寂しがり少女
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先導を源田さんに任せっきりでずっと俯きながら歩いていて、気づけば私は見知らぬ公園の木のベンチに座っていた。
どこにでもあるような公園では遊具で幼い子供達が和気あいあいと遊んでいてその姿をぼんやりと眺めていると、急に視界いっぱいに缶が現れた。
「わっ」
「不動はりんごとオレンジどっちが好きだ?」
いつの間にか源田さんが戻ってきていて片手にそれぞれ缶ジュースが握られていた。咄嗟にオレンジ、と短く答えれば迷いなくその缶が差し出され、私は礼を言ってから両手で受け取る。
「…………あの、源田さん」
「もうセンパイって呼んでくれないのか?」
「え……呼ばれたいんですか?」
受け取ったものの、すぐに飲もうという気にはなれずに缶を手で弄びつつ名前を呼べば、しゅんと寂しそうな表情をされて面食らった。
そう言えば、ナンパ?から助けてもらう際に“後輩”と言っていたけれど、源田さんから見た私はそういう認識なんだろうかと尋ねてみる。
「んー……不動が呼びやすい呼び方でいいぞ」
「じゃあ……源田先輩、で」
「!……ああ!」
一任はされたけれど、彼の表情を見て結局、先輩という敬称を付けて呼んでみればとても嬉しそうに返事を返された。どうやら正解だったみたいだ。
……知られてはいないだろうけど、帝国学園在籍中だから間違ってはいないし、まあいいか。
少し意外な源田、先輩の一面を見ていると「開けようか?」と一切手を付けていない缶に視線が向けられて私は慌ててプルタブを開けてジュースに口をつけた。
「…………あの、」
「ん?」
オレンジジュースを一口飲んでから私は隣に座る彼の腕を見た。
「…………怪我は、もう」
「ああ……もう平気だ。俺も、佐久間ももう普通にサッカーをできている」
私の視線に気づいた源田さんは腕を軽く振って見せてくれて、佐久間さんの無事も教えてくれた。
源田さんの腕の動きや仕草から嘘はついていないことは明白で、瞳子さんからも聞いてはいたけれどそんな姿や本人の言葉を聞いて、
「…………良かった」
私は彼らのサッカー人生を奪わずに済んだ事の実感がようやくできて、安堵感から私は帽子を深く被って顔を隠しながら大きく息を吐いた。
「心配してくれてありがとうな」
「……意味、分かんない」
そんな様子を見守っていたらしい源田さんの嫌味でもなんでもない素直な言葉に、帽子を手放せないまま呟いた。
「私が、真・帝国学園に引き入れて、禁断の技を教えたから傷ついたのに、その元凶に礼なんてどれだけお人好しなんだよ……いや、違う……違いますね……」
優しいままの源田さんに八つ当たりなんて、するな自分。
「酷いことさせて、ごめんなさい……」
やっと口に出せた謝罪は、相手の顔を碌に見れなかった。
「真・帝国学園に関しては」
一瞬の沈黙の後に後輩だ何だと浮かれていない、真面目な声が耳に届いた。
「確かにお前は俺達を影山の元へ誘った。だが、その時に負った傷は誘いを断ち切れなかった俺達の落ち度だ。弱さだ。お前だけに責任転嫁する気はない」
ようやく帽子から手を離して顔を上げれば、強い意思が籠った目でそう言い切る源田先輩。
帝国イレブンの一人としての強い意志の言葉に、私が口を挟む権利なんてあるわけなく、相槌しか打てない。
「それに俺はお前に謝りたかったから、会えて嬉しいよ」
「…………謝りたい、こと?」
少しだけ眉を下げた源田先輩の態度と言葉に身に覚えがなさすぎて首を傾げてしまう。
「その……お前が病院へ勧誘に来た時に、鬼道の妹って気づいて余計な事言ったから、追い込んでしまったんだろ?」
「えっ……」
源田先輩が申し訳なさそうに目線を下げながら話すのは、
ー『アイツは……FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く、と……だから……お前を……見捨ててなん、か……』
私にとっては忘れようもない言葉。ある種の分岐点。
だけど、それはあくまで“私にとっては”、であって。
エイリア石の力のせいで意識も安定していなかったであろう源田先輩が覚えていることに素直に驚いていると、俺も最初は忘れていた、と私の表情から察して教えてくれた。
「入院してる時に小鳥遊が来て……」
「ああ、真帝国のみんなでお見舞いに行ったんですね」
「その時に思いっきり引っ叩かれて怒鳴られたんだ。俺と佐久間が来てから不動がおかしくなったって」
「……えっ!?」
話は聞いていたからすぐに合点がいって頷いていると、見過ごせない言葉が出てきて声を上げてしまう。咄嗟に顔を見るが流石にだいぶ前だったからか跡はついていない。
「す、すみません……?」
「?不動は悪くないだろ?」
「いやでも……監督不十分というか、何というか……」
「それぐらい不動が大切だったって話だ」
なんて笑い飛ばしてくれる源田先輩だけど、後で忍ちゃんにちゃんと怒らないとな。……佐久間さんにも同じことをしてないことを願うばかりだ。
「話は戻すが……小鳥遊に怒鳴られた時は全く思い当たりがなかった。だって真・帝国学園にいた時も不動とまともなコミュニケーションを取った記憶なんてないからな」
「双方取る気もなかったですしね」
私も源田先輩達も同じ人間を思い浮かびながらも、別の感情を滾らせていた状態だ。
互いに自分に必死すぎて、周りを見る余裕なんてまるでなかった。
「ならその前に話したことが原因かといろいろ考えて……ふと思い出したんだ。病院で気絶する前に見た不動の顔を……」
そこで一回源田先輩は黙りこくってしまう。
どれだけ酷い顔をしていたんだろうと思ったし、気になったけれどこの人の口から言わせるのは申し訳ないと思って私は代わりに口を開いた。
「まあ、確かに源田先輩の言葉にひどく動揺しましたよ。その当時の私の環境もちょっと色々あって…………包み隠さず言えば荒れに荒れました」
視線を下げれば、缶を持つ手があった。
あの時に地面を掻きむしって血だらけになった欠けた爪はもうすっかり綺麗になっている。
「…………すまない」
「……けれど、その事実は真・帝国学園が雷門と接触する以上遅かれ早かれ知ることになってました」
申し訳なさそうにする源田先輩に私は顔を上げて、彼の顔を見ながらはっきりと告げた。
彼みたいに安心させるような笑顔を浮かべる……努力はしてみたけれどできているかは不確かだ。
「あの時に知れたからこそ、より最悪な事をしなくて済んだかなって……後からそう思います」
もし、源田先輩に教えてもらっていなかったら、真実を知るのは春奈と話した時だ。
その時まで兄への恨みだけを抱えて、禁断の技を平気で佐久間さん達に生身で覚えさせていたし、兄を傷つけるのに躊躇いもなかった。
そして事実を教える春奈に対してもどんな八つ当たりをしていたかも分からない……想像すらしたくないのに、あの時の自分なら絶対にしていたと確信もあって、全くもって嫌になる。
「だから……うん…………あの時に誤解を解いてくれて、ありがとうございました」
なんて、自己嫌悪の時間は後だ。私は先に責任を感じている源田先輩に頭を下げて礼を言った。
「礼を言われることなんて何も……いや、これじゃあ堂々巡りだな」
「……私と一緒ですね」
源田先輩は礼を言われるとは思っていなかったのか戸惑っていて、自分も同じような顔をしていたんだろうなと思うとつい呟いてしまった。
すぐに私なんかと一緒は失礼かと慌てて訂正しようとすれば、
「じゃあ、お互い様だな」
「……そう、ですね」
なんて笑ってくれて、私も応えるように笑みを浮かべた。
ジュースを飲み切って空き缶をゴミ箱に捨ててから源田さんは本当に雷雷軒へ案内してくれるらしく、公園を一緒に出る。
そして向かったのは先程までいた駅で。
「?反対側の方にあるんですか?」
「え?あー……」
駅の出入り口を間違えたのかと首を傾げれば、源田先輩はなぜか何か考えるように言葉を濁したかと思えば、困ったような声を出した。
「不動、その、言いにくいんだが……」
ー稲妻町への駅はもう一つ先なんだ
…………………………。
「えっ」
夢主は方向音痴
どこにでもあるような公園では遊具で幼い子供達が和気あいあいと遊んでいてその姿をぼんやりと眺めていると、急に視界いっぱいに缶が現れた。
「わっ」
「不動はりんごとオレンジどっちが好きだ?」
いつの間にか源田さんが戻ってきていて片手にそれぞれ缶ジュースが握られていた。咄嗟にオレンジ、と短く答えれば迷いなくその缶が差し出され、私は礼を言ってから両手で受け取る。
「…………あの、源田さん」
「もうセンパイって呼んでくれないのか?」
「え……呼ばれたいんですか?」
受け取ったものの、すぐに飲もうという気にはなれずに缶を手で弄びつつ名前を呼べば、しゅんと寂しそうな表情をされて面食らった。
そう言えば、ナンパ?から助けてもらう際に“後輩”と言っていたけれど、源田さんから見た私はそういう認識なんだろうかと尋ねてみる。
「んー……不動が呼びやすい呼び方でいいぞ」
「じゃあ……源田先輩、で」
「!……ああ!」
一任はされたけれど、彼の表情を見て結局、先輩という敬称を付けて呼んでみればとても嬉しそうに返事を返された。どうやら正解だったみたいだ。
……知られてはいないだろうけど、帝国学園在籍中だから間違ってはいないし、まあいいか。
少し意外な源田、先輩の一面を見ていると「開けようか?」と一切手を付けていない缶に視線が向けられて私は慌ててプルタブを開けてジュースに口をつけた。
「…………あの、」
「ん?」
オレンジジュースを一口飲んでから私は隣に座る彼の腕を見た。
「…………怪我は、もう」
「ああ……もう平気だ。俺も、佐久間ももう普通にサッカーをできている」
私の視線に気づいた源田さんは腕を軽く振って見せてくれて、佐久間さんの無事も教えてくれた。
源田さんの腕の動きや仕草から嘘はついていないことは明白で、瞳子さんからも聞いてはいたけれどそんな姿や本人の言葉を聞いて、
「…………良かった」
私は彼らのサッカー人生を奪わずに済んだ事の実感がようやくできて、安堵感から私は帽子を深く被って顔を隠しながら大きく息を吐いた。
「心配してくれてありがとうな」
「……意味、分かんない」
そんな様子を見守っていたらしい源田さんの嫌味でもなんでもない素直な言葉に、帽子を手放せないまま呟いた。
「私が、真・帝国学園に引き入れて、禁断の技を教えたから傷ついたのに、その元凶に礼なんてどれだけお人好しなんだよ……いや、違う……違いますね……」
優しいままの源田さんに八つ当たりなんて、するな自分。
「酷いことさせて、ごめんなさい……」
やっと口に出せた謝罪は、相手の顔を碌に見れなかった。
「真・帝国学園に関しては」
一瞬の沈黙の後に後輩だ何だと浮かれていない、真面目な声が耳に届いた。
「確かにお前は俺達を影山の元へ誘った。だが、その時に負った傷は誘いを断ち切れなかった俺達の落ち度だ。弱さだ。お前だけに責任転嫁する気はない」
ようやく帽子から手を離して顔を上げれば、強い意思が籠った目でそう言い切る源田先輩。
帝国イレブンの一人としての強い意志の言葉に、私が口を挟む権利なんてあるわけなく、相槌しか打てない。
「それに俺はお前に謝りたかったから、会えて嬉しいよ」
「…………謝りたい、こと?」
少しだけ眉を下げた源田先輩の態度と言葉に身に覚えがなさすぎて首を傾げてしまう。
「その……お前が病院へ勧誘に来た時に、鬼道の妹って気づいて余計な事言ったから、追い込んでしまったんだろ?」
「えっ……」
源田先輩が申し訳なさそうに目線を下げながら話すのは、
ー『アイツは……FFで優勝して、2人の妹を迎えに行く、と……だから……お前を……見捨ててなん、か……』
私にとっては忘れようもない言葉。ある種の分岐点。
だけど、それはあくまで“私にとっては”、であって。
エイリア石の力のせいで意識も安定していなかったであろう源田先輩が覚えていることに素直に驚いていると、俺も最初は忘れていた、と私の表情から察して教えてくれた。
「入院してる時に小鳥遊が来て……」
「ああ、真帝国のみんなでお見舞いに行ったんですね」
「その時に思いっきり引っ叩かれて怒鳴られたんだ。俺と佐久間が来てから不動がおかしくなったって」
「……えっ!?」
話は聞いていたからすぐに合点がいって頷いていると、見過ごせない言葉が出てきて声を上げてしまう。咄嗟に顔を見るが流石にだいぶ前だったからか跡はついていない。
「す、すみません……?」
「?不動は悪くないだろ?」
「いやでも……監督不十分というか、何というか……」
「それぐらい不動が大切だったって話だ」
なんて笑い飛ばしてくれる源田先輩だけど、後で忍ちゃんにちゃんと怒らないとな。……佐久間さんにも同じことをしてないことを願うばかりだ。
「話は戻すが……小鳥遊に怒鳴られた時は全く思い当たりがなかった。だって真・帝国学園にいた時も不動とまともなコミュニケーションを取った記憶なんてないからな」
「双方取る気もなかったですしね」
私も源田先輩達も同じ人間を思い浮かびながらも、別の感情を滾らせていた状態だ。
互いに自分に必死すぎて、周りを見る余裕なんてまるでなかった。
「ならその前に話したことが原因かといろいろ考えて……ふと思い出したんだ。病院で気絶する前に見た不動の顔を……」
そこで一回源田先輩は黙りこくってしまう。
どれだけ酷い顔をしていたんだろうと思ったし、気になったけれどこの人の口から言わせるのは申し訳ないと思って私は代わりに口を開いた。
「まあ、確かに源田先輩の言葉にひどく動揺しましたよ。その当時の私の環境もちょっと色々あって…………包み隠さず言えば荒れに荒れました」
視線を下げれば、缶を持つ手があった。
あの時に地面を掻きむしって血だらけになった欠けた爪はもうすっかり綺麗になっている。
「…………すまない」
「……けれど、その事実は真・帝国学園が雷門と接触する以上遅かれ早かれ知ることになってました」
申し訳なさそうにする源田先輩に私は顔を上げて、彼の顔を見ながらはっきりと告げた。
彼みたいに安心させるような笑顔を浮かべる……努力はしてみたけれどできているかは不確かだ。
「あの時に知れたからこそ、より最悪な事をしなくて済んだかなって……後からそう思います」
もし、源田先輩に教えてもらっていなかったら、真実を知るのは春奈と話した時だ。
その時まで兄への恨みだけを抱えて、禁断の技を平気で佐久間さん達に生身で覚えさせていたし、兄を傷つけるのに躊躇いもなかった。
そして事実を教える春奈に対してもどんな八つ当たりをしていたかも分からない……想像すらしたくないのに、あの時の自分なら絶対にしていたと確信もあって、全くもって嫌になる。
「だから……うん…………あの時に誤解を解いてくれて、ありがとうございました」
なんて、自己嫌悪の時間は後だ。私は先に責任を感じている源田先輩に頭を下げて礼を言った。
「礼を言われることなんて何も……いや、これじゃあ堂々巡りだな」
「……私と一緒ですね」
源田先輩は礼を言われるとは思っていなかったのか戸惑っていて、自分も同じような顔をしていたんだろうなと思うとつい呟いてしまった。
すぐに私なんかと一緒は失礼かと慌てて訂正しようとすれば、
「じゃあ、お互い様だな」
「……そう、ですね」
なんて笑ってくれて、私も応えるように笑みを浮かべた。
ジュースを飲み切って空き缶をゴミ箱に捨ててから源田さんは本当に雷雷軒へ案内してくれるらしく、公園を一緒に出る。
そして向かったのは先程までいた駅で。
「?反対側の方にあるんですか?」
「え?あー……」
駅の出入り口を間違えたのかと首を傾げれば、源田先輩はなぜか何か考えるように言葉を濁したかと思えば、困ったような声を出した。
「不動、その、言いにくいんだが……」
ー稲妻町への駅はもう一つ先なんだ
…………………………。
「えっ」
夢主は方向音痴