寂しがり少女
Name change
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「明奈ッ!!」
名前を呼ばれた後に暖かな感覚に包まれて、何が起こったのか分からなかった。
視界いっぱいに広がる黄色と、端に見えた「雷門」と書かれている黒い文字にそれが誰なのかやっと気づいた。
「明奈!明奈っ、もう大丈夫だ!!兄ちゃんがいる!!すまなかった、もうお前を一人にさせないっ!」
「……に、」
兄ちゃん。
兄ちゃんが、私を抱きしめてくれていた。私を守るように強く強く抱きしめて、安心させようと声を上げてくれている。
ああ、ああ……!
この人はこんな馬鹿な奴をまだ妹として、名前を呼んでくれている。守ろうとしてくれる。
自分だって親友が傷ついて悲しくて苦しいはずなのに、ただただ私の身を案じてくれている。
なんで。
なんで私はこんなに優しい人達を……家族を信じられなかったんだろう。
私にとって唯一だったはずなのに……!!
「っ……っ……」
胸が詰まって何も言えない私は自分の拳を握りしめることしかできなくて……私が逃げようとしないからか、真上から小さく安堵した声が聞こえた。
「影山ァ!!」
それからさらに抱きしめる力を強くしてから、遠くへ向かって叫んだ。
そこでまだ、影山がいた事を思い出した。
「佐久間や明奈をこんな目に合わせて満足か…!」
違うよ、私は彼と同じように怒ってもらえるような立場じゃないよ。
「満足?できるわけなかろう……!!」
そう言いたかったのに、口は上手く動かなくて私は兄ちゃんと影山のやり取りすらも上手く聞き取れずにずっと俯いていた。
「鬼道!この潜水艦はもう沈む!!掴まれっ!!」
第三者の声が聞こえて、なんとか顔を上げれば影山を恨めしそうに睨んでる兄の近くにヘリコプターが近づいていて、下ろされた縄梯子に捕まった刑事らしき人が兄を呼んでいた。
「!先に妹をお願いします!!」
兄ちゃんはその言葉に影山から目を逸らして、腕の中にいる私を見る。すぐに立ち上がり、立てれるか?と私へ手を伸ばしてくれた。
ー守らせてくれ。
その仕草は幼少期の私を守って手を伸ばしてくれた兄の姿と重なった。
だけど、その時と違って今の私にはその手を取れる資格なんてない。
だから私は、一人で立ち上がって、
「……ごめんなさい」
ドンッと力いっぱい兄を押して、無理やり刑事の方へ突き飛ばした。
「おいっ!?まてっ……!!」
刑事がきちんと兄を受け止めてくれた事を確認してから、私は背を向ける。呼び止める声が爆発音に搔き消されていくのを感じながら、潜水艦の内部へと戻った。
爆発音が鳴り響く潜水艦。物などなかった無機質な通路は今は崩れ落ちた鉄板や照明などが無残に床に散らばっている。
それらが比較的少ない場所に来たところで、大きく潜水艦が揺れてバランスを崩した私は壁に肩を打ち付けてそのまま倒れ込んでしまった。
「もう、歩けないや」
ちらりと目線を下に向ければ、試合中に痛めた足はいつの間にか腫れているし、肩だって痛い。私は肩を押さえながら床へと凭れて足を投げ出す。
「……変わってなかった」
ポツリと呟きながら思い出すのは8年ぶりに話をできた兄妹の姿。
最後まで、兄ちゃんも春奈も私に手を伸ばしてくれた。話そうとしてくれた。それを跳ね除けたのは他でもない自分自身。
変わったのは、私だけだ。
「ふっ」
最初にこみ上げてきたのは笑いだ。私は手で口元を押さえるが抑えきれないおかしい気持ちにひたすら笑った。
「ふっ……ふふっ、あはは……!」
笑って、笑って、笑って、涙が出るくらい笑う。
ああもう……!!
「馬鹿だなぁ、私……!!」
もう、自分への憎しみでおかしくなりそうだ!!
ひとりになりたくない。
そんな身勝手な理由で、兄妹を信じきれず裏切り、傷つけた。
「ごめんなさい……ごめんなさい…………」
私は膝を抱えて、届かない謝罪を呟き続ける。
あの時……春奈が兄ちゃんに抱きつくのを見た時。
私の時は冷たかったのに!と怒って飛び出していれば、未来は違ったのかもしれない。……一歩足を踏み出していれば兄妹と笑い合えていたかもしれない。
もう変えることのできない仮定の話なんか想像しても、仕方ないとは思っても私は思わずにはいられなかった。
「結局、私は……」
その言葉の先を言う前に、ガタンッと大きな音と共に天井の鉄板が外れて落ちてくるのが見えた。
私は一切動かずにスローモーションで落ちてくる鉄板をぼんやりと眺めていれば。
「 “ひゃくれつショット”!!」
鉄板が真横に吹き飛んだ。
「……は」
「おい、キャプテンいたぞー!」
「よっしゃ!連絡入れろ小鳥遊ィ!!」
「分かってるわよ……!」
それから声が聞こえて顔を向ければ、必殺技を打って鉄板を飛ばした比得さんとボールを持った弥谷さんが声を上げるのは携帯片手に持った小鳥遊さん。
「なんで……」
「……比得、こいつ足怪我してるからおぶって」
「まぁあんな必殺技を蹴り返そうとしたらそうなるよなぁ……キンダンの技よりかマシっぽいけど」
「いいから、さっさと運べ!」
ぱちんと携帯を閉じて、私に視線を合わせる小鳥遊さんは私の怪我に気づいたのか比得さんにそう告げて、弥谷さんもそれを急かす。
そして比得さんが私に手を伸ばした所で、ハッと意識を戻した。
「何してんだよっ!!?」
私は慌てて彼の手を叩き落して怒鳴った。
真・帝国学園の選手が、目の前にいることにひどく動揺してしまう。
「逃げろっつっただろ!こんな所に来て死ぬつもりかよ!!?私はもう……!」
「うるさいっ!!」
消えたいのに、なんて言葉は小鳥遊さんの怒鳴り声で掻き消された。
「逃げるなんて許される訳ない。アンタが言った言葉でしょ!」
ー自分の発言には責任を持ちなさいよ……!
「……聞こえて、たの…………」
それは、かつて私が呟いた言葉で驚いて固まってしまった。その間に比得さんは軽々と私を背中に乗せて、潜水艦の脱出のため走り出した。
本当はちゃんと抵抗したかったけれど、ぐらぐら揺れる頭じゃ上手く言葉を出せないし、ダメージのせいで身体も思うように動かない。
ただ、こんな状況にも拘らずにわあわあと騒がしく走る彼らの姿が印象的だった。
脱出口には真・帝国のみんなが乗っていたボートがまだあって、滑り止むように私達は乗り込み、何とか離れた所で潜水艦は大きな爆発音と共に沈んでいくのが見えた。
本当にギリギリだったんだろう。彼らの助けがなければ私も今頃……
鉄塊として暗い海へ沈んでいく様を眺めていると、キャプテン、とそばから声が聞こえた。
「雷門に見つかりたくなかったら、屈んで」
チームで一番の小柄な日柄さんに話しかけられたから声が近かったらしい。
私は雷門、という言葉に反射的にその場で腰を折れば視界が真っ白になった。個室のベットシーツだと気づくのに時間はかからなかった。
そんな彼らの用意周到さに計画的に私を救おうとしたことが分かってさらに私は困惑した。
だけど、理由を考えている間に……疲労と、ボートに揺られる感覚に気持ち悪さから限界を感じて、ゆっくりと目を閉じた。
これは余談ですが、夢主の鬼道さん、春奈ちゃんの呼び方が文中で統一されてないのは仕様です。