと思ったら現れた、のは…………
「っ…………どーも」
走って来たらしいその選手……いや“彼女”は息を整えながら体育館へと入ってくる。
「あ!」
そんな彼女に駆け寄ったのは綱海だった。
「不動!いつの間に外行ってたんだよ!」
不動。確かに綱海はそう言った。
そこで俺はそもそも肝心の名前すらも聞いていないことを思い出した。
「……トイレ探してたら、迷いました」
「トイレなら体育館の中にあるだろ?つーか帽子は?」
「あ………探してる途中に、落とした」
「ははっ、意外とドジなんだなお前」
ケラケラ笑う綱海に対して彼女は素っ気ない返答をしながらあの時よりも伸びた髪をいじっている。
そんな彼女へ視線を向けるが、こちらを見ようとはしなかった。
ただそれでも、彼女がこの場に立っているという事実に、血色のいい顔色に、安堵する自分がいた。
ー……ごめんなさい。
そう思ってしまうのは、あの最悪な別れ方のせいだろう。
「ん?どうしたお前ら」
彼女ー明奈を知っている側の選手達が驚いていて静まり返った体育館に気づいたのか綱海が首を傾げた。
「みんな揃ってるか」
だがそれと同時に、体育館の扉が開き今度こそ響木監督が入ってきた。
響木監督からとある大会のマネージャーとして選ばれて、その代表候補の選手が集まる当日。
夏未さんは響木監督と話があるらしく、私と秋さんは中庭で二人を待っていた。
その間、さっき夏未さんから貰った候補生の名簿を確認していて、そこで見つけた名前を私は何度も見返して、その度に見間違いじゃないことを実感して大きく息を吐く。
「お姉ちゃん……」
私は名簿に印刷されている文字をなぞって呟いた。
不動 明奈。
私の双子のお姉ちゃん。
もちろん名前だけなら同姓同名の人という可能性だってあったけれど、名前の横に所属校として記載されている真・帝国学園という名前がその選手が姉という証明をしてくれていた(あの学園自体にいい思い出はないのに、それのおかげで姉を見つけられたのは皮肉だ)
「お姉さんに会えるといいね」
「はいっ!」
そんな私の様子を見て、秋さんもお姉ちゃんの名前を見つけたのかそう微笑んでくれて私も笑顔で返す。
だって、嬉しかったから。
エイリア学園の事が終わってからお兄ちゃんとお姉ちゃんを探していたけれど、全然見つからないし周りの大人は知っているはずなのになぜか教えてくれない。
けれど、こうして名簿に載っているってことはお姉ちゃんがこの雷門中学校に来てくれるかもしれない。
そう思うとやっぱり嬉しくて。私は名簿を両腕にぎゅうと抱えた。
「あれ」
「?どうしたの春奈ちゃん」
それからしばらく談笑していると、すぐ近くの体育館から離れていく人影に気づいた。体育館に背を向けて立っていた秋さんから見えてなかったので首を傾げられる。
「あ、いえ……さっき体育館から出てった人が見えた、ような」
「入っていく人、じゃなくて?」
他の部の人が間違えて入っちゃったのかな?と首を傾げる秋さんにきっとそうですよ、といつもなら気にせずにそう返したと思う。
だけど、私はその人のことがどうしても気になった。元新聞部としての探求心とは全く違う何かが胸をざわつかせる。
あの人に会わなきゃ、と思ってしまった。
「ちょっと気になるので、見てきますね!」
「えっ春奈ちゃん!?」
気づけば秋さんの返答を待つ前に駆け出していた。
体育館裏なんて大掃除の時に草むしりをするぐらいの場所だけど、その人がこっちに走って行った気がしたので、私は転ばないように足元に気をつけながら歩いて行く。
「ごめん、なさい……」
蚊の鳴くような小さな声が耳に届いて、私は動きを止めた。それからゆっくりと声のする方へ足を進めれば木の傍に膝を抱えて俯いている人の姿が見えた。
帽子のせいでその人の顔はよく見えない。
だけどその人は謝罪の言葉をひたすら呟いていて……その声があまりにも苦しそうで思わず近づけば不意にその人の肩が動いて、それからゆっくりと顔を上げた。
私はよくやくその人ー彼女の顔を見て息を呑んだ。
「お姉ちゃん……」
「……ぁ」
お姉ちゃんが、目の前にいた。
お姉ちゃんは私に気づいてなかったのか、呆然と顔を見上げたまましばらく固まっていた。
固まっていたのは、私も同じだった。
お姉ちゃんと再会できたら話したいと思っていた事はたくさんあったはずなのに、私は何も言えずにいた。
ただただ、お姉ちゃんの翡翠色の瞳をじっと見つめることしかできない。
幼少期のまっすぐこちらを見るキラキラしてるものでも、真・帝国学園での敵意を隠さない鋭く睨みつけるものとも違う、ぼんやりと目の前を見ているようで見ていない暗い瞳。
そんな今の彼女に何の言葉も届かない気がして口を噤んでしまう。
しばらく互いに目線を合わせたまま動けなくなっていると、
「春奈ちゃーん!」
「っ!」
「あっ……」
私を心配して探してくれている秋さんの声が聞こえて、一瞬姉から視界を外れた。
そのタイミングでお姉ちゃんは弾かれたように立ち上がり、走り去ってしまった。本当に早くて、呼び止める暇なんてまるでない。
ー傷つけて、ごめんなさい。
小さくなっていく背中を見て思い出してしまうのは、潜水艦での別れ際のことで。いい思い出ではないそれに思わず俯いてしまうと、ふと木の傍に何かが落ちていることに気づいた。
それはお姉ちゃんが被っていた帽子だった。紺色のシンプルなデザインのキャスケット帽。……走り去る時に落としたのかな。
私はその帽子を拾って、ぼんやりとそれを眺める。近くで見ればそのサイズは大きめで顔を隠すためのものかな、なんて…………
「……お姉ちゃん」
ぎゅうとその帽子を両腕で抱きしめる。
双子の片割れとして小さい頃はお互いに何を考えているかすぐに分かった。
それなのに、今じゃ何も分からない。
お姉ちゃんがどうしたら昔みたいに笑ってくれるのか、分からなかった。
ーお姉ちゃんは春奈が大好きだよ。
「……私も、大好きだよ」
ポツリとそう呟いて、私はこれ以上秋さんに心配かけないように「はーい!」と努めて明るい声を出しながら、私は駆けだした。
鬼道視点
「ん?あれ?」
響木監督に呼ばれ、集合場所である雷門中の体育館へ同じく呼ばれた佐久間と一緒に向かえば、綱海に元気よく出迎えられた。
それから吹雪や木暮、立向居とエイリア学園で共に戦った懐かしい面々が集まって来た時だった。不意に綱海が周りをキョロキョロと見回していた。
「どうしたの?綱海くん」
「ああ、いや鬼道達が来るまで話してた奴がいたんだけど見かけねーなって」
何処行っちまったんだ?と首を傾げる綱海。
「どんな奴だったんだ?」
綱海が知らないとなると、雷門中以外のFFに出るような選手かもしれない、そんな俺と同じ考えなのか佐久間が詳しく訪ねていた。
「んー、帽子かぶってて顔あんま見えなかったんだよなー。あっでも小さかったぜ!」
これぐらいって綱海が手でその選手の身長を再現していて、確かに小柄な選手だと分かった。だがそれだけじゃ選手の特定は難しく、佐久間と顔を見合わせてしまう。
「あ、あとそいつ海が好きらしいぜ!この青のジャージ見せたらすごいですねって褒めてくれたし!」
「褒めてはいるけど、それ本当にジャージのことなのかな……」
「そのすごいからどうやったら海好きになるんだよ」
その隣で文脈がどこか繋がっていない情報に吹雪と木暮が微妙な顔をしていた。
「あ!円堂さん!!」
その様子を苦笑して見ていた立向居が円堂が来たことに気づいて声を上げる。
そこで俺も円堂や他の選手の話を聞こうと、綱海が話していた選手の事を一度頭の隅に追いやった。
それから体育館に集まったのは雷門イレブン以外にもFFに出てた武方、エイリア学園では敵だったヒロトや緑川、沖縄で豪炎寺が世話になった土方などの懐かしい面子だけでなく、虎丸や飛鷹という初めて会う奴までいた。
「うーん、やっぱいねぇな」
しかし、綱海が言ってた例の選手はいないらしい。この間も聞き回っていたが周りを依然として首を傾げていた。
「……」
唯一反応を示していた飛鷹を除いて。
「どうした、飛鷹」
「……なんでもねぇ」
それを指摘すれば、平然とした態度で髪で櫛を梳いていた。
飛鷹の顔見知りなのかと考えていると、ガンッと体育館の扉が乱暴に掴む音が聞こえた。
集合時間間近なのもあって響木さんかと思ったら現れた、のは…………
「っ…………どーも」
走って来たらしいその選手……いや“彼女”は息を整えながら体育館へと入ってくる。
「あ!」
そんな彼女に駆け寄ったのは綱海だった。
「不動!いつの間に外行ってたんだよ!」
不動。確かに綱海はそう言った。
そこで俺はそもそも肝心の名前すらも聞いていないことを思い出した。
「……トイレ探してたら、迷いました」
「トイレなら体育館の中にあるだろ?つーか帽子は?」
「あ………探してる途中に、落とした」
「ははっ、意外とドジなんだなお前」
ケラケラ笑う綱海に対して彼女は素っ気ない返答をしながらあの時よりも伸びた髪をいじっている。
そんな彼女へ視線を向けるが、こちらを見ようとはしなかった。
ただそれでも、彼女がこの場に立っているという事実に、血色のいい顔色に、安堵する自分がいた。
ー……ごめんなさい。
そう思ってしまうのは、あの最悪な別れ方のせいだろう。
「ん?どうしたお前ら」
彼女ー明奈を知っている側の選手達が驚いていて静まり返った体育館に気づいたのか綱海が首を傾げた。
「みんな揃ってるか」
だがそれと同時に、体育館の扉が開き今度こそ響木監督が入ってきた。