寂しがり少女
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『で、どうなの?義理の兄貴との暮らしは』
「うーん。普通、かな?」
携帯越しの友人の質問に私ははっきりと即答はできずに思わず失笑してしまった。
「あ、でも料理はそれなりにできるようになったよ。オムライスとか肉じゃがとか……!今度真帝国のみんなに振る舞うね」
『そう。楽しみにしてるわ』
潜水艦にいた頃とは考えられないぐらい穏やかな会話を続けながらふと目に入ったのは自分の爪だった。
割れてもいない、掻けてもいない綺麗な爪が太陽の光に反射してきらりと光っている。
あまり意識していなかったけれど忍ちゃんは真帝国学園時代から私の爪が何かとボロボロな事(最近はやらないけれど、爪を突き立てたり噛んだりすることがあったからそれのせいだろう)を気にしていたらしく、入院中に忍ちゃん直々にネイルケアを叩きこまれ、それ以降は自分の手で手入れを続けていた。
何かと世話を焼いてくれている彼女に対して、姉がいたらこんな感じなのかな、なんて思ってしまう。
『そういえばそろそろ時間じゃない?』
「あっ、本当だ。電話って時間あっという間になくなるね」
忍ちゃんの指摘にふと立て掛けられている時計を見れば約束の時間が迫っていて時間の進みの早さに驚いた。
「忍ちゃん、突然の通話ありがとう!」
『いいわよ。緊張は解けた?』
「……まだちょっとしてるけど、頑張れそう」
正直ね、と笑う彼女と二言三言やり取りした後に私は通話を終わらせて携帯電話を閉じた。
私がいるのはマンションではない。明王さん経由で私に会いたいという人に会うために待ち合わせ場所の駅にいた。
けれど緊張から予定の時間より早く着いた私は、その駅近くの公園のベンチに座りながら友達と電話をして時間を潰しながら、気持ちを落ち着かせていた。
それから再び駅に戻って改札口から離れた場所で、ついさっき来ましたという体で柱に凭れ掛かって待っていると、電車が到着したのか改札口から出ていく多数の人影が見えて、その人もその中にいた。
ぱちりと目が合ったのを感じて、柱から背を話せばその人はこちらに向かって真っ直ぐ歩いてくる。
「久しぶりね、不動明奈さん」
「……どうも」
記憶よりもずっと柔らかい声と表情で呼ばれた声に内心面食らいながらも私は軽く頭を下げた。
私が戦った時に雷門の監督だった吉良瞳子さんに。
「代金は私が払うから、好きなもの選びなさい」
「……お腹空いてないのでいいです」
「デザートもあるわよ」
それから私が案内されたのは駅の中にあった喫茶店だった。頼んだ飲み物がやってきて、そのタイミングで話を始めるのかと思えば、メニュー表を手渡された。
有無を言わせない雰囲気に私はおずおずとデザートの欄を覗き込んで、いろいろ見てから私はじゃあ……とアイスの写真を指差せば瞳子さんは再び店員を呼んで注文をした。
「ミニバニラアイスとチョコレートパフェを一つずつ」
「かしこまりました」
……瞳子さん、クールに見えて意外と甘党なんだ。
それともコーヒーが苦かったから甘い物欲しかったのかなと自分のココアを飲みながら思った。
それからデザートを待っている間にやっと本題に入る。
私が瞳子さんに呼び出された理由なんてエイリア学園関係の事だと思っていた。彼女は随分その学園について知りたがっていたから。
だけど下っ端の私は何も知らないので、隠す理由もないしそのことをちゃんと伝えようと思っていた。
「父の計画に貴女を巻き込んでしまって、ごめんなさい」
なので、いきなり頭を下げられた時には私は本当にどうすればいいのか分からなかった。
ポカンとしたまま父という発言に咄嗟に思った事と言えば。
「父……ということは、瞳子さんも宇宙人?」
瞳子さんもエイリア学園の関係者……何なら身内だという事に驚いた。
「え?」
「え?」
その指摘に瞳子さんまでもが目を丸くしていて、変なことを言ってしまったのかと首を傾げていると、すぐに平然とした態度に戻った瞳子さんは口元に手を当てて、何か考え込むような素振りを見せる。
「……不動さんはエイリア学園の事についてどこまで知ってるのかしら」
「え?えっと……正直、真帝国学園にいた時で止まってます。ニュースで報道されてる事は知ってますが……詳しくは見れてません」
すみません、と謝る声は小さくてつい俯いてしまう。テレビを見る機会は最近増えたし、ニュースは相変わらず見てはいるけれどエイリア学園の文字が見えたら反射的に番組を変えてしまう。
そこで最近見たテレビを思い出してふと気づく。
そういえば、最近じゃその文字を見る事ない平和なニュースばかりな気が……。
「エイリア学園に関する事件は二ヶ月前に収束したわ」
「えっ」
「それと、選手の子達は皆れっきとした人間よ」
「えっ!」
啞然とする私に瞳子さんはおもむろに自分の携帯電話を差し出して私に見せてきた。ちらりと映った画面から事件の詳細が書かれたニュースのページということは分かって、受け取るのを躊躇っていると、
「彼らのことは記載していないから安心して」
「…………すみません」
しっかり見破られていて配慮もされていた。
私は何度目かの謝罪をしながら私はちゃんと携帯電話を受け取って内容を読む。
吉良星二郎という吉良財閥の会長が、息子を奪った世界への復讐のため、自身が設立をした孤児院の子供たちを宇宙人と偽らせて全国各地で破壊や侵略をしていた。
文字にするとそれだけのことだ。
あんなに熱い議論を交わしてた自称専門家だってこんな結末予測できていなかっただろう。
ニュース文を読んでる間、瞳子さんからも報道されていない詳細な説明も受ける。
私も使用していたエイリアボールやペンダントはエイリア石という数年前に地球に飛来した隕石が持つ力と吉良財閥の科学力から作られた事や、侵略の手段にサッカーを用いたのは日本の総理がサッカーを愛していたからだとか。
瞳子さんが雷門の監督になったのは、実の父親のそんな悪事を止めるためだった。
そして事件が終わった後も私に会いに来たみたいに被害者に対して出向いているんだろうな、と手際の良さを見るだけで理解する。
……私は、被害者ではないけれど。
「……気にしないでください」
そう思ったから私は携帯電話を返しながら笑みを浮かべた。
笑う事はすっかり苦手になってしまったので、安心感を与えられたのかは分からないけれど。
「……エイリア学園と直接関係を持っていたのは影山なので。そして私はそんな影山の元にいた……エイリア学園がなくても、きっと遅かれ早かれ雷門と敵対してた」
むしろエイリア学園からは力を貰ってばかりだったな、と石の力を思い出す。……もう私には、いらないけれど。
それから瞳子さんは、事件の本当の顛末について教えてくれた。
吉良星二郎を改心させたのは雷門イレブンのサッカーと、悪と分かりながらも彼を慕う孤児院の子供達のおかげだと説明する瞳子さんは当時の事を思い返しているのか安堵の笑みを浮かべている。
そんな彼女を見て、私は思ったことを口にした。
「……父親の事……恨んで、ないんですか」
実の父親が自分勝手に、そんな悪い事したのになんでそんな穏やかなんだろうと不思議に思ってしまって口に出した。
そんな私を見た瞳子さんは少しだけ考えてから口を開いた。
「確かにあの人のしたことは許されることじゃない。けれど……どうしても、嫌いにはなれなかった」
それはその人の罪を認めているけれど、それでもやっぱり寂しそうな笑顔に私は何も言えなくなる。
「だからヒロト達と待つことにしたの。あの人が自分の罪を償って、帰ってくることを」
「……優しいんですね」
「家族ってそういうものだと思うわ。……悪い人だけでないことを知っているから甘くなってしまう」
ヒロト、という人も孤児院の人なんだろうと思いながら浮かんだ感想に瞳子さんは父親を思い出しているのかそっと目を伏せる。
だけどすぐにさらりと流れた髪を耳に掛けて、いつものクールな表情に戻って私の目を見た。
「貴女の家族……鬼道くんと音無さんもそう思っているから貴女を探しているんじゃないかしら」
「うーん。普通、かな?」
携帯越しの友人の質問に私ははっきりと即答はできずに思わず失笑してしまった。
「あ、でも料理はそれなりにできるようになったよ。オムライスとか肉じゃがとか……!今度真帝国のみんなに振る舞うね」
『そう。楽しみにしてるわ』
潜水艦にいた頃とは考えられないぐらい穏やかな会話を続けながらふと目に入ったのは自分の爪だった。
割れてもいない、掻けてもいない綺麗な爪が太陽の光に反射してきらりと光っている。
あまり意識していなかったけれど忍ちゃんは真帝国学園時代から私の爪が何かとボロボロな事(最近はやらないけれど、爪を突き立てたり噛んだりすることがあったからそれのせいだろう)を気にしていたらしく、入院中に忍ちゃん直々にネイルケアを叩きこまれ、それ以降は自分の手で手入れを続けていた。
何かと世話を焼いてくれている彼女に対して、姉がいたらこんな感じなのかな、なんて思ってしまう。
『そういえばそろそろ時間じゃない?』
「あっ、本当だ。電話って時間あっという間になくなるね」
忍ちゃんの指摘にふと立て掛けられている時計を見れば約束の時間が迫っていて時間の進みの早さに驚いた。
「忍ちゃん、突然の通話ありがとう!」
『いいわよ。緊張は解けた?』
「……まだちょっとしてるけど、頑張れそう」
正直ね、と笑う彼女と二言三言やり取りした後に私は通話を終わらせて携帯電話を閉じた。
私がいるのはマンションではない。明王さん経由で私に会いたいという人に会うために待ち合わせ場所の駅にいた。
けれど緊張から予定の時間より早く着いた私は、その駅近くの公園のベンチに座りながら友達と電話をして時間を潰しながら、気持ちを落ち着かせていた。
それから再び駅に戻って改札口から離れた場所で、ついさっき来ましたという体で柱に凭れ掛かって待っていると、電車が到着したのか改札口から出ていく多数の人影が見えて、その人もその中にいた。
ぱちりと目が合ったのを感じて、柱から背を話せばその人はこちらに向かって真っ直ぐ歩いてくる。
「久しぶりね、不動明奈さん」
「……どうも」
記憶よりもずっと柔らかい声と表情で呼ばれた声に内心面食らいながらも私は軽く頭を下げた。
私が戦った時に雷門の監督だった吉良瞳子さんに。
「代金は私が払うから、好きなもの選びなさい」
「……お腹空いてないのでいいです」
「デザートもあるわよ」
それから私が案内されたのは駅の中にあった喫茶店だった。頼んだ飲み物がやってきて、そのタイミングで話を始めるのかと思えば、メニュー表を手渡された。
有無を言わせない雰囲気に私はおずおずとデザートの欄を覗き込んで、いろいろ見てから私はじゃあ……とアイスの写真を指差せば瞳子さんは再び店員を呼んで注文をした。
「ミニバニラアイスとチョコレートパフェを一つずつ」
「かしこまりました」
……瞳子さん、クールに見えて意外と甘党なんだ。
それともコーヒーが苦かったから甘い物欲しかったのかなと自分のココアを飲みながら思った。
それからデザートを待っている間にやっと本題に入る。
私が瞳子さんに呼び出された理由なんてエイリア学園関係の事だと思っていた。彼女は随分その学園について知りたがっていたから。
だけど下っ端の私は何も知らないので、隠す理由もないしそのことをちゃんと伝えようと思っていた。
「父の計画に貴女を巻き込んでしまって、ごめんなさい」
なので、いきなり頭を下げられた時には私は本当にどうすればいいのか分からなかった。
ポカンとしたまま父という発言に咄嗟に思った事と言えば。
「父……ということは、瞳子さんも宇宙人?」
瞳子さんもエイリア学園の関係者……何なら身内だという事に驚いた。
「え?」
「え?」
その指摘に瞳子さんまでもが目を丸くしていて、変なことを言ってしまったのかと首を傾げていると、すぐに平然とした態度に戻った瞳子さんは口元に手を当てて、何か考え込むような素振りを見せる。
「……不動さんはエイリア学園の事についてどこまで知ってるのかしら」
「え?えっと……正直、真帝国学園にいた時で止まってます。ニュースで報道されてる事は知ってますが……詳しくは見れてません」
すみません、と謝る声は小さくてつい俯いてしまう。テレビを見る機会は最近増えたし、ニュースは相変わらず見てはいるけれどエイリア学園の文字が見えたら反射的に番組を変えてしまう。
そこで最近見たテレビを思い出してふと気づく。
そういえば、最近じゃその文字を見る事ない平和なニュースばかりな気が……。
「エイリア学園に関する事件は二ヶ月前に収束したわ」
「えっ」
「それと、選手の子達は皆れっきとした人間よ」
「えっ!」
啞然とする私に瞳子さんはおもむろに自分の携帯電話を差し出して私に見せてきた。ちらりと映った画面から事件の詳細が書かれたニュースのページということは分かって、受け取るのを躊躇っていると、
「彼らのことは記載していないから安心して」
「…………すみません」
しっかり見破られていて配慮もされていた。
私は何度目かの謝罪をしながら私はちゃんと携帯電話を受け取って内容を読む。
吉良星二郎という吉良財閥の会長が、息子を奪った世界への復讐のため、自身が設立をした孤児院の子供たちを宇宙人と偽らせて全国各地で破壊や侵略をしていた。
文字にするとそれだけのことだ。
あんなに熱い議論を交わしてた自称専門家だってこんな結末予測できていなかっただろう。
ニュース文を読んでる間、瞳子さんからも報道されていない詳細な説明も受ける。
私も使用していたエイリアボールやペンダントはエイリア石という数年前に地球に飛来した隕石が持つ力と吉良財閥の科学力から作られた事や、侵略の手段にサッカーを用いたのは日本の総理がサッカーを愛していたからだとか。
瞳子さんが雷門の監督になったのは、実の父親のそんな悪事を止めるためだった。
そして事件が終わった後も私に会いに来たみたいに被害者に対して出向いているんだろうな、と手際の良さを見るだけで理解する。
……私は、被害者ではないけれど。
「……気にしないでください」
そう思ったから私は携帯電話を返しながら笑みを浮かべた。
笑う事はすっかり苦手になってしまったので、安心感を与えられたのかは分からないけれど。
「……エイリア学園と直接関係を持っていたのは影山なので。そして私はそんな影山の元にいた……エイリア学園がなくても、きっと遅かれ早かれ雷門と敵対してた」
むしろエイリア学園からは力を貰ってばかりだったな、と石の力を思い出す。……もう私には、いらないけれど。
それから瞳子さんは、事件の本当の顛末について教えてくれた。
吉良星二郎を改心させたのは雷門イレブンのサッカーと、悪と分かりながらも彼を慕う孤児院の子供達のおかげだと説明する瞳子さんは当時の事を思い返しているのか安堵の笑みを浮かべている。
そんな彼女を見て、私は思ったことを口にした。
「……父親の事……恨んで、ないんですか」
実の父親が自分勝手に、そんな悪い事したのになんでそんな穏やかなんだろうと不思議に思ってしまって口に出した。
そんな私を見た瞳子さんは少しだけ考えてから口を開いた。
「確かにあの人のしたことは許されることじゃない。けれど……どうしても、嫌いにはなれなかった」
それはその人の罪を認めているけれど、それでもやっぱり寂しそうな笑顔に私は何も言えなくなる。
「だからヒロト達と待つことにしたの。あの人が自分の罪を償って、帰ってくることを」
「……優しいんですね」
「家族ってそういうものだと思うわ。……悪い人だけでないことを知っているから甘くなってしまう」
ヒロト、という人も孤児院の人なんだろうと思いながら浮かんだ感想に瞳子さんは父親を思い出しているのかそっと目を伏せる。
だけどすぐにさらりと流れた髪を耳に掛けて、いつものクールな表情に戻って私の目を見た。
「貴女の家族……鬼道くんと音無さんもそう思っているから貴女を探しているんじゃないかしら」