寂しがり少女
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「あー腰いてー」
「……騒音で怒られても知らないから」
「安心しろ、そこら辺はちゃんとしてるマンションだ。じゃねぇとあんな事しねぇよ」
ソファーに座ってわざとらしく腰を擦る不動さんに、まだ起き上がれない私は床へ寝そべりながら呟けばそう笑われた。
しばらくして何とか体を起こすことができたので、ソファーを背凭れにして床に座る。それから少しだけ考えてから私は口を開くと。
「で、お前は今までどこにいたんだよ」
そのタイミングで、不動さんが口を開いたので慌てて開きかけた口を閉じて視線を上げれば、病院で真面目な話をしていた時と同じ顔をしていた。
「まぁ、義妹に借金を押し付けたクソ野郎に言いたくないんだったらそれでいいけどよ」
「えっ、べつに……そんなこと思ってないけど……」
先程までふざけて私をぶん回していた人と同一人物に見えない大人な態度に驚いていると、その反応が拒否に見えたのか不動さんは軽く目を閉じて嘲笑めいた笑みを浮かべるもんだから私は何とか否定した。
同時に納得もする。
不動さんが私を引き取ったのは、きっと借金に対する後ろめたさがあるからだろう。
私に気を遣ってなのか変な理由で誤魔化していたけれど、そのことを話している時の不動さんは少し責任を感じているように見えた。
……元はと言えば親が借金を押し付けられたことが原因なのに。血が繋がっていると考え方も違うんだろうか。
「…………いつから、私を探してたの」
「……三年前にテメェと借金の存在を知った」
借金の額を確認しようと不動さんが口座を見た時には既に匿名の口座から一括で返済を完了されていたそうで、そこで調べた結果私に辿り着いたらしい。
「……三年前……そんなに早く……」
返済したと聞いていたけれど、私に伝える時期よりも早いなと思ったのが感想だった。そんな私の態度に、不動さんは片方の眉を上げるが話を続ける。
「で。行方不明届を出していたお前が見つかったって警察からの連絡を受けて愛媛の病院まで足を運んだってわけだ」
不動さんの話によれば、入院するまで私の存在は隠されていたみたいで。
だからこそあんな質問を開口一番に投げかけてきたのだろう。その理由を嫌というほど分かっている私は俯いてしまうけれど、何とか答えた。
「…………で、」
「あ?」
「お前は孤独であるべき、って言ってたから……隠されてたんだろ」
それから私は、不動家の後に世話になった人について、従順であれば借金返済を約束してくれた事を不動さんに伝えた。
同時にその人は目的のために手段を選ばない、情報操作も平気でする『いい人』ではなかった事も教えた。
「……そいつの名前は?」
「…………巻き込みたくないから、言わない」
影山の名前は万が一を考えて伏せた。
……今思えば、小学校に通わせなかったのも関わる人間が自分の手がかかった大人ばかりだったのも、私の孤独感を強くした一因だった。
自分には影山総帥しかいないとそう思わせるためだだったのだろう。
影山に対する負の感情が溢れそうになったものの、今はその時間じゃないとぎゅうと拳を握って耐える。
「……おい」
そんな私を見かねてか、不動さんは手を伸ばしてきたけれど、私はその手を押しのけて、立ち上がった。
「私は大丈夫だから。今度はこっちの質問に答えて」
急に立ったので、くらりと頭が揺れたけれど今は関係ない。
座っている不動さんを見下ろして、ずっと気になっていたことを聞いた。
「両親……貴方の実の両親は今、どこにいるの」
借金の詳細を知るために両親の行方だって分かってるはずだ。そう思ったからじっと不動さんを見る。
「……捨てられてないって言うんだったらさ、教えてよ」
それから部屋が完全な沈黙に包まれてから数分後、チッと舌打ちの音がそれを破った。
「分かったよ」
大きなため息をつきながら空を仰いで、それからぶっきらぼうに言い放つ不動さん。
それから何度か忠告をするように念を押して、やがて静かな声で告げた。
「亡くなったよ。……お前を置いていった数ヶ月後にな」
「…………そう、ですか」
交通事故だと不動さんは言った。
単純な理由ではないことぐらい、病室で不動さんに問い質した時の態度で察することができた。
だけど、違うかもしれないという願望を捨てきれなくて、もしかしたらもう一度会えるかもしれないなんて考えてしまって、
「結局、置いてってるじゃん」
でもそんな未来はもう絶対ないんだ。
私が紛らわすように出した声は、情けなく震えていて私は誤魔化すように何度か咳き込みながら顔を手で覆った。
「……こっち座れ」
落ち着いたタイミングで再び伸びた不動さんの手が、私が振り払うよりも前に腕を掴まれ、ソファーへと引っ張られる。
「…………お前を置いて行ったのは全く逆の理由だよ」
沈むぐらい柔らかなソファーに座って戸惑っている私を笑うでもなく、静かに話を続けた。
「……逆…………」
「お前を借金まみれの家から遠ざけるために、再び施設に行って守ってもらうって話を日記に綴ってたぜ?」
遺品整理をしている時に、見つけたらしい母の日記に書かれていた、と。
それからどんな経由で影山が肩代わりすることになったかは分からなかった。
あの男が、両親と接触したのかすらも……独断で“鬼道有人の妹”である私に接触したのか、もう分かることないかもしれない。
ただ、分かることは一つ。
「……また、早とちりした」
「置いてった事実は変わらねぇ。紛らわしいアイツらが悪い」
言い切る不動さんに気を遣われているな、と思いつつも上手く返せず黙ってしまう。
目を閉じて思い出すのは、お母さんとお父さんと過ごした優しい思い出で。
我ながら都合いいなと自嘲の笑みを浮かべてから、ソファーの上で膝を抱えた。
「正直……私は借金に関してはどうでもよかった」
影山はそれを見抜いたからこそ、すぐに返済手続きをしたのだろう。
「私は、ただ…………両親に捨てられて、一人になることが嫌だったんだ」
借金 がなくても私はとても従順な駒だったから。
「は?」
ちらりと不動さんの顔を見れば、ぽかんと目を丸くして不思議そうにこちらを見ていた。
……分かってる。自分の感覚が少し周りと違っている事に。
誤魔化すようにくしゃくしゃと髪をかき乱しながら答える。
「私は借金を抱えて、生活が苦しくなることに関しては別によかったの。……お母さんとお父さんが一緒ならいいかなって当時は本気で思っていた」
……借金生活の苦しさも何も知らない子供の幼稚な考えだ。
もしもその時、しっかり説明された上で施設に送られる事になったとしても私は同じ怒りを両親に向けていただろう。
それぐらい、一人になることが嫌だった。
「私は、一人になりたくなかった。……一人になりたくないからアイツに従って何でもした。善悪の区別もつかないまま、周りを傷つけた。
……実の兄妹すらも裏切った……!!」
ぐしゃりと片手で髪を強く握って、吐き捨てた。
あの時の生活を思い出せば、思い出すほど、湧き出るのは自分への強い怒りだった。
「私は、家族を信じられなかった……!!」
不動さんに説明するために話していた言葉は、段々と自分の感情を吐露しているだけだと頭で理解をしながらも止まらなかった。
「誰よりも大切な人だったはずなのに!一番の味方であったはずなのに……!一人になりたくない、なんて勝手な理由でッ!私は……私は……!!」
裏切られることが怖くて、信じられなかった私に彼らは手を伸ばしてくれて、それでも私はその手を掴めずに突き放した。
自分の罪を背負うなら、当然のことをしたはずなのに今でもこんなに苦しくて息が詰まりそうになってしまう。
そんな風に思ってしまう自分が嫌いで仕方ない……!!!
「明奈っ!」
ふと聞こえたのは不動さんの怒鳴り声で、目を開ければ焦った表情で私の名前を呼ぶ姿が映った初めて見る彼にどうしたのか、と聞こうとするけれど、
「ぁ…………っ、っ……!」
自分の声が出ないことに気づいた。なんとか言葉を吐こうと口を開いて息を吸おうとしても、何も吸えずに頭の奥がぐらぐらと揺れて、視界までぼやけてくる。
「吸おうとするな、息をゆっくり吐き出せ」
ぽん、ぽんと一定のリズムで背中を叩かれて告げられる声に、私の上手く回らない頭は従うことを選んだ。
「ん……」
気がつけば真正面に天井があって、そこで自分の体が寝転んでいることに気付いた。視線を下に向ければ先程まで座っていたソファーに寝ていることと、さっきまで私が座っていたソファーの前に誰かいることがすぐに分かった。
「ふ、どうさん……」
「……飲めるか」
私が起きたことに気づいた不動さんは振り返って、ペットボトルの水を見せた。私は頷いて、体を起こしながらそれを受け取る。
「……ごめんなさい」
「……お前さぁ…………」
思った以上に自分の体は水分を求めていたようで、口を離した時に水は半分ぐらい減っていた。
ペットボトルの蓋を閉めながら謝るけれど不動さんは眉を寄せて何か言いたそうな顔をするだけで黙ってしまう。
ああ、うん。
……呆れたのだろう。
「……めんどくさいでしょ、私」
本当は立ち上がりたかったけれど、体に力は入らずソファーの背凭れに横向きで凭れながら笑みを浮かべた。
勝手に追い込まれて、過呼吸になるような奴なんてと我ながら思う。
利害の一致、なんてよく言ったものだ。
「施設に預けてもいいよ」
だから意外と優しかったこの人の背中を押してあげることにした。
「元々その予定だっただろうし、不動さんが育てる義理なんてないんだから……ああ、借金に関しても気にしないで。そもそも払ったの私じゃないし」
まだ頭はぼんやりとするのに、口だけは都合よく回る。
「小さい時ならともかく、今ならちゃんと事情も理解してるし恨んだりなんてしないから安心してよ」
私は大丈夫だから、と自身に言い聞かせるように呟いてから不動さんを見れば片手で顔を覆っていて深いため息をついていた。
「明奈。今日はもう寝ろ」
それからその手を私の肩に置いてグイッと押されれば、私の頭はソファーに逆戻りしてしまう。
「っ、ちょっと……!」
私は本気で言ったのに、全く相手にされていない感じがして思わず起き上がろうとするけども不動さんの手に邪魔された。押さえつけられた訳ではない。
肩にあった手が頭の上に乗せられて、私は動けなくなった。
「こっちはお前が普通に育ってないって分かった上で引き取ってんだよ。だから……あー……」
男性らしい大きな手は私の頭を包むように置かれている。そんな感覚が何故か懐かしく感じて、不動さんの顔を見れば何を言おうか迷っているような素振りで視線を彷徨わせていたけれど、ふと私の目を見る。
「……お前にとっての兄貴はユウトくんだけだろうけど、俺からしたら“妹”だって言ったろ。育てる義理、あるだろ」
「……ぁ」
私が傷つかないように言葉を選んで話す声音に、ぎこちなく撫でようとしてくれる暖かい手に私が思い出したのは病院で私を諭す時に乱暴にながらも私の頭を撫でるた鬼瓦刑事だった。
ーー頭に置かれている手は、自分を守ってくれようとしてくれる大人の手だ。
そう思った瞬間、一気に体の力が抜けていくのが分かって、瞼が重くなる感覚に襲われた。
そんな私の様子を見た不動さんが小さく息を吐くのが見えた。安堵しているように見えたのは気のせいじゃないと思う。
「今の私は……貴方を兄だと呼べない」
「だろうな」
本当はすぐに眠ってしまいそうだったけれど、何とか口を動かせばそばにいて見守ってくれている不動さんは軽く笑みを浮かべながら相槌を打つ。
「だから……明王さんって呼んでいい?」
今更だと自覚しながら、その提案をすれば不動さんきょとんとした。予想外だったのか、そんな反応する不動さんが何だか面白くてつい笑ってしまえば舌打ちをしながら軽く小突かれる。
流石に調子に乗りすぎたかな、と訂正しようとすれば、
「……好きにしろ」
なんて、言ってくれて嬉しかった。
この連載の不動明王について
夢主の保護者として大人の不動明王を登場させました。(最初の注意書きにわざわざ『中学生』の不動明王は出ないと書いてたのはこのためです)
イメージとしてはGOシリーズの大人不動明王の容姿です。一応年齢は少し若めかと。
突然の超次元設定すみません。“成り代わり”という特殊設定ですが、本家の存在を完全にない事にするのは個人的に寂しかったのでこのような形で出演させて頂きました。
この連載の世界線での不動明王は不動家で早く生まれたんだな~ぐらいのふわっとしか感覚で見て下されば幸いです。
「……騒音で怒られても知らないから」
「安心しろ、そこら辺はちゃんとしてるマンションだ。じゃねぇとあんな事しねぇよ」
ソファーに座ってわざとらしく腰を擦る不動さんに、まだ起き上がれない私は床へ寝そべりながら呟けばそう笑われた。
しばらくして何とか体を起こすことができたので、ソファーを背凭れにして床に座る。それから少しだけ考えてから私は口を開くと。
「で、お前は今までどこにいたんだよ」
そのタイミングで、不動さんが口を開いたので慌てて開きかけた口を閉じて視線を上げれば、病院で真面目な話をしていた時と同じ顔をしていた。
「まぁ、義妹に借金を押し付けたクソ野郎に言いたくないんだったらそれでいいけどよ」
「えっ、べつに……そんなこと思ってないけど……」
先程までふざけて私をぶん回していた人と同一人物に見えない大人な態度に驚いていると、その反応が拒否に見えたのか不動さんは軽く目を閉じて嘲笑めいた笑みを浮かべるもんだから私は何とか否定した。
同時に納得もする。
不動さんが私を引き取ったのは、きっと借金に対する後ろめたさがあるからだろう。
私に気を遣ってなのか変な理由で誤魔化していたけれど、そのことを話している時の不動さんは少し責任を感じているように見えた。
……元はと言えば親が借金を押し付けられたことが原因なのに。血が繋がっていると考え方も違うんだろうか。
「…………いつから、私を探してたの」
「……三年前にテメェと借金の存在を知った」
借金の額を確認しようと不動さんが口座を見た時には既に匿名の口座から一括で返済を完了されていたそうで、そこで調べた結果私に辿り着いたらしい。
「……三年前……そんなに早く……」
返済したと聞いていたけれど、私に伝える時期よりも早いなと思ったのが感想だった。そんな私の態度に、不動さんは片方の眉を上げるが話を続ける。
「で。行方不明届を出していたお前が見つかったって警察からの連絡を受けて愛媛の病院まで足を運んだってわけだ」
不動さんの話によれば、入院するまで私の存在は隠されていたみたいで。
だからこそあんな質問を開口一番に投げかけてきたのだろう。その理由を嫌というほど分かっている私は俯いてしまうけれど、何とか答えた。
「…………で、」
「あ?」
「お前は孤独であるべき、って言ってたから……隠されてたんだろ」
それから私は、不動家の後に世話になった人について、従順であれば借金返済を約束してくれた事を不動さんに伝えた。
同時にその人は目的のために手段を選ばない、情報操作も平気でする『いい人』ではなかった事も教えた。
「……そいつの名前は?」
「…………巻き込みたくないから、言わない」
影山の名前は万が一を考えて伏せた。
……今思えば、小学校に通わせなかったのも関わる人間が自分の手がかかった大人ばかりだったのも、私の孤独感を強くした一因だった。
自分には影山総帥しかいないとそう思わせるためだだったのだろう。
影山に対する負の感情が溢れそうになったものの、今はその時間じゃないとぎゅうと拳を握って耐える。
「……おい」
そんな私を見かねてか、不動さんは手を伸ばしてきたけれど、私はその手を押しのけて、立ち上がった。
「私は大丈夫だから。今度はこっちの質問に答えて」
急に立ったので、くらりと頭が揺れたけれど今は関係ない。
座っている不動さんを見下ろして、ずっと気になっていたことを聞いた。
「両親……貴方の実の両親は今、どこにいるの」
借金の詳細を知るために両親の行方だって分かってるはずだ。そう思ったからじっと不動さんを見る。
「……捨てられてないって言うんだったらさ、教えてよ」
それから部屋が完全な沈黙に包まれてから数分後、チッと舌打ちの音がそれを破った。
「分かったよ」
大きなため息をつきながら空を仰いで、それからぶっきらぼうに言い放つ不動さん。
それから何度か忠告をするように念を押して、やがて静かな声で告げた。
「亡くなったよ。……お前を置いていった数ヶ月後にな」
「…………そう、ですか」
交通事故だと不動さんは言った。
単純な理由ではないことぐらい、病室で不動さんに問い質した時の態度で察することができた。
だけど、違うかもしれないという願望を捨てきれなくて、もしかしたらもう一度会えるかもしれないなんて考えてしまって、
「結局、置いてってるじゃん」
でもそんな未来はもう絶対ないんだ。
私が紛らわすように出した声は、情けなく震えていて私は誤魔化すように何度か咳き込みながら顔を手で覆った。
「……こっち座れ」
落ち着いたタイミングで再び伸びた不動さんの手が、私が振り払うよりも前に腕を掴まれ、ソファーへと引っ張られる。
「…………お前を置いて行ったのは全く逆の理由だよ」
沈むぐらい柔らかなソファーに座って戸惑っている私を笑うでもなく、静かに話を続けた。
「……逆…………」
「お前を借金まみれの家から遠ざけるために、再び施設に行って守ってもらうって話を日記に綴ってたぜ?」
遺品整理をしている時に、見つけたらしい母の日記に書かれていた、と。
それからどんな経由で影山が肩代わりすることになったかは分からなかった。
あの男が、両親と接触したのかすらも……独断で“鬼道有人の妹”である私に接触したのか、もう分かることないかもしれない。
ただ、分かることは一つ。
「……また、早とちりした」
「置いてった事実は変わらねぇ。紛らわしいアイツらが悪い」
言い切る不動さんに気を遣われているな、と思いつつも上手く返せず黙ってしまう。
目を閉じて思い出すのは、お母さんとお父さんと過ごした優しい思い出で。
我ながら都合いいなと自嘲の笑みを浮かべてから、ソファーの上で膝を抱えた。
「正直……私は借金に関してはどうでもよかった」
影山はそれを見抜いたからこそ、すぐに返済手続きをしたのだろう。
「私は、ただ…………両親に捨てられて、一人になることが嫌だったんだ」
「は?」
ちらりと不動さんの顔を見れば、ぽかんと目を丸くして不思議そうにこちらを見ていた。
……分かってる。自分の感覚が少し周りと違っている事に。
誤魔化すようにくしゃくしゃと髪をかき乱しながら答える。
「私は借金を抱えて、生活が苦しくなることに関しては別によかったの。……お母さんとお父さんが一緒ならいいかなって当時は本気で思っていた」
……借金生活の苦しさも何も知らない子供の幼稚な考えだ。
もしもその時、しっかり説明された上で施設に送られる事になったとしても私は同じ怒りを両親に向けていただろう。
それぐらい、一人になることが嫌だった。
「私は、一人になりたくなかった。……一人になりたくないからアイツに従って何でもした。善悪の区別もつかないまま、周りを傷つけた。
……実の兄妹すらも裏切った……!!」
ぐしゃりと片手で髪を強く握って、吐き捨てた。
あの時の生活を思い出せば、思い出すほど、湧き出るのは自分への強い怒りだった。
「私は、家族を信じられなかった……!!」
不動さんに説明するために話していた言葉は、段々と自分の感情を吐露しているだけだと頭で理解をしながらも止まらなかった。
「誰よりも大切な人だったはずなのに!一番の味方であったはずなのに……!一人になりたくない、なんて勝手な理由でッ!私は……私は……!!」
裏切られることが怖くて、信じられなかった私に彼らは手を伸ばしてくれて、それでも私はその手を掴めずに突き放した。
自分の罪を背負うなら、当然のことをしたはずなのに今でもこんなに苦しくて息が詰まりそうになってしまう。
そんな風に思ってしまう自分が嫌いで仕方ない……!!!
「明奈っ!」
ふと聞こえたのは不動さんの怒鳴り声で、目を開ければ焦った表情で私の名前を呼ぶ姿が映った初めて見る彼にどうしたのか、と聞こうとするけれど、
「ぁ…………っ、っ……!」
自分の声が出ないことに気づいた。なんとか言葉を吐こうと口を開いて息を吸おうとしても、何も吸えずに頭の奥がぐらぐらと揺れて、視界までぼやけてくる。
「吸おうとするな、息をゆっくり吐き出せ」
ぽん、ぽんと一定のリズムで背中を叩かれて告げられる声に、私の上手く回らない頭は従うことを選んだ。
「ん……」
気がつけば真正面に天井があって、そこで自分の体が寝転んでいることに気付いた。視線を下に向ければ先程まで座っていたソファーに寝ていることと、さっきまで私が座っていたソファーの前に誰かいることがすぐに分かった。
「ふ、どうさん……」
「……飲めるか」
私が起きたことに気づいた不動さんは振り返って、ペットボトルの水を見せた。私は頷いて、体を起こしながらそれを受け取る。
「……ごめんなさい」
「……お前さぁ…………」
思った以上に自分の体は水分を求めていたようで、口を離した時に水は半分ぐらい減っていた。
ペットボトルの蓋を閉めながら謝るけれど不動さんは眉を寄せて何か言いたそうな顔をするだけで黙ってしまう。
ああ、うん。
……呆れたのだろう。
「……めんどくさいでしょ、私」
本当は立ち上がりたかったけれど、体に力は入らずソファーの背凭れに横向きで凭れながら笑みを浮かべた。
勝手に追い込まれて、過呼吸になるような奴なんてと我ながら思う。
利害の一致、なんてよく言ったものだ。
「施設に預けてもいいよ」
だから意外と優しかったこの人の背中を押してあげることにした。
「元々その予定だっただろうし、不動さんが育てる義理なんてないんだから……ああ、借金に関しても気にしないで。そもそも払ったの私じゃないし」
まだ頭はぼんやりとするのに、口だけは都合よく回る。
「小さい時ならともかく、今ならちゃんと事情も理解してるし恨んだりなんてしないから安心してよ」
私は大丈夫だから、と自身に言い聞かせるように呟いてから不動さんを見れば片手で顔を覆っていて深いため息をついていた。
「明奈。今日はもう寝ろ」
それからその手を私の肩に置いてグイッと押されれば、私の頭はソファーに逆戻りしてしまう。
「っ、ちょっと……!」
私は本気で言ったのに、全く相手にされていない感じがして思わず起き上がろうとするけども不動さんの手に邪魔された。押さえつけられた訳ではない。
肩にあった手が頭の上に乗せられて、私は動けなくなった。
「こっちはお前が普通に育ってないって分かった上で引き取ってんだよ。だから……あー……」
男性らしい大きな手は私の頭を包むように置かれている。そんな感覚が何故か懐かしく感じて、不動さんの顔を見れば何を言おうか迷っているような素振りで視線を彷徨わせていたけれど、ふと私の目を見る。
「……お前にとっての兄貴はユウトくんだけだろうけど、俺からしたら“妹”だって言ったろ。育てる義理、あるだろ」
「……ぁ」
私が傷つかないように言葉を選んで話す声音に、ぎこちなく撫でようとしてくれる暖かい手に私が思い出したのは病院で私を諭す時に乱暴にながらも私の頭を撫でるた鬼瓦刑事だった。
ーー頭に置かれている手は、自分を守ってくれようとしてくれる大人の手だ。
そう思った瞬間、一気に体の力が抜けていくのが分かって、瞼が重くなる感覚に襲われた。
そんな私の様子を見た不動さんが小さく息を吐くのが見えた。安堵しているように見えたのは気のせいじゃないと思う。
「今の私は……貴方を兄だと呼べない」
「だろうな」
本当はすぐに眠ってしまいそうだったけれど、何とか口を動かせばそばにいて見守ってくれている不動さんは軽く笑みを浮かべながら相槌を打つ。
「だから……明王さんって呼んでいい?」
今更だと自覚しながら、その提案をすれば不動さんきょとんとした。予想外だったのか、そんな反応する不動さんが何だか面白くてつい笑ってしまえば舌打ちをしながら軽く小突かれる。
流石に調子に乗りすぎたかな、と訂正しようとすれば、
「……好きにしろ」
なんて、言ってくれて嬉しかった。
この連載の不動明王について
夢主の保護者として大人の不動明王を登場させました。(最初の注意書きにわざわざ『中学生』の不動明王は出ないと書いてたのはこのためです)
イメージとしてはGOシリーズの大人不動明王の容姿です。一応年齢は少し若めかと。
突然の超次元設定すみません。“成り代わり”という特殊設定ですが、本家の存在を完全にない事にするのは個人的に寂しかったのでこのような形で出演させて頂きました。
この連載の世界線での不動明王は不動家で早く生まれたんだな~ぐらいのふわっとしか感覚で見て下されば幸いです。