自分がこの“世界”に生まれ変わった存在だと気づいたのは、両親が海外勤務に行く際の飛行機事故で亡くなったと知らない大人に聞かされた時だった。
残された悲しみによるショックで思い出すのは、高校生だった自分がトラックに轢かれ、視界が真っ赤に塗り潰される瞬間で、両親を失ったばかりの子供が思い出すには酷な記憶に心がついていかず純粋に両親の死に悲しんでいる双子の妹と一緒に兄に泣き喚いてしまったのを覚えている。

兄や妹と一緒の施設に預けられたのが不幸中の幸いと言えるのかもしれない。ひとりぼっちは寂しいから嫌いだ。
赤の他人と一緒に暮らすという性質上、トラブルも少なくはなかったけど兄が守ってくれた。私も妹を守れる存在になりたかったが、なれているかは微妙だったりする。

「オレの妹を苛める奴は許さない！」

今日だっていじめっ子達の標的にされている妹を助けようと飛び出したはいいものも、相手は私よりも大きく、髪を引っ張られたり腕を抓られたりとやられたい放題されていれば、兄が彼らを突き飛ばし勇敢に声を上げた。
兄ちゃんの体格だっていじめっ子と比べれば小さいはずなのに私達を守ってくれる背中は誰よりも大きく見えた。

「明奈、無理するな」

その後、傷だらけになったけど無事にいじめっ子を返り討ちさせた兄ちゃんは、自分の怪我もそこそこに私に対して心配そうに声をかけて引っ張られた際にぐしゃぐしゃになった髪を優しく撫でて整えてくれる。

「……春奈に怪我させたくなかった、から」

「オレは明奈にも傷ついてほしくないな」

一人じゃ到底春奈を守れなかった悔しさから素直に頷けない私に対しても、兄ちゃんは少し困った顔で笑ってそう優しい声をかける。

「だから守らせてくれ」

「……うん」

な？と微笑まれれば何も言える事はなく、私はこくりと頷く。
それと同時にくいっと裾を引っ張られる感覚に私はそちらに視線を向ける。そこにはハンカチを濡らしに行った妹が私と兄の服の裾を引っ張っていた。

「お兄ちゃんにも、お姉ちゃんにもけがしてほしくない……」

ぎゅうっと裾を握りながら涙目で声を絞り出す春奈。そんな優しい妹の姿に完敗だ、と兄と顔を見合わせれば同じ感情だと分かり、つい笑ってしまう。

「ごめん、春奈。もう大丈夫だ」

「うん、お兄ちゃんもお姉ちゃんも怪我しないように頑張るからね」

お兄ちゃんと一緒に春奈と目線を合わせながら謝れば、ほんとう？と潤ませた大きな目をこちらに向ける。本当だよと2人で頷けば、

「やったぁ！」

そう声を上げて飛びついてきた可愛い妹を兄ちゃんと一緒に受け止めれば、春奈は満面の笑みを浮かべてぎゅうぎゅうと抱きつく。そんな姿を見たお兄ちゃんと私がどちらともなく笑みが零れるのは仕方ない話だろう。

頼りになる兄と優しい妹、私には勿体ないと感じてしまうほど素敵な家族と一緒にいられて私は確かに幸せだった。