寂しがり少女
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「…………」
帽子を目深に被りながら目の前の大きな中学校に視線を向けて早足で足を踏み入れる。
私は、雷門中学校に訪れていた。
響木さんに呼び出されてから数週間の間。結局、私はあの空き地に訪れてサッカーに関わっていた。
響木さんに……大人に頼まれた事だし、その礼として昼ご飯にラーメンご馳走してくれたりするし……飛鷹さんにもいつもまたなって言われたし…………ゴホン。
そんな感じでいつもみたいな指導をしたある日の帰りに響木さんは私と飛鷹さんにこう告げた。
「次の日曜日、雷門中の体育館に来い」
要件を言うだけ言って、詳細は話さないのは相変わらずで私達は互いに顔を見合わせてその日の指導は終わりをつげた。
ただ私は雷門中、という事で帽子を手放せなかった。
響木さんに会ったのだって、ここに辿り着くのが目的だったはずだったのに……自分を知っている人に会うのがどうしようもなく恐ろしく感じてしまって嫌になる。
「……飛鷹さんと一緒に行けばよかった」
いや、私と知り合いなんて知られるのは迷惑か。
なんて誤魔化すように一人ごちながら、一番目に付く大きな建物ー体育館を目指して歩いた。
体育館の開放されている出入り口には脱ぎ散らかされている靴や、逆に綺麗に揃えて置かれている靴が複数あって、私もそれに倣って脱いだ靴を隅の方へと置いて体育館へと入った。
帽子で顔を隠しながらそっと周りを見れば見慣れない色のジャージだったり、私服を着た同世代の男子の姿が見えるが見覚えのない人ばかりで飛鷹さんの姿もない。
幸いにもそれぞれ話し込んでいて賑わっている状態なので気配を消して入った私に周りは気づいておらず、そこでようやく肩の力が抜けた。
目立たないように壁へと凭れ掛かった後、俯きながら響木さんを待つことにしようかと目を閉じた時だった。
「よっ!」
「!!?」
底抜けに明るい声が聞えたと同時に肩を叩かれた感覚に、私は慌てて顔を上げて声の方を見た。
そこには褐色色の肌をした逆立ったピンク髪の男子が私に笑顔を向けていた。
「俺、綱海条介!大海原中の三年だ!」
それからその笑顔のイメージ通りの元気な自己紹介に面を喰らっていたものの、お前は?と尋ねられて私はずれた帽子を被り直しながら端的に答えた。
「……不動。一年」
「不動か!なーお前も響木監督に呼ばれたのか?何で呼ばれたのか知ってる?」
「さぁ」
「なぁなぁお前もやっぱりサッカーするのか?俺もさ、ちょっと前……三ヶ月ぐらい前か?それぐらいにサッカー始めたばっかなんだよな!で、このジャージはうちの学校のやつ!」
「はぁ……すごいですね」
自分でも素っ気ないという自覚はあるのに、綱海さんは気にせず話しかけ続けてきて、自分の学校の青いジャージを嬉しそうに見せてきた。
たった三ヶ月でサッカーをできているのなら実力は確かなんだろうなと察してそんな感想を漏らせばなぜか綱海さんはパッと目を輝かせて私の手を掴ん、だ……?
「だろ?海の色、かっこいいだろ!お前、ノリ悪いなって思ってたけど分かってんじゃねぇか!今度一緒に泳ぐか?!」
「は?いや、私は別にジャージを褒めた訳じゃ……」
勘違いしている綱海さんは嬉しそうに腕をぶんぶんと振っていて、私の訂正する言葉は届きそうにない。ため息をつきながら何となく扉の方へと目線を向ければ2人の人影が見えた。
「……ぁ」
「ん?」
私の視線に気づいたのか綱海さんも同じように扉の方を見て、それから彼らと顔見知りだったのか、お!と声を上げて彼らの方へと駆け寄って行った。
「鬼道!佐久間!久しぶりだなっ!」
そんな綱海さんの背中を見ながら、私は一歩、また一歩と後ずさり咄嗟に閉じている扉に手をかけて、体育館から抜け出した。
それから気づいた時には自分は体育館の裏にいた。裏は木々が植えられていて、少し薄暗く感じて私は肩で息をしながらその一つの木に凭れ掛かって、その場に座り込んだ。
人の気配のない木々の中でドクドクと心臓が早く動いている音だけが耳に届いて、私は膝を抱える。
その時に足先を見れば体育館用のスリッパのままだった。脱ぎ忘れていた事に気づいたけれど、今の私に靴を履き替えるために戻る余裕なんてない。
思い出すのは体育館に入ってきたあの人たちのことばかりだった。
「に……」
兄ちゃん、とはやっぱり口に出せなくて私は抱えた膝に顔を埋める。
……今の兄はあんな風に笑うんだ。
兄ちゃんも、佐久間さんも穏やかな笑みを浮かべて話していた。
友人同士の他愛無いやり取りの一部のはずのそれを見た瞬間、私はいつの間にか逃げ出していた。
そんな風に笑う彼らを見て、安堵をした。
だけどそれと同時に、私が彼らの仲違いさせた事実も思い出してしまい、怖くなってしまった。
謝らないと、と思う反面、謝って済む問題なのかと自問自答を脳内で繰り返す。
周りの大人は私を庇ってくれる。当事者の一人である源田先輩だって笑いかけてくれる。兄ちゃんや春奈だって私を探してくれていた。
ーこんな私が、それに見合うものがあるなんて、思えない。
自分を、信じられない。
謝った先の事も全て不明瞭で、私はなんで足を運んでしまったんだろうという後悔で痛む頭を押さえつけるようにぎゅうと帽子を深く被る。
「ごめん、なさい……」
口から洩れたのは謝罪の言葉だった。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」
本人に言わないと意味のないくせに、ひたすら謝罪を繰り返していると、がさりと足音が聞こえて反射的に顔を上げれば、意外とすぐ近くに誰かが立っていて、こちらを見下ろしていることに気づく。
「お姉ちゃん……」
「……ぁ」
最初に見えたのは足先で視線を上げればその人の着ている制服で、雷門中の女子生徒だと分かった。
それと同時に“あの時”と変わらない綺麗な声が耳に届いて、私はやっとその子の顔を視界へ映した。
そこには私を大きく目を見開いてこちらを見る春奈の姿があった。
帽子を目深に被りながら目の前の大きな中学校に視線を向けて早足で足を踏み入れる。
私は、雷門中学校に訪れていた。
響木さんに呼び出されてから数週間の間。結局、私はあの空き地に訪れてサッカーに関わっていた。
響木さんに……大人に頼まれた事だし、その礼として昼ご飯にラーメンご馳走してくれたりするし……飛鷹さんにもいつもまたなって言われたし…………ゴホン。
そんな感じでいつもみたいな指導をしたある日の帰りに響木さんは私と飛鷹さんにこう告げた。
「次の日曜日、雷門中の体育館に来い」
要件を言うだけ言って、詳細は話さないのは相変わらずで私達は互いに顔を見合わせてその日の指導は終わりをつげた。
ただ私は雷門中、という事で帽子を手放せなかった。
響木さんに会ったのだって、ここに辿り着くのが目的だったはずだったのに……自分を知っている人に会うのがどうしようもなく恐ろしく感じてしまって嫌になる。
「……飛鷹さんと一緒に行けばよかった」
いや、私と知り合いなんて知られるのは迷惑か。
なんて誤魔化すように一人ごちながら、一番目に付く大きな建物ー体育館を目指して歩いた。
体育館の開放されている出入り口には脱ぎ散らかされている靴や、逆に綺麗に揃えて置かれている靴が複数あって、私もそれに倣って脱いだ靴を隅の方へと置いて体育館へと入った。
帽子で顔を隠しながらそっと周りを見れば見慣れない色のジャージだったり、私服を着た同世代の男子の姿が見えるが見覚えのない人ばかりで飛鷹さんの姿もない。
幸いにもそれぞれ話し込んでいて賑わっている状態なので気配を消して入った私に周りは気づいておらず、そこでようやく肩の力が抜けた。
目立たないように壁へと凭れ掛かった後、俯きながら響木さんを待つことにしようかと目を閉じた時だった。
「よっ!」
「!!?」
底抜けに明るい声が聞えたと同時に肩を叩かれた感覚に、私は慌てて顔を上げて声の方を見た。
そこには褐色色の肌をした逆立ったピンク髪の男子が私に笑顔を向けていた。
「俺、綱海条介!大海原中の三年だ!」
それからその笑顔のイメージ通りの元気な自己紹介に面を喰らっていたものの、お前は?と尋ねられて私はずれた帽子を被り直しながら端的に答えた。
「……不動。一年」
「不動か!なーお前も響木監督に呼ばれたのか?何で呼ばれたのか知ってる?」
「さぁ」
「なぁなぁお前もやっぱりサッカーするのか?俺もさ、ちょっと前……三ヶ月ぐらい前か?それぐらいにサッカー始めたばっかなんだよな!で、このジャージはうちの学校のやつ!」
「はぁ……すごいですね」
自分でも素っ気ないという自覚はあるのに、綱海さんは気にせず話しかけ続けてきて、自分の学校の青いジャージを嬉しそうに見せてきた。
たった三ヶ月でサッカーをできているのなら実力は確かなんだろうなと察してそんな感想を漏らせばなぜか綱海さんはパッと目を輝かせて私の手を掴ん、だ……?
「だろ?海の色、かっこいいだろ!お前、ノリ悪いなって思ってたけど分かってんじゃねぇか!今度一緒に泳ぐか?!」
「は?いや、私は別にジャージを褒めた訳じゃ……」
勘違いしている綱海さんは嬉しそうに腕をぶんぶんと振っていて、私の訂正する言葉は届きそうにない。ため息をつきながら何となく扉の方へと目線を向ければ2人の人影が見えた。
「……ぁ」
「ん?」
私の視線に気づいたのか綱海さんも同じように扉の方を見て、それから彼らと顔見知りだったのか、お!と声を上げて彼らの方へと駆け寄って行った。
「鬼道!佐久間!久しぶりだなっ!」
そんな綱海さんの背中を見ながら、私は一歩、また一歩と後ずさり咄嗟に閉じている扉に手をかけて、体育館から抜け出した。
それから気づいた時には自分は体育館の裏にいた。裏は木々が植えられていて、少し薄暗く感じて私は肩で息をしながらその一つの木に凭れ掛かって、その場に座り込んだ。
人の気配のない木々の中でドクドクと心臓が早く動いている音だけが耳に届いて、私は膝を抱える。
その時に足先を見れば体育館用のスリッパのままだった。脱ぎ忘れていた事に気づいたけれど、今の私に靴を履き替えるために戻る余裕なんてない。
思い出すのは体育館に入ってきたあの人たちのことばかりだった。
「に……」
兄ちゃん、とはやっぱり口に出せなくて私は抱えた膝に顔を埋める。
……今の兄はあんな風に笑うんだ。
兄ちゃんも、佐久間さんも穏やかな笑みを浮かべて話していた。
友人同士の他愛無いやり取りの一部のはずのそれを見た瞬間、私はいつの間にか逃げ出していた。
そんな風に笑う彼らを見て、安堵をした。
だけどそれと同時に、私が彼らの仲違いさせた事実も思い出してしまい、怖くなってしまった。
謝らないと、と思う反面、謝って済む問題なのかと自問自答を脳内で繰り返す。
周りの大人は私を庇ってくれる。当事者の一人である源田先輩だって笑いかけてくれる。兄ちゃんや春奈だって私を探してくれていた。
ーこんな私が、それに見合うものがあるなんて、思えない。
自分を、信じられない。
謝った先の事も全て不明瞭で、私はなんで足を運んでしまったんだろうという後悔で痛む頭を押さえつけるようにぎゅうと帽子を深く被る。
「ごめん、なさい……」
口から洩れたのは謝罪の言葉だった。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」
本人に言わないと意味のないくせに、ひたすら謝罪を繰り返していると、がさりと足音が聞こえて反射的に顔を上げれば、意外とすぐ近くに誰かが立っていて、こちらを見下ろしていることに気づく。
「お姉ちゃん……」
「……ぁ」
最初に見えたのは足先で視線を上げればその人の着ている制服で、雷門中の女子生徒だと分かった。
それと同時に“あの時”と変わらない綺麗な声が耳に届いて、私はやっとその子の顔を視界へ映した。
そこには私を大きく目を見開いてこちらを見る春奈の姿があった。