寂しがり少女
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【稲妻町の雷雷軒で待っている。 ー響木正剛】
「……これだけかよ」
短い手紙と、最寄り駅からの簡易的な地図だけが入っていた封筒を睨みながら呟いた。
名前も知らない女の子に背中を押された私は家の自室で封筒を開ければまず中身の無さに驚いた。……詳しいことを知りたければ、直接その店に行けということか。
私は今週の予定を思い返しながらリビングの、もう仕事から帰ってきてソファーに座り、テレビを相変わらずつまらなそうに見てる明王さんに声を掛ける。
「明王さん、来週の土曜日。ちょっと出かける」
「……それってサッカー関係?」
「えっ。あ……うん」
返された声のトーンの低さに思わず驚きながらも頷いた。
だって、テレビ見ている時にはそんな素振りなかったし。何なら瞳子さんの名前も明王さんから出されたけどその時は何も言われなかったはずだ。
「……ダメ?」
「別にぃ?……ただ知ってるか。明奈ちゃん」
反対されるのかと身構えていると、私をちらりと見た明王さんは自分の眉間をとんとんと軽く叩いて笑う。
「お前、サッカー関係の話になると眉間に皺寄ってる」
「え」
思わず私は自分の眉間に触れるとそこには皺が刻まれていた。……ダメだな。肩に力が入りすぎてるし、明王さんに心配かけてる。
「……私は大丈夫だから。ちょっと話すだけだし」
私はぐいぐいと自分の眉間を押して、皺を伸ばしながら答えれば小さなため息をつかれた。
「勉強と花嫁修業はちゃんとやれよ」
「……その花嫁修業って言い方やめてよ」
それからいつもの調子に戻った明王さんに内心ほっとしながらも私は言い返す。ちなみに花嫁修業とは料理とか掃除とか家事一般のことだ。
家事をする事は学校に行かずとも自宅で勉強できる方法を取ってくれた明王さんへの恩もあるし不満は一切ない。……ただただ呼び方に違和感が拭えないだけ。
「で、花嫁(仮)。今日の晩飯は?」
「だからどこにも嫁がないって!今日はチキンカレー!」
そして明王さんは私が嫌がるって分かってて呼んでいるから本当に意地悪だ。
意地悪で、優しい人だ。
+++
稲妻町は私の住む場所からそれなりに離れているらしい。電車に揺られる時間の長さで分かったことだ。
そしてやっと最寄り駅に着いたかと思えば、休日の昼過ぎということで駅はそれなりに賑わっていた。……次は人気が少ないもっと早い時間に出ようと固く誓った。
「……雷雷軒ってどこだよ」
通行人の邪魔にならないように駅の前の柱へ凭れながら、私は地図を取り出した。だけど線と丸しか使われていないアナログの簡易地図は自分の現在地が分からないので使えず、思わず帽子を深く被りながら舌打ちを溢す。
駅員に聞くかとちらりと駅を見るけれど、人がごった返すあの場所に戻って尋ねるのは大変そうだ。……立ち往生している場合ではないと分かりながらもどうしようかと小さく息を吐いていると、
「君、迷子?」
「オレらが道案内してあげよーか?」
急に声を掛けられて反射的に背筋が伸びる。
そして声の方を向けば同世代らしい男子が二人いた。……全く面識のない、軽薄そうな雰囲気の人達だった。忍ちゃんがいたら近づくなと言いそうなタイプの人間。
そう分かっていながらも、電車と人混みで疲れ切った頭には“道案内”という都合のいいワードしか入ってこなくて、ついその男子に返答をしてしまった。
「……私、雷雷軒に行きたくて…………」
「あー、ライライケン?知ってる知ってる!」
「本当ですか……っ!」
教えてもらえるかも、と希望を抱いたのも束の間。知っていると言ってた方の人の手が腰に回されて引き寄せられる。
「いやー、最初はクール系かなって思ったけど近くでみたらかわいい顔してんじゃん。世間知らずっぽい所もかわいいかわいい」
「えっと……」
どうやらその人は単語を二回繰り返す癖があるようだ。……癖は分かったけれど言葉の内容は全然頭に入ってこなくて首を傾げることしかできない。
「怖がらなくていいって!ちゃーんとオレらが連れていってやるから」
「はぁ……」
怖いというより、よく分からない。
もう一人の男子も何が面白いのかニヤニヤとした笑みを浮かべて私のすぐ隣に来た……歩きにくいと思うけれど、彼らは平然としている。
道案内ってこんなものなのか……まあ雷雷軒に着くならいいかと促されるまま歩き出そうとすれば、
「わっ」
真後ろからぐんっと強い力で手首を引っ張られ、腰にあった手は簡単に外れた。突然のことで対応しきれなかった私はその引っ張った人の胸板にダイブしてしまった。
「俺の後輩に何か用か?」
だけど、そんなことより耳に入った低めの声に私の体は動かなくなる。
「あ、いや……」
「な、なんでも!」
顔を上げれない間に聞こえるのは、私と話していた時よりも焦った様子の二人組の声で、それから遠ざかる足音とほっと息をつく声が聞こえたのは同時だった。
「大丈夫か?」
それから手首から外された手は肩に置かれ、心配そうに顔を覗き込まれる。
“あの時”よりもずっと柔らかくなった目が、きょとんとしている間抜け面の私を映す。
「今お前、ナンパされてたんだぞ」
「なんぱ……」
その相手に気を取られていて、告げられた言葉はまるで耳に入らずオウム返しすることになった。
話を聞いていないことがバレたのか相手は眉をひそめて不動、と念を押すように名前を呼ばれた。
……私のこと、覚えてたんだ。
「知らない男についていったらダメだ。危ないだろ?」
なんて、小さい子に言い聞かせるような声音にデジャヴを感じながらも本気で私の身を案じていることも伝わったので、申し訳なさからひとまず頷いてから、説明するために口を開いた。
「……雷雷軒に行きたくて……でも道分からなくて……あの人たちが案内してくれるって言うから…………」
「雷雷軒……そうか。それなら俺が知っている。案内しよう」
知らない人間よりは安心だろ、と彼は笑みを浮かべて私の手を取って歩き出そうとする。
そこで、やっと私は現状を理解して顔を上げた。
私をナンパ(?)から助けてくれて、道案内を買って出てくれたその人は、逆立った茶髪とオレンジのフェイスペイントをしていた。
そう、かつて真・帝国学園でGKをしていた源田幸次郎さんが、目の前にいた。
「……っなにっ、してんだよ!?」
意味が分からず、私はその手を振りほどいて湧き出る感情のまま源田さんを怒鳴りつけた。
「な、んでっ、私に普通に話しかけてるんだよ……!私がアンタに何をしたのか忘れたの!?私のせいで……!!」
「不動」
吐き出そうとした言葉は源田さんに肩を叩かれて、見上げれば苦笑交じりの笑みを浮かべていた。
「……場所を変えよう。ここはちょっと目立つ」
「…………あ」
そしてそんな耳打ちに、私がいる場所が人通りの多い駅の前だと言うことを思い出して、咄嗟に周りを見てしまった。
男子に怒鳴りつける女子という絵面は目立つのか、遠巻きにちらちらこちらを見る同年代の人間だったり、親子の姿があって、それなりに目立っていることにじわじわと顔に熱が集まる。
「…………はい」
か細い返事を返した私に源田さんはよし、と小さく笑ってから再び手を握って歩き出す。
今度は振りほどくことなんてできず、私は帽子を目深に被りながらついて行った。
「……これだけかよ」
短い手紙と、最寄り駅からの簡易的な地図だけが入っていた封筒を睨みながら呟いた。
名前も知らない女の子に背中を押された私は家の自室で封筒を開ければまず中身の無さに驚いた。……詳しいことを知りたければ、直接その店に行けということか。
私は今週の予定を思い返しながらリビングの、もう仕事から帰ってきてソファーに座り、テレビを相変わらずつまらなそうに見てる明王さんに声を掛ける。
「明王さん、来週の土曜日。ちょっと出かける」
「……それってサッカー関係?」
「えっ。あ……うん」
返された声のトーンの低さに思わず驚きながらも頷いた。
だって、テレビ見ている時にはそんな素振りなかったし。何なら瞳子さんの名前も明王さんから出されたけどその時は何も言われなかったはずだ。
「……ダメ?」
「別にぃ?……ただ知ってるか。明奈ちゃん」
反対されるのかと身構えていると、私をちらりと見た明王さんは自分の眉間をとんとんと軽く叩いて笑う。
「お前、サッカー関係の話になると眉間に皺寄ってる」
「え」
思わず私は自分の眉間に触れるとそこには皺が刻まれていた。……ダメだな。肩に力が入りすぎてるし、明王さんに心配かけてる。
「……私は大丈夫だから。ちょっと話すだけだし」
私はぐいぐいと自分の眉間を押して、皺を伸ばしながら答えれば小さなため息をつかれた。
「勉強と花嫁修業はちゃんとやれよ」
「……その花嫁修業って言い方やめてよ」
それからいつもの調子に戻った明王さんに内心ほっとしながらも私は言い返す。ちなみに花嫁修業とは料理とか掃除とか家事一般のことだ。
家事をする事は学校に行かずとも自宅で勉強できる方法を取ってくれた明王さんへの恩もあるし不満は一切ない。……ただただ呼び方に違和感が拭えないだけ。
「で、花嫁(仮)。今日の晩飯は?」
「だからどこにも嫁がないって!今日はチキンカレー!」
そして明王さんは私が嫌がるって分かってて呼んでいるから本当に意地悪だ。
意地悪で、優しい人だ。
+++
稲妻町は私の住む場所からそれなりに離れているらしい。電車に揺られる時間の長さで分かったことだ。
そしてやっと最寄り駅に着いたかと思えば、休日の昼過ぎということで駅はそれなりに賑わっていた。……次は人気が少ないもっと早い時間に出ようと固く誓った。
「……雷雷軒ってどこだよ」
通行人の邪魔にならないように駅の前の柱へ凭れながら、私は地図を取り出した。だけど線と丸しか使われていないアナログの簡易地図は自分の現在地が分からないので使えず、思わず帽子を深く被りながら舌打ちを溢す。
駅員に聞くかとちらりと駅を見るけれど、人がごった返すあの場所に戻って尋ねるのは大変そうだ。……立ち往生している場合ではないと分かりながらもどうしようかと小さく息を吐いていると、
「君、迷子?」
「オレらが道案内してあげよーか?」
急に声を掛けられて反射的に背筋が伸びる。
そして声の方を向けば同世代らしい男子が二人いた。……全く面識のない、軽薄そうな雰囲気の人達だった。忍ちゃんがいたら近づくなと言いそうなタイプの人間。
そう分かっていながらも、電車と人混みで疲れ切った頭には“道案内”という都合のいいワードしか入ってこなくて、ついその男子に返答をしてしまった。
「……私、雷雷軒に行きたくて…………」
「あー、ライライケン?知ってる知ってる!」
「本当ですか……っ!」
教えてもらえるかも、と希望を抱いたのも束の間。知っていると言ってた方の人の手が腰に回されて引き寄せられる。
「いやー、最初はクール系かなって思ったけど近くでみたらかわいい顔してんじゃん。世間知らずっぽい所もかわいいかわいい」
「えっと……」
どうやらその人は単語を二回繰り返す癖があるようだ。……癖は分かったけれど言葉の内容は全然頭に入ってこなくて首を傾げることしかできない。
「怖がらなくていいって!ちゃーんとオレらが連れていってやるから」
「はぁ……」
怖いというより、よく分からない。
もう一人の男子も何が面白いのかニヤニヤとした笑みを浮かべて私のすぐ隣に来た……歩きにくいと思うけれど、彼らは平然としている。
道案内ってこんなものなのか……まあ雷雷軒に着くならいいかと促されるまま歩き出そうとすれば、
「わっ」
真後ろからぐんっと強い力で手首を引っ張られ、腰にあった手は簡単に外れた。突然のことで対応しきれなかった私はその引っ張った人の胸板にダイブしてしまった。
「俺の後輩に何か用か?」
だけど、そんなことより耳に入った低めの声に私の体は動かなくなる。
「あ、いや……」
「な、なんでも!」
顔を上げれない間に聞こえるのは、私と話していた時よりも焦った様子の二人組の声で、それから遠ざかる足音とほっと息をつく声が聞こえたのは同時だった。
「大丈夫か?」
それから手首から外された手は肩に置かれ、心配そうに顔を覗き込まれる。
“あの時”よりもずっと柔らかくなった目が、きょとんとしている間抜け面の私を映す。
「今お前、ナンパされてたんだぞ」
「なんぱ……」
その相手に気を取られていて、告げられた言葉はまるで耳に入らずオウム返しすることになった。
話を聞いていないことがバレたのか相手は眉をひそめて不動、と念を押すように名前を呼ばれた。
……私のこと、覚えてたんだ。
「知らない男についていったらダメだ。危ないだろ?」
なんて、小さい子に言い聞かせるような声音にデジャヴを感じながらも本気で私の身を案じていることも伝わったので、申し訳なさからひとまず頷いてから、説明するために口を開いた。
「……雷雷軒に行きたくて……でも道分からなくて……あの人たちが案内してくれるって言うから…………」
「雷雷軒……そうか。それなら俺が知っている。案内しよう」
知らない人間よりは安心だろ、と彼は笑みを浮かべて私の手を取って歩き出そうとする。
そこで、やっと私は現状を理解して顔を上げた。
私をナンパ(?)から助けてくれて、道案内を買って出てくれたその人は、逆立った茶髪とオレンジのフェイスペイントをしていた。
そう、かつて真・帝国学園でGKをしていた源田幸次郎さんが、目の前にいた。
「……っなにっ、してんだよ!?」
意味が分からず、私はその手を振りほどいて湧き出る感情のまま源田さんを怒鳴りつけた。
「な、んでっ、私に普通に話しかけてるんだよ……!私がアンタに何をしたのか忘れたの!?私のせいで……!!」
「不動」
吐き出そうとした言葉は源田さんに肩を叩かれて、見上げれば苦笑交じりの笑みを浮かべていた。
「……場所を変えよう。ここはちょっと目立つ」
「…………あ」
そしてそんな耳打ちに、私がいる場所が人通りの多い駅の前だと言うことを思い出して、咄嗟に周りを見てしまった。
男子に怒鳴りつける女子という絵面は目立つのか、遠巻きにちらちらこちらを見る同年代の人間だったり、親子の姿があって、それなりに目立っていることにじわじわと顔に熱が集まる。
「…………はい」
か細い返事を返した私に源田さんはよし、と小さく笑ってから再び手を握って歩き出す。
今度は振りほどくことなんてできず、私は帽子を目深に被りながらついて行った。