寂しがり少女
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帰り際に連絡先を貰ってから私は自分の家の最寄り駅で瞳子さんと別れを告げた。
時刻を駅の時計で確認すれば三時を回っていて、一般的に休日ということもあって家までの道のりは行きの時よりも賑わっていた。
私は、ため息一つつきながらつきながらパーカーのポケットに手を突っ込んで歩いていく。
美味しい物を食べて幸せだったという気持ちはしばらくあったけれど、それでもこれからの事を考えると気が重くなるのは事実だ。
「……どうしよう」
私はポケットの中にある瞳子さんに貰った響木さんから託されたという封筒に触れてぽつりと呟く。……中身はまだ見れていない。
響木さんはFFで雷門イレブンの監督をしていた人物で、エイリア学園の事件が終わって再び監督へと戻ったと瞳子さんは言っていた。この人と関わることになれば、きっと雷門にいる彼らと出会う機会はきっとある。
私は記憶の中にある兄妹の笑顔を思い出そうとしても、浮かぶのは幼少期の……施設にいた時の幼い記憶ばかり。
当たり前か。私は今の彼らの笑顔なんて見たことないんだから。
見たことのないものを思い出せるわけがない。
あの人は苦しそうだった。あの子は泣いていた。
最後に思い出せる彼らの表情に、やっぱり会う資格なんてないと再度認識してつい自嘲の笑みを漏らしながらポケットから手を出す。
「…………諦めるべきなんだろうなぁ」
そう分かっていながらも、瞳子さんに封筒を突き返せず持ったまま、デザートで誤魔化してそのまま持ち帰った自分は滑稽だ。
「ボール、かえしてよ!」
「うるせー!」
「おんなのくせに、サッカーしてんじゃねーよ!」
仲良く遊んでいる訳ではないだろう声が聞こえたのは、賑わう大通りにいい加減に嫌気がさして普段通らない道を抜けた矢先の事だった(すぐ隣の通りだし、迷子にはならないだろう)
ちらりと声の方へ視線を向ければ、通り道にある空き地で小学生より小さく感じる女の子と、その子より年上らしい二人の男の子が言い争っていた。
三人の中で一番背が高い男の子は何かを高く掲げている。それに対して手を伸ばして声を上げる女の子に、もう一人の男の子は突っかかっていた。
「それ、おねえちゃんのボールなの!かえして!」
背が高い子が持っていたのはサッカーボールだった。
必死に手を伸ばす女の子だけど、男の子は背伸びまでして身長差をつけて取らせる気はない。
「とれるもんなら取ってみろよ!」
「きゃあ!」
負けじと背伸びをする女の子に、ボールを持っていない方の男の子が女の子を突き飛ばす。
幼い故に加減の知らない行動に思い出すのは施設でのいじめっ子達で。それを思い出したからこそ、気づけば体が動いていた。
尻餅をつきそうになる女の子の背後へと回った私は、そっとその背中を支えて阻止をする。それから自立したのを確認してから手を離した。
「男の子2人で女の子にいじわるなんて、かっこわるいね」
突然現れた自分より年上の人間の登場に固まる男の子達に、一言だけ告げる。
「っ!」
「おい…」
相手は私よりずっと年下なので必要以上に怖がらせないように加減はしたつもりだったけれど、男の子達は気まずげに顔を見合わせたかと思えばボールも放り投げてさっさと逃げ出してしまった。
「……難しい」
怒鳴った訳でも、睨んだ訳でもないのに……そんなに怖く見えたのだろうか。
ちらりと目線だけ下へ向けると、私が助けたはずの女の子は目が合った瞬間すごい勢いで後退り、警戒するようにこちらの様子を伺ってきた。
まあ、いきなり知らない年上に絡まれたんだ。当然の反応か。
「これ、きみのでしょう」
切なくなる気持ちを納得させた私は地面を転がるボールを足で掬って手の中へと納めて、再び女の子の前へ行ってその場で屈んで手渡そうとする。
「…………うん」
ボールと私。交互に見ていた女の子はこくりと頷いてからおずおずとした様子でボールを受け取った。
「ああそれと……飴食べる?」
まだ怯えている様子の女の子に切なさを通り越して、申し訳なさを感じた私はポケットに入れているものの存在を思い出して提案してみた。
「……いいの?」
キラリと女の子の目が光ったのが分かった。
私はすぐに頷いて、喫茶店の会計の際に店員さんに(瞳子さんにも譲ってもらったので一緒に)貰った飴玉を二つ取り出す。
「おねえちゃんと仲良く食べな」
「!ありがとう!!」
ころんと二つの飴玉を小さな手に乗せれば、女の子はじっと飴玉を見てたかと思えば、パァァと満面の笑みをこちらに向けた。
こんな幼いのにちゃんと礼を言えるなんて育ちがいいな、というのが率直な感想だった。
やるべきことは終わったので、私は空き地から出ようと立ち上がり女の子から背を向けた瞬間。
「まって!」
小さな手が私の手を掴んでいた。
「あのねっ!わたしおねえちゃんまっててね、それまでひとりなの!いっしょにサッカーしよ!!」
警戒していた頃とは打って変わって、キラキラした目ですごい勢いで私に話しかける女の子につい面食らう。飴玉だけでこんなに心を開かれるなんて思わなかった。
だとしても、私は見ず知らずの子供のために一緒に遊ぶほどお人好しではない。
「ごめんね。おねーちゃんサッカー知らないんだ」
「うっそだー!さっきボールを足でひょいってやってるの見たもん!」
白を切ろうとしたものの、案外子供は目ざとい。
ニコニコと笑いながら指摘する女の子には私が騙そうとしたことには気づいてなくて、良心が痛んだ私は結局空き地でサッカーをすることになった。
サッカーをする、と言っても二人でできる事なんてせいぜいボールを蹴り合うことぐらいで。数ヶ月ぶりにボールに触れたけれどコントロールに問題はなく、女の子も幼いながらに真っ直ぐと私の足元へボールを蹴るぐらいには上手かった。
「わぁ!すごいすごい取ったー!」
「あのねぇ…………」
だけど、たまにわざと大きく逸れるボールを蹴っては私が取る姿を見てはしゃぐぐらいにはいい性格をしていた。
「……お友達にはそんなことしたらダメだよ」
「おねえちゃんがいるからいいもーん」
怒るほどのことでもないけど、一応注意をしてみるが笑顔で一蹴された。
聞けばこの子は幼稚園に通っている姉がいて、その姉が帰ってくるまで家の近くのこの空き地で遊びながら待っているらしい。
嬉しそうに姉のことを話す様子を見るだけで、大好きなんだろうということが伝わって微笑ましい反面に少し羨ましく思う。
……家族だからって、ずっと一緒にいれるか分からないのに。
「ッ……!」
浮かんだ言葉があまりにも歪んでいて、私は咄嗟に手で口を抑えながら固まった。そのせいでボールが転がってきても反応できずに、女の子が首を傾げる。
「どうしたの、おねーちゃん?」
私を見上げる純粋な瞳に、よく分からない焦る気持ちを感じながら私は取り繕うように口を開いた。
「なんでもないよ。……優しいおねえちゃんなんだね」
「うん!大好き!!」
ちょっと泣き虫だけど、と笑顔を浮かべる女の子に私はちゃんと笑えた気はしなかった。
「おねーちゃんはきょーだいいる?」
それから休憩中にボールを抱えた女の子に尋ねられた。自分が姉を語って単純に気になったことなんだろう。
「…………いる、けど……」
否定はできずに頷くけれど目の前の女の子みたいに彼らの魅力を語る気にはなれずに曖昧に笑う。
「おねーちゃんはきょうだいに……意地悪しちゃったから会えてない」
「きょうだいなのに一緒にいないの……?」
私の言葉に目を丸くする女の子に苦笑してしまう。兄弟が離れ離れになる発想すらなかったみたいだ。
……子供に言うべきことじゃなかったな。
「じゃあごめんないってしないとね!」
冗談だよ、と誤魔化そうとした矢先に、女の子はパッと閃いたように顔を上げた。
「ごめんなさい……」
「いやなことしたらちゃんと、ごめんなさいってするの!そうしたらおねえちゃんは絶対許してくれるんだぁ」
「……そう、だね……悪いことしたらちゃんと謝る……うん。そうだ」
それはごく普通の、当たり前のことなのに私の頭から抜け落ちていたことだった。
そうだ、私は悪いことしたのに謝罪も満足にできていない。
……諦める前に、それだけでもしておくべきだろう。
「大切なこと……教えてくれて、ありがとう」
「仲直り、できるといいね!」
私は助言をくれた女の子の頭を撫でながらそう礼を言えば、その子は無邪気に笑った。
時刻を駅の時計で確認すれば三時を回っていて、一般的に休日ということもあって家までの道のりは行きの時よりも賑わっていた。
私は、ため息一つつきながらつきながらパーカーのポケットに手を突っ込んで歩いていく。
美味しい物を食べて幸せだったという気持ちはしばらくあったけれど、それでもこれからの事を考えると気が重くなるのは事実だ。
「……どうしよう」
私はポケットの中にある瞳子さんに貰った響木さんから託されたという封筒に触れてぽつりと呟く。……中身はまだ見れていない。
響木さんはFFで雷門イレブンの監督をしていた人物で、エイリア学園の事件が終わって再び監督へと戻ったと瞳子さんは言っていた。この人と関わることになれば、きっと雷門にいる彼らと出会う機会はきっとある。
私は記憶の中にある兄妹の笑顔を思い出そうとしても、浮かぶのは幼少期の……施設にいた時の幼い記憶ばかり。
当たり前か。私は今の彼らの笑顔なんて見たことないんだから。
見たことのないものを思い出せるわけがない。
あの人は苦しそうだった。あの子は泣いていた。
最後に思い出せる彼らの表情に、やっぱり会う資格なんてないと再度認識してつい自嘲の笑みを漏らしながらポケットから手を出す。
「…………諦めるべきなんだろうなぁ」
そう分かっていながらも、瞳子さんに封筒を突き返せず持ったまま、デザートで誤魔化してそのまま持ち帰った自分は滑稽だ。
「ボール、かえしてよ!」
「うるせー!」
「おんなのくせに、サッカーしてんじゃねーよ!」
仲良く遊んでいる訳ではないだろう声が聞こえたのは、賑わう大通りにいい加減に嫌気がさして普段通らない道を抜けた矢先の事だった(すぐ隣の通りだし、迷子にはならないだろう)
ちらりと声の方へ視線を向ければ、通り道にある空き地で小学生より小さく感じる女の子と、その子より年上らしい二人の男の子が言い争っていた。
三人の中で一番背が高い男の子は何かを高く掲げている。それに対して手を伸ばして声を上げる女の子に、もう一人の男の子は突っかかっていた。
「それ、おねえちゃんのボールなの!かえして!」
背が高い子が持っていたのはサッカーボールだった。
必死に手を伸ばす女の子だけど、男の子は背伸びまでして身長差をつけて取らせる気はない。
「とれるもんなら取ってみろよ!」
「きゃあ!」
負けじと背伸びをする女の子に、ボールを持っていない方の男の子が女の子を突き飛ばす。
幼い故に加減の知らない行動に思い出すのは施設でのいじめっ子達で。それを思い出したからこそ、気づけば体が動いていた。
尻餅をつきそうになる女の子の背後へと回った私は、そっとその背中を支えて阻止をする。それから自立したのを確認してから手を離した。
「男の子2人で女の子にいじわるなんて、かっこわるいね」
突然現れた自分より年上の人間の登場に固まる男の子達に、一言だけ告げる。
「っ!」
「おい…」
相手は私よりずっと年下なので必要以上に怖がらせないように加減はしたつもりだったけれど、男の子達は気まずげに顔を見合わせたかと思えばボールも放り投げてさっさと逃げ出してしまった。
「……難しい」
怒鳴った訳でも、睨んだ訳でもないのに……そんなに怖く見えたのだろうか。
ちらりと目線だけ下へ向けると、私が助けたはずの女の子は目が合った瞬間すごい勢いで後退り、警戒するようにこちらの様子を伺ってきた。
まあ、いきなり知らない年上に絡まれたんだ。当然の反応か。
「これ、きみのでしょう」
切なくなる気持ちを納得させた私は地面を転がるボールを足で掬って手の中へと納めて、再び女の子の前へ行ってその場で屈んで手渡そうとする。
「…………うん」
ボールと私。交互に見ていた女の子はこくりと頷いてからおずおずとした様子でボールを受け取った。
「ああそれと……飴食べる?」
まだ怯えている様子の女の子に切なさを通り越して、申し訳なさを感じた私はポケットに入れているものの存在を思い出して提案してみた。
「……いいの?」
キラリと女の子の目が光ったのが分かった。
私はすぐに頷いて、喫茶店の会計の際に店員さんに(瞳子さんにも譲ってもらったので一緒に)貰った飴玉を二つ取り出す。
「おねえちゃんと仲良く食べな」
「!ありがとう!!」
ころんと二つの飴玉を小さな手に乗せれば、女の子はじっと飴玉を見てたかと思えば、パァァと満面の笑みをこちらに向けた。
こんな幼いのにちゃんと礼を言えるなんて育ちがいいな、というのが率直な感想だった。
やるべきことは終わったので、私は空き地から出ようと立ち上がり女の子から背を向けた瞬間。
「まって!」
小さな手が私の手を掴んでいた。
「あのねっ!わたしおねえちゃんまっててね、それまでひとりなの!いっしょにサッカーしよ!!」
警戒していた頃とは打って変わって、キラキラした目ですごい勢いで私に話しかける女の子につい面食らう。飴玉だけでこんなに心を開かれるなんて思わなかった。
だとしても、私は見ず知らずの子供のために一緒に遊ぶほどお人好しではない。
「ごめんね。おねーちゃんサッカー知らないんだ」
「うっそだー!さっきボールを足でひょいってやってるの見たもん!」
白を切ろうとしたものの、案外子供は目ざとい。
ニコニコと笑いながら指摘する女の子には私が騙そうとしたことには気づいてなくて、良心が痛んだ私は結局空き地でサッカーをすることになった。
サッカーをする、と言っても二人でできる事なんてせいぜいボールを蹴り合うことぐらいで。数ヶ月ぶりにボールに触れたけれどコントロールに問題はなく、女の子も幼いながらに真っ直ぐと私の足元へボールを蹴るぐらいには上手かった。
「わぁ!すごいすごい取ったー!」
「あのねぇ…………」
だけど、たまにわざと大きく逸れるボールを蹴っては私が取る姿を見てはしゃぐぐらいにはいい性格をしていた。
「……お友達にはそんなことしたらダメだよ」
「おねえちゃんがいるからいいもーん」
怒るほどのことでもないけど、一応注意をしてみるが笑顔で一蹴された。
聞けばこの子は幼稚園に通っている姉がいて、その姉が帰ってくるまで家の近くのこの空き地で遊びながら待っているらしい。
嬉しそうに姉のことを話す様子を見るだけで、大好きなんだろうということが伝わって微笑ましい反面に少し羨ましく思う。
……家族だからって、ずっと一緒にいれるか分からないのに。
「ッ……!」
浮かんだ言葉があまりにも歪んでいて、私は咄嗟に手で口を抑えながら固まった。そのせいでボールが転がってきても反応できずに、女の子が首を傾げる。
「どうしたの、おねーちゃん?」
私を見上げる純粋な瞳に、よく分からない焦る気持ちを感じながら私は取り繕うように口を開いた。
「なんでもないよ。……優しいおねえちゃんなんだね」
「うん!大好き!!」
ちょっと泣き虫だけど、と笑顔を浮かべる女の子に私はちゃんと笑えた気はしなかった。
「おねーちゃんはきょーだいいる?」
それから休憩中にボールを抱えた女の子に尋ねられた。自分が姉を語って単純に気になったことなんだろう。
「…………いる、けど……」
否定はできずに頷くけれど目の前の女の子みたいに彼らの魅力を語る気にはなれずに曖昧に笑う。
「おねーちゃんはきょうだいに……意地悪しちゃったから会えてない」
「きょうだいなのに一緒にいないの……?」
私の言葉に目を丸くする女の子に苦笑してしまう。兄弟が離れ離れになる発想すらなかったみたいだ。
……子供に言うべきことじゃなかったな。
「じゃあごめんないってしないとね!」
冗談だよ、と誤魔化そうとした矢先に、女の子はパッと閃いたように顔を上げた。
「ごめんなさい……」
「いやなことしたらちゃんと、ごめんなさいってするの!そうしたらおねえちゃんは絶対許してくれるんだぁ」
「……そう、だね……悪いことしたらちゃんと謝る……うん。そうだ」
それはごく普通の、当たり前のことなのに私の頭から抜け落ちていたことだった。
そうだ、私は悪いことしたのに謝罪も満足にできていない。
……諦める前に、それだけでもしておくべきだろう。
「大切なこと……教えてくれて、ありがとう」
「仲直り、できるといいね!」
私は助言をくれた女の子の頭を撫でながらそう礼を言えば、その子は無邪気に笑った。